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■娘たちのお正月準備(20)

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それで千里と留実子は絵津子を連れて別室に移動する。それで千里は体重の大きな選手でも、重心が入っていたら、そう簡単には吹き飛ばされないという“原理”を説明する。
 
「やってみせるから。私は168cm 60kg。サーヤは184cm 76kg。それ以上に筋力ではとてもかなわない。だけど私はサーヤにぶつかられても平気。サーヤ、私に遠慮せず全力でぶつかってみて」
 
「うん」
 
それで留実子は本当に遠慮無しで向こうから走ってきて千里にぶつかった。
 
千里はびくともせず、逆に留実子の方が跳ね返される。
 
ごくりと絵津子が唾を飲んだ。
 
「それが重心が入っているからですか?」
「そういうこと」
 
それで絵津子に姿勢を取らせ、千里が少し調整する。
 
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「まず私が軽くぶつかってみるよ」
と言って千里は走って来て絵津子に体当たりする。
 
「おっ。ぐっと来ましたけど、平気でした」
「じゃ次は本気で」
と言って千里は勢いを付けて走って来てぶつかる。
 
「わぁ。。。何とか持ち堪えた」
 
「少し芯がずれてる。こんな感じ」
と千里は調整する。それで何度か調整しながら千里がぶつかってみる。
 
「だいぶうまくなった。じゃ、サーヤやってみよう」
 
それで留実子がぶつかると、ぐらつく!
 
「芯がずれてる。足、重心、相手からの作用点が一直線になるようにしないと動いてしまう。だから、相手の動きを見て調整する動体視力が必要」
 
「もう一発行きましょう」
「うん」
 
それで10回くらいやっている内に絵津子も要領を覚えたようで、留実子にぶつかられても動かなくなった。
 
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「じゃ、サーヤ今度は本気でぶつかってみよう」
「え〜!?今の本気じゃなかったんですか?」
「さっきのは100%本気、今度は150%本気」
「ひゃー」
 
と言いつつも、絵津子は留実子の全力激突に持ち堪えた。
 
「よしよし、うまく行った」
と千里。
「この要領を覚えたら、お相撲さんにもなれるね」
と留実子。
 
「そうか。これ相撲の立ち会いなのか!」
「性転換した時のために覚えておくといいかも」
 

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10:00。
 
東京体育館のセンターアリーナに旭川N高校と岡山E女子校のスターティング5が整列した。
 
旭川 紫/ソフィア/絵津子/不二子/由実
岡山 楠木/雨地/翡翠/高梁/平野
 
どちらも厳しい表情である。勝てば銅メダルが獲得できるが、負けると何も無い。賞状しかもらえないのに表彰式に並ばなければならない。昨年N高校のメンバーはその屈辱を味わった。
 
ティップオフでは平野が勝ってE女子校が攻めて来るが、絵津子はピタリと高梁に付いた。高梁もこの相手はそう簡単には振り切れないというのが分かっているので無理はしない。しかし楠木の巧みなゲームメイクでうまく高梁はゴールを決めることができた。
 

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その後、絵津子はひたすら高梁とボールマンとの間に入り、できるだけ高梁にボールが渡らないようにする。高梁がボールを持っている時は、彼女がゴールに向かって進入しにくいようにプレイする(高梁から他のメンツへのパスはあまり気にしない)。そうすることによって高梁による得点をかなり防ぐことができた。
 
絵津子はとにかく高梁を抑えることだけに集中し、自分ではいっさい攻撃に参加しない。その分、ソフィアや由実が頑張って点を取っていく。リバウンドについては、由実がディフェンスでは8割、オフェンスでも半分近く取り、トップエンデバーに召集された選手の貫禄を見せる。
 
一度ややイライラした感じの高梁はファウル覚悟で絵津子を蹴散らしてゴールを奪おうとしたが、高梁が激突しても絵津子は全くその場から動かず、高梁のチャージングが取られる。高梁が「うっそー!?」という顔をしていたが、絵津子はポーカーフェイスである。しかしこの激突で、以後、高梁も絵津子にぶつからないように攻め込まないと勝てないと認識した。
 
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試合は高梁の得点が抑えられているため、地力に勝るN高校有利に進んでいく。今大会で大きく成長した、高梁に続く第2のポイントゲッター翡翠については、情報分析のうまい薫が、白石コーチと一緒にここまでの試合のビデオを見て研究、彼女の弱点を見つけてしまったので、不二子と胡蝶にうまく抑えられてしまい、この試合では彼女の得点はわずか8点であった。
 
