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■娘たちのクランチ(6)

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6月6日は早朝、札幌に住んでいる玲羅・理歌をシルフィに乗せて4人で留萌へ移動した。
 
留萌市内のホテルに行くと、既に津気子と保志絵は来ていた。望信・美姫・淑子も追って来るということである。千里は成人式の時にも着た友禅風の振袖を着て、貴司はお父さんから借りた紋付き袴を着る。やがて望信たちも来たので、手順を打合せて10時半から結納の式を始めた。
 
お互いに定められた口上を述べて各々の結納を交換する。
 
なお「帯料」「袴料」について千里は、既に豪華な婚約指輪をもらっているので、帯料はそれで代えてもいいのではと言ったのだが、貴司の父が、指輪は指輪として、結納金はちゃんと納めるべきものだと言い、お父さんが半額の50万円を出してくれて貴司も新たに50万用意し(会社に頼んでボーナスの前借りをした)、100万円の帯料を納めてくれることになった。それでこちらでは結納返し(袴料)を50万することにした(この50万はお父さんが取り、それで親との貸し借りは無しにする)。
 
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また結納返しとは別に、指輪の御礼に千里が貴司にタグホイヤーのクロノグラフの腕時計(約40万円)を贈ることにした。
 
この日も一通りの手順が終わった所で、千里が婚約指輪を左手薬指につけ、貴司がクロノグラフを左手首につけて記念写真も撮った。全員並んだ記念写真もホテルの人に撮ってもらった。
 

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結婚式の日取りについては貴司が説明した。
 
「それで結婚式なのですが大阪近辺のホテルを色々探したのですが、大阪市内のNホテルに12月22日・土曜日が空いていたので予約しました。この日は友引だし、22日が夫婦の日なので、結婚式にはいいかなと思って」
と貴司は言う。
 
「その時期って忙しかったりはしないの?」
と淑子(貴司の祖母)から質問が出る。
 
「ちょうど僕はリーグ戦が終わった後なんだよ。年末で忙しくなるタイプの会社でもないし。千里の方は今年はオールジャパンには出ないということで。理学部は卒論も無いから時間が取れるんだよね」
と貴司は説明した。
 
「新婚旅行はそのあとアメリカに行ってNBAの試合を観戦してくる」
「ああ、そういうのいいかもね」
「お正月前に帰国するから、あまり混雑には巻き込まれなくて済むかなと」
 
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全員各自のスケジュールを確認し、その日に日程を入れた。それで貴司はそのまま旅行会社にも正式にその日程の航空券とホテル予約をしてもらうことにした。現地では試合を追いかけてあちこち移動するので、とにかく往復の切符と当初の宿だけ確保しておく。
 
なお北海道在住の親戚のために年明けにでも旭川あたりで結婚報告会をしようという話も出て、その日程などはまた後日検討することにした。
 

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ところでこの結納の式は留萌市内の割と駅の近くにあるホテルで、1階の中庭の見える和室でおこなっている。わざわざ部屋の障子も廊下の雨戸も開けて、こちらから中庭が直接見える状態にしている。
 
さて「今日千里の結納をするから一緒においでよ」という津気子の言葉に対して「ふん」とだけ答えてふて寝を決め込んだ武矢であるが、津気子が朝早く出かけてしまうと少し気になった。
 
それでバスに乗って町に出てみる。津気子が置いていったホテルの名前、それに部屋の位置図!まで印刷された紙(美姫が作ってプリントし渡してくれたものである)を持ち、ホテルのレストランにでも入るような顔をして建物の中に入ると、キョロキョロしながら中庭の方に行く(かなり怪しい人である)。
 
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そして中庭に出るとすぐに、その結納が行われている部屋を見つけた。向こうから見えないように木の陰に隠れてそちらを見る。
 
千里の振袖姿が美しい。
 
「きれいじゃん。まるで女みたいだ」
などと小さな声でつぶやいた。
 
「あ、そうか。実際にはもう手術終わって完全な女になっているんだったな」
と更につぶやく。
 

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この武矢を、津気子も保志絵も、また千里・理歌・美姫・淑子も気付いたが、気付かない振りをしておいた(貴司と望信は気付かなかった!)。
 
