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■娘たちのクランチ(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-06-08
 
龍虎は悩んでいた。
 
先日、お父さん(田代涼太)からは「そろそろ立っておしっこする練習を始めるか?」などと言われたのだが、むしろそれが困難になってきつつある気がするのである。
 
龍虎のおちんちんは元々小さかった。それが幼稚園から小学1年に掛けての病気治療の際にますます小さくなった。あの時は髪も全部抜けてしまって、ずっとかつらをつけていたし、肌も荒れていて傷が治りにくかったし、身体全体に色々治療の負荷が掛かっていた感じである。一番ちんちんが縮んでいた時は1.8cmしかなく、しかもその大半が皮膚に埋もれているので外に出ている部分は0.5cm(5mm)程度。完全に女の子のクリちゃん状態だった。当然座っておしっこしなければならないし、かなり濡れるので、した後は拭く必要があった。
 
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それが退院して1年後の2年生の12月に計ってもらった時は3.2cmほどになっていて、その内半分くらいの1.5cm程度が皮膚の外に出ていた。むろんこれでも握ることは不可能で、その時期まで龍虎はおしっこはほとんど女の子と同様だったのである。
 
これが3年生の定期検診の時は4.2cmまで伸びていて外に出ている部分が2.5cm近くになり、やっと何とか指3本で「握れる」(摘まめる?)状態になる。ところが4年生の12月の検診では4.1cmと言われた。
 
数字的には1年前より短くなっているのだが、測定誤差で、この1年間はあまり変化が無かったのでしょうと言われた。
 
一応この年齢で4cmというのは「正常値」の範囲らしい。この年代のペニスの平均値は6.4cmで、3.8〜9.0cmであれば異常では無いという話だった。この後、思春期が始まると男の子のおちんちんは急速に大きくなっていくのである。
 
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しかし龍虎は4.1cmというのは測定誤差で3.8cmにもなる気がした。龍虎が不安そうにしているので、主治医の加藤先生は、何でしたら男性ホルモンを投与しましょうか?と訊いたが、そういう不自然なものはあまり身体に入れたくないと龍虎は正直な所を言った。
 
「まあ来年くらいになると思春期が始まるかも知れないし、そうしたらどんどん男らしい身体付きになって睾丸もペニスも大きくなるだろうから、この年齢ではあまり心配しなくてもいいだろうね」
 
と先生は言っていたが、龍虎はその「男らしい身体付きになる」というのが代わりに何かを失ってしまうような気がして、寂しいような思いがした。
 
「別に男になりたくないとかじゃないけどね〜」
と龍虎はつい独り言を言った。
 
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でも男にならなかったら自分は何になるんだろう?と思うと分からない。川南からはよく「女の子になっちゃいなよ」と言われるけど、女になる気はさすがに無い。女の子の服を着るのは嫌いじゃないけど。可愛いし。
 
12月にバレエの発表会に出た時は、どっちみち4cm(外に出ている部分は2.5cm程度)のおちんちんは、普通の男子のように上に持ち上げて押さえるということができないので、お母さんにやってもらってちんちんもタマタマも体内に押し込み、接着剤で留めて落ちてこないようにしておいた。これはタックというらしく、そのままちゃんとおしっこもすることができるというすぐれものなのである。ただそのおしっこが凄く後ろの方から出るので、その感覚に戸惑う感じはあった。お母さんによると女の子のおしっこが出てくる位置に近いらしく、女の子ってこんな後ろの方からおしっこが出るのかと驚いた。
 
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公演の際は念のためと言われて水着用のアンダーショーツも着けていたものの(龍虎は陰嚢も小さいので接着剤でしっかり留まらないらしい)、実際には公演が終わるまでタックは外れていなかった。
 

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龍虎の定期検診は大きな検診を毎年12月に、小さな経過観察的な検診を毎年3〜4月(春休み期間中)と7〜8月(夏休み中)におこなっている。ところがこないだの3月の検診の時、他の患者さんと間違われて、何かよく分からない!?注射(ひょっとしたら女性ホルモン?)を打たれてしまったのだが、そのことを龍虎は誰にも言わなかった。この時のペニスサイズは4.0cmと言われた。
 
「うーん。12月の計測値より小さいな」
と今回海外出張中の加藤先生に代わって診察してくれた若い須和先生はつぶやいたが、龍虎は
「0.1cmというのは測定誤差だと思います」
と答える。
 
この計測は皮膚の中に埋もれている部分から計るので、計ってくれる看護師さんの力の入れ具合や定規の当てかたで結構な差が出ているような気もするのである。
 
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しかし須和先生は
「念のためもう一度計ってみよう」
と言って、龍虎にベッドに寝てパンツを脱ぐように言い、自分で物差しを持って測定してくれた。
「僕の計測では4.3cmだな」
「ああ、だったらやはり誤差の範囲ですね」
と龍虎も言った。
 
ただ、須和先生は定規をかなり下の方に当て、しかもちんちんを定規に押さえつけるようにした。それでちんちん本体を触られたことで刺激されて少し伸びた気もした!
 

