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■娘たちのクランチ(7)

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瞬嶽は千里を呼んだのは、いくつか話したかったからだと言った。
 
「僕がこれから言うことの大半を君は山の下に降りたら忘れてしまうだろう。しかし無意識の下であっても、知っているのと知らないのとでは、君の対応能力に大きな違いが生じる。だから僕は君に言っておかなければならないと思ってここに呼んだ」
 
「はい」
 
それから瞬嶽が30分ほど掛けて語った内容は千里にとっては衝撃的なものであった。結納を終えて天国の気分だった千里を地獄の底に叩き落とした。眷属たちの中でこれを聞くことができたのは《くうちゃん》と《こうちゃん》だけであった。眷属たちのリーダー《とうちゃん》や千里の究極の守護神である《きーちゃん》もブロックされていて聞くことができなかった。
 
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千里はその話の内容にショックを受け、顔色は青ざめ、涙をボロボロ流した。
 
「でもでも、私、最終的には貴司と結婚できるんですね?」
「そうだよ。貴司君と君、そして桃香ちゃんと大人3人、子供4人の生活をすることができる。8年後にね」
 
「だったらそのことだけを頼りに私は生きて行きます」
「うん。頑張りなさい」
「でもどうして師匠はそんな先のことが分かるんですか?」
「それは僕がもうすぐこの世のものではなくなってしまうからだと思う」
 
「ああ。人間をやめて神様になられるんですね。だから先のことも読めるように」
「違う違う。死んで消えてしまうからだよ」
「仏教では死んだら中有の世界に行って、輪廻転生してまた別の人になるんじゃないんですか?」
 
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「どうなんだろうね。まあ死んでみれば分かるけど、僕の命はもう1年も残っていないと思う」
 

千里は結局瞬嶽と明け方まで話した。
 
「それと僕が死んだ後、青葉のことを頼む。これは菊枝ともうひとり別の友人にも頼んでいるんだけど、青葉の最も近くで見守ることができるのが君だと思うから」
 
「分かりました。青葉は私の能力に全く気付いていないようですけど、必要な時は必要なことをしていきますよ」
と千里は約束した。
 
ちなみに瞬嶽は何も飲み食いしていないが、千里は話しながら持って来ている食糧を大いに食べた。
 
「何も食事をなさらない師匠の前で失礼します。私は食べないともたないもので」
「うん。それでいいと思うよ。青葉には僕と同じものを食べさせたけど」
「それってEat nothingってことでしょ?」
「うん。千里君的にはそうかもね」
と言って瞬嶽は笑っていた。
 
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千里は周囲が明るくなってから瞬嶽の庵を辞した。《こうちゃん》の案内で通常の登山道の方を降りる。
 
「こちらが女坂で登る時に通ったのが男坂って感じかな」
「でもこちらを大黒ルート、向こうを弁天ルートと言うんだよ」
「ああ。弁天岩があるからね」
「そうそう」
 
途中の大黒ルートから弁天ルートへ行く枝道も《こうちゃん》は教えてくれた。
 
「だけどこのあたり磁界がメチャクチャだね」
「うん。ここは休火山なんだよ。“地獄の釜”って所もあるぜ。行ってみる?」
「じゃ後学のために」
 
それは大黒ルートから弁天ルートに別れるポイントより少し下に分岐点があった。その道を30分も歩いて行くと、千里がさすがに緊張した“結界線”があった。
 
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「この先は普通の人なら方角が分からなくなるよね?」
「そう。ここは地獄の一丁目なんだよ。進む?」
「もちろん」
 

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それで千里は“事象の地平”と《こうちゃん》が呼んでいる結界線を越えて、そこに行った。
 
「活火山だったのか」
「ここはずっとこうやってマグマが煮え立っているよ」
「でもマグマの煮えたっている部分が輪になっているんだ?」
「そう。150年くらい前からここは、この状態。周囲から湧き上がってそれが冷えて中央から沈み込んでいく。対流を作っている。周囲は800度くらいだけど中心部分は冷やされて100度近くになっている。だから中心部に物を投げ込むと、燃えないでそのまま地中に沈み込んで行くんだよ」
 
