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■娘たちのリサイクル(6)

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女の子3人は蓮花(小6)・鈴菜(小5)・日出美(小4)で、蓮花が前面で踊り、その左右後ろで鈴菜と日出美が踊ることになっていたのだが、その蓮花が出てきていないので、鈴菜を前面に出して、龍虎と日出美がその後ろで踊るフォーメーションで練習を進めた。しかし鈴菜は自分の本来の役の踊りも練習するので、その時は龍虎が前に出てメインの踊りを披露する。
 
そういう訳で龍虎は前面の男子2人にリフトされたり、後方左側の男役女子2人にリフトされたりしていた。そして龍虎はその双方のペアから
 
「龍ちゃんって、身体に触った感触がまるで女の子みたい」
と言われていた。
 
「まだ未発達だから」
と龍虎は言うが
 
「いや、これは思春期に入った女の子の感触だと思う」
と前面で踊る6年生の男子が言うので、龍虎はギクっとした。
 
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「でも龍ちゃんが凄くうまいから、私、龍ちゃんを後ろに置いて踊るのは気が引ける」
などと鈴菜は言っているが
 
「だって龍ちゃん4年目だもん。鈴菜ちゃんはまだ2年半だから」
と先生は言う。
 
するとそばで見ていた中国の踊り(お茶)の女性側を演じているキャリア8年の6年生・芳絵が
 
「そういうことを言われると凄いプレッシャーがある」
などと言っていた。
 

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貴司たちの合宿は16日でいったん終わり17日に台湾に移動した。
 
羽田空港10:05-12:30松山空港 (3h25m)
 
台湾との時差は1時間である。
 
「しかしばあちゃんが倒れたのまで俺のせいにしなくてもいいのに」
などとぶつぶつ言っている。
 
淑子は15日に礼文島に行っていて、温泉の脱衣場で突然意識を失ったらしい。すぐに意識を回復したものの、その時
 
「千里ちゃんが・・・」
と言ったということで、きっと貴司と千里のことでショックを受けたのでは、などと母から電話で言われたのである。祖母は念のため16日まで礼文島に滞在して身体を休め、今日17日に帰ると言っていた。礼文で医者にも診てもらったが、異常などは無いと言われたらしい。しかし念のため帰る途中、旭川の病院でも脳のMRIなど撮って診てもらうと言っていた。
 
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さて18日からWilliam Jones Cupが始まる。
 
この大会は9ヶ国が参加して9日間で8試合する。1日だけ休みがあるがそれは日本の場合大会8日目の8月25日になっていた。
 
18日初戦の中華(台湾A)と19日マーラム・テヘラン(イランのプロチーム)は強い相手なので貴司は全く出番が無かった。40分間ベンチで応援し、またコートから下がってきた選手のアイシングをしてあげたりしていた。龍良さんのアイシングをしていたら、いきなり胸に触られる。
 
「わっ」
「残念。おっぱいは無いのか」
「無いですよぉ」
「ブラもしてないの?」
「試合ですから」
 
20日の光華(台湾B)は控えメンバー中心のオーダーを組んだので貴司はスターターに指名されてびっくりした。しかし元気よく出て行き、控えPGの酒井さんとふたりでうまく試合をコントロールし、日本に初勝利をもたらした。この日は40分の試合時間の内32分も出場して、4アシスト12ゴールの大活躍であった。
 
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青葉はコーラス部の全国大会に参加するため8月17日に新幹線で東京に出て都内のホテルに泊まった。他の部員は18日に日帰りするのだが、青葉は手術の後で体力が無いので前日に移動して前泊したのである。
 
大会では青葉は課題曲を歌った後、これから自由曲を歌うという間際になって葛葉にソロパートを歌ってくれと言った。
 
「やはり私調子良くないのよ。中部大会の時は葛葉が倒れちゃったから私が頑張って歌ったもん。今度は葛葉が私を助けてよ」
「分かりました。あれは申し訳なかったです。頑張ります」
 
それで葛葉は頑張ってソロパートを歌い、青葉たちの学校は3位に入った。入賞したので壇上でもう一度歌うことになる。この時葛葉は
 
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「今度は部長歌ってくださいよ」
と言った。それで青葉も2度目だしいいかなと思って歌ったのだが、この時青葉は今まで体験したことのないような、体内の気の巡りを感じ、青葉の歌は神がかったものとなって、聴衆は一瞬沈黙した後、物凄い拍手をくれた。青葉自身、これは凄いと思った。
 
青葉は先日瞬嶽の庵に行ったとき言われた言葉を思い出していた。
 
「お前は女の身体になって半月もしたら本来の『気』の使い方ができるようになる」
と。
 

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8月17日(金).
 
