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■娘たちのクランチ(12)

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「タイはビザ要らなかったよね?」
「観光目的で短期間の滞在なら不要のはず」
「じゃそれで入国しよう」
「まあお仕事する訳じゃないからいいだろうね」
 
「でも彼氏は付いてってくれないの?」
「向こうは9月まで超忙しいんだよ」
「それは大変だな」
 
実際貴司の合宿は7月12日から15日まであり、続いて7月19日からまた合宿があるので千里の手術に付き添うのは無理である。そもそも千里は貴司にどう手術のことを説明すればいいのか分からなかった。
 
千里はアテンダント会社に連絡を取り、親友が一緒に行ってくれることになったこと、それでできたら航空券はこちらでその2人分を確保して並んでいきたいということを伝えた。
 
アテンダント会社では、それは可能だが、千里の航空券代相当の返金には応じかねると言う。千里がそれは構わないと言うと、了承してもらえた。なお桃香の分のホテルは格安で確保できるということだったので、追加料金を払って確保してもらうことにしたが、この追加料金から若干の割引をしてくれたようである。それが多分本来の千里の航空券代相当の一部だろうと千里は想像した。
 
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結果的に千里と桃香が並びの席、アテンダントさんは離れた席になる。
 
しかし実を言うと千里はどっちみち航空券は自分で確保するつもりだったのである。そうしないと、アテンダント会社は当然千里の航空券を「男性」として手配するはずである。普通男→女の性転換手術を受ける人はパスポートは男性になっているはずだから。ところが千里のパスポートは元々女性になっており、これを合理的にアテンダント会社に説明することが困難と思われたのである。
 

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7月4日は常総市の体育館建築現場に行き、作業をしてくれている人たちをねぎらうとともに、進行状況を確認した。早めに進んでいるようで、このままなら9月くらいに完成しそうということだった。
 
日中は銀座に出てティファニーで結婚指輪を受け取った。結局千里も貴司もお揃いのデザインのものを贈り合うことにしたのだが、貴司に贈る分は千里が銀座店で、千里に贈る分は貴司が大阪梅田店で受け取った。
 
先月留萌での結納式の時は、結婚指輪のデザインをカタログを見ながら確定させ、すぐに電話で注文を入れた。また双方の親がいるのをよい機会として婚姻届けを実際に記入して、望信と津気子の署名ももらっている。ただし、その婚姻届けは千里の性別が女に切り替わるまでは提出できない。書いた婚姻届は取り敢えず千里が保管している(貴司だと無くしそうなので)。
 
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夕方からはローキューツの玉緒と会って、チームの状況を確認するとともにこの後の活動・遠征の方針を承認した。
 
「ほぼ主力が入れ替わる形になったけど、何か充実してるよ。これなら、全日本クラブ選抜も、あまり恥ずかしくない成績になるかも」
「オールジャパンにまた行けるといいね」
「うん。私もそれを期待してる」
と玉緒は明るく言っていた。
 
オールジャパンに行くためには全日本クラブ選抜(9/8 前橋市)で3位以内になり、全日本社会人選手権(11/3 秋田市)に出て2位以上にならなければならない。
 
「来月はまたBチームで北海道の時計台カップに行ってくるし」
「何か旅行クラブと化していたりして」
「そうそう。沙也加がこんなに旅行できるなら私また選手になろうかなとか言ってる」
「ああ、歓迎歓迎」
「うん。私や司紗もそう言っているところ」
 
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7月6日(金)。運命の日。
 
千里が千葉のアパートで部屋に掃除機を掛けていたら、唐突に貴司が来訪した。
 
「いらっしゃーい」
と千里は明るく貴司を歓迎する。
 
「大事な話があったんだけど、電話も通じないしメールにも返事がないから直接やってきた」
と貴司は言っている。何やら深刻な顔をしている。
 
「ごめんねー。何か色々用事が溜まっていて」
 
実際長期間海外に出たり合宿したりしていたので、この2日間は色々な用事で飛び回っていたのである。
 
「それでしばらく会えないってメールしてきたの?」
「まあそれもあるかな。ビール飲む?」
「うん。もらう」
 
それで千里は冷蔵庫からヱビスビールを出して缶を開けて貴司に渡した。
 
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貴司はそれを一口飲んでから何か言おうとしていたが、どうもなかなか言い出せないようである。
 