「だったら、絶対に誰にも見られたくない恥ずかしい写真とかこの中央に放り込むといいかもね」
 
「ここには通常の方法では処分できない呪いの品とかを持ってくるのさ。いったん中に呑み込まれると呪いを伝える思念さえも脱出できないから事実上完全封印される。中に呑み込まれた物が熱で破壊されるのは数十年後。そもそもさっきの事象の地平を通過できる思念は存在しない。俺たちも実体でないとここには入れない」
 
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実際今ここに居るのは千里と《こうちゃん》の他には緊急に実体化して千里の服を掴んだ状態でガードしている《きーちゃん》だけなのである。本来遍在してどこにでもいるはずの《くうちゃん》さえもいない。
 
「なるほどね〜。面白いものを見せてもらった。ありがとう」
 
それで千里は《きーちゃん》の手を取ると、ごく普通にその火口を離れて“事象の地平”の結界線の外側に出た。
 
「戻れたね」
と《こうちゃん》が言う。
 
「戻れない人結構いるの?」
と千里は訊く。千里が《きーちゃん》の手を取ったのは、彼女が自力では戻れないと判断したからである。
 
「まあ100万人に1人くらいだな。自力で戻れるのは」
「それなら戻れる人がこの国に120人くらいは居るんだ?」
 
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「そう言われると結構いるような気もしてきた」
「もし私が戻れなかったら、どうしてた?」
 
「もちろんそんな奴は俺の主人にはできないから放置」
と《こうちゃん》が言うと《きーちゃん》が《こうちゃん》をキッと睨む。
 
「まあ、こうちゃんならそうだろうね」
と言って千里が笑って山道を戻っていくので、他の眷属たちは呆れていた。
 

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結局大黒の登山口の所まで降りてきたのが6月8日の午前10時頃である。
 
「貴司んちで寝ていこう」
「なるほどそれは合理的だ」
 
貴司は東京で合宿中であり、マンションは留守である。
 
それで《きーちゃん》に運転してもらって豊中市の貴司のマンションまで行き、千里は夕方までぐっすりと眠った。
 
そして夜中にマンションを出て名神・東名を走り6月9日の朝、葛西のマンションに帰還した。
 

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6月9日(土)。
 
千里は千葉L神社に和実を呼び出した。
 
和実がやってくると千里は辛島さんに断って和実を神社内の1室に案内した。
 
「何か久しぶりだね」
「うん。いつでも会えそうなのに会ってなかった」
 
2月24日は、青葉と和実は東京駅で別れ、桃香・千里は千葉駅で青葉をキャッチしたので、桃香と千里は和実に会っていない。それで結局1月23-24日に伊豆の温泉で会って以来なのである。
 
「ある人(瞬嶽)からの頼みで和実がおかしな状態になっているから、私に何とかしてあげて欲しいと言われた」
と千里は言った。
 
「実際、今和実とんでもない状態になってるね。私も気付かなかったよ」
と千里は言う。
「え、えーっと」
 
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「和実、男の霊を21体、女の霊を53体、オカマさんの霊を34体、憑依させている」
「あはは、そんなに居た?」
と和実は焦ったような笑いをしている。
 

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「いやぁ、成仏させるつもりがさせきれずに私の身体に残っちゃったのがいてさ。やはり素人が霊能者のまねごととかするもんじゃないね」
などと和実は言っている。
 
「それだけ憑依させていると、CTとかMRI撮った時に、自分の身体じゃなくて、その憑依している霊体の方が写っちゃうことあるでしょ」
と千里は心配するように言う。
 
「うん。だから先月下旬に3日間入院してMRIを撮られまくったら、無茶苦茶な状態になってた」
 
「そのままじゃ、性転換手術を受けるにしても、どの身体を性転換すればいいのか分からないよ」
「実は自分でもどれが自分なのか分からなくなって来つつあった。性別も不安定で、クリちゃんいじってたつもりがいつの間にかちんちん握ってるし」
 
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「それだとおちんちん20本切ってもらわないと」
「痛そう〜」
 
「除霊していい?」
「千里、除霊とかできたんだ?」
「できない。でも除霊の能力を預かってきた」
「へー!」
 
「これ持ってて」
と言って千里は藤雲石の数珠を和実に握らせた。
 
「あ、これ青葉が持ってるのと色違いのお揃いだ」
「そうなんだよ。これ3つ組なんだよ」
「へー!もうひとつは桃香が持っているのか」
「さっすが、霊感が発達しているだけのことある」
「あ、それ。3月11日過ぎたので、ハイパー巫女状態は終わったんだけど、まだ結構勘が働くんだよ。これ除霊してもらったら収まる?」
「もっと強くなると思うよ。邪魔が無くなるから」
「あははは」
 