そして高梁の得点も“30点に留まり”、対するN高校はソフィア、胡蝶、由実、カスミといった面々が頑張って得点を重ねた。
 
そして試合終了のブザーが鳴った時、スコアボードには50-73というまさかの大差の点数が表示されていた。
 
そしてそのブザーを聞いた瞬間、高梁に対峙して激しく動き回っていた絵津子が崩れるようにして倒れた。
 
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結局担架で運び出される。
 
こうして旭川N高校はウィンターカップで2年ぶりにメダルを獲得したのであった(前回は銀メダル、今年は銅メダル)。
 
試合終了後、高梁王子は怒りの表情でコートを見つめていた。実は昨日も似た表情で立っていたが、2日続けて同じ作戦でやられたことに激しい怒りが込み上げていた。
 

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3位決定戦は大方の予想はE女子校の圧勝だったのだが、N高校の大健闘に試合後大きな拍手が送られた。このゲームの録画はその後配信でも随分閲覧されたようである。
 
続いて行われた決勝戦では昨日大健闘の渡辺純子は何とスターターから外れていた。昨日のプレイで激しく消耗して、とてもまともにプレイができる状態ではなかったのである。
 
しかし純子を欠いてもP高校は強い強い。伊香秋子がどんどんスリーを撃ち込むし、工藤典歌、久保田希望、西川祐子らが頑張って得点を重ねて福岡C学園を圧倒した。福岡C学園は昨日の延長3回までもつれた試合で全員消耗していて精彩を欠いた面もあり、結局62-94という大差で勝負が付いた。
 
渡辺純子も最後の1分だけ出してもらい、ゴールも決めることができて笑顔であった。
 
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(P高校はオールジャパンにも出るので、それが純子の高校最後の試合になる)
 

こうして今年のウィンターカップは、優勝・札幌P高校、準優勝・福岡C学園、3位・旭川N高校、4位・岡山E女子校というので決着した。
 
“北海道9冠”の完成である(2008-2010でP高校がインターハイとウィンターカップを全部制し、国体では2008,2010が旭川選抜、2009が札幌選抜)。
 
3位決定戦の最後で倒れた絵津子は、ブドウ糖の点滴をしてもらって決勝戦の間ひたすら寝ていたら何とか歩ける状態まで回復し、表彰式には出てきて笑顔で3位の盾を受け取り、観客に手を振っていた(賞状を紫と由実が受け取り、盾を絵津子、記念品カタログをソフィアが受け取った)。
 
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大会の得点女王は2位に大差を付けて高梁王子、3P女王は伊香秋子、リバウンド女王は旭川N高校の松崎由実、アシスト女王はE女子校の楠木梨紗が獲得した。楠木のアシスト数が多くなったのは、王子の得点が無茶苦茶多かったからである! そしてベスト5は下記のように発表された。
 
伊香秋子(P.SG)/湧見絵津子(N.SF)/渡辺純子(P.SF)/高梁王子(E.PF)/大橋美幸(C.C)
 
MVP:渡辺純子(札幌P高校:2年連続)
 
この5人が前に出て表彰された所で、渡辺純子が王子に握手を求め、王子も最初は一瞬ためらったものの思い直したように握手した。ちゃんと応じられるのが、やはり王子も精神的におとなになった部分である。純子は絵津子と王子にも握手するよう促し、ふたりも握手した。3人は日本代表に行けばチームメイトになるのだから、わだかまりを残してはいけない。
 
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大会長さんが「今年の選手はハイレベルな人が多くてベスト5を選ぶのに物凄く議論があった」と言っていた。
 
おそらくはポイントガードの江森月絵(P高校)・原口紫(N高校)、リバウンドが僅差2位で優勝に貢献した工藤典歌(P高校)、あたりも候補に挙がったのであろう。
 

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表彰式の後は、新宿に出て焼肉屋さんで3位の祝勝会を開いた。費用はこの日旭川から出てきていた理事長さん持ちであった。この一週間練習に協力したOGたちも上等なお肉に舌鼓を打っていた。
 
湧見絵津子もこの頃までには完全に体力回復し「やけ食い」と称してかなりのお肉を食べていた。彼女は暢子とかなり話し込んでいた。絵津子は札幌F大学、ライバルの渡辺純子は札幌C大学に進学がほぼ内々定しており、ふたりは春からは札幌のリーグ戦で対決することになる。不二子・ソフイア・胡蝶は関東の実業団1部チームに内々定しており、紅鹿は札幌U大学で、睦子の後輩になる。
 
「まあ、そういう訳で、北海道に戻ったら地獄の合宿な」
と暢子は言っている。
 
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「え〜〜〜!?」
という声が1〜2年生部員から上がるが
 
「3年生5人が抜けるから新しいチーム体制を早く確立したいし、4月からはコートの形が大きく変わるから、新しいコートになれてもらわないといけないからね」
と南野コーチが言った。
 
