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作業が終わった後、光太郎は眠ってしまった。その寝顔を見ながら、こないだは充分逝ってなかったもんなあ。少し予行演習させるべきだったな、などと早紀は思っていた。
早紀もしばらく並んで寝たまま目を瞑って身体を休ませる。光太郎は30分ほどで目を覚ました。
「久米の仙人の気分だ」
と光太郎。
「セックスから逃げていては悟れないよ」
と早紀。
「だったら、さっちゃんはもう悟りまくっているな」
「うふふ」
「さっちゃん、いくつか頼まれてくれないか?」
と光太郎は言った。
「何?」
「青葉は有能な霊能者だけど、あまりにも脇が甘すぎる」
「うん。素材としては面白いけどね」
「一応青葉のサポートは千里に頼んでいるけど、千里の手にも余る場合は助けてやって欲しい」
「でもあの子たちをいつも見ている訳では無いよ」
「千里をいつも見ている奴がいるだろ?」
「そこまで知っているのなら分かった。気をつけておく」
「それと千里は今年と、多分2017年から2018年頃に掛けて大きな災厄に巻き込まれる。今年は何とかなると思うが、2017-18年のがきつい。それを助けてやって欲しい」
「災厄を助けるって、より酷い目に遭うようにするの?」
「逆!」
「なんだ。つまらない」
早紀には「善」と「悪」という概念が無い。「好き」か「嫌い」かで行動するタイプである。
光太郎は続ける。
「その千里ちゃんから電子レコーダーもらってたくさん口述してるんだけど、あまり細かい事までは話す時間が無い。僕が死んだ後、きっと瞬高あたりが中心になって、これを文章にまとめようとするだろうけど、本当に理解できるのは羽衣とさっちゃんくらいしか居ないと思う。だからさっちゃんの眷属か何かでも送り込んで、そのプロジェクトを手伝って欲しい」
「いいよ。だけどそういう作業は20年前から始めるべきだったね」
「インドのあいつからの遺書をもらって。それで気付いた」
「ああ、あの人はたくさん著作を残した」
「それと、僕たちで作った2人の子供だけど」
「うん?」
「普通に育てて欲しい。何も特別なことはせずに」
「いいよ。まあ本人たちがその内自分で目覚めるだろうしね。後から作った子が本体になるだろうけど、こないだ生まれた子も多分凄い子になると思う」
「それを特別扱いせずに」
「了解了解。ボク自身、親になってくれた人から、普通に自分の子供と同じように育ててもらった。だから、そこで道は誤らないよ」
「よろしく。基本的には、僕はこのまま消えて行くんだよ。だからクローンを作っても魂をコピーしても、その子たちは僕とは別の人だと思う。後のことは生き残った人たちで進めていってほしい」
「分かった」
早紀は結局庵に3時間ほど滞在したが、“作業”をおこなって仮眠した後、早紀は発電機を起動して保冷ボックスのバッテリーに充電した。
「この発電機ここに置いてっていい?結構重たくて」
「むしろよくこんな重たいもの持って普通の人より速い速度で登ってくるものだよ」
「まだ若いからね。17歳の身体は凄いよ」
「だろうな」
「Hするのも楽しい。男の子とするのも女の子とするのも楽しい。ふたなりの子ともしてみたいけど生憎そういう知り合いがいない」
「やはりさっちゃんは煩悩まみれのようだ」
「煩悩こそが悟りの境地って知ってる癖に」
「一休禅師の世界だな」
「一休は理趣経の世界に自力で到達したんだと思う。光ちゃんが一休ならボクは森女かな」
「・・・・一休は77歳で森女に出会い死ぬまで一緒に暮らした。僕は生まれてすぐ千鶴ちゃんに出会ったけど、結婚できなかった」
