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■娘たちのお正月準備(16)

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「あなた、お風呂にする?ごはんにする?それとも、わ・た・し?」
 
「えっと・・・何かいい匂いしてるし、ごはんにしようかな」
「じゃ、座って座って」
と言って、キッチンのテーブルに貴司を座らせる。
 
「メインディッシュ」
と言って、オーブンからローストチキンを取り出す。
 
「すごーい!」
 
「ロールキャベツもあるよ」
と言って、鍋から深い皿に盛る。冷蔵庫からサラダを出してきて、これも皿に盛る。
 
「ワインもあるし、ビールも冷えてるよ」
 
「じゃ、ワインで乾杯して、その後、ビールを飲もうかな」
「OKOK」
 
と言って、千里はワインを開栓しようとしたが、その手を貴司が止めた。
 
「その前に、これを再度受け取ってくれない?」
と言って、バッグの中から青い指輪のケースを取りだした。
 
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「うん」
と言って千里は小さく頷く。貴司が指輪を取りだし、自分で千里の左手薬指に填めた。
 
キスする。
 
「私、もう貴司の奥さんだからね。私のことは好きにしてね」
「僕はもう7年前からずっと千里のことは僕の奥さんだと思ってる」
 
それでまたキスした。
 
「そうだね。almost alwaysそう思ってくれているよね」
「オールモ・・?」
「まあ気にしないで」
 
almost always(ほとんどいつも)の意味は、数学屋さん以外にはまあ分からないだろう、と千里は思う。almost everywhere, almost all などと類似の概念で、その命題が成り立たない時刻の測度(あるいは濃度)がゼロであることを示す。貴司は千里の「浮気チェック」を恐れているので、浮気をした次の瞬間、千里に叱られるかも?などと考えてしまう。つまり継続して他の女性のことだけを考えることができない体質になっている。
 
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almost allというのは数学屋さんの間では解析的延長(analytic continuation)などと共に、よく「日常会話」に使われるフレーズである。
 
例えば女の子パンティを手に取ったら、ついそれを穿きたくなり、それでつい完全女装してしまったとしたら、女装したのは、女の子パンティを手に取ったことから来る「解析的延長」である!
 

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貴司は続けて金色の携帯ストラップも渡したので、千里は素直に受け取って、自分の携帯に取り付けた。これで貴司の携帯に付いているものとお揃いである。
 
「この鍵は私が持ってて良い?」
と言って、さっき貴司のスポーツバッグから持って来た優佳良織のキーホルダーが付いた鍵を見せる。
 
「それは千里の鍵だから、千里が持ってて」
「うん」
 
千里はこの鍵を何度か貴司に返したことがあるものの、たいていすぐ戻され、結局、貴司が阿倍子と結婚していた間(2013-2017)も、美映と結婚していた間(2018-2020)も、ずっと持っていた。2020年春に貴司が埼玉に引越した時は新しいマンションの鍵と交換した。
 
ワインは結局貴司が開けてくれる。2つのグラスに注ぎ、
 
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「僕たちの愛に乾杯」
「私たちの未来に乾杯」
「ついでに少し早めのメリークリスマス」
「メリークリスマス」
 
と言ってグラスを2度合わせた。
 
その後、ビールを出してくる。
 
「わぁ、ヱビスビールだ」
「毎回は買わないけどね」
「でもやはりこれは美味しいよ」
 
それで食事を始めようとしたのだが、貴司が注意する。
 
「千里、食事の前にその服は脱いだ方がいい」
「脱いで、裸になった方がいい?」
「いや、普通の服を着て!」
「OKOK」
 
「でもそれ可愛い柄だね」
「この夫婦の鳳凰が貴司と私。この小さな鳳凰2羽は私たちの子供」
「へー」
「たぶん私、2人産むと思うから」
「・・・・」
 
それで千里は、わざと貴司の目の前で帯を解き、振袖を脱ぎ、長襦袢と肌襦袢を脱いで裸になる。その上でブラとパンティを付け、普段着のワンピースを着た。貴司がドキドキした目でこちらを見るのが快感だった。
 
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「理性が吹き飛びそうだった」
「吹き飛ばしてもいいのに」
「いや、せっかくの御飯を暖かい内に食べたいし」
 
「この振袖、取り敢えずこのマンションに置いておいてもいい?」
と振袖や襦袢を畳んで和服ケースにしまってから言う。
 
「いいけど、成人式は?」
「別口でも振袖作っちゃったんだよね〜。そちらは型押しの“友禅風”で」
「へー」
「だから、成人式はそちらを着るよ」
 
「千里、どこの成人式に出るの?留萌?旭川?千葉?」
「千葉に出るよ。留萌は9日、旭川と千葉は10日なんだけどね。留萌にはお正月に帰省しようと思ってて」
「ああ、それもいいかもね」
「貴司は今年は帰省するの?」
「それが年末年始に韓国出張が入っちゃって」
「大変だね!」
 
