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■娘たちのリサイクル(11)

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8月28日(火).
 
東京にいる淳から、和実の性別変更が認可されたという裁判所からの書類が届いたという連絡があった。
 
それはおめでとう!といってその日は散らし寿司にして、みんなでお祝いしていた時、「千里はまだ認可されてないの?」と和実から訊かれた。
 
「それ千葉に戻ってから申請しようと思ってた」
「今からやっておけば新学期から女子学生として通学できるよ」
「確かに!」
 
「だったら私が書類をもらってくるよ」
と桃香が言うので、取ってきてもらうことにした。
 
ここで申請に必要な書類は下記である。
・申立書 用紙は裁判所でもらえる
・戸籍謄本
・所定の記載のある医師の診断書
 
医師の診断書は昨年1月にもらった性同一性障害の診断書、プーケットで書いてもらった手術証明書、射水市の病院で松井先生の診察を受けて書いてもらった性器の状態の診断書があり、それで充分と思われた。
 
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桃香はそれで29日の朝から千葉に出かけた。
 
高岡6:32-8:41越後湯沢8:49-9:55東京10:08-10:46千葉
 
それでそのまま千葉家庭裁判所に行き、申立書の書類をもらう。
「当事者ですか?」
と訊かれたので
「はい」
と答え、性別に関する違和感がいつ頃からあったのかとか、いつ手術を受けたのかとかも訊かれたので
「性別の違和感は物心ついた頃からありました。自分は女の子だと最初から思っていました」
と答え、
「手術は先月プーケットで受けて来ました」
と答える。
 
「海外で手術された場合は、日本国内の医師にも一度診察を受けて法令に準拠した診断書を書いてもらいたいのですが」
「はい、それももらってきました」
「だったら大丈夫ですね」
 
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ところがここで桃香は重大な問題を聞くことになる。
 
「戸籍謄本を添付して頂きたいのですが、これは出生から現在に至るまでの全ての謄本が必要です」
 
「分かりました。とってきます」
と桃香は答えたものの、裁判所を出てから千里に電話してみると、現在の戸籍謄本は、5月に戸籍の分離を行った時に取ったのが使えると思うが、それ以前の戸籍の謄本が無いという。
 
「だったら、今から北海道に行ってくる」
「ごめーん。お母ちゃんに電話しておくから」
 
それで桃香はすぐに羽田に移動し、新千歳行きに飛び乗った。
 
羽田14:30-16:00新千歳
 

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一方千里は《こうちゃん》にすぐ留萌に飛んでもらった。彼の速度で飛ぶと高岡から留萌までは1時間掛からない。それで千里に擬態して留萌市役所に行き、念のため千里の現在の戸籍と、分籍前の村山武矢筆頭の戸籍の謄本を取ってもらった。そして新千歳空港に移動し、千里の母に擬態してもらった。
 

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桃香が新千歳空港の到着ロビーから出てくると、40歳くらいの女性が笑顔で寄ってくる。
 
「高園さんですか?」
「はい」
「千里の母でございます。お手数お掛けしてすみません」
「いえ。いいんですよ」
「こちら戸籍謄本です。それと帰りの航空券を取っておきました」
と言って、“千里の母”は羽田行きの航空券とそれから乗り継ぐ富山行きの航空券を渡した。
 
「わっ、すみません」
「千里からお金はもらっているから大丈夫ですよ。それからこれ荷物になりますけど、そちらのお母さんへのお土産に」
と言って《白い恋人》を渡す。
 
「お預かりします」
「まだ搭乗には少し時間がありますよね?遅めの昼ご飯か早めの晩御飯でも食べて行かれません?」
「あ、頂きます」
 
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それで一緒にジンギスカンのお店に入り、ジンギスカン丼をおごってもらった。
 
桃香は“千里の母”に御礼を言うと、手荷物検査を通って羽田行きに搭乗した。
 
新千歳17:30-19:05羽田20:00-20:55富山
 
富山空港までは千里自身が朋子のヴィッツで迎えに行った。
 
「ありがとう!お疲れ様。私も以前の戸籍まで必要だとは知らなかった」
「要するに生まれた時は確かに男だったことを確認したいんじゃないかね」
「それと多分、子供がいないことの確認もあるんだと思う」
「なるほど!それもあるか」
 
「しかしこれあちこち戸籍を移動している人は大変だね」
「まあ、戸籍なんてそうあちこち移動するものでもないけどね」
 

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千里はすぐに申立書に必要な事項を記入した。これに桃香が北海道まで往復してもってきてくれた戸籍謄本、そして医師の診断書・証明書を添えて申請すればいいことになる。
 