「朱雀のラインの引き直しはどうするんですか?」
「今貼っているテープは全部剥いだ上で、タラフレックスというのを敷くんだよ。それは年明けてから入れてもらうことになっているんだけど」
と宇田先生。
 
「何日の工事になります?」
と由実が訊く。
 
教頭先生が手帳を見て「1月9-10日に工事してもらうから、11日月曜日から新しいレイアウトが使えるよ」と答える。
 
「どこか、既に新しいレイアウト線が引かれた体育館って無いですかね?他の学校の子とも話していたんですが、あれってできるだけ早くあのラインに慣れた所が、次のインターハイを制しますよ」
と由実が言う。
 
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「うーん。あちこち訊いてみたんだけど、まだみんな様子見の所が多くて。おそらくうちが道内の高校で最初になると思う」
と宇田先生。
 
その時、千里が言った。
「千葉まで来るなら、うちのチームの体育館が既に新しいレイアウトになっているけど」
 
「それどこですか?」
「一応千葉市内。千葉モノレールの終点から3kmくらい。寂しい所だから、女子高生が歩くのは絶対不可。車での送迎が必要」
と千里は言う。
 
「そこで合宿できませんか?」
と由実が言った。
 
みんながざわめく。
 
「こちらは構わない。どうせお正月はほとんどのメンバーが休みだし。でも宿泊場所はどうする?」
と千里。
 
「千葉方面でどこか安く泊まれる所ってありませんかね?」
 
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という声が出るが、その時、薫が言った。
 
「あそこの体育館に付属して宿泊施設もあったよね?」
「うん。でも多分4年くらい使ってない」
「寝泊まりするだけなら何とかならない? 食事とかはどこか別の所で作って運ぶという方式で」
 
「訊いてみる」
それで千里がその場で房総百貨店の総務部長さんに電話した。すると本当にそのままでいいのなら使ってもいいという返事がもらえた。
 
「かなり傷んでいるから、タダで貸していいって」
「そこ部屋はどのくらいあるの?」
「6畳の部屋が12個だって。だから1部屋に5-6人ずつ寝れば何とかなる」
「それは何とかなる気がする」
「寝具は?」
「レンタルする必要があると思いますが、そのくらいの費用は私が出しますよ」
と千里は言う。
 
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「じゃ東京合宿に続いて明日から千葉合宿かな?」
 
「うっそー!?」
 
「まあ3年生は受験とかもあるし帰った方がいい。1〜2年でも予定のある人は帰って良い。有志だけで少し鍛えてもいいかな?どうでしょう?宇田先生?」
と南野コーチが言う。
 
「東京方面のボランティアの人でオールジャパンに掛かってない人で助けてもらえる人があるなら。どうでしょう?教頭先生」
と宇田先生は教頭先生にあげた。
 
「校長が良ければ」
と教頭先生。
「理事長が良ければ」
と校長先生。
「じゃ、滞在費用として僕が個人的に100万円寄付するよ」
と理事長。
 
「おお、凄い!」
 
それで急遽、宇田先生、教頭先生、校長先生の3人で手分けして全部員の保護者に合宿延長をしていいかというのを電話して打診した。結局1−2年生全員のOKが取れた。更に東京方面の企業への就職が内々定している3年生のソフィア・不二子・胡蝶も参加することになった。
 
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なお帰りの航空券はそもそもフリーにしてあるので、1月上旬の帰道にしても問題無い。
 
千里は体育館をN高校に貸す件に付いて監督とコーチに連絡して承諾を得る。また薫に頼んで全員に同報メールを送り、年末年始の間、旭川N高校の合宿で体育館を占有したいので、どうしても練習したい人には個別対応したいという旨の連絡をした。
 
1月9-10日に千里たちの学年の子が成人式になり、指導側が大量に抜けるので、合宿は8日までということになった。それなら9日のオールジャパン決勝戦を見学できないかという話が出る。教頭先生がすぐ照会したが、決勝戦はもう売切れで無理ということだった。
 
「8日の準決勝なら取れるらしい」
「じゃ、それを見てから帰りましょう」
 
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それで合宿は8日の朝までということになった。(準決勝は12:00からと14:10から)
 

「私も参加するぞ。サーヤも参加するよな?」
と暢子がやる気満々に言う。
「まあいいよ」
と留実子はやや困ったような顔ながらも言う。お金の無い彼女は本当はバイトでもしたいところであったろう。
 
「千里は当然参加だよな」
と暢子。
「そうだね。言い出しっぺだし」
と千里は言った。
 
だけど、それなら私、実家に戻れない??どうしよう?と千里は考えていた。
 
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