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■娘たちのクランチ(14)

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2012年7月8日(日)。
 
朝起きると千里はこう言った。
「結納をぶち壊しちゃる」
 
《こうちゃん》と《びゃくちゃん》がパチパチパチと拍手していた。
 
ショッキングな宣告から2日近く経ち、やっと千里に最低限の精神力が戻ってきたのである。千里は熟睡している桃香を放置して身支度を調えると、最初に葛西のマンションに行ってジバンシーのワンピースを着た。お化粧もしっかりして貴司からもらった18金のイヤリングをする。そして車で東京駅まで移動すると、駅近くの駐車場に駐めて、新幹線に飛び乗る。そして貴司と阿倍子の結納が行われる大阪市内のホテルに行った。
 
結納は部屋などは取らずにレストランのオープンスペースで、また《結納セット》などは使わずに、結納金と指輪を貴司が阿倍子に渡すという形式で行われることを《こうちゃん》は千里に教えてくれた。
 
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千里は予定時刻の30分前にそのレストランに入り、紅茶とパンケーキを注文した。貴司からもらったエンゲージリングをプラスチーナの結婚指輪に重ねて左手薬指につける。
 
紅茶とパンケーキが来たので紅茶にたっぷりミルクと砂糖を入れ、パンケーキにもたっぷりメープルシロップを掛けてから食べると、甘〜いと思う。
 
だけど私これまで貴司に何回振られたんだろう?と考える。自分が高校に入った時に1度別れ、彼は新たな恋人を作ったものの千里と一緒の写真が雑誌に載ったせいですぐに別れている。そしてバスケットのインターハイ予選で戦い、ゲームが終わった後、貴司が千里にコート上でキスするという事件を経て交際は再開された。
 
貴司が大阪で就職した時にまた別れ、彼は大阪で幾人かのガールフレンドを作った後、聖道芦耶と付き合い始めた。これを2009年4月9日、かなり際どい争いに勝利して取り戻した。あの時は千里は一時は敗北したと思った。ところが千里が悪戯でしていたことがきっかけで奇跡の逆転勝利になったのである。
 
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それで1年ぶりに恋人に戻ったものの、貴司は1ヶ月半もしない内に藤原緋那と付合い始める。緋那は千里が知る限り貴司がセックスをした唯一の女だ。彼女に対しては千里もかなり戦闘的に争って、結局緋那は2009年12月12日の夜、千里にマンションの鍵を返して実質的に撤退したものの、緋那の影は今年の春まで見え隠れしていた。やっとその緋那の影が消えたかと思ったら今回の事態である。
 
しかしこれは貴司が自分以外の女と「交際した」歴史であり、他の女と1〜2回デートしたレベルの浮気は数え切れない。たぶんこれまでの9年半に50人くらいの女を排除してきたのではないかと思う。
 
私、なんでこんな浮気男のこと好きなんだろう?と自分に呆れるが、でも好きになってしまったものはどうにもならない。
 
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やがて貴司が30歳くらいの女性と60歳くらいの夫婦と一緒に入って来た。貴司は普通のブラックスーツ、老夫婦もブラックフォーマル、30歳くらいの女性はピンクのワンピースである。
 
千里がじっとそちらを見つめていると貴司が千里に気付きギョッとしている。しかし千里は無表情でそちらを見つめていた。
 
最初その30歳くらいの女性を千里は介添え役か何かと思ったのだが、どうもそれが貴司が婚約したという女性のようだ。なぜよりにもよってこんな年増と?と千里は疑問を持った。しかし・・・結納であるなら保志絵さんと望信さんも来るのではと思ったのだが、どうも来ないようである。
 
一行はとりあえずコーヒーだけ頼んで、それを一口飲んでから「式」を始めたようだ。貴司が何やら口上を述べた上で祝儀袋と目録っぽいものを向こうのお母さんに渡し、お父さんが受書を貴司に渡したようである。関西式のようで、「結納を交換」ではなく「結納を納める」という形を取ったようだ。
 
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その上で貴司が青いジュエリーケースを取り出して阿倍子の左手薬指にダイヤの指輪をつけてあげようとした。
 
千里はムカッとした。
 
するとその途端貴司は指輪を床に落としてしまった。
 
やーい。いい気味だ。
 
貴司が慌てて拾い上げてほこりを払った上で阿倍子の指につけた。
 
ダイヤのサイズは見ると0.3カラットくらいである。
 
それを見て千里は「勝った」と思った。さすがに1月に250万のダイヤの指輪を買ったばかりで、同程度の指輪は買えないよね。しかし結納金はまたお父さんから借りたのだろうか??
 
