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■娘たちのお正月準備(19)

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千里が、ずっとウィンターカップに出ている旭川N高校に付いているので、年末年始のファミレスのバイトは《てんちゃん》に、神社の巫女の仕事は《きーちゃん》に出てもらっていた。そういうわけでこの時期は、千里が同時に3ヶ所で稼働していたことになる。
 
なお千里が勤めている(?)ファミレスは31-3日はお休みである。この時期はむしろ稼ぎ時というのでフル回転のファミレスが多い中「正月は休むもの」と言って、全てのお店と移動販売車を休業してスタッフを休ませるこの会社は、その件で経済雑誌に取材を受けたこともある。
 
一方《きーちゃん》が出ている神社の方は、こちらこそ年末年始は書き入れ時である。おみくじをしたり、縁起物の頒布をしたり、昇殿しての祈祷のお手伝いをしたり、時間が空いたら境内の掃除をしたりで、《きーちゃん》は大忙しであった。《きーちゃん》が神社の方を担当したのは、何と言っても祈祷で龍笛を吹く必要があるからだ。《きーちゃん》は充分龍笛が上手いのだが、もう1人の龍笛担当の由衣さんが首をひねっている。
 
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「どうかしました?」
と美歌子が尋ねる。
 
「なんか千里ちゃんの龍笛がいつもと違う感じで」
「そうなんですか?」
 
こういうのは普通の人には分からなくても同じ横笛吹きには分かってしまうところである。
 
「体調でも悪いんですかね?」
「いや、物凄い円熟味を感じる。まるで100年か200年、龍笛を吹いてきたみたいな」
「午前中、丸田さんに騙されて御神酒飲んじゃったみたいだから、それで調子良くなっちゃったとか」
「だとすると、物凄い偶然の産物なのかも」
 

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一方、桃香も年末年始は通販の申し込みも多く、勤務時間が長くなっている感じであった。一応桃香は30日から4日までお休みをもらっている。
 
千里は何だか忙しそうで、25日以降はほとんど会えなかったものの、この時期桃香は他の女子たちにも指摘された藍子ちゃんとラブラブの状態であった。藍子はC大学の文学部に通っており、しばしばキャンパス内でも会っている。どうもそれを玲奈たちに目撃されているようだ。彼女も今度成人式で、12月26日に前撮りをした。ちょうどバイトの空いている時間になったので桃香も一緒に付いていった。
 
「私が着付けとかできるのなら、プライベートにも着せてみたいんだけどなあ」
などと言っている。
 
「でも桃香も振袖というのは意外だ」
「何着ると思った?」
「セーターとジーンズとか」
 
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「藍子は私の性格をよく分かっている気がする。私もそのつもりだったんだけど母ちゃんが振袖着ろって言うからさあ」
「まあ親としては娘に振袖着せたいよね」
 
「しかし並んで写真撮れたら良かったんだけどなぁ」
「それじゃまるで結婚式の写真だよ」
などと藍子は言っている。
 

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写真を撮り終えてから(振袖は脱いで普段着に着替え)、バイトの時間まで短時間のデートをする。少しおしゃれなイタリアンレストランで御飯を食べながらのデートになった。普段はラーメン屋さんとか、せいぜい吉野家とかマクドナルドなので、こういう所に連れてくるのも、桃香としてはかなりの贅沢である。
 
「そういえばこないだ、桃香、何だか背の高い女の子と歩いていたね」
といきなり藍子に指摘されるので、桃香はむせる。
 
「まあ桃香は浮気の天才だから、多少は気にしないけどね」
「いや、あの子は男の子なんだよ」
「はあ?」
 
「いわゆる女装っ子だよ」
「桃香って、女装っ子でもいいんだ?」
「いやだから、男の子は恋愛対象外だって」
「ほんとに〜?」
とどうも藍子は桃香をかなり疑っているようであった。
 
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「でもフェラーリに乗り込む所見たけど、どこかのお金持ちの娘?あ、いや息子になるのかな?」
 
「あの車はお金持ちの知り合いから借りたものだって。あの子は車は持ってないんだけど、よくいろんな友人から車を借りている」
 
「フェラーリを貸してくれるって凄いね!」
「だから、あの子、インプレッサとか、マジェスタとか、ライフとか、アクティとか、ミラとか、アウディとか、フェラーリとか、色々な車に乗っている所を見たよ」
 
「ふーん。そんなによくその子の車に乗っているんだ?」
「いや、だから恋愛関係じゃないって」
 
結局桃香は今夜のバイトが終わった後、明日再度藍子とデートすることを約束して別れた。浮気を疑っている彼女のご機嫌を取るのに、どうも明日はもっといい所に食事に連れて行かないとやばいようだ! 高岡への帰省は格安バスかなあ、などと考え始めていた(桃香はもとより新幹線とかで帰省するつもりは毛頭無いが《夜行急行・能登》の予約が取れなかったので、普通列車乗り継ぎで帰るつもりだった)。
 
