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■娘たちのお正月準備(10)

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11月12-14日。
 
小樽市でウィンターカップの北海道予選が行われた。
 
旭川N高校は1回戦不戦勝の後、順調に2回戦・3回戦を勝ち上がり、準々決勝で釧路Z高校を撃破。1試合だけ行われる“準決勝”で札幌D学園にも勝って、ウィンターカップの出場権を獲得した。
 
その後行われた札幌P高校(自動出場)との“決勝戦”では延長戦にもつれる激戦となったものの、セカンドオーバータイム(第6ピリオド)終了間際、同点の場面でP高校・渡辺純子がゴール下の乱戦からシュートを決めて土壇場で2点差を付ける。ところが残り6秒からのN高校の攻撃で胡蝶がブザービーターとなるスリーを決めて劇的な逆転勝ちをおさめた。
 
旭川N高校はこれでこの大会二連覇である。
 
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渡辺純子がほんとに悔しそうな顔をしていた。
 
なお、旭川N高校の「3年生枠」は本来は3名までなのだが、今年はインターハイで活躍した3年生がひじょうに多かったことから今年だけ特別に5人認められ、絵津子・ソフィア・不二子・紅鹿・胡蝶の5人が14-18番の背番号を付けて参加している。5人とも進路は(内々々定くらいで)ほぼ決まっている。
 

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11月13-14日。
 
東京都秋季選手権の準決勝・決勝が行われ、江戸娘が優勝して関東総合選手権への出場を決めた。関東総合選手権には、千里たちローキューツも11月3日の千葉県秋季選手権に優勝して出場を決めている。
 
関東総合選手権は、優勝しなければオールジャパンに出られない。つまりこちら経由での切符は1枚のみである。
 

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千里は《いんちゃん》に言われて、その日都内の美容外科のそばまでやってきた。大学を出てから来たので教科書などの入った重いバッグを持っている。
 
『なんで今更、私がsub-qなんか打たないといけないのよ〜?』
『だって元々の予定では千里はこの時期まで本当はおっぱいが全然無かったのをSub-q打ってプチ豊胸することになっていたから、辻褄合わせ』
と《いんちゃん》は言う。
 
現在千里のバストはDカップ近くある。中学生の時以来ずっと女性ホルモンを摂っていたので発達した、という建前ではあるが、本当はその時期から千里の体内で卵巣が働き始めたからである。千里の体内に卵巣と子宮が実は存在していることを知っているのは、おそらく天津子と小春に《くうちゃん》くらいだ。他の眷属たちも美鳳も知らないし、千里自身さえもしばしばそのことを忘れていることがある(あるお方の作用である)。
 
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『千里は2009年1月13日に男の身体に戻っている時、唐突にバスケ協会から身体検査を受けてくれと言われて、その時4時間ほど女の子の身体にしてもらった。その4時間の埋め合わせで今日4時間だけ男の子に戻るから、その間にsub-qを打ってもらいたいんだよ』
 
『なんか面倒くさいなあ』
 
その4時間というのは午後4時から8時までらしい。それで千里はその時刻になるまで、病院の前をうろうろしていた。なお病院の予約は親切にも美鳳さんが入れてくれている。
 
『なんか美容整形を受けるかどうか迷っている子という感じだよ』
『ああ、そう思われているかもね』
 
『よし。時間だ』
と言って千里はsuntoの時計で4時になって身体が切り替わったのを感じ取ってから病院の中に入った。
 
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『おっぱいが全然無いの、すごーく変な感じ』
『おっぱいより、あそこの方が変な感じなのでは?』
『もうそれは無視してる』
『ああ』
 

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治療自体はバストに注射を打つだけなので20分ほどで終わる。事前に血圧・体温などの測定やカウンセリングはあったものの、そのあたりは適当に済ませ、偽造!の保護者同意書も提出した。心臓に意識を集中していたので、血圧もちゃんと人並みに測定できた(千里の心臓はしばしば鼓動をサボっている)。
 
それで6時前には病院を出て、千葉に戻る。
 
『ちょっと胸が痛い』
『まあ仕方ない』
『これ8時になったら痛みも消えるよね?』
『うん。元の女の子の身体に戻るからね』
 
千葉駅で電車を降りてバスを待っていたら、到着したバスから桃香が降りてきた。お互いに手を振る。
 
「千里どこ行くの?」
「自宅に戻るつもりだけど」
「あ、だったら、ちょっと解析学の分からない所教えてくれない?」
「いいよ」
 
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それで自宅に戻るのは中断して、歩いて桃香のアパートまで行った。中に入り桃香がお湯を沸かしてインスタントコーヒーを入れてくれる。千里は荷物を台所に置いたのだが、
 