さっき貴司が指輪を拾おうとした時、左手が伸びて、そこにしている腕時計が千里の視界に入った。千里はその腕時計のことを考えていた。
 
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それは先日千里との結納で千里が貴司に贈ったタグホイヤーのクロノグラフだったのである。
 
『ね、ね、あの縁談、どうやって潰すの?あのテーブル爆破しちゃうとか、あるいはパンダを乱入させるとか』
 
と《こうちゃん》が楽しそうに過激なことを千里に語りかける。《こうちゃん》は悪いことをするのが大好きなのである。しかしパンダなんて調達できるのか?ちなみに彼の手にはダイナマイトらしきものが握られている。さすがにそんな物使ったら逮捕される!千里は貴司の腕時計に視線をやりながら言った。
 
『今日は潰すの中止』
『え〜〜〜!?』
 
『だって、あの女のお父さんに、こうちゃんだって気づいたでしょ?』
『ああ。あれはもう半月ももたんな』
『自分が死ぬ前に娘に良い婿が来てくれるのを見ることができたと安心しているところを邪魔したくないよ』
『でもいいの?』
 
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『今日はあのお父さんに免じて許してあげるよ』
『だったらあのじいさんの心臓止めてこようか?娘の結納も見た所で苦しまずにあの世に旅立てるのはよいことだぜ?その後で破談にすればいい』
と言って《こうちゃん》は今度はエレキテル!?のようなものを持っている。それ殺人事件になるぞ。
 
『人を殺すのは禁止』
『はーい』
と《こうちゃん》は気の無い返事をした。
 
それで千里は席を立つと会計の所で自分の分を払った上で言った。
 
「ヴィラジオ・ノルド・ディ・モンテフィアスコーネ、あります?」
 
会計係がソムリエを呼んで、あることを確認してくれた。
 
「ボトルで1本、あそこの結納やっている席に、私のおごりで」
「かしこまりました。何かご伝言はございますでしょうか?」
「後輩より、幸せを願ってと」
「承ります」
 
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それで千里はその“別れのワイン”が貴司たちのテーブルに届けられるのを見た。このワインの素性はたぶん誰も知らないだろう。貴司が戸惑うようにしてこちらを見ている。阿倍子の両親は笑顔でこちらにお辞儀をしたが、阿倍子は物凄い形相で千里を、正確には千里の左手薬指に踊る豪華なダイヤの指輪を見つめていた。
 
千里は軽くそちらの席に手を振ってレストランを後にした。
 
その直後に貴司のテーブルのそばにあった観葉樹が倒れてきて貴司に当たったのも、ホテルを出た所で唐突に水道管が破裂して、貴司も阿倍子もずぶ濡れになったのも千里は知らなかった(阿倍子の両親は無事)。
 

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千里はそのまま帰ろうとしたのだが、ホテルの入口付近でバッタリと保志絵と遭遇する。
 
「お母さん!?」
「千里ちゃん!?」
 
「お母さん、結納に立ち会わなくて良かったんですか?」
「千里ちゃん、やはり気になって来たのね?」
 
千里はひとつため息をつくと
「これお母さんにお返しします」
と言って自分の左手薬指につけていたダイヤの指輪を外すと、水色のティファニーのジュエリーケースに収め、お母さんに差し出した。
 
これを返すということは、自分との婚約解消を認めたことになる。物凄く寂しい気持ちになった。しかし保志絵はそのジュエリーケースを受け取らないまま言った。
 
「少し話そうよ」
「はい」
 
それでふたりはホテルを出てから近くの和風レストランに入った。
 
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「私も理歌や美姫も貴司の行動に激怒している。この結婚は認めない」
 
と保志絵は言った。その表情が本当に怒っているようで、そのことで千里は物凄く救われる思いだった。
 
「千里ちゃんは納得してるの?」
「私、一昨日唐突に別れてくれと言われて、正直まだ事態が飲み込めてないです。飲み込めてきたら、私、凄いショックに襲われそう」
 
と千里は正直に心境を語る。
 
「今日は相手の女の顔を一目見てやろうと思って出てきたんですよ」
と千里。
「私も!」
と保志絵。
 

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ふたりは1時間ほど話し合った。
 
千里が貴司たちのテーブルに“別れのワイン”を贈ったというのには保志絵は吹き出していた。
 
しかし、唐突な千里との婚約破棄・新たな女性との婚約という話に、保志絵たちが激怒して絶対にその結婚は認めないと言っていること、そして保志絵たちは今でも千里のことを貴司の妻だと思っていることを聞き、千里は涙を流した。千里はやっと自分の「立ち位置」を再発見した思いだった。
 
「10月7日に結婚式を挙げると言っているけど、うちは誰も出ないから」
と保志絵は言ったが、千里は言った。
 
「その結婚式は延期されます」
 
「なぜ?」
「どんなに貴司さんが非常識でもさすがに喪中に結婚式は挙げないでしょ」
「喪中?」
「お母さんも気付いたでしょ?あの女のお父さんはどう見ても1ヶ月ももちません」
 
