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■娘たちのリサイクル(12)

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貴司は8月31日に帰国して会社に報告をした後、この日は自宅に戻って寝た。先日の台湾遠征の時の荷物は、会社の人に頼んで自宅に運んでおいてもらったのだが、帰宅してみるときれいに洗濯してあるので、また阿倍子が来てくれたのかなと思い、その洗濯された服(ブラジャーが入っているのはもう気にしない)をバッグに詰め、9月1日(土)朝から新幹線で東京に移動。東京リングビーツの練習場にお邪魔させてもらった。
 
やはりレベルの高い環境で練習しないと、代表のテンションは維持できないという気分になってきつつあった。1日と2日の夜は都内のホテルに泊まったのだが、龍良からは「君、どこに泊まっているの?俺がそこに行こうか?」などとしつこく誘惑されるものの、しっかり断っておいた。
 
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そして9月3日(月)からは男子代表の第11次合宿が始まる。
 
今回の合宿ではウィリアム・ジョーンズ・カップ直前の合宿で貴司に冷たい態度を取っていた衛藤さんや磯部さんが、また割と親切にしてくれて、彼らともたくさん1on1をやって。貴司は内心首を傾げていたのだが、そのことで龍良に訊くと
 
「彼らが君を好敵手と認めて、対等なライバルとして切磋琢磨しようとしているんだよ。やっと君は代表メンバーの一員になったんだな」
などと言っていた。
 
「ところで今日は一緒にお風呂入らない?」
「すみません。今日は疲れたのでこのまま寝ます」
と言って貴司は逃げて行った。
 

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9月5日(水).
 
千里が千葉に戻ってきたというのを聞いて、麻依子が千葉のアパートを訪ねてきた。
 
「妊娠したんだって?おめでとう」
と千里は麻依子に言った。
 
「うん。3月くらいに生まれる予定」
「だったら、つわりきついでしょ?」
 
「少しは収まってきたかな。ところで千里、やっと性別変更したんだって?」
「ああ。今申請中なんだよ。来月くらいには認可される予定」
「へー。やっと申請したんだ。20歳になったらすぐ申請しとけばよかったのに」
「先に性転換手術をする必要があったからね」
「性転換手術なんてとっくの昔に終わってたじゃん」
「この7月にタイに行って手術を受けてきたんだよ。やっと痛みが減って普通に生活できるようになったから、そろそろトレーニング再開する」
 
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「意味が分からん。だって、千里って高校1年の頃に既に性転換済みだったよね?」
「うん。今年性転換手術受けたから、あの時から性転換済みだったんだよ」
 
「全く意味が分からないんだけど。だって千里は高校2年のインターハイには女子として出た訳だから、少なくとも高校1年の7月までには性転換手術が終わっていてその1年くらい前までには去勢していたということだよね?」
 
「そうなるのかなあ。取り敢えず、これ今回もらってきた性転換手術証明書」
 
と言って千里はタイでもらってきた性転換手術証明書(英文のものは念のため3通もらってきていて、1通は裁判所に性別変更申請書類と一緒に提出した)を見せた。
 
「Tuesday, July 18th 2006 って書いてあるけど?」
「え!?嘘?」
 
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その麻依子の指摘で千里は初めて証明書の年が2012ではなく2006になっていることに気づいた。念のためもう1通の証明書も見たが、そちらも同じ日付である。
 
麻依子はカレンダーを確認する。
「今年の7月18日は火曜ではなく水曜」
更に彼女は自分のスマホで2006年の暦を呼び出す。
「2006年の7月18日なら確かに火曜日だよ」
 
「え〜!?」
「つまり千里は本当に2006年。やはり高校1年の時に性転換手術を受けたということになるね」
と麻依子が言う。
 
千里はタイに入出国した時、曜日がずれたのは、このせいなのかも知れないという気がした。
 
「去勢手術の証明書は持ってる?」
 
「あ、うん」
と言って机の中を探すと、書類が見つかった。
「これだけど。去勢は去年の7月に手術したんだよね。あ、7月19日になってる。たぶんその頃」
と言って麻依子に見せる。
 
