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■娘たちのお正月準備(8)

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全日本社会人選手権は、男子は16チーム、女子は8チームで争われる。6日は10:00と11:40から大アリーナに3つ、小アリーナに1つの合計4つ取られたコートで男子の1回戦8試合が行われた。そして13:20から女子の1回戦4試合がやはり4つのコートで同時進行で行われる。ローキューツの初戦の相手は千里が散々お世話になっている、山形D銀行(実業団一位)であった。
 
先日の実業団競技大会の決勝戦で山形D銀行は玲央美にダブルチームを掛けて封じたのだが、今日は千里にダブルチームを掛けてきた。
 
するとそれを見たベンチは早々に千里を下げて代わりに岬を投入する。
 
この交替に相手は困惑する。向こうは岬のデータを持っていない。しかし岬は充分上手い選手なので、ひょっとして何か凄い選手だろうか?と疑心暗鬼になってしまったようである。
 
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それでも試合はD銀行が押し気味ながらも大差はつかないまま進行する。途中で麻依子に代えて国香、更に国香がそのままPGの位置に入って凪子に代えて聡美といったメンツを入れていく。それで前半は44-32と12点差になった。
 

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そして後半。
 
凪子/千里/薫/麻依子/桃子
 
というメンツで始める。
 
当然向こうは鹿野さんと石立さんの2人が千里に付くダブルチームをしてくる。
 
ところが千里は簡単にふたりを振り切ってしまう。
 
つまり、千里は前半休んでいたのに対して、鹿野さんも石立さんもずっと出ていたので、その分の疲れがあって、今日はまだ全然プレイしていなかった千里に付いていけないのである。
 
D銀行の監督が「しまったぁ」という顔をしている。
 
この作戦は実は実業団競技大会の決勝戦のビデオを見ていた薫が提案したものである。今年のローキューツなら、千里抜きでも実業団のトップチーム相手にそう酷いことにはならないだろうというので提案したのだが、実際他のメンツで何とか持ち堪えてくれた。加えて麻依子や凪子も計画的に休ませておいた。
 
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また薫はD銀行の他のチームとの試合のビデオも見て、鹿野さんや穂波さんの癖を見つけ、マッチングする国香や岬・聡美・夢香たちに指示を与えておいた。それでかなり彼女たちを停めていたのである。また向こうは岬や聡美が結構彼女たちを停めるので「こいつら結構やるじゃん」と感じ、今まで情報が無かったがかなり凄い選手ではと思い込んでしまった。
 
そのあたりも薫の考えた心理戦である。
 

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相手は石立さんを下げて、今日まだ出ていなかった大原さんを出すが、大原さんの技術ではまだまだ千里に簡単に振り切られてしまうので実質千里は鹿野さんだけを相手にしている感じになった。大原さんに代えて東海林さんを付けるが東海林さんも前半結構出ていたので、元気いっぱいの千里にはスピードで置いていかれる。
 
かくして第3ピリオドは千里のスリーが炸裂し、12-30という恐ろしいスコアになった。ここまでの合計は56-62と、ローキューツが逆に6点差を付ける。
 
第4ピリオドになっても千里の勢いは止まらず、更にこのピリオドは誠美がセンターに復帰したので、リバウンドは全部誠美が取ってしまう。
 
それでローキューツは最終的に72-94の大差で山形D銀行に勝利した。
 
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「参った。作戦勝ちだったね」
と鹿野さんが試合終了後、千里とハグしてから言った。
 
「何度もは使えない作戦ですけどね」
と千里も鹿野さんに笑顔で言った。
 
この日他に勝ったのはジョイフルゴールド(実業団2位)、女形ズ(クラブ1位)、そして千女会(教員1位)である。
 
そして明日の準決勝の相手は玲央美たちのジョイフルゴールドである。
 
つまり千里たちと玲央美たちのどちらかはオールジャパンに行けるが、両方が行くことはできない。
 

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ところで5日の晩、桃香の家に泊まった『千里』は《せいちゃん》のお陰で貞操を守ることもでき、6日朝さわやかに目覚めていた。桃香が熟睡しているようなので、取り敢えずコンビニに行って、カップ味噌汁とおにぎりにサラダを買ってきた。8時半になっても桃香が起きないので起こす。
 
