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(C)Eriko Kawaguchi 2017-07-09
「分かりました。演奏か何かの仕事ですか?」
と千里は訊いた。
「そそ。スリファーズって、女の子っぽい3人組でさ。ケイに伴奏させるつもりが、あいつ沖縄に行っているらしくて」
と雨宮先生は言う。
「ああ。そういえばケイが女の子3人組のユニットをプロデュースするとかいうニュースが流れていましたね。あれ?今“女の子っぽい”と言いました?」
「うん。見た目は全員女の子なんだけど、ひとり実は男の子が混じっているから」
「ふーん。女装っ子なんですか?それともMTF?」
「学校にも女子制服で通学しているらしいから、MTFなんじゃないの」
「へー。最近はそういう理解のある学校が増えてきた感じですね。でもケイは急用ですか?」
「今ケイはローズクォーツのツアーで回っているんだけど、今日は空いているはずだから、金沢から呼びだそうと思っていたのよね。金沢から名古屋までは150kmしかないから時速3000kmのF-15に乗せれば3分で来れるし」
「それ無茶です」
と言いつつも、雨宮先生なら、そのくらい平気で要求しかねんなと千里は思う。
「でも今日は空いているからと言って沖縄に行ったらしい」
と雨宮先生。
「休暇ですか?」
「なんかファンの女の子が危篤状態になって、そのお見舞いらしいよ」
千里は一瞬意識を飛ばした。その子が峠を越えて危機を脱したことを認識するが、それは口に出さない。
「助かるといいですね」
「うん。私も祈っている」
雨宮先生にしては優しい言葉だなと千里は思った。
「でもそういうことなら伴奏しますよ」
「実際あとどのくらいで来れる?」
すると、電話の内容を聞いていた《こうちゃん》が
『あと5分』
と言った。実際車は既に高速を降りて市内を走行している。ルートはスムーズに行けるように《たいちゃん》が助手席に座ってナビゲートしている。
「あと5分で到着します」
「偉い偉い。入口の所にマネージャー行かせておくから」
「分かりました」
実際、《こうちゃん》が運転するフェラーリは5分で名古屋放送局に到着した。入口の所でおろしてもらう。あの人かな?と思った人に声を掛けると、△△社の遠藤さんという人であった。その人に守衛さんに話してもらって、車は駐車場に入れることができた。
それで車は《こうちゃん》に任せて遠藤さんと一緒に控室の方に行く。
スリファーズの3人と、★★レコードの北川さん、そして雨宮先生が居る。
「醍醐春海さんでしたね?」
と北川さんから言われた。
「はい、ご無沙汰しております」
それで北川さんがスリファーズの3人を紹介してくれたので、千里は《作曲家・醍醐春海》の名刺を3人に配った。
「醍醐先生は、鈴木聖子、KARION、ラッキーブロッサムなどの曲を書いておられるんですよ」
「わぁ!ラッキーブロッサムの!」
どうもその3組の中ではラッキーブロッサムが最も彼女らには知名度があったようである。
「まあそういう訳でこの3人のプロフィールを簡単に紹介すると」
と雨宮先生が言う。
「リードボーカルでソプラノの春奈、メゾソプラノの彩夏、アルトでボク少女の千秋。それでこの中の1人が男の子なんだけど、誰か分かる?」
などと雨宮先生は言う。
「春奈ちゃんでしょ?」
と千里が言うと
「よく分かりますね!」
と北川さんが驚いたように言った。
「知ってました?」
「いや、気の巡り方が男性タイプなんですよ」
「へー!」
「時間があったら、逆転させてあげられるんだけどなあ」
と千里が言うと
「あのぉ、霊能者さんか何かですか?」
と訊かれる。
「私はただの巫女ですよ」
と千里は答えた。
「もう巫女歴は8年くらいだよね?」
「そのくらいですね」
「へー!凄い」
「もし良かったら、今度、お時間の取れる時にお願いできませんか?」
「いいよ。但し、大事なお仕事が一週間以内に入っている時は避けて。最初は新しいバランスに戸惑うかも知れないし」
「じゃ年明けてからかなあ」
「でも2月にツアーがあるし」
「よかったら春休みくらいとかにお願いできませんか?」
「じゃ空いている時間を確認して連絡してもらえる?」
「分かりました」
番組は名古屋ローカルで生放送し、後日他の地区でも深夜に流すということであった。毎回若手のアイドルを2組ずつ取り上げる番組で、今日はスリファーズと線光花火らしい。1組の出番は12分ほどでスリファーズは3曲演奏する。その伴奏のキーボードを千里に頼むということであった。
