[*
前頁][0
目次][#
次頁]
12月3日(金)。U20アジア選手権の直後に頼んでいた“プリンタ染め”の振袖が出来上がったという連絡が来たので、東京近辺に居るメンバーで取りに行くことにした。振袖を頼んだのは、留実子、サクラ、誠美、華香、玲央美、江美子、桂華と千里の8人だが、旭川の留実子、大阪の江美子、愛知の華香、博多の桂華が来られず、千里(千葉市のアパート)・誠美(市原市の実家)・玲央美(杉並区のマンション)・サクラ(三鷹市内の銀行寮)の4人が8人分の受け取りに行った。他の4人には宅配便で送ってあげることにしている。
千里が頼んだのは水色基調で、雌雄の鳳凰と更に子供の鳳凰2羽が遊んでいる絵柄である。玲央美は黄基調で、ライオンが赤白青のバスケットボールで遊んでいる絵柄。誠美は赤基調で、大柄な牡丹の花をあしらい、満月、孔雀まで描いた“花鳥風月”、サクラはピンク基調で御所車をメインモチーフにして多数の桜の花を描いた“春の道行き”である。
「みんなきれいに出来てるなあ」
「よかったら着付けしてお写真撮りましょうか?」
「でも着付けは?」
「うちの女房ができますから、無料サービスでやらせますよ」
と専務さんが言う。
「おお、それでは頼もう」
『千里』が「私もできるよ」と言って、結局玲央美の着付けは『千里』がしてあげることにした。専務の奥さんに誠美とサクラの着付けをしてもらう。
『千里』が玲央美に着付けしてあげたら彼女は「ありがと。きーちゃん」と小さな声で言ったので、バレてるなあと思って、『千里』も微笑んだ。その後『千里』自身も自分で着付けしたが、帯だけは専務の奥さんに締めてもらった。自分で着物の帯を締めるには前で締めて半回転させる必要があり、その時着崩れしやすいのである。
1時間ほどで全員の着付けが終わり、専務が4人の各々のカメラや携帯で撮影してくれた。
「あ、玲央美が何か新しい携帯使ってる」
という指摘がある。
「iPhone買ったの?」
と誠美が言うが
「ううん。これはGALAXY」
と玲央美は言っている。
「それもしかして電話機なの?」
と、こういうものに疎い《千里》が尋ねている。玲央美がその千里を見てあれ?という顔をした。実は着付けの時だけ入れ替わっていて、もう元に戻っているのである。
「スマートフォンと言うんだよ。従来の携帯電話はフィーチャフォン」
「数字のボタンも無いのに、どうやって電話するわけ?」
「電話する時はテンキーを表示させるんだよ」
と言って操作してみせる。
「千里触ってみる?」
と玲央美は言ったのだが、誠美が停めてくれた。
「やめた方がいい。千里って静電体質だから。こないだうちの監督が買ってきた液晶ポータブルテレビ、千里が触っただけで壊れたもん」
「なんて破壊力のある・・・」
「そういえば、こないだ私が触った銀行のATMがいきなり停まった」
「危ない人だ」
「ATMでは千里の後ろには並ばない方がいいな」
「でも千里、いつもノートパソコンは持ち歩いているよね?」
「いつも、棚とかテーブルとかの金属部分に触ってから電気逃がした後で操作する。監督のテレビはうっかり何もせずに触っちゃって」
「やはり千里にはスマホは触らせない方がいいようだ」
と玲央美は言った。
《きーちゃん》や《てんちゃん》ならいいけど、《千里》はやばそうだな、と玲央美は思った。
ともかくも4人の写真を撮った後、また脱いでたたんでケースに仕舞う。脱ぐのは各自自分で出来たので、それを千里と専務の奥さんが手分けして畳み、ケースに仕舞った。《千里》も畳むだけならできる。
「これ、たたみ方が分からないと、うかつにケースからも出せないね」
とサクラが言うので
「困った時は呼び出して。行ってたたんであげるから」
と千里が言う。
「頼むかも知れない!」
とサクラも誠美も言った。
その日、桃香がバイトを終えてアパートに戻り、パソコンを立ち上げてメールチェックしていたら、何だか異様に時間が掛かる。
何だ?何だ?と思ったら、1通巨大なメールが来ていたようである。見ると、高校時代の恋人の優子からである。高校生時代、桃香と優子は《北のモモ・南のユウ》と並び称される“女の子キラー”だったのだが、一時期、ふたりで付き合っていたこともある。しかし、桃香が大学に入る前にきれいに別れたはずであった。ちなみに桃香の携帯に付いている銀色のリングのストラップは優子とお揃いのものである。
