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■娘たちのクランチ(20)

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貴司がやっとソウルでの交渉をまとめて契約をもらい、帰国したのはもう25日の夕方である。会社に報告してねぎらいのことばをもらうと、すぐに自宅に戻って明日7月26日からの合宿のための荷物をまとめた。
 
「あれ?ユニフォームが洗濯してある。阿倍子が来てくれたのかな?」
 
貴司は阿倍子にこのマンションの鍵を1つ渡した。実は千里には返却してもらいたいのだが、とてもそんなことは言える状態ではないので、千里が自主的に返却してくれるのを待っている。ここの鍵は5本あり、1本を貴司、1本を千里、1本を保志絵が持っていて2本余っていたと思っていたのだが、余りは1本しか無かった。どこに置いたのだろう?と思ったのだが、取り敢えずその1本を阿倍子に渡したのである(実はもう1本は緋那がこっそり持っていたのを千里に返しているので千里は2本持っている)。
 
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しかし洗濯して乾燥も掛けられていた服の中にスポーツブラもあったので貴司は血の気が引いた。これを阿倍子に見られた?
 
女装趣味かと思われたら・・・などと貴司は考えてしまったのだが、実際にはふつう男性の家の洗濯物の中に女物の下着があれば、恋人のものかと思うのが一般的であり、浮気を疑われるのだが、貴司はそこには発想が至っていない。
 
まあ変態かと思われて破綻したら破綻した時だよなあと思い、乾燥機に掛けられていた服などもバッグに詰めて新大阪駅に向かった。実は前回の合宿で車をNTCに置きっ放しにしてしまったので、今回は新幹線で行くしかないのである。
 
(なお実際に洗濯をしてあげたのは、洗濯物が放置されていることに気付いたげんちゃんからの連絡で行ってあげた、いんちゃんである)
 
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ともかくもそういう訳で貴司は最終新幹線で東京に行き、その日は都内のホテルに泊まって、翌26日朝、NTCに入った。
 

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高岡では、この時期、桃香は期末試験のため千葉に戻っているので、朋子・青葉・千里の3人での生活になっていた。買物は日中に千里がやっておき、朝食は青葉、夕食は千里が作っていた。ふたりとも休み休みなら問題無く稼働できていた。
 
千里は毎日歩いて15分ほどの所にあるスーパーまで往復していた。この軽微な運動をすることで体内の循環が活性化し、傷の治りも早くなっているような気がした。
 
「でも歩いて15分って大変でしょ?自転車使ってもいいよ」
「自転車は無理です。あのあたりがとても痛いので」
「あっそうか!」
 
青葉は18日に手術を受けて24日に退院したばかりだというのに、よく動き回っていた。26-28日には学校に出て行ってコーラス部の練習に参加。ただし自分では歌わずに見学して、中部大会で青葉の代わりにソロパートを歌う子の指導などをしていたらしい。そして29日にはその中部大会で名古屋近郊の都市まで日帰りで行ってきた。
 
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朋子も千里も「大丈夫なの?」と心配したが、「私は見学だけだから」と言って出かけて行った。ところが本番直前にそのソロを歌うはずだった子が倒れてしまい、結局青葉が歌ったという話には朋子が言う前に千里が注意した。
 
「青葉、無理していい時とよくない時がある。そもそも今回は名古屋までも行くべきではなかった。それで失格になったとしても仕方ないじゃん。自分の身体をもっと大事にしなきゃダメ」
 
「うん。自分でもさすがにまずかったかなと思った」
と青葉も少し反省したようであった。
 

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この日は高知から菊枝が来てくれて、夜通し青葉をヒーリングしてくれた。菊枝は青葉が名古屋から戻って来る前に千里も見てくれたのだが彼女は千里に
 
「ねぇ、私笑ってもいい?」
と言った。
 
「何か変?でもこれマジでまだかなり痛いんだけど」
と千里。
「じゃその痛そうな部分だけ少し治してあげるよ」
と言ってヒーリングしてくれた。
 
「ありがとう。私はそういうヒーリングとかの力が無いのよね」
「そうね。“千里ちゃんは”無いのかもね」
と言ってやはり彼女は笑っていた。
 

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「そういえばこないだ師匠の庵に行ったら、大量のUSBメモリーがあるからびっくりした」
と菊枝は言った。
 
