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21日(金).
この日は19:00からカタールとの準決勝であったが、前日の活躍があったので貴司は40分の内18分も出してもらい、9アシスト・6スティールの大活躍であった。
試合は66-73で日本が勝ち、日本はとうとう決勝戦に進出した。
阿倍子が大変なことになっているとは全然知らない貴司は千里に
《今日はお土産無いのかなあ》
などとハーフタイムにメールしたので、この日は千里は虎屋の羊羹を差し入れてくれた。分けやすいように小型の羊羹がたくさん入っている箱である。
「おお、これ好き!」
とみんな言って、これも一瞬で無くなってしまった。
「細川君が代表落ちしても、細川君の彼女だけは代表に入れておきたいな」
などと磯部さんが言っていた。
あははは。磯部さん、さりげなく本音じゃない?今の発言の前半とか。磯部さんはスターターには入れない第7か第8の男くらいのポジションである。彼は多分貴司の存在を脅威に感じているように思われた。
桃香は、大学院の入試を受けさせてもらうための条件として課されたレポートをひたすら書いていたのだが、書き始めて10日ほどもすると、だいたい骨格ができてきた。ここから先は細かい論議や、省略してしまった証明をきちんと書いたりすれば何とかなりそうである。21日にはいったん大学に行き教官に現時点での状態を見てもらい、いくつか指摘された点も修正することにした。
しかしずっとアパートに籠もってレポートを書いていると、時々脳が酸欠になるような感覚がある。それに実はここしばらく桃香は食事にも困っていた。
千里は13日に「3日ほど戻らないから」と言って出かけたのだが、実際にはもう一週間ほど戻ってきていない。何度か「お腹空いたよぉ」とか「夜が寂しいよぉ」などとメールしてみたものの、「ごめーん適当に食べてて」とか「しばらく夜はセルフサービスでよろしく」などという返事である。
どうもバイト(?)が忙しい状態に入っているようだなと思う。
そして実は・・・・
桃香はかなり「女の子」に飢えていた。
季里子と別れて以来、もう3ヶ月近くセックスしていない。こんなに長くセックスしていないのはかなり久しぶりである。千里がいるとあそこを気持ちよくしてくれるけど、まだセックスはできないという。
「誰かいい子いないかなあ」
と浮気の虫、というより性欲が湧いてきていてたまらないのである。
(桃香はこのあたりの脳の構造が男性的である)
そういう訳で桃香はその日、夕食も兼ねて千葉市内のガールズオンリーバーにやってきた。
ここは入口に鍵が掛かっていて、呼び鈴を押し開けてもらわないと中には入れない。男子禁制のお店である。客の半分くらいがレスビアンだ。桃香はここには何度か来たことがあるのだが、呼び鈴を押して出てきたのが、初めて見るスタッフさんだった。案の定言われる。
「申し訳ありません。うちは男子禁制なんで」
「私、ボイ(*1)なんですよ」
「もしかしてMTFさんですか?うちはたとえ現在女性であっても過去に男性であった方はお断りしているのですが」
「正真正銘生まれた時から女です」
(*1)ボイとはボーイッシュの略で、見た目が男性的に見えるレスビアンのこと。女性的な装いが好きなレスビアン“フェム”に対する用語。性的な役割であるネコ(女役)・タチ(男役)とは無関係に見た目の問題でフェム・ボイと言う。ボイにはしばしばFTM(男になりたい女)の要素が混じっている人もいる。桃香も自分が純粋なレスビアンなのかFTMなのか、中学生の頃以来悩んでいるが、千里や優子も含めて多くの友人が桃香はFTMではないと断言する。
少し揉めていたら奥の方から見知ったスタッフさんが出てきた。
「あら、モモちゃんじゃん」
「この人、女性なんですか?」
「そう見えないよね。ふつうに男に見えるし、女だと言われると、おちんちん切って女になった人かと思われがち。でも天然女だよ」
「ごめんなさーい」
「いやいいです。よく間違われるし。女子トイレで通報されたこともあるし、こないだは家庭裁判所でもMTFと思われたし」
「あら性転換するの?」
「性転換した友人の代わりに書類持って行ったんですよ」
「なるほどねー」
それでともかくも中に入ることができた。
カウンターに座って、フォアローゼスのロックを頼み、店内を物色する。ひとりでテーブルに座っている女の子に気付く。飲み物を持ってそちらに移動する。
「ね、ね、君ひとり?」
「ごめーん。彼女と待ち合わせ」
「残念。でもそれなら彼女が来るまでおしゃべりしてていい?」
「まあいいよ」
その子とは20分くらい話したが、本当に彼女が来たので
「ごめん、ごめん。純粋におしゃべりしてただけだから」
とその彼女に言って席を立った。
桃香はこの日5人の女の子に声を掛けたが、彼女と待ち合わせ中の子が2人、ビアンではない自称ストレートの女の子が1人(でも10分くらいお話できた)、もう帰る所だった子が1人で、もうひとりは「ごめん。今日はひとりで飲みたいから」と言って断られた。
店内に2時間ほど滞在し、バーボンも10杯ほど飲んで、今日は戦果無しか。まあ少しビアンの女の子と話せたからいいかな、などと思い、帰ろうかなと思った時、凄く可愛い女の子がお店に入ってきてカウンターに座った。
「ね、ね、君ひとり?少し話さない?」
と桃香は断られることを予想しながら訊いた。
ところが彼女は
「いいよ、おごってくれるなら」
と答えた。
あれれれ?