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「これ日付は2000年7月19日水曜日と書かれているけど」
「うっそー!?」
 
麻依子はスマホで暦を確認している。
「昨年の7月19日は火曜日、2000年の7月19日なら確かに水曜日。これって私たちが小学4年生の時だよね。実際、千里って実弥君(留実子)とかの話を聞いてると、その頃に去勢くらいはしていてもおかしくない。むしろその頃までに実は性転換していたのではという気もするくらい」
 
「うーん・・・」
「小学4年生の時におちんちんとたまたまを取って、高校1年の時にヴァギナを作ってもらったとか」
「そんなこと言われると、そうかも知れない気がしてきた」
 
千里はわりと暗示にかかりやすい。
 
「まあ千里って、勘違いとか物忘れとか多いし、書類上では2000年に去勢して2006年に性転換手術を受けたということになっているから、この書類の方が正しいんだと思うよ。だから、千里はバスケ始める前、小学5年でソフトボールを始めた時にも既に女子選手だったんじゃないの?」
 
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と麻依子は笑顔で結論を言った。
 

「だけど小学生で去勢とか、ちんちん切るとかできるもん?」
と千里は麻依子に訊いた。
 
「病気とかの場合はあるでしょ。あるいは半陰陽のケース。実際千里って実は半陰陽だったのではと思いたくなることもある。というか、そう思っている人が結構居る気がするよ」
と麻依子。
 
「半陰陽ってことはないと思うけどなあ」
「だって千里、生理あるでしょ?」
「あれ高校時代に始まったんだよ」
「普通の女の子にしては遅い開始だけど、半陰陽で睾丸と卵巣の両方があった場合は睾丸の影響で初潮が遅れた可能性もある」
「うーん・・・・」
 
「あるいは病気でちんちん切る場合もあるよね?」
「どういう病気だろう」
 
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「おちんちんに腫瘍ができたとか」
「それはサーヤの彼氏の鞠古君のケースだな」
「ちんちん取っちゃったんだっけ?」
「腫瘍の部分だけを切って前後をつなぎ合わせたんだよ」
「なるほどー」
 
「あとはちんちんが生えてくる病気とか?」
「そういう病気は聞いたこと無い」
 
「千里はちんちんが生まれた時1本あったけど、もう1本生えて来たから1本切ろうと思って、うっかり2本とも切っちゃったとか」
「そんな馬鹿な!?」
 

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龍虎は今日は日帰りで病院に来ていた。
 
先日の定期検診の時に、誤投薬(責任の所在は不明)が発覚したので、そのことで異常が起きてないかの経過観察なのである。今回はその誤投薬によって影響が出た可能性のある生殖器や胸の脂肪などの検査が中心に行われた。
 
こないだの検診の時に3.4cmといわれたおちんちんは3.8cmといわれた。1ヶ月で0.4cmのびたことになる。むろん測定誤差はあるだろうが、実際には龍虎は最近おちんちんを摘まめないことが多かったのに、ここ半月ほどは安定して摘まめていることを言うと
 
「間違い無く伸びているようだね。これなら半年もしたらきっと普通の男の子くらいのサイズまで伸びるよ」
 
と言われたのだが、それは少し惜しい(?)ような複雑な気分だった。
 
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診察が終わり、ロビーで会計を待っていた時
 
「長野龍虎さん」
と呼ばれた気がしたので
「はい」
と答えたら、すぐ傍の席でセーラー服の少女も
「はい」
と答えた。
 
思わず龍虎とその少女は顔を見合わせる。
 
それで一緒に受付に行った!
「私、長野龍虎ですが」
「私、永野夕子ですが」
 
「え?え?」
と受付の人が戸惑っている。
 
お互いの診察券を提示する。受付の人は診察券の番号を確認している。
 
「これは夕子さんの方です」
と受付の人は言うので、龍虎は彼女に会釈をして席に戻った。
 
その少女が伝票のようなものを持ってこちらに来た。
 
「なんか私と似た名前の人がいるなというのは思ってた」
と彼女が言う。
「実は私、そちらに処方された薬を誤って受け取ってしばらく飲んでた」
「うっそー!? あ、3月の時に処方箋が出て来なかったのはそのせいか」
 
