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龍虎は通っているバレエ教室で、年末の公演についての説明を受けた。一昨年・昨年と『眠りの森の美女』をやったので、今年は『くるみ割り人形』をしようということであった。好評であれば来年もやる可能性が高い。登場人物が多いのでみんなに配役を割り振ることができる。むしろ明確な主役の無い物語である。主人公は一応クララなのだが、一座のプリマは二幕に出てくる金平糖の精を踊るのが一般的である。プリマなのにとても出番が少ない(クララと兼任にする劇団もある)。
龍虎はスペインの踊りを踊ってと言われた。
「最初アラビアの踊りをお願いしようかと思ったんだけど、あれ男の子が女の子をリフトしないといけない所が何カ所もあるのよね」
「龍ちゃんにリフトは無理っぽい気がする」
「むしろ龍ちゃんをリフトしたい」
という声がある。
「田代君にアラビアの女の子側を踊ってもらえたら、凄くリフトしやすい気がします」
と男の子側から意見が出る。
龍虎は体重23kgである。
龍虎は困ったような顔をしている。
「まあさすがに田代君に女の子の衣裳つけてもらうのは悪いかなと思って、ちょっと大変だけど、スペインの踊りをお願いね」
「はい、頑張ります」
と龍虎は答えつつも、本当にアラビアの女の子の方やってと言われたらどうしようと思ってドキドキしていた。
「龍ちゃんが女の子衣裳つけたら、凄く可愛くなる気がするのに」
「来年はぜひクララ役をしてもらおう」
などといった声が女の子たちからは出ていた。
19,21,22日の壮行試合を終えた本物の《千里》は23日、常総市内の工務店を訪れ、依頼していた詳細な建設内容を確認。建築作業開始をお願いした。
実は成り行き?で体育館を1個作ることになってしまったのである。
昨年秋から立て続けに雨宮先生から車やバイクをもらい、千里はその置き場所に困っていた。
取り敢えずは千葉市内の駐車場と葛西の駐車場。それにスーパーの駐車場!や大学構内の駐車場などを回して何とかやりくりしているものの、これ以上また雨宮先生の気まぐれで何かもらうと、どうにもならなくなる、というので「車の置き場」を買っちゃおうかと思ったのである。
それで土地の安い所がどこか無いか調べてもらって最初に候補にあがったのは九十九里町の50坪38万円という、超格安物件であった。しかしただ車を置くためだけに遙々九十九里まで行くのも大変である。少し単価があがってもいいから、もう少し近い所に無い?と《たいちゃん》に言ったら、長柄町で260坪400万円という土地が見つかったのである。
「さすがに広すぎる気がする」
「たぶんクラウンが50台近く置ける」
「さすがにそんなにもらうことは無いと思う」
「千里駐車場でも経営する?」
「260坪ってどのくらいの広さだっけ?」
「ここの土地は40m x 21.5m」
「なんかバスケットのコートがすっぽり入っちゃう広さだね」
と千里は言ってから、唐突に思いついた。
「バスケットのコート作っちゃおうか?」
「はあ?そんなの何にするの?」
「自分専用のコートがあったらいつでも自由に練習できるじゃん」
「千里、バスケットのコート建てるなら建蔽率があるから、その土地では無理だ」
と《げんちゃん》が指摘する。
「あ、そうか。だったらどのくらいの土地が必要なんだっけ?」
「バスケットのコートは28m x 15m だけど周囲に最低2mの余裕が必要だから32m x 19m で608m
2.建蔽率は一般に60%くらいのことが多いから0.6で割って1013m
2. つまり307坪以上だな」
「じゃそのくらいの広さの土地どこかで見つけてくれない?」
「まあいいけどね」
それで《たいちゃん》が見つけてくれたのが常総市の郊外で402坪(39m x 34m)700万円というこれもまた格安の土地だったのである。
「常総市ってどのくらい掛かるの?」
「千葉の桃香のアパートからなら1時間半、葛西のマンションからなら1時間」
「ああ。西の方にあるんだ?」