武矢が行った時は、実際には結納式は始まったばかりで、武矢はその大半を眺めることになる。持参したデジカメで数枚写真まで撮った(ここまでしている時点で部屋の中の者は気付かない方が不思議である。なお司会者さんにはあらかじめ、中庭から覗く人がいると思うが身内なので黙殺してくださいと言ってある)。
 
そして千里と貴司がエンゲージリングと腕時計をして記念写真を撮っている所を見た時、何か貴司への小さな反感のようなものが湧く。それが《嫉妬》であることに武矢は気付かなかった。先日“千里”とセックスしてしまったことで、自分の女を取られたような気分なのである。しかしその反感のようなものを除いては、何となく嬉しいような気持ちもあった。
 
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「息子は居なくなったけど、代わりに娘が2人になったようなものですよ」
と誰かが後ろで囁く。
「あ、そうだよな」
と武矢は何気なく返事した。
 
「千里ちゃん、結婚して2〜3年もすれば元気な男の子を産みますから可愛がってあげてくださいね」
「へー。男の子を産むか」
「その後、女の子も産みますよ」
「ああ。1人ずつっていいよな」
と言ってから、武矢は少し顔を曇らせる。
 
「俺も男と女と1人ずつ作ったつもりだったのに」
「男の子の子供って手元に残らないけど、女の子の子供なら、わりと気軽るに会いに行けるし、いいんじゃないですか?村山の苗字は残らないけど」
「ああ。大した身分の家でもないし苗字なんて気にしないよ」
 
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「だったら、千里ちゃんも、そのお孫さんたちも大事にしてやって下さいね」
「ああ。千里はこの際どうでもいいけど、孫は大事にするよ」
 

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武矢は結納式、そしてその後の食事会の様子を見ながら背後から話しかけてきた人物と結局15分くらいしゃべっていた。そして唐突に思った。
 
「あんた誰だっけ?」
それで振り返ると誰も居ない。
 
武矢は5秒くらい考えると声に出した。
「帰ろう」
 
それで武矢はホテルを出るとバスに乗って自宅に戻り(やっと禁酒期間が終わり)買ってもらっていたスーパードライの缶を開けると飲みながら、じっと考えていた。
 
「千里ほんとにいい女だったなあ」
などとつい言ってしまってから、先日“千里とセックスしてしまった晩”の記憶が蘇り、罪悪感まで蘇る。
 
「でも俺は許すとは言わないからな」
などと言いながら、さっき撮った写真を嬉しそうな顔で眺めていた。
 
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「これプリントする方法分からないから、忠行にプリントしてもらおう」
と言ってデジカメを自分の鞄の中に放り込んだ。(福居)忠行というのは、武矢と一緒にホタテの養殖の作業をしている人である。
 
津気子は13時頃、玲羅と一緒に自宅に戻った。
 
「お父ちゃん、祝いのお膳、折箱に詰めてもらったから」
と津気子が言うと
 
「腹減ったから食う」
とだけ言って、それを食べ始めた。津気子と玲羅は顔を見合わせて、笑いをこらえた。
 

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結納式を終えた千里と貴司は、ふたりだけで新千歳までシルフィで走り、空港で車を返してから一緒に羽田行きに乗った。
 
新千歳15:20-16:55羽田
 
明日から貴司の合宿が始まるので、ふたりとも東京に行くのである。ふたりは東京に着くとまずはホテルに荷物を置き、予約していた体育館に行ってバスケを2時間ほどした。
 
「うん。貴司こないだよりかなり進歩してるよ」
「やはりそう?自分でもそんな気がしたんだよ」
「これならきっと代表枠に残れるよ。頑張ってね」
「うん。千里は代表枠確実だろ?」
と貴司が言うと、千里は珍しく暗い顔をした。
 
「今回はダメだと思う」
「なんで?凄い人が入った?」
「そういう訳じゃないんだけどね」
 
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練習が終わった後は、着換えて近くにある焼き肉屋さんで夕食を取る。ホテルに戻ったのはもう23時頃で、シャワーを浴びてから、たっぷりと愛の確認をして、そのまま自然に眠ってしまった。
 

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7日朝8時、千里は貴司を味の素ナショナル・トレーニング・センターのゲートの所までインプレッサで送って行った。
 
