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■娘たちのお正月準備(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-07-08
 
千里は火木土にファミレスのバイトがあるので、7,9,11日の夜に仕事をし、12日(日)の早朝、勤務を終えるとそのまま電車と新幹線を乗り継いで、大阪に向かった。振袖のケースを持って行く。成人式の日は貴司は試合の日程が入っており、千里の晴れ姿を見ることができないので、その前に見せてあげようというので持って行くのである。
 
新幹線の中で熟睡。起きてから新大阪で地下鉄御堂筋線に乗り継ぐ。9時すぎに千里中央駅に到着。歩いてマンションまで行く。自分の鍵でエントランスを開け、33階まで上がる。そして貴司の部屋まで行った時、千里は顔をしかめた。
 
ちょうどドアが開いて、そこから緋那が出てきたのである。しかも笑顔の貴司もいる。
 
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千里はカチンと来た。
 
「貴司、なんで彼女をこんな所まで入れるのよ?一晩一緒に過ごしたの?」
と千里は詰問するように貴司に言った。
 
「あ、えっと・・・」
と貴司は何だか焦った顔をしている。
 
その時、緋那が千里に向かって勝ち誇ったような顔をして言った。
 
「私これもらったから」
 
その緋那の左手薬指にはダイヤの指輪が輝いている。
 
千里は完全に頭に血が上った。
 

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「なんでそうなる訳!? この浮気者!屑!死んじまえ!」
と言うと、振袖の入っているケースで貴司を殴った。
 
日本代表シューターの腕力でしかも遠心力付きで、振袖・長襦袢・肌襦袢・帯・草履が入って5kgはありそうな和服ケースで殴れば、さすがの貴司も、吹っ飛んでしまう。
 
それで貴司は床の上に倒れてしまったが、死んではいないようだなと見ると千里はそのまま踵を返してエレベータに向かった。
 
北大阪急行(地下鉄御堂筋線)に乗り新大阪駅に戻ると、やってきた新幹線に飛び乗り、東京に向かった。
 
はらわたが煮えくりかえるようである。バッグの中に入っているアクアマリンの指輪を窓から投げ捨てたい気分だったが、あいにく新幹線の窓は開かない。
 
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貴司から何度も電話やメールが入るが、メールは全部そのまま削除、電話は着信拒否を設定した。
 
あまりにもむしゃくしゃしたので、千葉に戻ると、房総百貨店体育館に行き、スリーを500本撃ったが、今日の千里は全く精度を欠いた。5本に1本くらいしか入らない。
 
千里が何かイライラしている様子なので、あまり声を掛けずにいた浩子が、千里がミネラルウォーターを飲んでいる時に、おそるおそる声を掛けてきた。
 
「なんか調子悪いみたいね」
「むかつくー」
 
「何があったか知らないけど、今日はもうあがって一眠りした方がいいと思うよ」
 
「そうしようかな」
と言って、千里は帰ることにし、アパートに戻ると、シャワーを浴びてぐっすりと寝た。
 
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そして翌13日(月)の朝、目を覚ますと、指輪、金色リングの携帯ストラップ、マンションの鍵を一緒に適当な箱に詰め、宅急便で貴司のマンション宛に送ってしまった。中には「地獄に堕ちろ!」と書いたメッセージカードを入れておいた。
 

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その日は結局、学校を休んで、フェラーリ612スカリエッティ(三宅先生から!ライフと交換で貸してもらった。雨宮先生は千里のインプを持ったまま依然“逃走中”らしい)に乗ると、高速に乗って、首都高→中央道→長野道→上信越道→関越とループを走ってきた。
 
さすがパワフルなフェラーリだけあって、少し油断すると物凄い速度になりそうなので慌ててブレーキを踏む。
 
しかし凄い車で結構な距離ドライブしたら、少しは気分が落ち着いた。それでも貴司に対する怒り自体は納まらない。自分は振られたのだろうか?というのも考えるのだが、その失恋の感情より怒りの感情の方が遙かに大きい。
 
