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(C)Eriko Kawaguchi 2018-06-17
龍虎たちの宿泊体験2日目。
午前中は広場で登山やキャンプに関する講座が開かれた。ロープの結び方や切り株で方角を知る方法などから始めて、テントの張り方の実習などもする。テントを張る所はやはり男子にしかできなかった。龍虎たちのクラスの女子で戦力になったのは身体の大きな真智やスポーツ少女の桐絵くらいで、大半の女子が見学に回る。むろん龍虎も見学組である!
11時くらいには体育館に入り、プロジェクタなども使って登山の基本や装備などについて講習が行われたが、午後の登山に参加しない子(女子の大半)は調理室の方に行き、御飯を炊いてカレーを作った。
ここでは龍虎は大いに戦力になった。
「龍ちゃん、包丁の使い方うまーい!」
「両親とも遅くなること多いから、ボクが晩御飯作ることも多いんだよね」
「えらーい」
「私なら親が遅かったらカップ麺かレトルトカレーだな」
と言っているのは彩佳である。
各クラス2班、3クラスで6班に分かれて大鍋でカレーを作っているのだが、ジャガイモの皮むきなどは難しいので、龍虎が自分の班だけでなく、他の班の分までしてあげていた。
「龍ちゃん、いつでもお嫁さんに行けるね」
「うーん。。。あまりお嫁さんになる気は無いんだけど」
「龍ちゃん、普段御飯作る時ってどんなの作るの?」
「お父ちゃんとお母ちゃんがバラバラに戻ってきても問題無いものを作ることが多い。だからカレーとかシチューとか肉じゃがとかおでんとか」
と言うと
「肉ジャガが作れるのは凄い!」
などという声があがっていた。
「夏は冷やし中華とか作っておくこともあるよ。冷蔵庫で冷やしておけるから」
「龍ちゃん、私のお嫁さんにならない?」
「私も龍ちゃんをお嫁さんにしたい」
と龍虎は女子たちからお嫁さんにと望まれていたようである。
お昼のカレーは好評で作った6個の大鍋のカレーが全部きれいに無くなってしまった。
その後、男子全員と女子9人が登山体験に出かけ、残った女子32人(龍虎を含む)はバスケットボール教室を受講した。
元プロバスケットボール選手の山笠さんという凄く背の高い女性がランニングシュートの仕方を指導してくれた。
まずは最初にボールを持ってから3歩歩くとトラベリング、という基本中の基本を教わる。それでドリブルしていき、ボールを手に持ってから2歩ステップしてからボールをゴールに向けて投じるという基本をやる。ゴールの高さは今回はミニバスの高さ260cmにしている(本来は305cm)。
最初は自由に撃たせるが、ゴールにまともに入る子がほとんど居ない。
それでバックボードの内側の枠の端に当てると良いというのを教え、制限エリアの境界線の所でステップに切り替えるとよいと教え、また走ってきた場合、ボールに『慣性』が付いているので、それを考慮しないと狙った所より向こうに行ってしまうことを教えられると、みんな随分ゴール確率が上がった。
このシュート講座を1時間やった後は、あらためてバスケットボールのルールの説明を30分ほどしたが、これはコックリコックリ眠ってしまう子も結構いた。
ルールの説明が終わった所で試合をする。32名の参加者を8名ずつ4チームに分け、体育館内の2つのコートで試合をした。
先生たちは、増田先生・小林先生・広橋先生・竹川先生の4人が登山体験の方に行っているので、こちらは講師の山笠さんと、教頭先生が審判をしてくれた。でも教頭先生は息が上がっていた!
バスケの審判というのはコート上をひたすら走り回るので物凄く体力を消耗するのである。
試合は5分クォーターで、休憩をはさんで総当たりで3戦した。龍虎の入っているAチームが2勝1敗ながらも得失点差で優勝した。龍虎はランニングシュートは全く入らなかったものの、ミドルシュートを3試合で10本決めて
「龍ちゃん、筋力は無いけどセンスがいいね」
などと同じチームになった麻耶から褒められた。
こちらが3試合終わった頃、登山体験に行った子たちも戻ってきた。それで全員体育館に集まり、教頭先生から終わりの挨拶もあり、児童代表からの感想と感謝の言葉もあって宿泊体験は終了した。
登山に行って来た子もバスケをした子も汗を掻いているので、宿泊棟に行き着換える。龍虎は結局ひとり壁を向いて着換えるということにした。目をつぶっていては、着換えられない!