「じゃ頑張ってね」
「うん。またレベルアップしてくる」
 
それでキスして別れた後、千里は《こうちゃん》に運転を任せて後部座席で仮眠をした。《こうちゃん》の運転する車は、東名・名神・伊勢湾岸道・東名阪・名阪・R24などを走り、約7時間ほどで高野山の更に奥のあまり知られていない登山道の所まで到達した。
 
登山靴を履き、一応登山に適した装備をつけ、《せいちゃん》に用意してもらっていた荷物を背負い、普通の人の目にはそこが登山道であるとは気付かないような道を登り始めた。
 

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この道を知っているのはリードしてくれている《こうちゃん》の他には虚空(早紀)のみである。実は瞬嶽も知らない。瞬嶽が知っているのは通常の登山道の途中からここに回り込むルートである。
 
《こうちゃん》としては、このルートを教えるのは厳密に言うと守秘義務違反になるのだが、千里の情報も少し向こうに流しているから、このくらいはいいだろうという判断であった。
 
このルートはひじょうに短時間で瞬嶽の庵まで到達することができる。青葉や菊枝が通るルートなら高野町から5時間、向こうの登山口(これも普通の人には分かりにくい)から3時間半ほど掛かるのだが、このルートは実は“早紀の足で”普通に歩いて2時間45分くらいで登ることができる。
 
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但し物凄い急勾配であり、脚力の無い人なら逆に時間が掛かってしまう。
 
むろん千里の筋力があれば全然平気である。千里はここを2時間も掛けずに登り切った。 途中の崖登りの所も千里は的確に岩の突起を見て、いとも簡単に登ってしまったし、“蟻の門渡り”など、
 
「ここ落ちたらさすがに私でも死ぬよね?」
などと《びゃくちゃん》とおしゃべりしながら渡ってしまう。かえって《びゃくちゃん》が
 
「千里、足元見て、足元!」
と注意するくらいであった。
 
「でもここ青葉とかにも渡れるよね?」
「うん。青葉なら問題無い。瞬醒さんには無理」
「そりゃ年齢の問題でしょ」
「それもあるし、手術したばかりだから」
「何の手術したんだっけ?」
「千里が胃癌の手術した方がいいと言ったじゃん」
「私そんなこと言ったっけ?」
 
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「ああ、やはりどこかから降りてきた言葉は記憶に残らないんだな」
「うん。そういうの全部忘れてしまう。あの年で性転換手術もないだろうしなどと思ったところで」
「あの人別に性転換する趣味はないと思うけど」
 
ということで千里は“蟻の門渡り”は与太話をしている内に渡り終えたのである。
 

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登山道の終わりの所に岩がある。ここまで到達したのが17時前である。
 
「これ女の子のあそこの形してる」
と千里が言うと
「弁天岩と言うんだよ」
と《こうちゃん》は教えてくれた。
 
「もっとも青葉などはあわび岩と呼んでいるようだ」
「まああの子は性欲が無いから」
「千里は性欲あるよな?」
「当然。私女の子だもん」
 
「あとは回峰路を通れば瞬嶽の所に辿り着ける」
「うーんと、左?」
「千里、ほんとにいい勘をしてるよ」
 
それで千里は左手方向にジョギングで10分ほど走った。
 
「少し息苦しい」
「気圧が低いからな。そのままの状態だと倒れるけど」
「倒れる前に目的地に着けばいいよね」
「まあそうだけどね」
 
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それで庵に辿り着く。
 
「こんにちは〜」
と、あっかるく挨拶する。
 
「今日は来るだろうと思って回峰は短めのルートで戻ってきた」
と瞬嶽は言った。
 
「しかし君はちゃんと登山の格好をしてきてるな」
「行者姿では寒い気がしましたので」
「うん。寒いと思うよ」
 
むろん瞬嶽が言ったのは行者服ではなく、女子高制服で登ってくる早紀のことだ。
 
「電池とメディアの補給に来ました」
「ありがとう。君の眷属さんに3回補給してもらったけど、また記憶容量がいっぱいになりつつあったし、電池も無くなりかけていたし」
 
「あれ?師匠、発電機なんてあるんですか?」
「こないだ来た友人が置いていった」
 
「だったら、後で充電池と燃料の・・・灯油を持って来させますよ。ね?こうちゃん持って来てくれるよね?」
と千里は《こうちゃん》に話しかける。
 
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「ああ、いいよ。持ってくる」
 

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