「私が持って行きました。あれでずっと口述なさっているようです。私は部外者だから、その手の連絡とかできないのですが、あれお弟子さんたちで文章起こしをしてもらえませんか」
「うん。それ瞬高さんに連絡した。向こうはびっくりしているみたいだった」
と言ってから
「あそこに発電機まであってエネループに充電できるようになっていたけど、あれも千里ちゃんが持って行ったの?」
 
「どうも虚空さんが持って行ったようですよ」
と千里が言うと、菊枝はピクリとする。
「虚空に会った?」
「1度会いましたし、電話でも1度話しました。面白い人ですね」
 
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「私も1度会ったけど物凄く怖かった。足がすくんでしまった」
と菊枝は言う。
「ああ、怒らせると怖いでしょうね」
と千里も言った。
 

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貴司は今回の合宿(7/26-29)でも、合宿所に入った途端胸は無くなったので、下だけ誤魔化して、最初の日から大浴場に龍良さんと一緒に行き、あそこを触らせて確かに男であることを確認してもらったものの、彼は貴司の性別に関する疑いを解かなかった。それどころかこんなことまで言ってきた。
 
「細川君、男の子は経験無いの?僕としてみない?」
「すみません。婚約者がいるので他の人とは男性であれ女性であれできないので」
「うーん。残念」
 
龍良さんは男でもいけるの〜〜?
 
「でも婚約者ってどんな人?」
と龍良が訊くと、貴司が答える前に前山君が答えた。
 
「女子の日本代表シューターで村山さんって言うんですよ。凄い格好いいですよ」
「へー!」
「今回の世界最終予選に絶対出ると思っていたのになぜか落とされたんですよね。彼女が出ていれば絶対オリンピック切符つかめたと思うのに」
と前川は言っていた。
 
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「そんな凄い子なら1度寝てみたいな」
などと龍良がいうので
「ダメです」
と貴司は答えた。
 
しかし答えてから、俺は千里が他の男とくっつくことを停められないのではという気がした。それを考えると急に嫉妬のような思いが出てきた。
 

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8月1日、和実は退院し、胡桃と一緒に石巻に移動した。しばらく胡桃のアパートで静養することにする。東京の淳と暮らしているアパートでは、淳が仕事で数日帰らない時に放置されてしまうからである。
 

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29日までの合宿が終わった後は、2日置いて8月1日から3日まで、また合宿が行われる。その2日で大阪に戻るのも辛いので、貴司は東京に居残ることにした。都内のホテルに滞在し、空いている体育館を探してはそこに行って練習したがパートナーが居ないのは不便だなと思った。今まではいつも千里がいてくれた。そもそも千里は自分に誘われてバスケットを始めたんだった。自分は千里の人生を狂わせてしまったのだろうかと悩んだ。
 
8月1-3日の合宿も龍良さんから逃げながら何とか頑張った。8月3日の夜はNTCの駐車場に駐めっぱなしになっていたAUDI A4 Avantに乗り、適宜休憩しながら東名・名神を戻った。
 
4日(土)朝、途中のPAで時間調整してから竜王町のナイキに行く。そこで先日注文していたハイサポートのブラジャーを受け取った。
 
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「つけてみられます?」
「あ、はい」
 
それでスタッフの人につけてもらったが、かなりきつい。しかしこれならまるでバストが無いかのように動けるかもと貴司は思った。付け方の練習もさせてもらった。これは手順通りに装着しないとハイサポートの機能が出ないし、着けてて痛くなるかもとも思う。
 
試合に出るとき、おっぱいが消えていてくれたら問題無いけど、ある状態であったら、これを装着しないと自分の能力をフルに発揮できない。
 

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大阪まで戻ったのはお昼過ぎである。マンションの宅配ボックスから荷物を受け取って部屋に戻る。取り敢えずシャワーを浴びた後、ドキドキしながら荷物を開けた。
 
実は・・・普通のブラジャーを通販で注文していたのである。早速着けてみる。スポーツブラがC100で適合したので普通のブラも同じサイズで行けるだろうと思って頼んでみたのだが、ちゃんとサイズは合うようである。
 
しかし、スポーツブラは色も灰色でシンプルなデザインなのでそうでもなかったのだが、普通のブラジャーは色もベージュとペールピンク、端にはレース飾りのようなもの(「ピコット」というのだが、貴司は知らない)が入っているし、ブラジャーのカップ自体にも刺繍のようなものが入っている。
 