「そうそう。茨城県でも県西部」
「あれ?そのあたりに圏央道の常総ICができる?」
「まだ5年くらい先だけどな。ICの予定地から5kmくらい離れている」
「だったらいい場所かも」
「うん。ここは単に所有しておいても将来値上がりする可能性あるよ」
「土地転がしに興味は無いけどね〜」
それで実際に連れて行ってもらうと割といい雰囲気の場所である。
「すぐそばに体育館がある」
「野球場もあるよ。それで騒音があるから、ここは安いんだな」
「それ住宅地としては問題あるけど、個人的な体育館建てるなら最高じゃん」
「大きな大会の時にここも貸してと言われたりして」
「それは全然問題無い」
ということで千里はここが気に入ったのである。
「ここ体育館建てられる?都市計画とか大丈夫?」
「問題無いはず」
それでその土地を管理している不動産屋さんに行き、体育館が建てられることを確認してもらった上で、速攻で購入したのがアメリカ遠征に出かける直前の4月20日であった。すぐに建築業者と契約して、体育館を建ててもらうことにしたのである。
建蔽率が60%(容積率200%)なので、建てられるのは241坪(795m
2)までになる。土地自体が39×34なので、ここにフロアサイズ 35 x 21 で建て面積 36 x 22(792m
2)の建物を建てることができる。バスケットのコートは28m x 15m なので、前後左右に3m(+エレベータ用に1m)の余裕を持つことができる。
第一目的は車の駐め場所なので!、2階建てとし、1階が駐車場・トイレ・仮眠室・用具置き場・スリーポイント練習場、2階が体育館とした。1階と2階の間にはエレベータも設置して重たい用具を移動しやすいようにする。駐車場はおよそ21m x 25m 取れるので、6m x 3m の駐車ラインを16台分!引くことができる。
建築業者さんは、千里が詳細な建築設計図を持ち込んだのでびっくりしていた。これは《せいちゃん》が書いてくれたものである。念のため工務店側で耐震設計その他についても再度計算したいということだったのでお願いした。その詳細設計図が5月18日にできあがったという連絡はあっていたのだが、合宿中だったのでこの日に行って確認したのである。
5月23日(水).
青葉の誕生会を終えた桃香・“千里”・彪志はこの日の朝の便で千葉に戻ることにする。桃香と彪志は次の連絡で帰った。
高岡6:32(はくたか1)8:41越後湯沢8:49(Maxとき310)9:55東京10:16-10:55千葉
これで午後からの講義に出ることができる。
しかし“千里”は
「ちょっと大阪に寄って帰るね」
と言い、6:32発《はくたか》ではなく6:26発《サンダーバード》に乗った。
はくたか1号(越後湯沢行き)は5番線、サンダーバード6号(大阪行き)は4番線で、隣のホームなので、“千里”はサンダーバードが入線してくる時、向こう側の島にいる桃香と彪志に手を振った。
「大阪ってお仕事か何かですかね?」
と彪志が訊くと
「どうも千里は関西方面に彼氏がいるみたいなんだよ」
と桃香は答えた。
「え?彼氏とか居ても桃香さん、いいんですか?」
と彪志が驚いて訊く。
「別に構わないと思うけど」
と桃香。
「嫉妬しません?」
「私と千里はただの友だちであって別に恋人という訳でもないし」
「別れたんですか?」
「いや、そもそも恋人になったことがない」
「うっそー!?恋人だとばかり思ってました」
「私はレスビアンだが、あの子はストレートだし」
と桃香が言うと、彪志は少し考えていた。
「千里さんのストレートってのは恋愛対象は男性ということですか?」
「そうそう」
「でもおふたり指輪を贈ったとかもらったとか言ってませんでした?」
「私は自分の彼女に指輪を贈った。千里は彼氏から指輪をもらった」
「そういうことだったのか!あれ?でも昨夜同じ部屋で寝ましたよね?」
「女の友人同士が同じ部屋で寝るのは問題無いはず」
「あっそうか!」
「もちろん昨夜は私も千里も単に睡眠を取っただけで何もHなことは
してないよ」
と言いつつ、若干良心が痛む。