「ごめん。ここ物取るのに邪魔だから少し動かすね」
と言って荷物を動かそうとした。
 
「うん。OKOK」
と千里は答えたのだが・・・
 
「何この重さは〜〜!?」
と桃香が言う。
 
「ああ。教科書とか岩波数学辞典とか英語の辞書とか入っているし、バイトで使うパソコンセット(ノートPC・予備バッテリー・通信カード・小型MIDIキーボード。ついでにフルートも入れている)とか入っているし」
 
と言って千里は自分で立っていって、荷物を邪魔にならなそうな所に動かした。
 
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ちなみにタロットカードと財布・パスポート・非常用現金はショルダーバッグに入れており、常に手の届く範囲に置いている。
 
「こんな重たいのを持ち歩いているなんて信じられん」
「まあ鍛錬ということで」
 

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結局、桃香はその荷物が置いてあった場所に椅子を置いて、棚の上からおやつを出して来た。お茶と一緒に頂く。
 
「それで、どのあたりが分からないの?」
と千里は訊いた。
「なんか今更先生に質問できない気がしてさあ」
「うん」
 
「ルベーグ積分というのの意味がよく分からないんだけどさ」
「ルベーグという言葉を考えない方がいい。単にふつうの積分の定義の仕方が違うだけだよ」
「あ、そうだったんだっけ?」
 
「古いリーマン方式の積分の定義では積分できないようものでもルベーグ方式でなら積分できる。本来の感覚的な“積分”の概念に、より近いと私は思う」
 
「より強力なのか。たとえば?」
「たとえば、有理数に対して1、無理数に対して0の値を取るような関数はリーマン積分不能だよね?」
「あ、そういう話が授業で出てきた気が・・・」
「でもルベーグの方式ではちゃんと積分できて、結果は0になる」
「それって無理数の方が有理数よりずっとたくさんあるから?」
「うん。その感覚でいいと思う。だから、そういうのがルベーグ積分だよ」
 
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「そうだったのか。なんかルベーグという単語聞いただけで、頭が拒絶反応を起こしてしまっていた」
「難儀だね〜」
 
「あとバナッハ空間というのが分からん」
「完備なノルム空間だよ」
「ノルム空間って?」
「ふつうの線形空間のベクトルのノルムは分かるよね?」
「えっと長さみたいなもんだっけ?」
「そうそう。長さが定義された空間がノルム空間だよ。その中で完備、つまりその空間の中で極限を取った時、その極限がちゃんとその空間の中に収まっているものがバナッハ空間」
 
「すまん。もう分からなくなった」
「たとえば有理数の集合の中で極限を取ると、結果が無理数になっちゃう場合もあるでしょ?」
「ああ、そのくらいなら分かる」
「だから有理数の集合は完備ではない。実数なら完備」
「つまりきちんと埋まった空間ということかな?」
「そうそう。それがバナッハ空間」
 
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「あとヒルベルト空間というのは?」
 
千里は頭を抱え込んだ。
 
「ねぇ、桃香、後期になってから、解析学の授業内容分かってた?」
「いやそれが全部頭の上を飛んで行っている感じで。さっぱり内容が分からないから授業中眠くて眠くて」
 
「確かにこのあたりの基本的な概念自体を理解してないと、知らない外国語の授業聞いている気分かもね」
と千里は半分呆れながら言う。
 
「そうそう!まさにそんな感じなんだよ。教科書見ても全く理解不能だし」
「たいへんね〜」
と言いながらも千里は、桃香の求めに応じて解析学の基本的な用語をひとつひとつ解説していった。桃香もそれでかなり雰囲気が分かってきたようである。
 
桃香がだいぶ分かってきたので教科書に載っている練習問題を解いてみると言って少し悩んでいるようなので、千里はお茶が切れたなと思い
 
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「コーヒーでも入れるね」
と言って席を立ち、ヤカンに少量の水を入れてコンロに掛けた。
 
そしてコーヒーサーバーに適当な量のインスタントコーヒーの粉を入れていたら、背後に足音がする。
 
「桃香、終わった?」
と言って振り向こうとした時、千里はいきなりお股を触られた。
 
「きゃっ!」
と声をあげる。
 
「何すんのよ〜?」
「ごめん、ごめん。千里があまりにも可愛いんで、本当に男の子なんだっけ?と疑問を感じてしまって確認してみた」
 
「それで男の子だった?」
「確かに男の子だった。残念だ」
「私はおかげで今日は襲われずに済むみたい」
「そんな、同級生を襲ったりしないよぉ」
「全然信用できない!」
 