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東京体育館。
 
12月26日は4回戦(準々決勝)の4試合が行われた。
 
旭川N高校は吉住杏子や佐々木千代花・永岡水穂らを擁する東京T高校との激戦を制して70-72で辛勝した。吉住杏子はこれが高校最後の試合になる。試合終了後、友人でもあり、お互いにマーカーになって激しいゲームをした松崎由実とハグして今後の頑張りを誓い合った。
 
ほかの試合では、門脇春花や大橋美幸らの福岡C学園が山形治美や小松日奈の愛媛Q女子校に勝ち、渡辺純子が率いる札幌P高校も富田路子らの大阪E女学院に勝ち、高梁王子の岡山E女子校は加藤絵理や夢原円の愛知J学園を粉砕した。
 
高校女子バスケの絶対的女王である愛知J学園との試合が60-80という大差であったことで、他の学校はあらためて高梁王子の恐ろしさを認識した。
 
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結果的に今年はU18チームのセンターであった富田路子(大阪E女学院)・吉住杏子(東京T高校)・小松日奈(愛媛Q女子校)・夢原円(愛知J学園)の4人全員がこの日で消えてしまった。
 
そしてBEST4には、旭川N高校・福岡C学園・札幌P高校・岡山E女子校の4校が勝ち残った。
 
ウィンターカップは3位決定戦があるので、この4校は最終日まで試合があることが確定である。そしてこの4校の中の1校だけはメダルがもらえない。
 
旭川N高校はまさに昨年のウィンターカップでそのメダルがもらえない4位に甘んじたので、今年こそは“金色の”メダルを取るぞ!と絵津子たちは気勢を挙げていた。
 

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12月27日(月)。
 
東京体育館はこの日からセンターコート仕様になる。
 
昨日まではフロアに2コート取られて2つの試合が同時に行われていたのだが、今日からは中央に1コートだけ取られて、1度に1つの試合のみが行われる。そのセンターコート仕様になって最初の試合は、旭川N高校と福岡C学園の準決勝であった。
 
「お客さん少ない」
と1年生の徳宮カスミが言う。
 
「今日は第2試合を見に来る客が多いだろうからね」
と2年生の松崎由実は言う。
 
「岡山E女子校と札幌P高校の準決勝が今年のウィンターカップの事実上の決勝戦だと、ネットには書かれていた」
と3年生の夢野胡蝶が言う。
 
「言わせておけばいい。私たちは勝つだけ」
と同じく3年生の湧見絵津子が言った。
 
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キャプテンは2年生の原口紫ではあるが、やはりこのチームの精神的な支柱は14番の背番号を付けた絵津子である。
 

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早朝の練習では性別問題で出場できない横田倫代や、OGの千里・暢子たちも入って濃厚な練習をしている。そのあと、30分ほど仮眠してから朝御飯を食べ、会場に出てきた。
 
福岡C学園との試合は接戦になった。
 
姉妹校の旭川C学園が近くにある縁もあって、両者は年に3回以上練習試合をしており、お互いの手の内はほぼ把握している。それでも練習試合では見せていなかったコンビネーションプレイも繰り出して、戦いは続く。
 
両者譲らないまま試合は延長戦に突入する。
 
客席では、旭川N高校の応援席には、千里・暢子・留実子・揚羽・川南・夏恋などが最前列に陣取って大きな声で声援を送っている。福岡C学園側も、桂華・サクラ・朋代らが必死で声援を送っている。
 
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しかしどちらかが点を取ればすぐ相手も取り返す展開が続く。第2延長では一時期旭川N高校が6点リードしたが、C学園1年生の岩永咲絵が連続してスリーを放り込んで追いつき、第3延長に突入する。
 
このオーバータイムでもシーソーゲームが続いていたが、残り3秒でN高校1点リードの場面から、福岡C学園の大橋美幸がブザービーターとなる逆転のゴールを決めて、激戦を制した。
 
試合終了のブザーが鳴った時、床に座り込んで立てない選手が何人もおり、審判が数回促して、やっと整列してゲームの勝敗が宣言された。
 
福岡C学園は歓喜であったが、N高校はみんな泣きじゃくっていた。ひとり松崎由実だけが仁王のように立ち尽くしていた。
 
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この試合が第3延長まで行ったため、第2試合は11:30からの予定が11:50からに繰り延べられ、以下今日の全試合が20分遅れで始まることになった。
 