千葉北ICを降りて、自分のアパートの方向に走っていたら、路上を歩いている桃香を見る。
 
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車を停めてクラクションを鳴らす。
 
「あれ?千里?」
「桃香、どこ行くの?」
「ちょっとお使いに行ったんだよ。直帰していいから、バスか何かでアパートに帰ろうと思っていた所」
 
「送っていこうか?」
「助かる」
 
それで桃香を乗せる。
 
「これ凄い車だね」
「知り合いから借りた」
「よくこんな高そうな車を貸すね〜!」
「これ新車で買うと3000万円だったと思う」
「ひぇー!」
 
「何なら少し一緒にドライブする?」
「するする。楽しそう!」
 

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それで結局千里はまた千葉北ICに逆戻りし、今度は館山自動車道方面に行く。そしてアクア・ブリッジを渡って、海ほたるにいったん駐めた。ふたりが車を降りると、周囲がこの車に注視している感じである。何と言っても目立つ車だ。
 
ここで一緒に晩御飯を食べ、たわいもない話をしてから、車に戻る。
 
そしてアクア・トンネルを走って川崎方面に走っていた時、千里は初めて、その問題に触れた。
 
「私・・・振られたかも」
 
桃香はしばらく無言だったが言った。
 
「千里、アパートに戻ったら、一緒に少し飲まない?」
 
千里はしばらく考えてから答えた。
 
「それもいいかもね」
 

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それで千葉まで戻ると、スーパーの駐車場にフェラーリを駐め、金麦350ccを1箱(6缶×4パック)と、お総菜やオヤツなどを買った。
 
それで千里のアパート近くの駐車場に駐め、アパートに戻る。これが桃香にとっては千里のアパートへの初来訪になった。
 
「適当にそのあたりに座って」
「うん」
と言って台所に置いてあるコタツの所に座る。それでとりあえず金麦を2本取り出すと
 
「取り敢えず乾杯」
と言って缶をぶつけ合い
 
「頂きまーす」
と言って飲む。
 
「やはり金麦って美味しいよね」
「うん。いつも安いのばかり飲んでるから、たまに飲むと凄く美味しく感じる」
 
ふたりは千里の恋愛問題は敢えて話題にせず、大学生活のこと、バイト先でのことなどを楽しくおしゃべりしながら、適当に料理をつまみ、お酒を飲んでいた。
 
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1時間ほどそんなことをしていて、桃香はトイレに立つ。ここまで既に桃香は金麦を4本、千里も2本空けている。そしてトイレから戻って来た時、初めて気がついて言った。
 
「千里、なんで本棚とか衣装ケースとか、全部台所に置いてあるの?居室がほとんど空じゃん」
 
「ああ。このアパート雨漏りが酷くて、そちらの部屋は使えないんだよ。台所は雨漏りしないから、こちらで生活している」
 
「えー?それは不便じゃないの?」
「まあ最近、荷物の置き場所に結構困っている」
 
「なんか本棚が二重に置かれているし、かなり大量に段ボールが積まれているし」
「さすがにどこかに引っ越すべきかという気も、し始めているんだけどね」
 
「この段ボールとかだけでも、何ならうちのアパートに置かない?すぐは使わないものなんでしょ?」
「あ、置かせてもらったら助かるかも。夏服とか、使用頻度の低い本とか、古いCDとか各種記念品とかなんだよ」
 
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「うちなら使う時はいつでも勝手に入って使ってもらえばいいし」
「なるほどねー」
 

それで善は急げ?ということで、明日にでも一部の段ボールを桃香のアパートに運び込ませてもらうことにした。
 
結局その日は台所にふたつふとんを敷いて寝た(千里が貴司用の布団に、桃香が千里用の布団に寝る)。
 
しかし酔っているのもあり、桃香はつい“いつもの癖”で、千里の布団の中に手を入れて、お股の付近を触る。この日の千里は1日で新潟ループ700km, 東京湾ループ120kmを走ってきただけあって完全に疲れて熟睡していたので、触られていることに全く気付かなかった。
 
そして桃香は千里のお股に触って「え!?」と思う。
 
ちんちんが無い!?
 
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触った感触がまるで女の子のお股なのである。
 
まさか、千里って本当は女の子だったの〜?
 
桃香はあまりにも驚いたので意識がはっきりしてしまい、この日は千里をこれ以上襲わなかった。
 
それでこの日、千里は貞操を奪われずに済んだのである!
 