結局千里はこの日、22時すぎまで桃香のアパートに居て、一緒にストックのインスタントラーメンで晩ご飯にした。それで食べている最中に電話が入る。雨宮先生である。
 
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「今からですか〜?」
「明日の朝までに何とか仕上げなきゃいけないのよ」
「何だかいつもそんな話ばかりですね〜」
と言いつつも、行かない訳にはいかない。
 
電話を切ると桃香が
 
「何か仕事?」
と訊く。
 
「そう。バイト先から緊急呼び出し」
「だったら荷物は、ここに置いておくといいよ。それ重たすぎるもん」
「ああ。そうしようかな」
 
と言い、千里はバッグの中からパソコン(やフルート)の入ったソフトケースだけ取り出して、財布などの入ったショルダーとそれだけ持ち、
 
「じゃ行ってくるね」
 
と言ってアパートのドアを開けた。
 
するとその時、ちょうどドアを開けて入って来ようとしていた人物とぶつかりそうになる。実際身体が少し接触した。身長差があるので、千里のバストが相手の肩の付近に接触する。さっきプチ豊胸をしたばかりなので、そこをぶつけると、けっこう痛い。
 
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「わっごめん」
「ごめーん」
と言い合う。
 
「朱音か。どうしたの?」
「千里か。いや、遅くなったからここに泊めてもらおうかと思って来た」
「そうなんだ。私は今からバイト先に行く所」
 
「へー。“ここから”バイト先に行くんだ?」
と朱音が言ったが、彼女が“ここから”と言った意味に千里は気付かずに
 
「うん。じゃ、またね」
と言って出かける。
 
「じゃまた」
 
と朱音も言って手を振って千里を見送った。千里がアパートの階段を降りていくのを朱音は首を傾げながらじっと見ていた。
 

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11月20-21日。
 
浅口市(倉敷の西隣にある市)でウィンターカップの岡山県予選、準決勝と決勝が行われた。高梁王子を擁する岡山E女子高は準決勝で倉敷S高校を倒し、決勝では岡山H女子高を倒して東京体育館への切符を掴んだ。
 
この決勝戦では1年生のスモールフォワード翡翠史帆がひとりで30得点をあげる活躍を見せ、ダブルチームを受けて24得点“しか”取れなかった王子の代わりの得点源となって優勝に大きく貢献した。
 
翡翠はこの大会、総得点数でも高梁、H女子高の山城麗美に次いで3位となり、王子に次ぐチームの核となった。
 
彼女はインターハイの時は県予選には出ていたものの、本戦では12人の枠に入ることができず、客席から応援をしていた。しかし今回の活躍でウィンターカップ本戦ではベンチ枠どころか、スターターの可能性も出てきた。
 
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11月12-28日に中国の広州(こうしゅう/クァンチョウ)でアジア大会が行われた。バスケットの男子は前回6位でベスト8に入っているので、一次リーグは免除で2次リーグからの参加になり、グループFを4勝1敗の1位で通過。決勝トーナメントで準々決勝の北朝鮮には勝ったものの準決勝の韓国に敗れ、3位決定戦でもイランに敗れて4位に終わった。
 
女子は23日から試合が始まったが初戦の台湾戦を落としてしまう。次のモルジブ戦には勝ってB組2位で決勝トーナメントに進出するが、準決勝でA組1位の中国に敗れ、更に3位決定戦で韓国に敗れた台湾に再度敗れてこちらも4位となった。
 
結果的には男子と同じ成績ではあるものの、前回6位から4位に上げた男子に対して前回3位だったのが4位に後退した女子に関しては、監督の采配、またそもそもの選手選考に問題があったと批判が吹き荒れる。活躍できなかった選手にも批判が殺到し、たくさん起用されたもののいい所が無かったベテランポイントガードの足立さんがあらためて記者に「自分はこの大会で日本代表を引退したい」と語る一幕まであった。
 
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それで大会が終わった翌29日、現地で記者会見を開いた風城監督は成績不振を理由に辞意を表明した。
 
しばらく女子バスケットから離れていたのを突然監督に指名され、現在の女子バスケットの有力選手などの情報をほとんど知らないまま実質1〜2日で選手の選考をすることになり気の毒ではあったが、実際酷い結果になった以上は退任は仕方ない。しかしこれでフル代表の監督人事はまた迷走することになった。
 

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娘たちのお正月準備(10)

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