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■娘たちのお正月準備(14)

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かなり荷物を搬出したので、千里のアパートの台所には本棚1つ、衣装ケースが2つのほか、冷蔵庫・洗濯機などが残ることになる。
 
「これでやっと千里のアパートの台所は生活可能になった気がする」
「うん。ここしばらく物に埋もれて寝てたから」
「昨夜も、足がどうしても段ボールの上になってしまうし、ここの荷物、上に落ちてこないよな?と思いながら寝てた」
 
この日は千里がファミレスのバイトの日なので、桃香のアパートで一緒に夕食を取ったあと、千里はフェラーリで出勤していった。
 
明けて、12月15日(水)。
 
この日は学校をサボることを前もって友人たちには言っている。この日は千里と桃香は、2人で成人式の前撮りに行くことにしていた。
 
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千里はファミレスの夜勤が終わると、車を大学構内に駐めてから歩いて桃香のアパートまで行った。桃香は寝ていたが、勝手に中に入って仮眠させてもらう。千里が9時すぎに起きた時もまだ桃香は寝ていたので、とりあえず顔を洗い、朝御飯を作ってから桃香を起こす。
 
一緒に朝御飯を食べてから、行きつけの美容室に行った。
 
この美容室は千里と桃香の行きつけの美容室であるが、ふたりは偶然にもここを大学に入って間もない頃から利用していた。ここを選んだのは「安いから」!であり、桃香も千里もこういう部分の価値観は近い。若い姉妹の美容師さんで経営している店で、やはり安いことからC大学生の利用率は高いようである。C大の学生は概して貧乏な子が多い。男子は1000円カットの店を利用する子も多いようだが、やはり女子はバイトを考えても、万一の?デートなど考えても最低限の技術のあるお店で切らないと後悔することが多い。
 
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セットが終わってから一緒に電車で東京に出て、軽くお昼を食べてから、14時少し前に呉服屋さん指定の写真館に入った。ここに着付師さんも居て、着付けしてもらえるのである。成人式が近いので、他にも前撮りに来ている女の子が数人居た。
 
桃香に先に着付けしてもらい、千里は別室で長襦袢まで自分で着ておいた。それで短時間で千里の着付けは終わり、写真を撮ってもらう。何枚も撮影した中で、各々単独で撮ったものを2枚ずつと、2人並んで撮ってもらったもの1枚を選んで、取り敢えずデータでもらう。キャビネサイズにプリントした写真はあとで送ってもらうことにした。
 

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撮影後、振袖を脱ぎ、千里がたたんでケースに入れる。それで一緒に桃香のアパートまで戻った。
 
一昨日の金麦がまだ残っているので、冷蔵庫から出してきて、開けて飲みながら、USBメモリでもらった写真を一緒に見る。キャビネ版にプリントしたものは成人式の頃に送ってくることになっている。
 
「可愛く撮れてるね〜」
 
「この写真屋さんは当たりだよ。先輩のとか、従姉(愛子)のとか見ると、酷いのがあるもん」
 
と千里は言う。愛子の写真はあまりに酷かったので、結局、成人式の後になったものの、従兄の浩之君が撮り直してくれたのである。
 

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ふたりはしばらくお互いの写真を見ていたが、そのうち桃香がふたり並んだ写真を見て「並んで写ってると、結婚写真みたい」などと言い出した。
 
「でも女同士で結婚できるんだっけ?」
と千里は疑問を呈する。
 
「あれ?千里ちゃん、男の子じゃなかった?」
と桃香はわざと言ってみた。一昨日以来、桃香としては千里の性別に疑惑を持っている。
 
「えー!?私女の子だよ。だから振袖着てるし」
 
ふーん。今日は女の子を主張するのか。この子、その時の都合次第で男を主張したり女を主張したりしてないか?
 
「そうだっけ?確認したいので裸になってみてください」
「寒いから嫌です」
「でも女の子なら私の恋愛対象です。襲っちゃいます」
「抵抗します」
 
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桃香としてはこれまで千里に恋愛的な興味は無かったのだが、ここで急に関心を持ってしまった。本当に女の子なら・・・・セックスできるじゃん!
 