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14日・火曜日はふたりとも寝過ごしそうになるのをギリギリで起きて、フェラーリで大学に出て行った。車を駐車場に駐めていたら、紙屋君が
 
「すごい車だね!買ったの?」
などと訊くが
「まさか。借り物だよ〜」
と答えておいた。
 
この日、授業が終わると千里と桃香は誘い合って一緒にフェラーリに乗り、千葉北IC近くの千里のアパートまで行ったが、ふたりが仲良さそうに(?)凄く格好良い車に一緒に乗るのを多数の友人たちが見たので、彼女たちは一様に顔を見合わせていた。
 
さすがに借り物のフェラーリで荷物を運んで傷つけたりしてはいけないし、そもそもこの車は荷物を運ぶには不便なので、千里は市内に住む友人から軽トラを借りてきて、これで段ボール箱を20個ほどと一部の本棚・衣装ケースを桃香のアパートに運び込み、本棚以外は取り敢えず押し入れに放り込んだ。
 
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「桃香さあ、こちらの四畳半に散乱している荷物だけど、これ棚とか買ってきて、そこに入れたらスッキリしない?」
と千里は言った。
 
「それは朱音や玲奈に指摘されたことはある」
「よかったら、私、少し片付けようか?」
「そ、そうか?」
 
それで軽トラがあるのをいいことに、千里は桃香と一緒にホームセンターに行き、“エレクターもどき”のスティールラックを2つと、カラーボックスを念のため6個買って、桃香の部屋に運び込んだ。
 

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ふたりで一緒に組み立てるが、ここでは桃香がとっても頑張った。実際この手の作業があまり得意でない千里がやっていたら、カラーボックスを組み立てるだけでも一週間掛かっていたかも知れない。
 
桃香がてきぱきとスティールラックを組み立て、カラーボックスも組み立ててしまう。カラーボックスの内3つは押し入れの中に置いた。それでこのラックとカラーボックスに荷物を置いていくと、これまで物に埋もれていた4畳半がスッキリしたし、6畳の方もかなり物が減った。
 
「これは6畳にも布団を2組敷けるかも」
「ここって簡易宿泊所している雰囲気あるみたいね」
 
「でも見違えたね〜」
「素晴らしい」
 
千里の荷物の中には楽器類もある。特に、ベース、ギター、大型88鍵のキーボードは目立った、
 
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「千里、ギター2つも持ってるんだ?」
と桃香が言うが
「それ1本はギターじゃなくてベース」
と千里は言う。
 
「なんか違うんだっけ?」
「弦が4本で少し大きめのがベース。ギターは弦6本」
 
といって千里はケースから中身を出してみせる。
 
「なるほど!」
 
「ここに書いてあるのがメーカー名?」
「そうそう」
「何て読むんだろう?こちらはフェンダー?」
「うん」
「こちらは・・・・ガイブゾン?」
「ギブソン」
「へー。どちらも聞いたことないや。ヤマハとかカワイなら分かるけど」
 
カワイがギター作ってたっけ??(*1)
 
しかし桃香は洋楽好きと聞いていたのだが、楽器にはあまり詳しくないようだというのを千里は認識した。ギブソン(Gibson)もフェンダー(Fender)も知らないとは。しかしこれは千里にとっても好都合である!
 
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なお、千里のベースはFender Jazz Bass American Elite、ギターはGibson SGである。いづれも新島さんに勧められて昨年買ったものだが、高校時代はフェンダー傘下の廉価モデル・ブランド、スクワイヤのAffinity Jazz Bassを使っていた。自動車学校の寮に持ち込み、“モエっち”と一緒に弾いていたのがそのベースである。フェンダーを買った後、スクワイヤのベースは鮎奈に譲った。
 

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(*1)河合楽器製作所は1958年以降ギターを作っており、太めの三日月のような形の“ムーンサルト”などという名器(?)もあったが、2000年頃までに撤退した模様。ギターの製造は傘下のテスコ(Teisco.元は独立のギターメーカーで1967年にカワイの系列になった)が行っていたが、このテスコ自体2004年にカワイウッドに吸収されて消滅している。
 

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娘たちのお正月準備(13)

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