「どうかしたの?」
「あ、えっと、最終予選惜しかったね」
「チームについて?私について?」
「どちらも」
 
「全くね。今回は選手選考がおかしかったよ。実力のある層を落として、既にピークすぎている選手中心で。私や亜津子が出てたら、あんな惨めな結果にはしてないのに」
と千里は貴司の前なので、ハッキリと怒りを表に出す。
 
「その悔しさをバネにまた頑張りなよ。さすがに三木エレンとかも今回が最後だろうし」
 
「私三木さんに言ったんだよ」
「何て?」
「今回私が落ちて三木さんが代表になったのは絶対おかしい。でも上が三木さんの方が価値があると判断したのなら仕方ない。だから3年後にまた勝負しましょうよ。その時は私が誰が見てもこちらが上という評価を得て三木さんを蹴落としますから、それまでバリバリの現役で居てくださいよって。勝ち逃げは許さないからと」
 
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「ひぇー。そんなこと言ったの?怒ったでしょ?」
「怒った怒った。だったら3年後も私があんたを蹴落としてやるから、せいぜい努力してなって言ってた。自分はあんたの10倍練習しているからって」
 
「凄い」
「だから3年後にまた勝負」
と千里は楽しそうに言う。
 

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「まあでもそう言った手前、こちらも頑張らないといけないから、貴司、悪いけどベビーは次のリオデジャネイロ五輪が終わるまで待ってね。2015年に京平を産むつもりだったけど、今度のオリンピックが終わるまでは妊娠とかしてられないし。京平にも謝らないといけないなあ。出てくるの少し待ってって」
 
「やはり京平は千里が産むんだっけ?」
「そう京平と約束したからね。あ、それでさ、赤ちゃん産むのにおちんちんが付いてたら邪魔だから、今月18日にタイに行って性転換手術を受けて、おちんちん取って、ちゃんと女の形に改造してくるから」
 
「は?意味が解らないんだけど?千里、とっくの昔に女の形になってるじゃん」
「これから手術受けるんだよ」
 
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「馬鹿な。だって千里が女でなかったら世界的な騒動になるよ。千里、2006年秋以来女子選手として活動してきているのに」
「今までは男の子だったけど、試合の時だけ、おちんちん取り外していたんだよ」
「そんな無茶な!」
 
「それで手術受けてくるから、しばらく貴司ともデートできないのごめんね。ってメールしたんだけど、言葉足りなかったかな」
 
と千里は言っているが、実際にはこの件が説明不能なので詳しいことを書かなかっただけである。実際今貴司に説明していても、自分で訳が分からない。
 

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しかし貴司は突然畳に頭を付けて言った。
 
「ごめん」
 
千里は戸惑う。
「どうしたの?」
 
「申し訳無い。別れて欲しい」
「え?私が男の子だったのが嫌になった?」
「そんなことはない。千里のことは僕は女の子だと思っている。むしろ普通の女の子だと思っている。でも結婚できなくなったんだ」
 
「なんで?」
 
「実は別の女性と結婚の約束をしてしまった。この8日に結納するんだ」
「どういう意味よ?」
「どう謝っても謝りきれない」
 

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貴司はそれで阿倍子とのことを説明したのだが、千里はあまりにも想定外のことで、呆然として貴司の話を聞いていた。しかし話を聞いてもさっぱり分からなかった。
 
「貴司って、そんなに簡単に結婚の約束するものなの?もしかして婚約者が10人くらいいるの?」
「そんなにはいない。でもどうにもならなくて。本当に何といって謝ったらいいのか分からない」
 
貴司はひたすら謝り続けた。
 

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桃香はその日、タイに行くのなら少し「女らしい」服も買っておこうかなと思い、古着屋さんに行っていた。ここでイオンとかではなく古着屋さんなのが桃香である。
 