「100KB!?しかも添付ファイル無しって、文章だけ〜?」
(JISコードで)100KBということはだいたい2000-2500行程度はある。
「一体何を書いて来たんだ〜?」
と思う。ちなみにタイトルは《お願い。読んで。あなたの優子より》である。優子とは9月に千里を連れて帰省した時、千里が着付けの練習をしている間に出かけていて高岡の町で遭遇したが、高岡での成人式に誘われたので出てもいいよとは言っておいた。
桃香は数秒考えた後、そのメールをゴミ箱に放り込むと、メニューから『ゴミ箱を空にする』を選んだ。
12月4日(土)。
ローキューツのメンバーが9人、千葉駅に集まった。
石矢浩子、弓原玉緒、愛沢国香、溝口麻依子、歌子薫、島田司紗、東石聡美、および西原監督と谷地コーチである。
五十嵐岬や長門桃子・馬飼凪子なども行きたいと言っていたのだが、バイトがどうしても抜けられないということだった。みんな大会に合わせてバイトを休ませてもらうので、大会でない時はバイト先の都合優先になってしまう。
9人は一緒にモノレールに乗り、終点の千城台駅まで行く。
ここに10人乗りのキャラバンを知人から借りてきた千里が待っている。実は普通免許で運転できる最大定員の車である。人数が増えた場合は、誰かもう1人車を持ってくる予定であった。
(11-29人乗りを運転するには中型免許が必要だが、中型免許は普通免許を取って2年以上経たないと取れない。千里は2009年3月30日に普通免許を取得したので、中型を取れるのは来年の3月30日以降、大型は2012年3月30日以降ということになる)
このキャラバンにモノレールで来た9人が乗り込み、房総百貨店体育館まで行った。
2.5kmほどの距離で、走っても15分くらい掛かるが、車なら3分ほどで到着する。千里は体育館前の駐車場に車を駐めた。
鍵を預かっている谷地コーチが玄関を開け、みんなで入る。
「まだシンナーの臭いがする」
「窓を開けて練習していれば、すぐに取れるよ」
ここは房総百貨店の女子バレー部が練習に使用していた体育館で、バレーの線が引かれていたのを、いったん床の表面を削り、ラインの跡を床材と同色のペイントで塗って目立たなくした上に、ウレタンを塗り直し、その上に来年4月からの新しいルールに基づくバスケットのライン(制限エリアを長方形にし、3Pラインを6.75mにする)を引いたのである。
最初はそのままの床にカラーテープを貼って対応するつもりだったが、実際のフロアを見たら、数年間放置されていたせいもあり、かなり表面が傷んでいたのである。バレーの回転レシーブなどしたら大怪我しそうな、ささくれも多数発見された。バスケットには回転レシーブは無いものの、転んだ時にそこにぶつかって怪我する可能性はある。
それでこれは危険だということになり、房総百貨店側と交渉して、ローキューツが全額工事費を負担して、床全面の表面を研磨/ウレタン塗装し直したのである。費用は300万ほど掛かったものの、おかげで、きれいにリフレッシュした床に新しいラインをペイントすることができた。ラインは通常練習用の2コートレイアウト(黄色ライン)と、正規サイズのセンターコートのレイアウト(白ライン)を引いている。どちらもコート自体のサイズは正規の28m x 15mであるが、練習用のコートでは、コート外のエリアが狭い。
元々がバレーの練習用に建てられた体育館で、バレーのコートはバスケットのコートより小さいので、やむを得ないところだ。
本当はコート外のエリアは、エンドライン方向に2m以上、オフィシャル席やベンチのある側に最低2m(できたら4m程度)欲しいのだが、この体育館のフロア自体が30m x 35mなので、2コートレイアウトではベンチエリアは(各々の壁側に)2mギリギリ, エンドラインの向こう側はわずか1mしか無い。この部分が狭いので安全のため壁にクッション材を貼り付けている。この加工費が材料費込みでまた100万円掛かったが、クッション材にカラフルなものを使用したので、とても明るい感じの体育館になった。