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この3月の検診の時は、
 
「長野龍虎さん、お薬出ますから処方箋もらって下さいね」
 
と言われて引換券を渡されたので、それで処方箋をもらって薬局でお薬を購入した。毎日1錠飲むようにということだったので龍虎はそれを飲んでいたが、そのお薬は飲んで少しすると妙に「興奮」することがあるのを感じていた。どういう系統のお薬なのかなあとも思ったが、特に詮索はしなかった。
 
1年生の12月に退院してから3年生の12月の検診の時までの2年間など毎日凄い量のお薬を飲んでいた。その後4年生の12月の検診までは2種類だけのお薬を飲んでいた。その検診の後では「今回はお薬は無いです」と言われたので、あれ〜?もうお薬飲まなくていいのかな〜?と思っていたら3月の検診でお薬が復活したので、もしかして12月の時は処方忘れかな〜?などとも思っていた。
 
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それで龍虎の悩みなのだが、実は最近、ちんちんが縮んで行っているような気がしてならないのである。
 
以前は指3本で摘まむことができていたのが、最近摘まむのが困難なのである。むろんちんちんは短くなっている時と長くなっている時との変動があるので、時には摘まめることもあるのだが、最近摘まめない時が多い。
 
「ボクのおちんちん、小さくなって行ってその内また小学1年生の時みたいに全部皮膚の中に埋もれてしまったりして」
などと考えたりする。
 
そんなの川南に知れたりしたら、
「龍、これはちんちん無いも同然だから、君はもう女の子だ。名前も女の子らしく龍子に改名しよう」
 
とか言われそうなどと想像すると、なぜかドキドキする気分だった。
 
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「スカート穿いちゃおうかな」
 
などとつぶやいてその日は家の中でスカートで過ごしたが、龍虎がスカートを穿いていても両親は特に何も言わない。というよりほとんど龍虎の日常である!
 

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バスケットボール女子、ロンドンオリンピック世界最終予選のシステムはこのようになっている。
 
参加国12チームが3チームずつ4つのグループに分かれ、その中で総当たり戦をする。ここで最下位になったチームは脱落である。2位以上のチームが決勝トーナメント(?)に進むが、出場できるのは5チームなので、実は準々決勝に勝てば即オリンピック出場決定である。
 
そして準々決勝に負けた4チームで「準決勝」を行い、負けたら脱落。勝てば最後の1つの席を巡って「決勝」を行う。
 
従って運が良ければ2勝で出場決定になる可能性もある(1勝1敗で予選リーグを通過して準々決勝に勝った場合)し、3勝しても行けない可能性もある(2勝で予選リーグ通過するも、準々決勝で敗れ、準決勝では勝っても決勝で敗れた場合)。しかし12チームの内5チームが行けるのだから、この最終予選を通過できる可能性は結構高かったのである。
 
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日本がベストメンバーで臨めていたら。
 

参加国は次のようにグループ分けされた。
 
A トルコ 日本 プエルトリコ
B チェコ アルゼンティン ニュージーランド
C クロアチア 韓国 モザンビーク
D フランス カナダ マリ
 
大会は代表選手が発表された翌日6月25日から早速始まったが25日は日本は試合が無かったので、物凄く気合いが入っているエレンが主導して練習場所に割り当てられている体育館で朝8時から夜10時までみっちりと練習が行われた。この日のエレンは昨日千里たちの言葉に怒ったせいか、厳しい表情で、鬼軍曹と化していて、早船和子や吉野美夢が緩慢なプレイを見せると、ボールをぶつけるなどして激しい言葉を浴びせていた。
 
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宮本睦美が「レン、キャラが変わってる!」と小さい声でつぶやいていた。
 
またエレンは中核戦力になると思われる武藤博美・広川妙子・黒江咲子に各々千里、亜津子、玲央美を練習相手に指名し、朝から晩まで1on1をやらせた。また馬田恵子も王子とたくさんマッチングさせた。石川美樹は自主的に吉野美夢と何本も1on1をやっていた。
 