「いや、てっきりお二人はレスビアンの関係かと思っていたから」
「青葉はそう思っているみたいだけどね。まあ別に実害は無いから、そのままでいいよ。だから青葉にはこの件は特に言わないでね」
「誤解されたままでいいんですか〜?」
「将来私と千里と恋愛関係になる可能性もないことはないし」
「うーん・・・」
さて実際には“千里”に扮した早紀はサンダーバード車内から《ふーちゃん》に命じて大阪市内に所有しているマンションに即転送させた。そして“生命創造”の作業をする。
まずは桃香の卵巣から昨夜自分の卵管に転送した卵子を、無菌保管していたシャーレ内に再転送する。その上で先日貴司からゲットした精液を遠心分離機に掛けてX精子とY精子に分離して冷凍しておいたものの内、Y精子のアンプルを解凍。活性化液につけて元気な精子だけを選り抜く。そしてそれを7:30頃、シャーレに投入。まもなく精子の中でいちばん元気そうなのが卵子に進入したのを確認した。
生命の誕生の瞬間である。
早紀はあらためて時計を見て、時刻が7:33で、7:50より前であることを確認。ホッとした。
「7:50からボイドだからね。やはりボイドって当たるんだなあ」
などとつぶやく。
実は昨年8月に「魂のコピー作業」をした時はまともにボイドにぶつかっていたのである。
昨年8月のボイドカレンダーを確認すると8月15日17:21に魚座の月が木星とセクスタイルになり、8/17 9:01に月が牡羊座に抜けるまで長いボイドになっていた。魂のコピーをしたのは8月16日で、まともにボイド中だったのである。
今回は5/23 7:50に双子座の月が土星とトラインになり、本日20:31に月が蟹座に抜けるまでがボイドである。早紀が今回サンダーバードに最後まで乗らず、高岡駅で乗った直後に大阪に転送してもらったのは、サンダーバードで大阪に移動していたら、ボイド突入に間に合わなかったからであった。
早紀はそのままマンションで少し寝ると、お昼過ぎてから出発の準備を始めた。先日も使った保冷用ジュラルミンケースに受精卵の入ったシャーレを入れる。出発間際までこれはAC電源で保冷機能を動かしておく。
16時頃、楠本京華がキャミを運転して迎えに来る。山道は細い上に急である。小型SUVがいちばん使いやすい。
車のシガーソケットから電気を取り、保冷ボックスに通電した状態で高野山まで行く。高野町から★★院に行く途中の、普通の人には分からない登山口の所で停めてもらう。時計を見ると19時である。
「ありがとう。じゃ深夜1時に」
「了解〜。じゃ頑張ってHしてきてね」
「うん。ごめんね〜」
「一息ついたら私が抱いてあげるよ」
「また今度ね〜」
それで早紀は保冷ボックスと発電機(さすがに停めている)を背中に担ぎ、登山道を駆け上がっていく。一方、京華は少し先にある車を転回できるポイントまで行き、Uターンして高野町まで戻った。この付近で待機していてもいいのだが、万一この道を通る車があると迷惑である。
「光ちゃん生きてる〜?」
と早紀が瞬嶽の庵で声を掛けたのは20時半頃であった。
「待ってたよ」
「まあ私が登ってきているのは分かったろうからね」
「しかし、もう少し山登りに適した格好で来たらいいのに。寒かったろう?」
「うん。さすがに夜は冷えるね。楽しい楽しい子作りしようよ」
「はいはい」
それで早紀は自分の腕時計で20:31をすぎてボイドが終了していることを確認した上で、受精卵の入った細いガラスの容器を自分のヴァギナの中に入れた。そして光太郎(瞬嶽)と性的な行為をすることで、彼の「霊的遺伝子」の二重螺旋を天高くまで展開させる。
「感覚的に」1万mくらいの高さまで上がると二重螺旋がきれいにほどける。そこから光太郎を性的に逝かせることによって興奮度を急速に下げると、ちょうどPCRでもするかのように各々の霊的遺伝子列から「型取り」ができる(霊的な焼き鈍し spiritual anealing)ので、“後戯”で光太郎の性的な興奮度を再度あげて型とコピーを分離し、その後、再度興奮度を下げて各々の霊的遺伝子を元の状態に戻す。