(桃香と貴司は性格が似ている)
22日(土).
この日は16時半からイランとの決勝戦であった。イランとは予選リーグでも対戦してその時は71-65で負けている。日本は相手選手の分析などを再度して、必死の体制で臨んだ。
しかし必死なのは向こうも同じである。イランは最初から全開で来て、日本もかなり頑張ったのだが、第1ピリオドは13-11で2点ビハインドである。更に第2ピリオドも17-12で前半合計30-23で点差が開き始めた。
控室から日本選手たちが出てきた時、近くの廊下でじっと熱い目でこちらを見る千里の姿があった。貴司はそれを見て闘志を燃え上がらせた。
第3ピリオド出してもらった貴司は相手選手からどんどんスティールを決め、そのボールを龍良や須川などにつないで、日本は良いサイクルが回っていく。それでこのピリオド10-21とダブルスコアで、日本は40-44と試合をひっくり返した。
ところが第4ピリオドでイランは猛攻を加えてくる。日本も必死で対抗し、戦況は膠着していた。しかし第4ピリオド7分、ゴール下での微妙な争いで龍良がファウルを取られ、5ファウルで退場になってしまったのである。この場面でのエース退場は日本にはあまりにも痛かった。
この後、日本は防戦一方になり、イランはどんどん得点を重ねる。最後は何とか勝田のスリーで同点に追いついたものの、残り4秒でイラン側速攻からのミドルシュートがブザービーターとなり合計53-51で日本は敗れてしまったのであった。
試合終了後、龍良がみんなに
「申し訳無い。自分が退場になっていなければ」
と頭を下げて謝ったが
「いや、ショウちゃんは最初から、かなり狙われていた。やむを得ないよ」
とキャプテンの須川が言う。
「狙われるのは分かっていた。それを回避できなかった自分が未熟だった」
と龍良は言った。
しかし龍良が未熟と言ったら、他の選手は未熟以前の芽か双葉くらいである。
その龍良が表彰式の前に居なくなってしまい、みんな慌てて探していたら、もうフロアに入場しなければという時になって戻ってきた。
「龍良さん!?」
「いやあ、このくらいでは申し訳ないんだけど」
と龍良は照れていた。
彼は頭を丸坊主にしていた。
「床屋さんに行ったの?」
「体育館の近くの10分でやってくれる散髪屋で切ってもらった」
「ああ」
彼は準優勝の楯を受け取ってとキャプテンから言われたものの辞退して、山崎に受け取ってもらっていた。しかしベスト5に選ばれたので、これは本人が前に出て賞状と記念品を受け取った。しかし全く嬉しくなさそうであった。
龍虎の父はその日帰宅すると龍虎に
「たまにはお父さんと一緒にお風呂入ろう」
と言った。
「恥ずかしいよお」
と龍虎は言ったが、
「父と息子で恥ずかしがることはないだろう」
と言う。龍虎が悩んでいると
「それとも父と娘だっけ?」
と訊かれた。
「ボクは娘ではないと思う」
「だったら、一緒に入ろう」
「うん」
それで一緒にお風呂に入った。
シャワーを身体に当てて軽く洗った後で髪を洗い、コンディショナーも掛ける。龍虎はけっこう髪を長くしているのでコンディショナーが必要である。対してお父さんはトニック系のシャンプーをするだけでコンディショナーは使わない。このお風呂場では、お母さんと龍虎が使うシャンプー・コンディショナー、お母さんだけが使うトリートメントと、お父さんだけが使うトニックシャンプーが並んでいる。
龍虎は自分のバストのこと、何か言われないかな?と不安だったが、お父さんはそのことには何も言わなかった。
龍虎はお父さんの大きなおちんちんを見て、少しドキドキしていた。
お父さんは胸も無い。手術の跡が残っているのは10代の頃にはあったおっぱいを手術で取った跡である。お腹にも手術の跡が2つある。1つは卵巣を取った時、1つは子宮を取った時の手術跡だ。
「なんだ?俺の手術跡が珍しい?」
「ううん。ボクも手術跡あるし」
「まあ、それは生死の境を生き抜いた勲章だよ」
とお父さんが言うと、最初「生死」が「精子」に聞こえてギョッとしたが、生きるか死ぬかの境という意味と分かると、
「だよね。自分でもよく助かったなと思う」
と龍虎は答えた。
それで結局一緒に浴槽に入る。