「桃香、桃香、バイトあるって言ってなかった?」
「何時だっけ?まだ8時半じゃん」
「朝ごはん買ってきたけど」
「朝ごはん? なんて素敵な言葉」
 
それで桃香は起きてきて千里と一緒に御飯を食べた。
 
「サラダなんて入るのが女の子だなあ」
「え?サラダとか買わない?」
「私はひたすら肉だ」
「そんな食生活じゃ身体壊すよ〜」
 
そんなことを言いながら桃香は自分の携帯を見ていたが
「げっ」
と声を出す。
 
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「どうしたの?」
「いつも土曜日は10時からなのに、今日は9時かららしい」
「嘘!?」
 
今は既に8:42である。
 
「このメール、昨夜着信してる。全然気付かなかった」
と桃香は言っている。
 
「そうだ。私、昨日車で学校に来たから、まだ校内に駐めたままなんだよ。車持って来て送っていこうか?」
 
「それでも車を取りに行くだけでも10分掛かる。そのあとここに回送するのに2分掛かって・・・。あ、そうか。ふたりで一緒に学校まで走って行って、それで乗せてもらえばいいんだ」
 
「ああ、それならいいね」
 

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それで桃香は1分で身支度を調える(?)と、千里と一緒にアパートを出て大学までジョギングする。『千里』はかなり手加減して走るのだが、それでも桃香がしっかり付いてくるので「へー。大したもんだ」と思った。
 
それで6分で大学の駐車場に到達するが、車に乗ろうとしていたら、そこに由梨亜が通りかかった。
 
「おはよう。どうしたの?」
「いや、バイトに遅れそうになって千里に送ってもらおうと思って」
「あれ?一緒にいたの?」
「うん。千里は昨夜うちに泊まったんで」
「へー。じゃまあバイト頑張ってね」
「うん。ありがとう」
 
それで『千里』が車を出し、桃香をバイト先のコールセンターに送っていった。到着したのは8:58であった。桃香は千里に御礼を言うと同時に車を飛び降り、入口に走り込んでいった。
 
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《きーちゃん》は桃香を降ろした後は、いったん桃香のアパートに戻り、メーターボックスの所に入っている鍵で部屋を開けると、朝御飯を食べた後の片付けをした。そしてふとんもきちんと片付けた上で、車を千里のアパート近くの駐車場に回送して、千里のアパートで仮眠した。
 
夕方起き出すと、インプを運転してバイト先のファミレスに行き、夜間の勤務をこなした。
 
この日の夜は玲奈、美緒、友紀、由梨亜の4人がやってきた。長居しそうなので壁際の席に案内した。実際この4人は結局朝までいた。
 

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この日、美緒は最近紙屋君とよく一緒に行動していることについて追及される。
 
「みんな、まさかとは言っているんだけどさあ。ふたりの親密度が物凄い気がする」
と玲奈が言う。
 
「お互いの性器は見てないよ〜。だからデートじゃないよぉ」
と美緒は弁解する。
 
「いや、充分デートをしている気がする」
「だって清紀は女の子には興味無いし、ちんちん付いてない子には性欲が湧かないらしいし」
「美緒はどうなの?紙屋君にはほんとに関心が無い訳?」
「私は入れてくれない男の子には興味が無い」
 
「なんてあからさまな・・・・」
 

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美緒はあんまり自分が追及されるので、矛先を交わそうと桃香の話を出す。
 
「私たちより、桃香と千里が最近怪しい気がしない?」
「ん?」
 
「最近、桃香と千里ってよく一緒に歩いていると思わない?」
「そう言われてみると確かに、よく一緒にいるような気がする」
 
ちょうどそこに千里が通りかかるので声を掛ける。
 
「はい、お水交換するね」
と言って4人の前にあるコップを取ると、新しい水を入れたコップを4つ置く。
 
「千里最近、よく桃香と会ってない?」
と美緒が訊く。
 
「そういえばそうかな」
と『千里』が答える。
 
「昨夜は桃香の所に泊まったと言ってたよね?」
と由梨亜。
 
「そうそう。遅くなったから桃香の所に泊まったんだよ」
 
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「セックスとかするの?」
と玲奈が訊く。
「まさか。それ物理的に不可能だと思うけど」
「ん?」
 