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お互いに名前を漢字で書いてみる。
 
「字で書くと随分違うね」
「龍虎ちゃんって、凄く勢いのある名前ね。男の子と間違えられることない?」
「たまに」
 
「でも女性ホルモン剤とか飲んで生理に影響出なかった?それとも生理はまだ始まってないかな?」
「うん。始まってないけど、こないだから時々ブラジャーつけてる」
「ああ、だったらそろそろかもね。でも生理まだ始まってなくてよかったかも」
 

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龍虎はこの女の子が・・・ちんちんを切って女の子の形にしてもらったのだろうか?と考えていた。でも男の子だったみたいには見えない。
 
「夕子ちゃん、何か手術したんだっけ?」
「そうそう。あれは参ったなあ。あまり友だちとかには言いたくないんだけど、龍虎ちゃん、名前が似ているよしみで教えちゃおう」
 
と言って彼女は驚くべきことを教えてくれた。
 
「私は生まれた時から普通に女の子だったんだけど、小学5年生頃から突然、クリちゃんが大きくなり始めたのよね」
「え!」
「それがどんどん大きくなって、まるでおちんちんみたいになっちゃって」
「うっそー!?」
 
「恥ずかしくて人に言えなかったんだけど、お母ちゃんに気付かれてそれでお前、内緒で性転換手術でもしたの?とか言われて」
 
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「せいてんかん手術って何だっけ?」
「男の子を女の子に変えたり、女の子を男の子に変えたりする手術だよ」
「ほんとにそういう手術があるのか・・・」
 
「それでお医者さんに掛かったら、結局ここの病院を紹介されて、おちんちんみたいに見えるのを切ってもらった」
「わぁ」
 
「手術が終わってお股に変なものが無くなっているのを見て、良かったぁ。嬉しいって思ったよ」
と言う夕子のことばを聞いて、龍虎はドキドキしていた。
 
ボクも・・・もしその、せいてんかん手術というのを受けると、お股に何も無くなって、女の子のような形になるんだろうか。ボク、そういう手術受けることにはならないよね?
 
「時々ある病気で一種の半陰陽らしい」
「はんいんよう?」
「男の子なのか女の子なのかはっきりしないもの」
「へー」
 
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「女の子のクリちゃんって男の子のおちんちんと同じものらしいのよね。だから性転換手術で男の子を女の子に変える時は、おちんちんを再利用、というよりむしろリサイクルに近いらしいけど、おちんちんを材料にしてクリちゃんを作って、女の子を男の子に変える時は、クリちゃんを大きくしておちんちんにするんだって」
 
「なるほどー!」
 
「だから、この病気になった場合、いっそのこと男の子になってしまうことを選択する人もあるらしいよ」
「ああ、でも男の子になるの難しいと思うよ。今まで女の子として生きて来たのに」
「私もそんな気がするよ。私は男なんかになりたくないから、女の子に戻して下さいと言って、おちんちんみたいに見えるものを切ってもらった」
 
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「でも凄い経験だね」
「ほんとほんと。これになった人は生理とか来ない場合もあるらしいけど、私の場合はちゃんと生理来ているから大丈夫みたい」
 
「良かったね」
 
と龍虎は言いながら、ボクもあの・・・隠しているお薬飲んでたら、その内生理が来たりするのかなあ、今夜“も”飲んじゃおうかなあ、などと考えたりしてドキドキする。
 
「でもこういう話、男の子なんかには絶対知られたくないよね」
と彼女が言うので
「ああ、分かる分かる。女の子の秘密だよね」
と答えつつ、龍虎はさすがに少し罪悪感を感じていた。
 
 
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