楽曲は3曲とも、作詞作曲:マリ&ケイと書かれている。その楽曲を見て千里はマリがかなり精神力を回復させてきているのを感じた。おそらく、あと半年もすれば、あの子たち自分たちの活動を再開させるのではないかと思った。
取り敢えず3曲その場で合わせてみて、北川さんからOKをもらう。
「今初見ですよね?」
と春奈が尋ねる。
「そうだけど」
「よく弾けますね!」
「この子もケイも即興演奏に物凄く強い。完全初見、ぶっつけ本番というのもけっこうやってるよね」
と雨宮先生は言っている。
「まあ、そういう仕事ばかり私の所には回ってきますね」
「すごーい」
千里はそつなくスリファーズの伴奏をこなした。放送終了後、その場で先生からギャラを現金でもらい、先生と一緒に駐車場に行って、フェラーリとインプの間で荷物の移し替えをする。それで千里は自分のインプに乗って、東京へ向かった。
また《こうちゃん》に運転してもらう。《こうちゃん》には休んでいてと言っておいたのだが、実際には名古屋近辺のメスの龍をナンパしていたようで、楽しくデートしてきたらしく、機嫌が良かった。
東名をひた走って、16時、都内の業務スーパーに到着する。
「おお、来た来た」
と言って、川南、雪子、揚羽、司紗、夜梨子が寄ってくる。
「遅くなってごめーん」
「お肉とか、野菜は私たちの車に積んだんですけど、お米を少しそちらに乗せてもらえません?」
と揚羽が言う。
「OKOK」
それでみんなでお米を買いに行き、20kgの米を10袋買い、カートに乗せて車まで運んだ。夜梨子のヴィッツに4袋、千里のインプに6袋乗せる。普通の女の子の腕力では20kg入りのお米なんて、とても持てないのだが、それを持てるのが、さすがバスケット女子たちである。
ちなみに、東京遠征に参加するバスケ部のメンバーが40人ほどいるので、お世話係の子たちやコーチ陣、教頭先生なども合わせて60人ほどのメンツは1日で20kg以上のお米を食べてしまう。合宿所では5升炊きの釜を2つ用意している(米5升は約7.5kgで、これで御飯茶碗112.5杯分になる)。
このお米の購入で買い出しの品物がだいたい揃ったので、みんなで一緒に旭川N高校の合宿所となる東京V高校に向かった。旭川N高校女子バスケ部のメンバーが今夜到着して、28日まで8日間、ウィンターカップへの出場を含む合宿に入るのである。千里たちは昨年同様、お世話係と練習相手を兼ねたボランティアである。
一行は8時頃、到着したが、いきなりOGとの練習試合をやる。今年のウィンターカップのベンチ枠に入ったのはこういうメンツであった。
3年生(5) SF.絵津子 PF.不二子 SG.ソフィア GF.胡蝶 C.紅鹿
2年生(7) PG.紫(Cap) SG.花夜 SF.福代・SF.和花・PF.美宇 PF.ヒナ C.由実
1年生(3) PF.カスミ PG鮎美 SF.沙季
対するOG組はこうである。
PG.雪子(N大) 司紗(Rocutes)
SG.千里(Rocutes) 夏恋(LA大)
SF.敦子(J大) 夜梨子(Joyful Diamond) 麻野春恵(KQ鉄道)
PF.暢子(H教大旭川) 田崎舞(JP運輸) 薫(Rocutes) 川南(K大) 蘭(N大) 山口宏歌(AS製薬)
C.留実子(H教大旭川) 揚羽(CJ化学)
田崎さんが山口さんから「あんた今年のキャプテンね」と言われて「え〜?」と言っていたが、頑張ってみんなに指示を出していた。
留実子と暢子は千里が招待して、わざわざ旭川から出てきてもらった。この2人が入っているのと入っていないのでは戦力が段違いである。
そしてこの試合はOG組が現役組を圧倒する。絵津子が悔しそうな顔をしつつ肩で息をしていた。
「そういう訳で地獄の合宿が始まる訳だ」
と白石コーチが楽しそうに言う。
「日本代表が3人入っているからな」
と暢子は言うが、彼女自身、日本代表にかなり近い実力を持っている。また夏恋や川南などが大学のバスケ部で随分成長している所を見せた。
12月24日、クリスマスイブは「デートの無い子は集まろう」という話になった。それでいつものガストに出てきたのは、真帆・朱音・桃香・『千里』の4人だけである。
「あれ、桃香と千里はふたりで熱い夜を過ごすのかと」
などと朱音が言う。