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「でも僕うっかりクリスマスのプレゼント買ってなかった。後で何か適当なものを買って、そちらに送るよ」
 
「うん。高い物でなくていいからね。ボーナスはエンゲージリングを買う時まで取っておいてね」
「そうする!」
 
実際、貴司はこの冬のボーナス、翌年夏のボーナス、冬のボーナスを合わせて千里にダイヤの指輪を買ってくれることになる。
 
「あと、これも持って来ちゃった」
と言って、千里はヴァイオリンケースを出す。
 
貴司は笑って受け取ると、ケースを開けてヴァイオリンを取りだし、胴の内部に貼り付けてある紙を取り出す。
 
「大好き。殴ってごめんね」
と書いてある。それでまたふたりはキスした。
 

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この日ふたりは仲良く、食事をし、ケーキも食べた。貴司はヱビスビールを4缶も飲んだし、千里も1缶飲んだ。
 
そして食事の後、千里、貴司の順にシャワーを浴びて、寝室でたっぷりと愛の確認をした。
 
翌土曜日は朝から練習に行く。千里は貴司を送り出してからその日の晩御飯を作って冷蔵庫に入れてから、体育館に行ってみた。
 
貴司たちが練習している。明日日曜日に今季リーグの最終戦があり、これに勝てば3位になることができる。船越監督の指導も熱が入る。千里はお昼を貴司と一緒に食べた後、「じゃ頑張ってね」と言って桃山台駅に行き、新幹線で千葉に戻った。夕方からファミレスに出勤する。
 

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12月19日(日)、貴司のチームは今期の大阪実業団リーグ戦最終戦に臨んだ。この試合に勝って、チームは1部で8チーム中3位となった。今期1部に昇格したチームとしては、充分な成績である。
 
祝勝会を終えた後、貴司は梅田に出ると、ジュエリーショップでアクアマリンをあしらった18金のイヤリング(6万円)を購入。そして新幹線に飛び乗ると東京に向かった。途中で千里にメールする。
 
《急に申し訳無いけど東京駅に来てくれない?今新幹線の中》
《会えるのは嬉しいけど、明日の仕事はどうすんの?》
《この新幹線が20:53に東京に着くんだよ。それで21:20の新大阪行き最終新幹線で帰ろうと思う。だから千里、東京駅の東海道新幹線ホームまで来られない?渡したいものがあるから》
《だったら、深夜ドライブデーとしない?私車持っていくから、夜間大阪までドライブしながらデート。朝、大阪で貴司をお見送り》
《千里、学校は?》
《平気平気》
 
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それで千里はフェラーリを満タンにすると東京駅に貴司を迎えに行った。駅近くの駐車場に駐めて新幹線改札口で貴司と会う。そのまま貴司を近くの帝国ホテルのレストラン街に連れて行った。
 
「何か高そうなお店ばかりなんだけど」
「今夜はクリスマスデートするカップルが多いからどこもいっぱいだったのよね〜。バイト代入った所だから、私が持つよ。こないだ殴ったお詫びで」
「その話はもう済んでいるのに」
 
和食の店に入る。予約しているのでスムーズに席に案内される。
 
「お酒飲む?」
「じゃ少し飲もうかな」
 
というので、予め在庫を確認しておいた剣菱の限定品・瑞祥黒松剣菱4合瓶を頼む。千里はオレンジジュースを頼んだ。
 
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「あれ?千里は飲まないの?」
「だって私、未成年だもん」
「忘れてた!」
 
それで乾杯する。
 
「今季3位おめでとう」
「千里も今季かなりいい成績だったね」
 
と言って、グラスを空ける。
 
「このお酒、美味しい!」
「良かった。灘のお酒だけどね」
「大阪から東京に出てきて神戸のお酒を飲むというのは不思議な気分だ」
 
そして飲み終えてから
 
「それに私、運転しないといけないし」
と千里は言った。
 
「それも忘れてた!!」
 
千里としては、疲れている貴司には大阪までの行程中寝ていてもらいたいと思い、運転できないようにするのと眠りやすいようにするのを兼ねて、わざと飲ませたというのもあった。
 

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「これクリスマスプレゼント」
と言って、貴司はイヤリングの入ったジュエリーボックスを渡す。
 
「何か高そう!」
「付けてみてよ」
「うん」
 
それで千里がイヤリングを両耳につける。
 
「可愛いよ」
「そう?」
と言って千里も鏡に映して見る。わぁ〜、大人っぽいと千里は思った。
 
それで楽しく食事をしながらおしゃべりをした。むろん話題はバスケットの話ばかりである! 千里もこういう話が好きなのだが、貴司がほんとに楽しそうにバスケのことを話す、その表情がまた千里を幸せな気分にしてくれた。
 