「あれ?男の子用の下着も1セット入ってた!」
「それ昨日お風呂場でも気付いたけど、女の子下着を着けさせてあげた方が親切だろうと思って、いちばん可愛いのを着せてあげた」
などと彩佳は言っていた。
「まあ、今回の宿泊体験で龍は、ほとんど女の子とみんなから認識されたし、これからは堂々とスカート穿いて登校してくるといいね」
と桐絵。
「恥ずかしいよお」
「なるほど、嫌ではないのだな」
「まあ実際、龍がスカート穿いている所なんて、いつも見ている気がするし」
「確かに確かに」
冬子は少し困っていたので、色々「裏工作」をしてくれている楠本京華に電話してみた。
「なるほどー。8月26日に代役を頼めないかですね。問題ないですよ。今回のツアーの日程を念のためこちらに送ってもらえませんか?」
それで彼女にローズクォーツのツアー日程表をメールした。
8.18東京 19札幌 20仙台 22金沢 23大阪 25名古屋 26横浜 28那覇 29高松 30広島 9.1神戸 2福岡
「ツアーは目前に迫っているんですね。いつチケット発売ですか?」
「いえ、今回は新曲キャンペーンということで無料ライブです」
「・・・・宣伝は?」
「さあ。ローズクォーツの件は須藤に任せているので」
「入場券はどこでもらえるんですか?」
「たぶん各地元のCDショップとかだと思いますが」
「ちょっと丸花さんに確認してもらってから、こちらで少し宣伝してもいいですか?」
「あ、それはお任せします」
彼女が丸花さんの名前を出したことで、ああやはり一連のケイ代理作戦というのは丸花さんが主導しているんだなと冬子は想像した。
「それで代理ですが、26日だけじゃなくてこのツアー、全部代行させましょうか?それでケイさんはマリさんと一緒にのんびりと弁天様巡りをすればいいですよ」
「そうしようかな・・・」
実は先日冬子は青葉と会った時に全国3大弁天(金華山・竹生島・宮島)+弁天様こと宗像3女神の本拠地・宗像さんを訪れることを勧められたのである。
それでローズクォーツのツアーがあるから、それと合わせて政子と一緒に行ってこようと思っていたのだが、例によってローズクォーツのツアーが結構なハードスケジュールで「うっ」と思ったのであった。東京の翌日札幌で翌日仙台とかかなりきつい。沖縄も翌日高松というのはルートを考えるとかなりハードな移動だ。
そして冬子にはもうひとつ重大な問題が発生していた。
8月14-16日。
日本男子代表チームは第十次の合宿を行った。どうも女子と違って、男子の合宿は短期間の合宿を多数おこなうという方式のようである。
この合宿で貴司のプレイはみちがえた。
そして今まで貴司に優しく指導してくれていた中核選手たちが急に冷たくなった気がした。貴司は龍良に
「僕何かで衛藤さんとか磯部さんとかを怒らせましたかね?」
と訊いた。
「違うよ。ロースター枠を奪われまいと必死なのさ」
と龍良は言った。
8月15日。クロスロードのメンツで、スリファーズという女の子3人の歌唱ユニットのリーダーである牧元春奈がアメリカのX病院で性転換手術を受けた。青葉はアメリカまでリモートで春奈のヒーリングをしてあげて、彼女は随分楽になったようである。
この夏、クロスロードのメンツは性転換ラッシュだったのである。
8月15日。淑子はお盆なので保志絵・望信・美姫と一緒に4人で礼文島に行っていた(理歌はバイトがあると言って帰ってこなかった。貴司は合宿中である)。
14日に車で4時間ほど掛けて稚内まで行き、そこからフェリーで礼文島に渡る。
稚内15:25-17:20礼文島
それで14日は芳朗の家に泊まり、15日に坊さんが来て仏檀にお経をあげてくれた。その後、みんなでお墓参りに行き、更に温泉に行った!