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千里は長くて半月と思ったのだが、取り敢えず1ヶ月と言っておいた。
 

保志絵はしばらく考えていた。
 
「千里ちゃんって、人の寿命が分かるよね。宝蔵さんの死期も知っていたし」
「たまに唐突に感じられることがあるんですよ」
 
「でも京平はどうなるんだろう?」
「大丈夫です。私が産みますから」
 
「やはり千里ちゃん、赤ちゃんが産めるのね?」
と言いながら、保志絵は以前見た、千里が長女と記載された戸籍謄本のことを思い起こしていた。
 
「貴司さんは浮気性でしょ?だから万一貴司さんが阿倍子さんと結婚してしまったとしても、私が誘惑したら絶対セックスに応じますよ」
 
「それは言えてる!」
 

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「だからちゃんと貴司さんから種をもらって私が産みますから」
「じゃ、千里ちゃんは貴司を諦めていないのね」
 
「時間は掛かるでしょうけど、絶対に取り返しますよ」
「分かった。頑張ってね。私も理歌も美姫も応援しているから」
「はい、頑張ります」
 
「だったらこのエンゲージリングは千里ちゃんがそのまま持ってて」
と保志絵はジュエリーケースをこちらに寄せる。
 
しかし千里はそれを保志絵の前に戻して言った。
 
「私が再度貴司さんを取り戻した時、これはまた頂きます。ですから、それまでお母さん、預かっていて頂けませんか?」
「分かった。そういうことなら預かっておく」
 
「それと、これ急に用意したので新札じゃないし、銀行の封筒で申し訳無いのですが」
と言って、千里は結納金の分の100万円を新大阪駅のATMで下ろして封筒に入れて持って来たものを差し出した。
 
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「これは返却の必要無い。一方的に貴司が婚約を破棄しておいて。むしろ貴司が慰謝料を払うべき」
と保志絵は言った。
 
「慰謝料はいりません。そんなの受け取ったら私と貴司さんの仲は本当にそれで終わりになってしまいます。でも結納金の方は、私と貴司さんの婚約がいまだに有効なままであることの証として頂いておきますね」
 
「うん、そういうことにしよう。だから千里ちゃんは今でも貴司のお嫁さんだよ」
「はい!」
と千里は明るく答えた。
 

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7月9日(月).
 
この日貴司の会社ではボーナスが出たが、貴司はその使途に悩むことになった。そもそも6月に千里への結納をするのに50万円会社から前借りしていたので、それを自動的に引かれている。更に千里に贈る結婚指輪を買ったのの代金が10日に引き落とされる。
 
阿倍子関係の出費も色々あるのだが、やはり千里とのことをきちんとしないと阿倍子とのことは進められない。
 
そこで貴司は千里との結納で袴料としてもらった分の50万円を母の口座に振り込み、母に千里のお母さんに返却して欲しいと頼んだ。母は一応了解してくれた。
 
(あの時は結納金の半分50万を父から借り、残り半分50万を会社から借りたので、袴料としてもらった50万を父に返している。昨日の結納式では実際の結納金は阿倍子が両親にも内緒で自分で用意している。要するに結納金は実質ゼロだった)
 
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なお保志絵は、千里からは帯料と婚約指輪は返却されたものの、こちらの一方的な婚約破棄なので、返却は不要として、帯料は千里に戻し、指輪は自分が取り敢えず預かっていると語った。
 
「こういうのは倍返しだよ。だからあんた、袴料と時計で合計100万円くらいもらっているんだから、200万円の返却が必要。年内にはあと100万円きちんと清算しなさい」
 
と母は言った。
 
「分かった」
 
それで冬のボーナスの用途も決まってしまった。クロノグラフの位置づけが曖昧だが、自分はいったん千里に返したはずなのを「保護観察」用で渡されたのだから、多分その分の補償はいいのだろうと勝手に解釈した。
 
なお作ってしまって千里にまだ渡していない結婚指輪をどうしようか?と貴司が母に訊いたが、母は「それも婚約指輪と一緒に自分が預かっておく」と言う。それで貴司は母宛に宅急便で送ることにした。
 
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「あと慰謝料も必要だからね」
と母は追い打ちを掛ける。
 
「うっ・・・」
 
「あんたたちは9年間交際してきている。これって事実上結婚していたも同然なんだよ。だから離婚の慰謝料相当が必要。あんたの年収なら最低でも5000万円」
 
「そんなに!?」
 
「当たり前じゃん。ひとりの女の子の人生をめちゃめちゃにしたんだから。あの子はあんたのお嫁さんになることだけを思って生きて来たんだよ。裁判やったら3億か4億になるかもよ」
 
「払えないよぉ」
「あんたはそのくらい重大なことをしたってこと。少し反省しなさい」
と母は怒って言った。
 

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娘たちのクランチ(14)

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