いきなりお父さんにおちんちんを触られて、龍虎は「きゃっ」と女の子みたいな声をあげた。
「男同士ちんちんくらい触ってもいいだろ?」
「そういうもんなの〜?」
「ほら、俺のも触れ」
と言って、龍虎の手を自分のおちんちんに触らせる。
ひぇー。
龍虎は訊いた。
「お父さんのおちんちんって、昔はクリちゃんだったものを大きくしてここまで育てたの?」
「それはこの基礎部分だな」
「基礎?」
「この付け根付近が、元はクリちゃんだったものだよ。大部分は腕の上腕部から皮膚を取って移植したもの。ほら、ここに傷跡があるだろ?」
と言ってお父さんは腕の傷を指さす。
「この傷は何の跡だろうと思ってた!」
この傷があるのでお父さんは夏でも絶対に半袖にならない。
「ここからおちんちんを作ったんだな」
「そうだったのか」
「昔の術式だとシリコンの棒をくっつけていたんだよ。でもそれじゃ触ったりしても気持ち良く無い」
「作り物ならそうだよね」
「これは元々自分の身体の一部を自己移植したものだからちゃんと感覚がある。実際思い込みかも知れないけど、お母さんとセックスすると気持ちいいぞ」
「セックスって何だっけ?」
「学校の保健の時間に習わなかった? 結婚した男と女がすることだよ」
そう言われて、龍虎は男女が抱き合っている様、女の人が仰向けに横になっていて、男の人がその上に乗っていて身体を動かしている様を想像した。なんか映画か何かで一瞬そういうシーンが出てきたことがあった。
「何となく分かる。それで子供ができるんだっけ?」
「そうそう。お父さんとお母さんの場合は、どちらも子供作る能力を放棄しちゃったから、もう子供はできないけどね」
「そんなこと言ってたね」
「セックスする時、龍虎はその下に居たい?上に居たい?」
とお父さんは訊いた。
「ボク分からない」
「そうかも知れないな」
と言ってお父さんは優しく微笑んだ。
「お前、女の子になりたいなら、このちんちんは取ってしまえばいい」
と言って、お父さんはまた龍虎のちんちんに触った。
「女の子になりたい訳じゃないんだよ」
「うん。男の子になりたいなら、このちんちん、もう少し大きくなるようにすればいい」
「大きくなるようにってどうやったら?」
「お前くらいの年齢の男の子はオナニーを覚えて、やめられなくなるけど、龍はオナニーしてないみたいだな」
「そのオナニーってのもよく分からない。友だちから聞くけど」
「じゃやってみせるよ」
「え〜〜!?」
それでお父さんは浴槽からあがると、オナニーを実演!してくれた。
「気持ち良さそう」
「うん。凄く気持ちいい。生まれながらの男なら終わった時、精液が出るんだよ。お父さんは男性能力が無いから出ないけどな」
「でもボクおちんちん小さいから、そういうのできない」
「お前の場合は、女の子式のオナニーをすればいい」
「え?そういうのしてたら、ボク女の子になってしまわない?」
「女の子になっちゃったら、なっちゃったで、お前やっていけるだろ?」
「そんな気はする」
「だから、すればいいんだよ。お父さんはもうクリちゃんがないから、してみせられないけど、お前の身体でやってみせよう」
「ちょっとぉ!」
それでお父さんは龍虎の身体で女の子式のオナニーの仕方を実演してくれたのである。
「物凄く気持ちよかった」
「女の子はみんなそれをしてるんだよ。お父さんも女だった頃は毎日してたぞ。でもお前は本来男の子だから、女の子式のオナニーをしても、結果的に男の子の器官が刺激されて発達する。ちんちんももっと大きくなるから」
「・・・」
「逆に男の子になりたくなければ、今のをしないように我慢する必要がある」
「ボクどうしよう・・・・」
「もし男になりたくないのなら、睾丸を取ってしまう手もある。そしたらおちんちんは今以上に大きくなったりはしないけど、子供は作れなくなる」
「お父さん、ボク自分が男になるのには不安がある。でも女の子になりたい訳じゃない」
「まあそれについて悩むのがたぶんお前の20歳くらいになるまでの課題だろうな。だからたくさん悩め。それで男になるか女になるか、決断できたらお母さんにでもお父さんにでも言いなさい。必要な治療があれば受けさせてあげるから」
「うん」
と龍虎は素直に答えた。