「よし。それじゃこれ明日持って行ってくる」
「今日、千葉・札幌と飛び回ったのに!?」
「ついでついで」
「だったら飛行機で行ってきて」
「お金がもったいない」
「桃香の身体が心配!」
 
それでこの日8月30日は飛行機での往復となった。
 
富山7:40(ANA882)8:45羽田9:10(連絡バス)10:40千葉
 
それで桃香はまた家庭裁判所に行き、申立書を提出した。
 
「あら、昨日いらした方ね」
と言って、裁判所の事務の人は書類を受け取りチェックしてくれた。
 
「きちんと揃ってますね。これで受け付けます。場合によっては質問状を送ったり、こちらに来てもらうこともあると思いますので」
「分かりました。その場合は対応します。よろしくお願いします」
 
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しかし実際には裁判所からは呼び出しも質問状も来なかった。
 

裁判所を出たのがお昼前である。桃香はその後銀行に寄った後、東京に出て、御徒町に行った。そして一軒のお店に入った。
 
「すみません。これ、できていると連絡を受けていたのですが」
と言って、1枚の伝票をお店の人に提示した。
 

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この日も桃香は羽田からの最終便で戻ってきたので、千里がまたヴィッツを借りて富山空港まで迎えに行ってきた。
 
「提出してきたよ。だいたい1ヶ月程度で結果は出ると言われた」
「ありがとう!ほんとにお疲れ様」
 
桃香を助手席に乗せて高岡へ向かい8号線を運転していて千里は思った。この性別変更の申請が認可されれば自分はやっと正式に女になれる。
 
戸籍が女性になったら・・・私が持ってる貴司との婚姻届けを提出しても通っちゃうよね?などと千里は一瞬考えた。
 

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貴司は8月27日(月)に帰国すると、その日の内に大阪に戻り会社に出て報告をした。すると「ちょっと中国に行って来て」と言われ、上海(シャンハイ)出張になってしまった。
 
羽田空港13:30-14:35伊丹→16:00会社帰着1700→関西空港19:30-20:40浦東空港
 
結果的に貴司は1日の内に台湾から中国大陸に移動したことになる。この付近は政治的に“地雷”がある(下手すると逮捕される)ので、貴司は会社の法務担当から色々と「NGワード」なども指導されている。
 
しかし今回は日本に戻ってきたというのに、すぐ出国して結局阿倍子には会わないままである。
 
実はメールもしばらく交換していない!このまま自然消滅したりして?とも思うが阿倍子のお腹の中に自分の子供がいる以上は関係が消えることはない。貴司は大きくため息をついた。
 
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上海では遅い到着であったにも関わらず、現地の22時から打合せがある。
 
やはりアジア民族って基本的に働き者なんだろうなあなどと思いながら貴司は相手の会社幹部と北京語で雑談とも商談ともつかない会話をしていた。
 
上海では本来「上海語」が使われていたのだが、現在上海のビジネスシーンでは北京語が使用されるケースが多い。これは上海は大商業都市なので他地区や他国から入ってきた人が多く、彼らが共通語として北京語を使うので、大きな店や会社では、上海語より北京語の方が通じやすくなったためである。上海で生まれた人でも、若い人の中には上海語が分からない人がかなりあるという。このあたりの事情は広東省なのに広東語より北京語の方が通じる深圳(Shenzhen)などとも似ている。
 
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一通りの打合せが終わったのはもう24時すぎである。お腹も満腹した。
 
中国ではお客様が食べきれないくらい料理を振る舞うのが礼儀なので、こちらも敢えて腹八分目の所で料理を残していく。出されたものをきれいに全部食べてしまうと、向こうは更に追加注文して、こちらが残すくらいにする必要が出てくる。それで八分目にしたつもりではあるが、ビールや紹興酒・白酒(パイチュウ)なども飲んでいると、結果的に容量オーバーした感じだ。
 
「帰られますか?」
「ええ。ホテルに戻って寝ます。明日はそちらの会社の方にお邪魔しますね」
「恋人要りませんか?」
「すみません。不要です」」
「女の子がお好みでなければ男の子とか偽娘(ウェイニャン)も手配できますが」
「いえ。婚約者がいるので」
「それは残念」
 
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なんか断ったら商談に影響するのではと心配したくなるくらいだが、こういうことを言われるのは初めてではないので、しっかりお断りしておいた。
 
そもそも・・・今セックス不能だし!
 