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「じゃ行くよ」
「うん」
 
千里は和実に相対してあぐらをかいて座ると、目を瞑り、左足の中指を右手の中指と左手の薬指で両側から押さえた。
 
千里の身体から強烈な光の珠があふれ出し、それが千里の身体を離れて和実の身体を覆う。すると珠は炎のようになって、和実の“周囲”で悲鳴のような声が聞こえ、やがて燃えていくように消えて行った。
 
和実が呆然とした顔をしている。
 
「すっきりしたでしょ?」
と千里が訊く。
 

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和実はしばらく自分の身体を触っていたが、やがて言った。
 
「これが本当の私だ」
 
しかし千里は顔をしかめて言った。
 
「和実、結局、まだタマタマも有ったんだ?」
「そうなんだよね〜。邪魔なんだけど」
「取ってあげようか?」
と千里が言うと、《こうちゃん》がワクワクした顔をしている。
 
「いい。ついでに性転換されてしまう気がするから」
「よく分かるね〜。人を性転換する法もあるんだよ」
「千里はそれで性転換したの?」
 
「ううん。7月に手術してもらって女の子の身体になる」
「女の子の身体になるって、千里今既に女の子の身体じゃん。青葉はうまく誤魔化されているみたいだけど私には分かるよ」
 
「うん。だから困っているんだよね〜」
と千里は本当に困っているような顔で言った。
 
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その時廊下をバタバタと走ってくる音がある。障子を開けたのは宮司さんである。
 
「村山さんか!?今物凄い悲鳴が聞こえたから」
「すみませーん。108体ほどの霊をまとめて成仏させたので」
と千里は照れながら宮司に答えた。
 

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この日千里はバイト先のファミレスに行き、かねてから言っていたように、しばらく日本代表の合宿に入り、その後“持病の治療のための手術”を受けるので8月末くらいまで休職させてもらいますということを改めて伝えて了承を得た。あわせて夜間店長も辞任させてもらう。
 
「でも持病の治療って何の病気?」
と店長さんから訊かれた。
 
「いよいよ性転換手術を受けます」
「え?村山さん男の子になっちゃうの?」
「いえ。今男だから女になるのですが」
「また冗談を。まあいいよ。病名は」
と店長は笑っていた。
 
むむむ。そういえば私がここに勤め始めた頃から残っている人、誰もいないから私が初期段階で性別問題でトラブったことを知る人も誰もいないかも!?と千里は思う。
 
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この日話した店長さんも、この春に他の店から移ってきた人だ。入社してまだ2年くらいである。千里が日本代表の活動でしばしば休職することになるというのは前任の芳川さんから聞いて承認してくれている。
 
なおこの日の最後のバイトも、実際に勤務すると明日からの合宿に響くので、申し訳無かったが《すーちゃん》に代行してもらい、千里は葛西のマンションに帰って眠った。
 

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千里は6月10日(日)の朝から合宿所に入り、オリンピック最終予選前の最後の合宿に入った。これを指揮したのはやっと退院して来日したシリル・デハーネであるが、相変わらず体力が無いようで、頻繁に休みはするものの、色々必要な指示は出していた。ただコーチのポリシーがよく分からず、みんな首をひねっていた。個々の技術的問題はけっこう的確に指示されるし、日本の審判と海外の審判の判定基準の違いなども説明してくれた。しかしチーム全体の戦い方をどう考えているのかが伝わってこないのである。
 
なお貴司の方の合宿は6月10日までで、この日一日、男子代表と女子代表が同時に合宿したのだが、対抗戦なども行われず、千里は貴司とは目は合わせたものの(人前では)話したりすることもなかった。男子代表が夕方解散して帰る時に
 
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「お疲れ様。頑張ってね」
とお互いに声を掛けただけである。
 
「昼休みとかにセックスしなかったの?」
と玲央美から訊かれたが
「合宿所内でそんなことしないよ!」
と答えた。
 

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娘たちのクランチ(7)

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