「まあ昔は好きな人と結婚できる時代じゃなかったしね。ボクもあの結婚は嫌だったけど仕方なかった」
「126年掛けて僕たちはやっと一緒になれたのかも知れない」
「・・・“借金を返す”のはまだ3年くらい先でいいと思うよ」
「取り立て人がそろそろ見逃してくれないのではという気がしている」
ふたりはその“借りている地水火風を返す”問題についてはそれ以上話さなかった。早紀は光太郎に深いキスをした。彼女の目から一筋の水滴が頬を伝わっていった。
「じゃね」
「うん」
「またね」
「そうだね。また」
それで早紀は発電機を停め、保冷ボックスを背負って山道を降りていった。光太郎の目にも涙が浮かんでいた。
5月23日、千葉に戻った桃香は午後の授業(2−3時限目)を受けた後、夕方からバイトに行ったが、この日センター長はみんなを集めて言った。
「実は○○が通販事業から撤退することになって、うちは2割が○○の電話受付受注だったので、こちらも事業規模を縮小せざるを得なくなったのです。それでこのセンターは6月一杯で閉鎖されることになりました」
みんなざわめく。
「仕事を続けたいという方は、他のセンターに転属してお仕事を続けてもらうことができます。ここから一番近いセンターは八王子ですが、それ以外に甲府、静岡、新潟、仙台などのセンターへの転属も希望なさる場合は受け入れます。実家や親戚の家がどこどこにあるんだけどという方はご相談下さい。一番近い所をご紹介します。ただし各センターのキャパを越えた場合は調整させて頂くかも知れません。なお他のセンターに異動なさる場合は引越代なども出させて頂きます。またこの機会に退職なさる場合は、退職金を規程の倍お支払いします」
「千葉から八王子までって、どのくらい時間掛かりましたっけ?」
「総武線と中央線を乗り継いで2時間弱かと思います。但し八王子駅からセンターまでバスで10分ほど掛かりますので合わせると2時間半見ていただいた方が良いかと思います」
みんな顔を見合わせている。答えは来月中旬くらいまでに各自希望を提出してくれと言われたが、八王子までの通勤はさすがに無理だと感じた。
「お金無いけどやめざるを得ないかなあ」
と桃香はひとりごとを言った。
取り敢えずその日の夜勤を済ませ、(5月24日)明け方西千葉のアパートに戻る。鍵を開けて中に入ると、
「あ、モモお帰り〜」
と布団の中から声を掛けるのは季里子である(季里子は当然このアパートの合い鍵を持っている)。
「ああ、こちらに来てたんだ」
「桃香一昨日からどこ行ってたの?」
「だから言ったじゃん。高岡の実家まで行ってきたんだよ。青葉の誕生日だったから」
「例の子か・・・でも桃香ひとりで?」
「青葉の彼氏が今年C大に入ったから、彼と一緒に」
「2人だけ?」
「あ、えっと千里も一緒だよ」
「その子と桃香浮気してないよね?」
「そんなのする訳ない」
「向こうではどこに寝たの?」
「えっと彪志君は青葉の部屋で寝たよ」
「千里ちゃんは?」
「私の部屋で寝たけど何もしてないよ」
「桃香が女の子と2人で一緒に夜を過ごして何もしないとは思えない」
「あの子はストレートだって。それに高岡から彼氏の住んでる大阪方面に移動してたし」
「ほんとに何も無かった?」
「何もしてないよー」
「荷物見せて」
「いいけど」
それで季里子は桃香の旅行用バッグを開けて見ていた。そして、それを発見する。桃香は嘘!?と思った。
「何これ?」
と季里子が厳しい顔で桃香を見る。
そんな馬鹿な〜!?それ机の引き出しに置いて来たはずなのに!