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上海での商談が終わり契約ももらって貴司が帰国したのは8月31日である。
 
この日、9月14日からのアジアカップに出場する日本男子代表12名が発表された。ウィリアム・ジョーンズ・カップに参加した14名から更に2名落とされたのだが、貴司はこの12名の中に入っていた。
 
発表があって間もなく、貴司のスマホにメールが着信する。着メロは『ハッピー・サマーウェディング』である。
 
千里からのメールである。
 
婚約破棄以来千里からメールがあったのは初めてだ。ドキドキしながら開けると
 
《代表残留おめでとう。アジアカップ頑張ってね》
 
貴司はじわっと涙が出た。やはり千里は俺のこと気に掛けていてくれてるんだな。嬉しい。。。
 
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うん、俺頑張るよ!
 
と貴司は千里がいるという富山の方を向いて誓った。
 

今年の9月は1日が土曜だったので、青葉の学校は9月3日(月)から始まった。青葉はもう性転換手術の傷はほぼ全快に近い状態(但しセックスはもうしばらく控えるように言われている)で、元気に学校に出て行った。
 
千里もだいぶ調子がいいので千葉に戻ることにして、青葉が学校に出て行った9月3日、はくたか・新幹線の乗り継ぎで桃香と一緒に千葉に戻った。そして2人は大学院に進学することにして、その旨を9月4日、指導教官に申し出た。大学院の入試はもう終わっていたのだが、2次募集で処理してもらえることになった。
 
千里は元々は、学部を卒業したら大阪に行って貴司の奥さんをしながら、現地の適当なクラブチームに入れてもらうつもりでいた。ところが貴司との婚約破棄で完璧に予定がくるってしまった。それで今後の自分の人生を再度考えるためにあと2年間大学に行こうと思ったのである。
 
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桃香の場合は、バイトに明け暮れていたので就職活動をなーんにもしていなかった。それで今更就職活動しても、あまりいい所は残ってなさそうということであと2年間大学に行くことにしたのである。
 
問題はその間の生活費なのだが、朋子が「しばらくの間は少し支援してあげるから勉強頑張って、あと来年の夏くらいからちゃんと就職活動しなさい」と言ったので、少し親に頼ることにした。むろん桃香は奨学金も受ける。
 

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但し実はその前に千里は桃香が出ている時に朋子に言っていた。
 
「お母さん、当面の生活費なんですが、私は貯蓄もかなりあるし、ここ数年やっている在宅でできるバイトで結構な収入が得られているんですよ。それで私が“青葉の養育費”としてお母さんに毎月送金している金額を増額しますから、その中から一部を桃香さんに送金してあげてもらえませんか?」
 

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青葉を保護した時、千里・桃香・朋子の3人で青葉は育てて行くことを決めたので、養育費は3人で出し合うことにし、毎月千里と桃香が朋子に送金している。但しふたりでバラバラに送金するのは送金手数料がもったいないからといって実際には千里が代表して朋子に送金している。毎月桃香は千里に1万円渡して千里が2万円送っていることにしていたが、実際には千里は毎月5万円送金しており、朋子には桃香には2万円ということにしておいてと言っている。
 
なお実際の千里からの送金を、朋子は主として青葉の部活動の費用と修学旅行の積立に充てさせてもらっている。
 
青葉も霊的なお仕事で年間100万円程度の収入を得ていたのだが、少し生活費を入れると言う青葉に対して朋子は「中学生の娘のバイトを生活費のあてにする親なんていないから」と笑って受け取らず、貯金しておきなさいと言っていた。ただし性転換手術の費用(約200万円)は、青葉が「聖少女」の印税・著作権使用料で600万円ほどの臨時収入を得たので、それで支払っている。
 
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なお青葉が『遠すぎる一歩』を書いて作曲家として本格的に活動し始めて桁外れの収入を得るようになるのは翌2013年の春からである、またアクアに関わり始めて更にとんでもない収入になるのは、2015年の春からである。
 

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千里の提案に対して朋子は言った。
 
「いいけど、そんな面倒なことしなくても直接千里ちゃんが生活費を出せばいいんじゃないの?」
 
「私に強い経済力があると知れると、桃香さんが安易に流れて就職活動もしない可能性があるので」
 
「あの子は確かに危ない!」
 
それで結局千里が朋子に毎月10万円送金し、その内の5万を朋子が桃香に送金するというややこしい方式をしばらく採ることにしたのである。
 

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娘たちのリサイクル(11)

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