「えー、別に私たちはそんな関係じゃないよ」
と桃香は答える。
実際まだこの時期は桃香としても千里に興味は持っているものの、まだ恋人とかガール(?)フレンドという意識までは無かった。
4人で話していたら、生物科の香奈から電話があり、向こうは2人だけということだったので合流する。それで香奈と聡美(*1)が来る。それで6人での《シングルベル女子会》となった。
(*1)同名で申し訳ないのですが、生物科の聡美は三村聡美、千里がローキューツに勧誘した聡美は東石聡美で別人。また生物科の優子は苫篠優子、桃香の元恋人の優子は府中優子で別人です。
この日は「どこかにいい男いねが?」という感じの話になり、理学部の男子の品評会になった。
「やはり男はちんちんだよ」
などとかなり酔っている感じの朱音が言い出す。
「千里、ちんちんのでかい男子知らない?」
「知らないよぉ」
「でも男子トイレで並んでしてたら、隣の人の見えないもの?」
「うーん。。。私はそもそも男子トイレってほとんど入ってないし、立っておしっこしたこともないし」
などと『千里』は苦笑しながら言う。
「うーむ。。。。」
「そこの所に微妙な疑問があるのだが」
と真帆が言う。
「千里って、たぶん立っておしっこするのに必要なものが存在しないよね?」
この質問にみんなごくりとツバを飲む。
「立っておしっこするのに必要なものはあるよ」
と『千里』は答えると、バッグの中からビニールに入った三角形の紙がたくさん重ねてあるものを取り出す。そしてその中から1枚取りだして広げてみせた。
「何それ?」
と疑問の声があがる。
知っていたのは桃香だけである。
「マジックコーン(*1)じゃん」
「何するの?」
「これをおしっこの出てくる付近に当てると、女でも立ち小便ができる」
(*1)Magic cone. FUD(Female Urination Device)としては老舗。
corn(トウモロコシ)ではなくcone(円錐)であることに注意。
「桃香、そういえば時々男子トイレ使っているよね?こんなの使っているの?」
「マジックコーンは使い捨てだから不経済。私はトラベルメイトだ」
「何それ〜?」
それで桃香が出してみせる。
「おお、これはリーチが長い」
「そうそう。マジックコーンは短いのも不満なんだよ。洋式トイレでなら使えるけど、男子トイレの朝顔だと、届かずに下にこぼしてしまうこともある」
などと桃香は言っている。
「それとトラベルメイトは、おちんちんと組み合わせられる」
と言って桃香は周囲を見回すと、
「あまり人前で見せるもんじゃないから、ちょっとだけ」
と言って、バッグから“おちんちん”を出してみせた。
みんなゴクリとつばを飲んだ。実はこの場で男性とのセックス経験があるのは桃香と千里だけで、他は全員処女である。実物を間近にリアルで見たことがない。
「これが中空になっているからここに差し込める」
と言って、トラベルメイトを中に挿入してみせる。
「すごい」
「これで、まるでちんちんからおしっこしているように見えるんだよ」
「凄いものの存在を知ってしまった」
桃香はすぐにそれをバッグにしまった。
「でもでも、千里、そういう道具を使うということは、やはりおちんちんは無いんだ?」
「あるよ〜。でも私の、すごく小さくて、立ってできないんだよ。それもあって小さい頃から、座ってしかしてなかったけど、どうしても立ってしなければいけない時のために、マジックコーン持っているんだよ。実はトラベルメイトは、おちんちんが付いていると使えない。マジックコーンだと、受け口が広いから、おちんちんがあっても使えるんだよ」
「なるほど!」
みんなはもう少し千里を追及したいような感じではあったが、あまり詰問するのもという感じで、この日はここまでしか話をしなかった。しかし桃香は逆にその千里の説明に納得していたようである。実際桃香は数日前に、千里のおちんちんを触って確認したばかりである。それで桃香はこんなことを言ってしまう。
「確かに千里のちんちんは、普通の男の子のもの(といっても研二のしか知らない)よりかなり小さいけど、トラベルメイトの口にははまらないかもね」
「桃香、千里のちんちんを知っているような発言だが」
「あ、いや、別にそういう訳では・・・」
と桃香が焦って言うので、他のメンツは思わず顔を見合わせた。
しかしこの桃香の発言で「千里は多分もう、ちんちんは取っている」という説はいったん、弱くなった。