(早紀の悪戯である)
「これ私が知らないおちんちんだ」
「えーっと、それは予備で買っておいたものだよ」
季里子はだまってビニール袋から出して臭いを嗅いでいる。
「これ明らかに使用されている。女の子の臭いがする」
「えーっと・・・」
「正直に言えば今回だけは許してあげる。言わなかったら離婚」
それで桃香は季里子の前に土下座して謝った。
「ごめん。出来心だった。二度とこんなことはしない」
「千里ちゃんと一緒に暮らすのも解消して欲しい」
「分かった。荷物は全部そちらのアパートに移すから、キリと一緒に暮らそう」
「そしてこのアパートは解約して」
「ここ、みんなの溜まり場になってるから、私がここに来ないということでいい?」
「いいよ。誰か他の人の名義に変更して」
「そのあたりは調整する」
そう季里子に言いながら桃香は考えていた。女の子の臭いがするって・・何で!?(“ちんちん”はそのまま季里子が捨ててしまったので確認できない)まさか千里にはヴァギナがあるとか??? でもちんちんもあったぞ。
千里のちんちんに触るのは3度目である。1度目は2011.1.11に半ばレイプ的に千里の男性器を使って結合した。2度目は2011.7.19にお互いの合意のもとで千里が男役となるセックスした。そして昨夜が3度目であったが昨夜は千里の男性器に触りはしたものの、それは使わずに桃香が男役をした(睾丸が無いので男性器としては使用できないはず)。千里が寝ている間にしたので準強姦だ。
桃香はその場で千里に電話した。千里は葛西のマンションで寝ていたのだが、桃香からの着信を表す『リニアモーターガールズ』なので電話を取る。
「はい」
「朝早く御免ね」
「いいよ。そろそろ起きた方が良かったから」
「実はもう季里子の所で完全に生活しようと思ってさ。アパートは引き払おうかとも思ったんだけど、あそこみんなの宿舎と化してるじゃん」
「ああ。だったらさ。私がアパートは引き継ごうか?ただ不動産屋さんに言うと、絶対今の家賃では再契約できないだろうから、桃香の名義のまま私が払うようにするとかは?」
「あ、それでもいいかな」
「じゃ桃香、どこか適当な銀行、例えばC銀行とかに家賃引き落とし専用の口座を作ってくれない?私、そこと同じ銀行の同じ支店に口座作るから。そこからネットで振り込めば無料で振り込めるはずだから」
「それ面倒だから私の口座作って、その通帳を千里に預けてもいい?」
「桃香がいいなら、それでもいいよ」
「じゃそれで。引越は近い内にするから」
「OKOK」
電話を切ってから季里子は、桃香に
「一昨夜のセックスの件に付いては何も話さないの?」
と尋ねた。
「いや、あれは千里が眠っている間にやっちゃったから。朝起きてからの様子を見ても、セックスしちゃったことに気付いてないみたいだった」
「寝てる間に〜〜〜? 強姦犯として訴えてもいい?」
「勘弁してぇ」
「全く極悪犯だな。去勢が必要だ」
「季里子には既に4回くらい去勢されている気がする」
「次変なことしたら死刑ね。ちんちんじゃなくて首を切断するから」
「そりゃ季里子に殺されるのなら本望だけど」
「ふーん」
と言って、季里子は桃香を値踏みするように見た。
桃香は24日の午前中に千葉県内に本拠地を持つK銀行に新しい口座を作り、その口座と暗証番号のメモを千里に渡した。渡すのはその日のお昼に千葉市内で会って一緒にお昼を食べることにして、その時に渡したが、これには季里子も付いてきた!
「千里、例の結婚指輪と婚約指輪を季里子にも見せてやってよ」
「いいよ」
と言って千里は“プラスチーナ”製の結婚指輪と、ダイヤの婚約指輪を左手薬指に重ねて装着した。
「すごーい。巨大なダイヤだ」
「最初1.1カラットのにしようかと言っていたんだけど、もう少し余裕があるみたいな言い方だったから1.2カラットに釣り上げた。そしたら支払いにやや苦労したみたい」
「あはは、女の前で見栄を張りたかったんだよ」
「かもね〜」
「でも払えるような彼氏ならそれでいいと思うよ〜」
「でも目の保養、目の保養」
と季里子は言っていた。
先日のセックスについて千里本人が気付いていないみたいだったという話から季里子もその問題については敢えて何も言わなかった。それでこの日の3人の会話はとても平和的なものになった。千里も季里子から桃香が贈ったエンゲージリングを見せてもらった。
「これ色が凄くきれい。桃香これ高かったでしょ?」
「貯金も併用して何とか払った」
「まあ払えたなら良かったね」