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22時で閉店なので、お店を出る。駐車場に移動する。
 
「何この車?」
と貴司がフェラーリを見て驚く。
 
「借り物。というか、私のインプを友だちが持っていって、まだ返してくれないのよ。この車はその代わりにといって貸してくれた」
「凄い車だね!」
 
ともかくも、車に乗った所でキスした。
 

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すぐに車を出す。首都高に乗る。
 
「凄いパワーだ」
「うっかりアクセル踏み続けると凄い速度になるよ」
「やってみたーい」
「こんな所でやったら捕まるって」
 
実際千里が運転していると、後ろから白いマークXが付いてくる。千里はエンジンブレーキを使って制限速度-3km/hくらいまで落とす。普通の車ならここまで落とすと追い越して行くのだが、マークXはこちらに速度を合わせてピタリと追尾する。
 
「覆面パトカーだね」
と千里が言う。
「え?そうなの?」
「こんなにピタリと付いてくるのはおかしい。こちらはわざと追い越しやすいように少し速度を落としているのに。それによく見るとルームミラーが2つ付いてるし(*1)。青い服の人2人乗り」
 
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「おぉ!」
 

(*1)ルームミラーが2つ付いているのは覆面パトカーの大きな特徴と言われた時期もあったのですが、2017年現在では、ルームミラーが1個しかない覆面も増えているらしいです。
 

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そのマークXはしばらくフェラーリの後を付いてきたものの、こちらが制限速度-3km/hでずっと走っていると、やがて分岐で別の方面に行った。
 
「別の獲物をハントしに行ったようだ」
「まあこんなオービスとかもあるような所でスピードは出せない」
「だよね〜」
 
それでまたバスケの話をしている。しかし貴司があくびをする。
 
「ごめんごめん。試合の後で疲れているよね。リクライニングして寝ててね」
「そうさせてもらおうかな」
 
それで貴司は助手席をリクライニングさせて、そのまましばらく千里とおしゃべりしていたが、東京ICを通る前に眠ってしまった。千里も運転を《こうちゃん》に任せ、精神を眠らせた。
 

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貴司が目を覚ますと、もう空は明るくなっている。車は停まっていて、千里も運転席で寝ているようだ。愛用のG-Shockの時計を見ると5:30である。貴司の気配を感じたせいか千里が目を覚ます。
 
「おはよう。目が覚めた?」
と千里が言う。
 
「ぐっすり寝た感じ。ここは?」
と貴司が訊く。
 
「桂川PAだよ。ここから会社まで1時間で行くよ」
「一度マンションに入れる?」
「うん。だったら、6:30くらいに出発すればいいね」
「1時間後か。だったらさ?」
「いいよ」
 
というので2人は車に目隠しをした上でトイレに行って来てから、後部座席に入る。
 
「面白いことしてる」
「フラット化してあるんだよね〜」
 
座席の形に合わせてカットした発泡スチロールが乗せてあり、後部座席が平らになっているのである。
 
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「千里がしたの?」
「この車のオーナーさんだよ」
「なるほど〜」
 
それでその上に長さ1.8mのビッグクッションを敷き、更にその上に毛布も置く。
 
「さて、これで準備OK」
「えっと・・・」
「メリークリスマス、まいだーりん」
「メリークリスマス、マイハニー」
 

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それで2人はたっぷりと愛の確認をした。
 
貴司は結局そのまま眠ってしまったので、千里は身体を貴司の下から抜いて服を着ると運転席に座り、貴司をマンションまで送っていった。千里(せんり)に到着したのは7:00すぎであった。
 

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千里(ちさと)は貴司を千里(せんり)のマンションで「あなた、いってらっしゃい」と言ってキスで送り出した後、少し仮眠し、そのあとシャワーを浴びる。買物に行って今日の晩御飯を作り、料理は先日同様、パイロセラムの容器に移して冷蔵庫に入れた。お部屋の掃除などをしてから、フェラーリに乗り
 
『じゃ、こうちゃん、よろしく〜』と言って、後部座席でぐっすり眠った。
 
千里は千葉までぐっすり眠るつもりだったのだが、携帯の着信で起こされる。雨宮先生である!
 
「あんた、今どこ?」
「えっと、今伊勢湾岸道を東京方面に向かっています。さっき、長島をすぎた所です」
と《こうちゃん》に教えてもらった情報を伝える。
 
「あんたいい所にいるね〜。ちょうど良かった。1時間以内にNHKの名古屋放送局に来れる?」
「えっと、栄(さかえ)ですかね?」
「近くだね。ここは東桜1丁目」
「車駐められますかね?」
「駐められるように言っておく。今、何に乗っているんだっけ?」
「三宅先生からライフと交換した612スカリエッティです。あのぉ、よかったらインプを返して欲しいんですけど」
「スカリエッティなら好都合。私もインプでここに乗り付けているから、帰る時はそれで帰ってよ」
 
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娘たちのお正月準備(16)

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