「ただいまあ、千里もうお昼食べた?」
と言いながら部屋に入ったのだが、千里が尋常ではない様子なのでギョッとする。放心状態で目が虚ろである。
 
「千里どうした?」
「桃香・・・・・・」
「何かあったの?」
「私・・・・何したらいいんだろう?」
 
桃香は千里が誰かにレイプでもされたのではと思った。それで千里をハグした。
 
「千里、私の愛で包んでやるから、取り敢えずシャワー浴びてこないか?」
「シャワー?」
「うん。浴びておいで。あのあたりも綺麗にしておいで」
「うん」
 
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千里がシャワーを浴びている間に桃香は部屋のノブに『Do Not Disturrb』の札を下げた。そしてエアコンをつける。夏の2DKにエアコン無しでは熱中症になってしまう。やがて千里はバスルームから出てきたものの、まだ茫然自失の様子である。桃香は再度千里を抱きしめた。
 
そしてその日、桃香は千里を何度も何度も愛してあげた。
 

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貴司は実は自分でもなぜこういうことになってしまったのかよく分かっていない中、何とか阿倍子とのことを千里に説明しようとしたのだが、千里は途中で放心状態になってしまい、何を話しても反応が無くなってしまった。
 
それで貴司は
「ほんとにごめんな」
と千里に再度謝り
 
「とりあえずこれ返すから。袴料は少し待って。必ず年内には返済する」
 
と千里からもらったタグホイヤーのクロノグラフを千里の前に置いてから部屋を出る。鍵を掛けないと不用心かもと思い、
 
「ちょっと鍵貸してね」
 
と言って千里の財布の中から鍵を取り出す。千里はあらぬ方角を見ていて何も反応が無い。再度「ごめんな」と言って千里の頬にキスする。そしてその鍵でアパートの玄関をロックした。鍵は新聞受けから部屋内に落とし込む。そして千葉駅への道をとぼとぼと歩いた。
 
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「ほんとになぜこんなことになったんだろう?」
と自問するが、貴司自身頭の中が混乱している。元はといえば善美の浮気の誘いに応じた自分が馬鹿だったんだなどとも考えるが、本質を突いてないような気もする。
 
東京駅に着いてから新幹線に乗り換えるのに駅構内を歩いていたら、いきなり両脇からガシッと腕を押さえられた。
 

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「何?何?」
「細川貴司、刑法246条の3、結婚詐欺罪の疑いで逮捕する」
「え?え?」
 
ガチャッと手錠を掛けられてしまい、連れて行かれる。
 
嘘!?これって逮捕されるものなの!??
 
それで貴司は手錠を掛けられたままパトカーに乗せられてしまった。そして警察に行くのかと思ったら、着いた所は裁判所である。
 
何だっけ?これ略式裁判とかいう奴???
 
と思っていたら、手錠を掛けられたまま法廷の被告席と書かれた所に座らされる。女性の裁判官が入って来て、裁判が始まった。
 
検察官(?)が貴司の罪状を読み上げる。その検察官の指摘があまりにも的確なので、貴司は自己嫌悪に陥るくらい
「俺って、なんて卑劣な奴なのだろう」
と再認識した。
 
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「更に被告には多数の前科があります」
と検察官は言い、過去にした浮気の内容を読み上げ始めた。なかには貴司自身完璧に忘れていたものも多かったが、言われると確かに身に覚えのあるものばかりだ。
 
「俺ってこんなに浮気して、こんなに何度も千里を捨てたことがあったのか?」
と思うと、とめどもなく自分が悪い奴だと思い知らされた。
 
「以上を持ちまして、本検察官は被告に死刑を求刑致します」
と言って検察官は着席した。
 

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死刑〜〜〜〜!?
うっそー!!!!
 
貴司は青くなった。
 
女性の裁判官はしかめっ面をして検察官の論告を聞いていたが、検察官が着席すると、おもむろに何か白い紙を広げた。
 
「判決を言い渡す」
 
嘘?もう判決なの??
 
「被告を死刑に処する」
 
ひぇー!?本当に俺死刑になるの???
 
「但し情状を酌量してその執行を3年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に付する」
 
よかったぁ!執行猶予か!
 
つまり3年間罪をおかさなかったら死刑は免除になるということだろう。
 
裁判官は続ける。
 
「また保釈金として、被告の男性性を指定するので直ちに納付すること」
 
へ?保釈金って普通起訴されてから判決が出るまでの間の保証金じゃないの?判決が出た後で保釈金って何?
 
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