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物凄くフェミニンである。
 
そんなものを着けるとなんか変態にでもなったみたいでドキドキする。
 
今回はお試しで2枚だけ注文したのだが、これはあと5〜6枚は頼んでおかないとやばいなと思った。
 
ブラジャーの上に下着が見えないように黒いTシャツを着る。下は普通のトランクスである。カッターシャツを着てからブラックスーツを着た。そしてA4 Avantに乗って、神戸の阿倍子の家に行った。
 
近くに駐車場が無いようなので、やむを得ず家の近くに路上駐車する。
 

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阿倍子の家に来るのはこれが初めてであった。
「ごめんね。忙しい時に」
「とんでもない。こちらこそ葬儀にも顔を出せなくてごめん」
 
それで仏檀にお線香をあげた。
 
「お葬式の費用はどうにかなった?」
 
「お坊さんとか入れずに祭壇とかも作らずに、無宗教で純粋にお別れ会という形でやったから掛かったのは棺桶代・骨壺代・ドライアイス代・火葬代とかで15万くらい。でもお父さんの同僚の人が10人も来てくれて香典が香典返し分を引いて3万あって会社からもお見舞い金が5万円出たから、それで半分くらいはまかなえたんだけど・・・」
 
「一応5万持って来た」
と言って封筒を渡す。これで実はボーナスは全部無くなってしまった。
 
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「ありがとう。助かる」
と言って阿倍子は封筒を受け取る。
 
「それとこちらは指輪代を立て替えてもらった分の一部。残りは申し訳ないけど来月以降に」
といってもうひとつの封筒も渡す。こちらは7月の給料から出したものである。
 
本来は偽装結納のつもりだったから指輪代などは全部阿倍子が出すつもりだったのだが妊娠発覚で結局貴司が阿倍子との結婚に同意したことから、指輪代については貴司がもつことにしたのである。
 
阿倍子は中身を見てから
「ありがとう。結構助かる。でもあれはお父さんが強引に進めちゃったから。ごめんね。だから残りはいつでもいいよ」
と言った。
 
「でも前結婚した時は婚約指輪も結婚指輪も無かったから、嬉しかった」
と言って、本当に嬉しそうにしている阿倍子の顔を見て、貴司は良心が傷むのを感じていた。
 
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阿倍子が「泊まっていく?」と言うのを「悪いけど仕事が溜まっているから」と言って断り家を出る。実際問題として泊まった場合、阿倍子に求められた時にこの身体を見られたくない。
 
道路まで出て車を見るが何も貼られたりはしていない。幸いにも駐車監視員とかは回ってこなかったようである。それでA4 Avantを運転して自宅に戻った。
 
あらためてシャワーを浴びてから、今度は下半身にハーネスを装着し上は普通に!?ブラジャーを着けて上下とも体型の分かりにくいだぶだぶのTシャツとジーンズパンツを穿く。ちょっとB系っぽい装いだ。
 
それでまた夜の歓楽街に行き、先日***などを買ったお店に入った。
 
「すみません。STPが欲しいのですが」
「***にパックします?」
「はい」
「使っておられるの見せて頂けます?」
「ええ」
 
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それでトイレを借りて外してきて見せる。お店の人は使い捨てのビニール手袋をしてサイズとかを計っている。
 
これはリアルなのはいいんですが、STPパックするにはある程度自分で工作する必要がありますよ」
とお店の人は言った。
 
加工法をまとめたFTM当事者が書いたパンフレットがあるということだったのでそれを500円で購入した。パックするSTPとしては受け口の広いものの方が失敗が少ないですよと言われたが、かなりかさばるようで“偽装”には不向きのようである。それで練習が必要とは言われたが、スプーン型で柔らかいゴムでできたものを選んだ。
 

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そういう訳で買って帰ったSTP器具を貴司はパンフレットやネットの情報などももとに頑張って加工した。
 
加工はうまく行ったようで、貴司は約1ヶ月ぶりに立ちションをすることができた。
 
「できた〜!嬉しい」
と貴司は感動していた。
 
でもこれをやった後は、洗浄が問題のようである。使用した後は洗う必要があるし、そのままにしておくと雑菌で尿道が炎症を起こす可能性もある。これは本当に大変だと思った。やはりできるだけ個室を使うようにしておいた方が良いようだ。
 
 
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