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「性欲ありますか?」
「あります」
「私に欲情しませんか?」
「私は女の子は恋愛対象外です」
 
「女の子同士の方が気持ちよくなれるよ。教えてあげるから、やってみない?」
「興味ありません」
「しょうがないなあ。これでも感じない?」
桃香は服を脱いで、全裸になった。
 
千里はじっと桃香を見ていて目を離さないが、視線が冷静だ。うむむ。こういう反応は初めてだ。レズっ気のある子なら、これで結構ドキドキしたような顔をする。逆にノンケの女の子だと、笑ったり目をそらしたりする。しかし千里はまるで着衣の人物を見るかのように静かに見ている。
 
「寒いよ。風邪引いちゃうよ」
と千里は静かに言う。
 
「寒いから千里も裸になって、私をお布団の中に連れてって」
と桃香は熱い視線で千里を見つめた。
 
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「裸になるのは構わないけどね」
と言って千里は服を脱いだ。
「え!?」
 
と思わず声をあげたが、やはり千里のヌードは桃香が「もしや」と思っていた通りだった。
 

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くびれたウェスト、豊かなバスト、曲線を帯びた腰のライン、ついでに撫で肩。どう見ても女の子のボディラインだ。そして何よりも・・・股間には男の子を示すようなものは存在せず、茂みの中に、縦のラインまで見える。
 
「千里、いつ手術しちゃったの?完全に女の子の身体じゃん」
 
「手術とかしてないよ。おっぱいはね、ヒアルロン酸注射。プチ整形というやつだけど、整形手術じゃなくてただの注射だから、何ヶ月かたつとヒアルロン酸が身体に吸収されて小さくなっちゃう。それと極端に大きなサイズにはできないから、今の私にはこのくらいのサイズが限界。これだけ注射してもらうのにも15万掛かっちゃったけど」
 
「じゃそれ女性ホルモンとかで大きくしたんじゃないの?」
「女性ホルモンは飲んでないよ」
「へー」
 
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女性ホルモンは飲んでないというのなら・・・まだ男性は廃業してないということだろうか??しかし・・・
 
「おちんちんは!?」
 
「タックしてるだけ」
「タック?ズボンとかスカートのウェストタックみたいな?」
 
「近くに寄ったり触ったりして観察することを許可する」
と言って、千里は初めて微笑んだ。
 
桃香はそばによって、よくよく観察した。「ん?」などと言いながら触ってみる。そして、千里にやはり、おちんちんがあることを確認してしまった。触ると、くすぐったそうにしている。でも触っても大きくならないようだ。これたぶん・・・女性ホルモンやっていて、男性能力は失われているのかも!?いやでも女性ホルモンはしてないと言ってたな???
 
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しかし・・・ちんちんなんてものに触ったのは久しぶり・・・と思ってから、去年、研二と数年ぶりのデートした時にも触ったことを思い出す。
 
研二も女装癖あるし、もしかしたら、私、男でも女装癖のある子は平気なのかも?という新しい仮説が頭の中に生じた。もっとも、研二の女装は可愛いが、女装しても性格が男のママなのがやや問題だ。千里は凄く女の子らしくて、こちらも心がときめいてしまう。
 

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「凄い!なるほど。こうなってるのか。確かにこれはタックだよ。折りたたんで接着しているわけか」
と桃香は少し興奮して言う。
 
「医療用ホッチキスで本当に縫っちゃう人もあるんだよ。そしたら絶対外れない。でもそこまですると内部を洗ったりするのに不便だから、私みたいに接着剤で留める人が多い。これなら3〜4日もつ。半日に1度くらいメンテしてれば、1ヶ月でも2ヶ月でも維持できる。実際には月に1度くらい外してきれいに洗ってまた接着するんだよ。逆に、コスプレ用とかで数時間だけもたせるなら、防水性の幅広ビニールテープで留めちゃう手もある。テープだとパンティ脱いでヌードは見せられないけどね」
 
「なるほどー。でもこれ、このまま、おしっこもできるようにしてあるんだね」
 
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「うんうん。これ最初考えた人は天才だと思う。接着剤がしっかりしてるから、プールやお風呂に入ったくらいでは取れないよ」
 
「へー、接着剤なのか。これなら女湯に入れるじゃん。でもたしかにこれじゃ男としてのHは不可能だし、ヴァギナが無いから女の子としてもHできないね」
 
「だから、睾丸が生きてる人は性欲抑えるのに大変みたい。オナニーできないし」
「千里、睾丸は? これ触ってもよく分からないけど」
と言って桃香はその付近にかなり触っている。
 
「体内に押し込んでいるよ」
「じゃ存在するのね?」
 
「うん。でも私は男性機能使うつもりないから構わないけど、これずっとやってると、睾丸が体内で高温になって機能障害が起きやすい。男性として生殖する気のある人は絶対やっちゃいけない」
 
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「そうか。男として生殖する気はないのか」
 
「できたら女として生殖したいけど、卵巣や子宮がないから出来ないけどね」
「私は卵巣と子宮あるけど、女として生殖できないかも。男との恋愛面倒くさいし。千里となら生殖できそうな気もしたんだけど」
 
「ごめん。ボクは桃香とはお友達でいたいし、恋人にはなれない。恋愛的に女の子に興味無いんだ。だからこれを見せた」
 
「うん。それは承知。私も男の子には恋愛的な興味無いし。でもだから千里と生殖したいと思ったのよね。私も千里と恋人になるつもりは無いよ。私も千里とはお友達のままでいたい」
 