淑子は思っていた。芳郎の家の仏檀には、亡き夫・細川宝蔵の位牌が入っている。そしてそこには前妻の貞子さんの位牌も入っている。
自分は死んだらどこに入るのだろうか。。。
貞子は淑子の従姉で、元々仲が良かった。それで自分が宝蔵にレイプされて妊娠しても貞子は自分を責めたりせず優しくしてくれた。今の時代なら躊躇無く中絶していたと思うが、昔中絶はよくないこととする空気が強かった。特にこんな田舎では強かった。しかしまあそれで晴子はこの世に生まれて来られたのだから、それもよいのだろう。
温泉に入りながらそんなことを考えていたら、いつの間にか周囲に誰もいなくなっていた。あれれ?みんなもうあがっちゃった?と思い、自分も浴槽から上がる。そして脱衣場に行き、身体を拭くが、脱衣場にも誰もいない。それで服を着てロビーに出て行くが、ロビーにも誰も居ない!
あれ〜?みんなどこに行ったの?まさか私、バスに乗り遅れた?と焦った。
「おばあちゃん」
という声がするので振り向くと、千里がいる。
「千里ちゃん!?」
「おばあちゃん、こちらに行きましょう」
と言って、千里は淑子の手を取ると、一緒に歩き始めた。
「あんた。。。貴司と。。。」
「まあなるようになるんじゃないですかねぇ」
と千里は難しい顔をして言った。
「あ、お茶飲みます?」
と言って、千里はアールグレイのミルクティー500ccペットボトルを渡す。
「おばあちゃん、アールグレイ好きでしたよね?」
「うん。好き。そういうのよく覚えてくれてるね」
「おばあちゃん、お散歩とかしてます?」
「うーん。。。あんたに言われて少し歩いていたんだけど、最近ちょっとサボっているかも」
「おばあちゃんには京平の面倒とか見てもらわないといけないし、まだ頑張っててくださいよ」
「・・・京平はどうなるんだろう?」
「おばあちゃん、晴子伯母さんを自分で産んだのに戸籍上は前の奥さんが産んだことになってますよね」
「あ、うん・・・」
と返事をしながら、何のことだろうか?と淑子は訝ったが、千里はただ微笑んでいた。
「あ、あそこにみんな居ますよ」
と千里が指さす方角に保志絵や晴子の顔が見える。
「じゃ私はこれで」
と言って千里はどこかに行ってしまった。淑子は「あれ?」と思ったものの。保志絵たちの居る方に歩いて行った。
龍虎は夏休み期間中何度か学習発表会の練習にも出ていったが、それ以外では宿題をしたり、ピアノとヴァイオリンとバレエのレッスンに通ったりしていた。なお龍虎はゲーム機はしない。3DSが欲しいと言ったことがあるのだが、3DSを取るかピアノやヴァイオリンを取るかだと言われ、龍虎はピアノやヴァイオリンを取ったのである。パソコンは夏休み中1日1時間まで使っていいことになっている。
この他に週1回バレエのレッスンに行くのだが、この時期は年末の発表会に向けて『くるみ割り人形』の練習をしていた。龍虎はスペインの踊り(フラメンコ)の男性側なのだが、それで練習していると、しばしば
「龍ちゃーん、こちら手伝って」
と呼ばれる。
実は“アラビアの踊り”のメインを踊る蓮花ちゃん(6年生)が、夏休み中はオーストラリアのゴールドコーストにある別荘に行っていて欠席なのである。海外の別荘というのも凄いなと思うのだが、ともかくも本人が居ないので“リフトしやすい”龍虎が代役を頼まれているのである。
この踊りは「コーヒー」の別名もあり、ポットからコーヒーの湯気が立つ様子を表現しており、男性がポット、女性は湯気という感じで踊る。女性の動きはまるで流体のようであり、大人のバレリーナが踊ると、かなりセクシーになるケースもあるが、子供の公演なのでそこは明るく表現する。
この踊りのアレンジは色々あるのだが、今回のバレエ発表会の振り付けでは、男性(役)6人と女性3人で踊る。男(役)2人と女1人で組になって1つのポットを作るので、ポットが3組できることになる。メインのポットの左右後ろにサブのポットが1個ずつ並ぶΛ型の配置である。