「昨夜は私は台所に布団敷いて寝たよ。じゃ、ごゆっくり」
と言って『千里』は行ってしまう。
 

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4人は顔を見合わせる。
 
「物理的に不可能なんだっけ?」
という声があがるが
 
「ここだけの話。千里は既におちんちんは取っているというかなり確かな情報がある」
と美緒。
「いや、それはもう確定情報」
と玲奈が言う。
 
「ちょっと怪しいとは思っていた」
と友紀。
 
「だいたい、千里は女子バスケット日本代表なんだから。ちんちんなんかある訳無い」
と玲奈。
 
「嘘!?」
「男子日本代表じゃなかったの?」
と由梨亜。
「女子日本代表だよ」
と言って、玲奈は自分のサブノートパソコンを取り出すと、auのデータ通信専用カードW06Kでネットに接続し、バスケット協会のU20女子アジア選手権の特設サイトを開く。
 
「おお、千里が載っている」
「すごーい。優勝してスリーポイント女王にベスト5?」
「あの子、そんな話、学校では何もしなかったのに」
 
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「だったら、もしかして千里って元々女子なの?」
と友紀が訊く。
 
「それは分からない。“村山千里 性転換”とかで検索しても何もヒットしない。もし千里が元男子で性別変更して、女子代表になったのなら、そういう情報がネットにあると思うんだよ。ところが全くそういう話が引っかからないということは、千里は元々女であったか、あるいは」
 
と言って玲奈はそこで言葉を切って言った。
 
「何らかの事情で、小学校高学年あるいは中学生くらいでバスケットを始めた当初から、女子バスケット選手であったか」
 
「最初から女子バスケット選手であったのなら、最初から女の子なんじゃないの?」
 
「じゃどうして大学入学当初は男装とかしてたんだろう?」
「もしかしたら男の子になりたい女の子なのかもというのも考えてみた」
 
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「それはあり得るね!」
 
「どうもさ。大学に入った当初の頃、千里は彼氏と別れたっぽいんだよ」
「ふむふむ」
「ところがその後でその彼とヨリを戻したみたいなんだよね」
「ほほぉ!」
 
「だから女を辞めようとしたけど、彼氏との仲が復活してやはり女に戻ろうと思い直して現在の千里の状態になっているとか」
 
「あり得る気がしてきた」
「じゃ、やはり千里は生まれながらの女の子?」
 
「ただ、千里は名前は伏せるけど、少なくとも2人の同級生男子に、高校時代に性転換手術を受けたと話している。ここだけの話、その2人は千里のヌードを見ている。完全に女の子のヌードだったらしい」
と美緒は言う。
 
「それは凄い情報だ」
「なんで男子にヌード見せる訳?」
「デートしたんだと思うけど」
「なんて大胆な」
「セックスもしたの?」
「ふたりとも女の子には興味の無い子だったからセックスしてない」
「ああ、なんかその2人というのがだいたい見当付いた」
 
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「でもそれもしかして高校時代ということにして実は中学生の内に性転換手術を受けていたりして」
 
「それもあるかも。だから最初から性転換手術を受けて学校にも女子として通学している状態でバスケ部に入ったのなら、誰も千里が性転換した元男だとは知らないまま女子選手をしていると」
 
「でももしそうなら、自分が男だった痕跡を徹底的に隠すと思う」
「うん。私もそこに思い至った。千里はわざわざ自分は男だとか言ってたもん」
 
「結局、千里は元々女の子な訳?それとも性転換して女の子になった訳?」
と友紀が訊く。
 
「結局よく分からないんだよね〜」
と美緒。
「でも、少なくとも現在千里が女の身体であることは間違い無い」
と玲奈。
 
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「なるほど」
 
 
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娘たちのお正月準備(8)

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