一応千葉県クラブバスケット連盟の人に見てもらったら壁のクッション材を好感してくれたようで、この春からルールが改訂され、まだ新しいルールのラインが引かれた体育館が皆無であることもあり「大会の予選などには使えるね」という「口頭での」コメントをもらっている。また中高生や趣味の大会などの会場に使わせてもらえないかという「内々の」話には房総百貨店側の承認も取った上でOKしておいた。
また、2コート用の壁取り付け式ゴール4個、センターコート用の吊り下げ式ゴール2個、電子式の得点掲示システムとソフトウェア、ショットクロック、練習用ボール・試合用公式球やボール入れ、ラックなど、そのほか様々な備品で、結局床工事も含めて合計1500万円ほどの出費になってしまった。しかし床工事などをこちらの負担でしたことで、ここの借り賃を年間300万という話から250万に値下げしてくれた。
この出費は千里としては予定外であったものの、雨宮先生から回してもらった山村星歌の曲が思わぬヒットでCD印税だけでも4000万円(8000万円を蓮菜と山分け)、著作権使用料を入れると最終的に1億円近い売上げになりそうなので、何とかなるかなという感じなのである。
ただし印税が入ってくるのは3月、著作権使用料は6月以降なのに工事費等は即払わなければならなかったので、結構きつかった!
この日はセンターコート仕様で、実際に(4人対4人で)ゲームをやってみた。やはり最初は
「制限エリアの形が凄く気持ち悪い!」
などという声も出るがこれはもう慣れてもらうしかない。今までの台形の制限エリアの線をレイアップシュートのステップの目安にしていた子も多く、タイミングが合わなくて、シュートを外す子が相次いだ。
「これ全員早くこのラインに慣れた方がいいね」
という声が多く出る。
「ただし2月の関東クラブ選手権、3月の全日本クラブ選手権までは台形の制限エリアだからね〜」
「それは今まで使っていた市の体育館で感覚を忘れないようにしよう」
ゲームでは、監督が得点板、コーチがショットクロックを担当してくれたが、派手にショットクロックが鳴ったりするので、
「まるで公式戦やってるみたい」
などという声があがっていた。今までの体育館では、練習に出てくる人数が少ないのもあり、手でめくる方式の得点板を使うことが多かった。一応手めくり式の得点板も、監督が古いのを学校から安く買い取って持って来てくれた。(2個5000円で買ったらしい。これでも新品を買うと1個3万円くらいする)
「車係は、車を出せるメンバーで回していくことにして、その日参加できない場合は早めに連絡を」
「駅まで来て、迎えに来て欲しい場合の連絡どうする?」
「mixiのローキューツ・コミュに誰が練習に出てるか書き込むから、それ見て連絡して」
「車係をしてくれた人にはガソリン代相当を含めて1回1000円支給ということで」
「特に負荷が大きかった日は個別検討」
「ノートを付けといて、支給漏れが出ないように気をつけよう」
「誰かその会計係をしてくれない?」
「じゃ私がしますよ」
と玉緒が言うので、任せることにする。確かに彼女は出席率がいいし、几帳面な性格なので、こういうのに向いているかも知れない。
「どうしても車を使えるメンツが居ない場合は、タクシーを使って、代金は後日精算で」
「その場合、面倒でも領収書をもらっておいてね」
「くれぐれも、夕方4時以降に、体育館と駅の間を歩いたりしないこと」
「その場合はやはり男装だな」
「逆に変質者と間違われたりして」
「コーチは女装してください」
「なんで〜!?」
「昼間は走ってもいいですね?」
「うん。歩くより走った方がいいと思う」
「ただし夏の日中は熱中症が怖いから、気温高そうだったら無理しないで」
「冷蔵庫とかあったら、ミネラルウォーターを冷やしておけるなあ」
「んじゃ1台買って置いとこうか?」
「おお、素晴らしい!」
「夏はアイスクリーム、冬は甘酒とかもあるといいなあ」
「じゃそのあたりは玉緒に余分にお金渡しておくから適当に」
「じゃ、早速アイスを1箱買ってこよう」
「今の時期にアイスなの〜?」