旭川N高校の控室が沈痛なムードで、まだ泣いている子もいる中、暢子と千里がガラッとドアを開けて入ってくる。
 
「さて、君たちのこれからの予定は?」
と暢子が訊く。
 
「第2試合を見た後で宿舎に帰って練習します」
とキャプテンの紫が答える。彼女もかなり泣きはらした跡があった。
 
「ふーん。他の試合を見物している暇があるんだ?」
と暢子は言った。
 
その言葉に紫はキリッとした顔をして応えた。
 
「みんな、P高校とE女子校の試合なんか見てないで、さっさと帰ってたくさん練習しようよ」
 
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「それで少なくとも第2試合の学校よりは2時間くらい長く練習できるね」
と松崎由実が言う。彼女は最初からそれを提案するつもりだった雰囲気である。
 
「いいですか?南野コーチ?」
と紫が訊く。
 
「もちろん。それをあんたたちが言い出すのを待っていた。暢子ちゃんたちも協力してくれない?」
と南野コーチ。
 
「もちろんです。徹底的に鍛える」
と暢子は言った。
 

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そこでN高校のメンツはすぐに控室を出ると、電車を乗り継いで1時間ほどで東京V高校まで辿り着き、すぐに練習を始めた。絵津子は千里と、由実は暢子と、紫は雪子と、不二子は薫と、紅鹿は揚羽と、ソフィアは敦子と、胡蝶は留実子と、みんな1on1で濃厚な練習を続ける。花夜・沙季たちのシュート練習は千里が電話をして呼び出した昭子が見てあげていた。
 
休憩をはさんでこの日の練習は夜中10時すぎまで続いた。練習を長時間中断せずにカロリーが取れるように、司紗や夜梨子がハンバーガーやフライドチキン、を大量に調達してきてくれたし、千里が応援に呼び出したローキューツの浩子と玉緒がおにぎりを大量に作ってくれたが、飛ぶように無くなっていった。
 
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もうひとつの準決勝で札幌P高校が1点差で勝ったという情報は10時に練習が終わった時点でやっと部員たちに報されたが、詳しい内容は明日の朝説明すると白石コーチは言った。
 
それで一応練習終了、お風呂に入って寝なさいということになったが、胡蝶・由実・カスミと絵津子・不二子・ソフィアの6人だけは、特に許可をもらって、更に夜中過ぎまで練習を続け、暢子や千里たちがそれに付き合ってあげた。練習が終わった後は、薫・千里・司紗の3人が手分けして、6人のマッサージをしてあげた。ローキューツの浩子と玉緒が調達してきてくれた牛丼をこの6人で20杯も食べた!
 
なお最後まで練習に付き合った千里・暢子・留実子・揚羽・夏恋・川南の6人は、手伝ってくれた浩子・玉緒と一緒に深夜のファミレスで食事を取りながら少しおしゃべりし、そのあと2時過ぎに解散した。
 
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12月28日(火)。
 
ウィンターカップ最終日。
 
朝から昨日の岡山E女子校と札幌P高校の試合の様子が報告される。実際に試合を見学した白石コーチからP高校がどうやって高梁を抑えたかの説明がなされた。
 
「単純明快。渡辺純子が1人で高梁にマッチアップした」
と白石コーチは説明する。
 
「それで純はプリンを抑えたんですか?」
と絵津子が質問する。
 
「いいや」
と白石コーチは答える。
 
「それで勝てたんですか?」
「渡辺君は高梁君を完全には封じることはできなかった。しかしそのパワーを半減させた」
 
あぁ・・・という声があちこちからあがる。
 
「高梁君を半分のパワーに落とすだけで、今年のE女子校には勝てるんだよ。P高校は他にも凄いメンツが揃っているから」
 
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「だったら今日の試合では・・・」
とキャプテンの紫が途中まで言って口をつぐむ。
 
「誰かが、高梁君のパワーを半分まで落とす仕事をする必要がある」
と白石コーチは言ってから、みんなを見た。
 
「私にやらせてください」
と決意を込めた表情で湧見絵津子は発言した。
 
「うん、頑張りなさい」
と宇田先生が言った。
 
「ちなみに、渡辺君は昨日の試合のブザーが鳴った後、倒れてしまって、担架で運び出されたよ」
と白石コーチ。
 
「私も試合が終わったら倒れるくらいのつもりでやります」
と絵津子は言った。
 
「渡辺君の場合、180cm 70kgと体格にも恵まれているから、183cm 87kgの高梁君に対抗できた面もある。湧見君は164cm 58kg。体格的にはかなり厳しいよ」
と白石コーチは言う。
 
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「体格で負ける分、スピードで勝ちます」
と絵津子は言った。
 
「大きな体重の子と激突しても吹き飛ばされない要領、付け刃(つけやいば)になるかも知れないけど、私と花和(留実子)で少し湧見に指導したいんですが」
と千里が言った。
 
「頼む」
と宇田先生が言った。
 

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