淑子は礼文島を出て旭川まで来てから、そのままいったん病院に入院することになった。数日入院して色々検査しようということになったのである。
 
初日に血液や尿を取られて検査されていたが、それは特に問題ないと言われた。明日は土曜だが、MRIを取ってみるという話である。このあたりが、入院しておいた方がスムーズに行くのである。
 
やれやれ・・・
 
と思いながら淑子はバッグの中に入っていたアールグレイのミルクティーのペットボトルを出してベッドの傍に置いた。それを見ながら少し考える。
 
「千里ちゃん、京平の面倒を見てもらうからと言っていたなあ」
などと淑子は独り言を言った。
 
そしてしばらくしてから、また独り言を言う。
 
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「私も頑張らなきゃ。取り敢えず留萌に帰ったら、毎朝、お稲荷さんまで散歩しようかな」
 
淑子は少し“悪だくみ”を考えていた。
 

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8月17日(金).
 
青葉が東京に向かって家を出てすぐに、千里の携帯に着信がある。表示を見ると雨宮先生である。取り敢えず携帯を開けて出る。
 
「今どこにいる?」
「お掛けになった電話は現在お客様の都合で・・・」
「こらぁ!居留守使うと、醍醐は男だったってバラすぞ」
「それ今更ですが。何ですか?」
と千里は面倒くさそうに言った。
 
「あんた何か手術受けたんだって?」
「やっと性転換手術を受けました」
「あんた男になったの?」
「まさか。男だったから手術しておちんちん取って、割れ目ちゃん作って女になりましたよ」
「あんたとっくの昔に女だったじゃん」
「今回手術したから、高校時代に女になったんですよ」
「意味が分からん」
 
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「それであの付近が痛いので、回復するまではバイクの仕事は勘弁して下さい」
「それは良かった。だったら4輪なら走れるね」
「今度はどこを走るんです?」
 

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「今度は楽だぞ。サーキットじゃなくて一般道だから」
「峠でも攻めますか?」
「あんた、そういうのやってるの?」
「残念ながらそういう趣味はありません」
 
「それであんた今どこにいるのさ?」
「富山県の、友人の実家にしばらく滞在してるんですよ。手術後の傷を癒やしている所なんです」
「ふーん。いつ東京に戻る?」
「9月上旬の予定です」
 
「だったら8月25日土曜日の朝8時までに、四輪用のレーシングスーツ着て、あんた自身のインプに乗って、群馬県の上里(かみさと)SA下り側に来て」
 
「いえ、だから8月いっぱいは富山に居ると」
「うん。だから8月25日に群馬まで来て」
 
千里はため息を付いた。行くしかないようだ。
 
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千里は復唱しながらメモを書いたが、先生の言葉に違和感を感じたので言った。
 
「私の知っている上里サービスエリアは埼玉県にあるのですが」
「あ、そう?私は群馬県の上里SAに居るから」
「会えたらいいですね」
 

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「それで結局何かのレースですか?」
「レースではなくてラリーなんだよ」
 
「ラリーですか!」
 
一般に自動車の競技会は多数の車が同時に走って順位を競う「レース」と1台ずつ走って時間を競う「タイム競技」に分けられる。その中で公道上で行うタイム競技がラリーである。
 
「今回のはターマックだから割と楽。ちゃんとターマック用に改造した車を用意させているから、それを持っていくから」
 
「ターマ?」
 
「ターマック(tarmac)というのは舗装された道を走るもの。グラベル(gravel)といえば未舗装路、つまり砂利道。実はターマックを走るラリーとグラベルを走るラリーでは車の作りが全く違う。同じ車で両方は走れない」
 
「へー!」
 
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「だから両方が混在するラリーでは車を2台持っていく」
「めんどくさいですね!」
 
「まあ初心者がいきなりグラベル走ったら死ぬから。まずはターマックで慣れたほうがいい」
「なるほどですね。じゃ頑張って下さいね、応援していますから」
「走るのは千里に決まってる」
「なんで私が走るんですか〜?」
「そりゃ千里の方がうまいからさ」
 