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「ちょっと待て?恋人にはならず生殖だけ??」
 
千里はお姉さん座りして股間には自然に手を置く。
 
その時、桃香は唐突に思いついた。今言ったのはただの言葉の綾だったのだが、本当に千里と生殖してみたい気がしてきた。
 
「うん。生殖オンリー。恋愛無し。各々恋人持つのは自由」
「セフレ〜?」
「セックスフレンドじゃなくて生殖フレンドかな」
 
「でも生殖するにはセックス・・・・あ、そもそも私、女の子とはセックスできないと思う。タックを外しても。女の子抱いても性的に興奮しないから」
 
「そっかー。でも射精はできるよね?」
「ごめん。それもしたことない」
「もしかしてオナニーしたことないんだっけ?」
「うん。したことない」
 
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「それ試してみたいなあ。私が気持ちよくなるように刺激してあげるよ。千里たぶん女の子感覚に近そうだから、女の子にするようにしてあげたらクライマックスまで行きそうな気がする」
 
オナニーしたことないって千里のはたぶん立たないのだろう。立たないおちんちんは女の子みたいに指で押さえてぐりぐりしてあげれば逝きそうな気がする。
 
「待って。それ恋愛としてのセックスじゃないんだよね?」
「うん。さっきも言ったように、生殖するのに千里の精子もらえないかなと実は今思いついた」
 
「えっと・・・・」
 
「女の子が恋愛対象でなくても、恋愛と無関係に気持ちよくなるのは構わないよね?」
と桃香が言うので、なんかそれ紙屋君と美緒の関係みたい?などと千里は思ってしまった。
 
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「そうだなあ」
 
「私頑張って刺激してあげるからさ。それでもし射精できたら、その精子ちょうだいよ。その精子を冷凍保存しておいて、大学を出てからでも人工授精で子供を作りたい」
 
「うーん。私、あまり父親になりたくないけど。私、心は女の子だから」
 
「セックスして妊娠させるわけじゃないからいいじゃん?化学合成とかで精子作れたら便利だけどそれはできないし、男の人から精子もらうのも抵抗あるけど、千里は女の子だから千里の精子ならいいかなと。あ、私ひとりで育てるし、養育費とか請求したりはしないし、認知も求めないし、千里は他の男の人と結婚していいよ」
 
「私、男の人と結婚できるかな・・・・」
 
「彼氏に振られたと言っていたけど、簡単に諦めるなんて千里らしくないと思う。再度チャレンジしてごらんよ。相手が婚姻届け出すまでなら、逆転の可能性あるよ」
 
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「そうだよね」
 
それ去年紙屋君からも1度言われたな、と千里は思った。
 
「千里どっちみち、戸籍はその内、女の子に直すつもりなんだろう?」
「それは当然直す」
 
「だから千里は他の男の子と結婚してもいいから、そのために性転換手術を受ける前に、私に精子を提供してくれない?AID(*1)みたいなものだよ」
 

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(*1)AID = Artificial Insemination by Donor 非配偶者間人工授精。
配偶者間で行うのは、AIH = Artificial Insemination by Husband という。但し、桃香と千里の間で行われたものは、千里が事実上桃香の妻なので、むしろ AIW = Artificial Insemination by Wife とでもいうべきだろう。
 

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「ちょっとそれ考えさせて」
 
千里としては思いも寄らない提案だったので、今すぐ結論が出せない気がした。
 
「私がその子の父親が千里だということ、誰にも言わずにおけば、千里が性別を変更するのに何も問題ないよ(*2)。性別を女にすれば男の人と結婚できる。あ、その時その人との赤ちゃん欲しかったら、私が卵子あげるね」
と桃香は言った。
 
それはまた思わぬ提案であった。
 
もしかして、もしかして、それで桃香から卵子をもらって、それに貴司の精子を受精させて“京平”を作ることができる?? あ、でも貴司の精子は・・・どうやってでも絞ってこれそうな気がする!
 
「・・・それいいかも。私が桃香に精子あげる代わりに桃香から卵子をもらえばいいのか。でも精子を冷凍保存できる所ってどこにあるんだろ」
 
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千里はこのために自分に“男の子の時間”が残されていたのかと思い至っていた。
 

(*1)性同一性障害の特例法では、性別を変更する条件として下記を挙げている。
 
一.二十歳以上であること。
二.現に婚姻をしていないこと。
三.現に未成年の子がいないこと。
四.生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五.その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。
 
制定当初は「子がいないこと」という条件だったが、2008年6月18日の改訂(半年後に施行)で「未成年の」という条項が加えられ、子供が成人すれば性別を変更できることになった。
 

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娘たちのお正月準備(14)

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