エレンは知っているのである。
 
どんなにコンビネーション・プレイの練習をしようとも最後の最後は個人の能力で相手を圧倒できない限り、勝利はあり得ないことを。
 

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貴司は何でこんなことになっちゃったんだろう?まずいぞ、まずいぞ、と思いながらも病室で阿倍子のお父さんの手を取っていた。
 
阿倍子は言った。自分の父がもう余命幾ばくもない。たぶん1ヶ月もたない。それで申し訳無いが、父の前で自分の婚約者のふりをしてくれないかと。貴司は自分は結婚予定なのでそんな話には応じられないと言ったのだが、阿倍子の巧みな口説きと泣き落としに負けてしまい、とりあえず阿倍子と一緒にお父さんが入院している病院に来てしまったのである。
 
しかしお父さんは貴司の手を取って
 
「阿倍子の前の旦那は酷い奴だった。阿倍子に辛い不妊治療をさせて、それで赤ん坊ができないのを責めて。赤ん坊ができないのは妻だけのせいではないのに、全部阿倍子に責任があるような言い方だった。あんたは赤ん坊なんかいいから、阿倍子を大事にしてやってくれ」
 
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などと言う。それで貴司も
 
「大丈夫ですよ。子供ができなかったら養子を取ればいいんですよ。阿倍子さんを大事にしていきますから、お父さんも治療頑張ってください」
と笑顔で言った。
 

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「でもお前たち、結婚式はいつあげるの?」
と阿倍子の父が訊く。
 
「えっと来年くらいに挙げようかと思っているんだけど」
と阿倍子。
 
「それでは俺がお前の花嫁姿を見られん。どうせ結婚するのなら来週くらいにでも式を挙げてくれんか?」
と父。
 
ちょっと待て〜〜〜!と貴司は思う。
 
「それは無茶だよ。式場も取れないよ」
と阿倍子も言う。
 
「じゃ結納だけでもしないか?」
「でも私たちまだ婚約指輪も作ってないし」
「すみません。今お金がなくて」
と貴司も言う。
 
すると阿倍子の父は言った。
 
「俺が持っている関西電力株を売りなさい。300株あったと思うから。震災でだいぶ値下がりしてしまったけど、全部売れば30万くらいになるはず。それで指輪を買いなさい」
 
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「あ、うん・・・」
と阿倍子は貴司に視線をやりながら頷いた。
 

貴司が善美のジャガーに乗ったのが6月10日の夜で、デートの約束をしたのが15日(金)の夜だったのだが、実際には貴司はその夜、阿倍子と寝てしまった。阿倍子は翌16日、強引に貴司を阿倍子の父が入院している病院に連れて行き、自分の婚約者だと言って紹介した。すると父は今お金がなくて指輪が買えないという貴司に、自分の所有する株を売って資金を作りなさいと言った。
 
それで阿倍子はその日の内に貴司に「形だけだから」と言って貴司を宝石店に連れて行き、阿倍子自身のカードで0.3カラットのダイヤのエンゲージリングとペアの結婚指輪を買ってしまったのである。株の売却は18日(月)に売却した場合、代金は3日後の21日(水)に入金され、それを銀行などに移した場合、その翌日の22日(木)に利用できる状態になる。それでカードの方は決済すればいいし、その代金を貴司に請求したりはしないと阿倍子は貴司に説明した。
 
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指輪の材質は阿倍子が金属アレルギーなので、アレルギーの起きにくいチタン製にしてもらった。特殊な素材なので翌日の受け取りになる。
 
それで17日(日)に阿倍子がそのダイヤのエンゲージリングを左手薬指にはめて嬉しそうにしているのを見て、貴司は内心、やばい、やばい、やばい、やばいと思っていた。ふたりはそのまま病院に向かい、指輪を填めた所を父に見せてあげた。
 
父は涙を流して喜んでいたが、貴司は内心ほんとに困っていた。
 
阿倍子はあちこちのホテルに電話しまくり、7月8日(日・大安)に結納をすることを決めた。
 
阿倍子が急いだのは実際問題として父がいつ死んでもおかしくない状態であったので、何とかその前に結納までは見せてあげたかったからである。
 
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「阿倍子さん、僕はマジで他に婚約者がいるから、こんなことはできない」
と貴司は言ったのだが
 
「だから形だけ私の婚約者を演じて欲しいのよ。結納までしてくれたら後は別れましょう。父の顔色見たでしょ?明日死んでもおかしくない状態なのよ」
と阿倍子は言った。
 

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