千里はため息をついた。
 

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「でも今回はそのターマック用に改造した車で走るんでしょ?なんで私の車も持って行くんです?」
「下見に使う」
「下見!?」
 
「ラリーは25日と26日の2日間にわたって行われるんだけど、1日目は下見、これをレッキ(recce *1)というんだけど、レッキには本番用の車を使ってはいけないんだよ」
 
(*1)Reconnaissance(予備調査)の略。
 
「随分面倒くさいですね!」
「だからあんたのインプをレッキに使わせて」
「まあいいですよ。壊れたら修理代は先生が出してくださいね」
「ああ、そのくらいは出すから心配しないで」
 
確認しておかなくても出してはくれると思うが、このあたりは普段のふたりの言葉のジャブである。
 

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「で、千里、本当は何の手術受けたのさ?」
と雨宮先生は最後に訊いた。
 
「ですから性転換手術ですよ」
 
「まあいいや。でもあんた、高校2年の時だったっけ?去勢手術受けたいというから連れて行ってあげたら、医者に既に睾丸もペニスも無いから去勢手術は不能と言われたことあるよね」
「そんなこともありましたね〜。結局私の身体がどうなっているのかよく分からないんですけどね」
 
「でも今は女の身体なんだろ?」
「はい、そうです」
「だったら、もう何も考えないことだな。自分は女だというのを信じて生きていけばいい」
と先生は言った。
 
「本当にそうですね。それで行きます。ありがとうございます」
と千里は本当に先生の言う通りだと思って答えた。
 
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電話が終わってから、千里は出羽の美鳳の居る方角を正確に向いてその姿を捉えた。今日の美鳳は白衣を着て、女医さんでもしている感じだ。
 
「美鳳さん、8月25日と26日にラリーで走ることになったんですよ。この手術後まだ1ヶ月程度の身体では自信が無いので、その2日間、いったん元の身体に戻してもらえませんか?」
 
と千里は言った。
 
ところが美鳳は
「不許可」
と言う。
 
「どうしてですか?」
 
「理由1.予定に無い。千里はこのまま10月19日まで療養を続けて、10月20日から元の鍛え上げた身体になることになっている。予定は変えられない」
 
安寿さんが作ってくれた千里の体内時間スケジュールでは今年の10月19日の翌日の身体の続きが昨年7月21日、青葉の家族の葬儀の時期につながっており、ここで千里は瞬嶽の手で生理周期の始動を掛けられた。その後、大学1年の5月に繋がり、千里はローキューツの活動でリハビリが進んだ。その身体の続きを高校2年の5月21日以降インターハイに向けて使っているというプログラムになっている。この日程の過去の部分は当然もう動かない。
 
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暦の時間__=___肉体時間
2012.7.14-10.19 = 2007.11.09-2008.02.14 (性転換手術と療養)
2011.7.21-_7.25 = 2008.02.15-02.19 (瞬嶽の操作)
2006.12.8 = 2008.02.20 (初めてのV型セックス)
2007.1.13 = 2008.02.21 (貴司と結婚した日)
2009.5.07-9.23 = 2008.02.22-7.10 (Rocutesでリハビリ)
2007.5.21-8.03 = 2008.7.11-10.06 (高2のインターハイ)
 
だから美鳳の言う「予定」は実はほとんど「既成」である。この付近を千里は理解していない。ここから先に予定になかったことを入れた場合、調整は非常に困難となる。
 
「でもこれまでは色々予定に無かったことにも対応してくださったじゃないですか?」
「それはどうにもならなかった場合で、しかも変更のためのゆとりがあったからさ。今回はどうにかなる案件だし調整も無理。バスケの技術に関する《身体的記憶》が肉体自体が切り替わっても、ちゃんと継続していたのは、これまでもたくさん経験してるだろ?スポーツ走行に関する技術もちゃんと継続するんだよ」
 
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「そうかも知れませんが、筋力が違うから」
 
「筋力を使わない運転をすればいい。そして理由2.あんたの手術の傷跡はもうほぼ治っている。運転には全く支障が無い」
 
「でもまだ結構痛いですよ」
「あんたのいつもの悪い癖。まだ手術から1ヶ月半しか経ってないから痛い筈だという思い込みが、痛みを感じさせている。だからもう平気だと思えば平気になる」
 
「ほんとですか!?」
「試しにちょっとニンジャで鈴鹿を走って来てごらんよ」
「さすがにバイクはまだ自信無いです」
「平気なのに」
 

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娘たちのリサイクル(6)

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