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■娘たちの年末年始(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-07-14

 
2010年のウィンターカップ。女子の試合は28日の3位決定戦と決勝戦で幕を閉じ、札幌P高校の優勝(3連覇)、旭川N高校は3位で銅メダル獲得という結果に終わった。
 
打ち上げの席で、この後の新チーム体制作りと4月からの新コートに早く慣れたいという意見が出た。そこで千里はローキューツの事実上のオーナーとしての権限を使って、ローキューツが練習に使用している房総百貨店の体育館を(百貨店の許可を取って)年末年始のN高校合宿に提供することを決めた。体育館に付属する宿泊施設も一緒に借りられることになった。
 
ただこの宿泊施設はもう4年も使用していない。どういう状況かは全く不明である。そこで、千里は打ち上げの後、ひとりで千葉に行き、取り敢えず状況を確認することにした。
 
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『明日朝からもう一度来て、明るい光の中で再度チェックする必要があるけどね』
と千里が半ば独り言のように言う。
 
『霊的な問題は俺たちで処理できるけど、物理的なものは守備範囲外だ。ムカデとかの忌避剤は撒いた方がいいと思う』
と《こうちゃん》が言う。
 
『うん。刺されたら怖いもんね』
 
それで体育館まで来てみたのだが、この日はまだ月が昇っておらず(この夜の月出は0:21AM)、星明かりの中、宿舎は不気味な姿を曝している。
 
『なんか幽霊でも出そうな建物があるなあと思ってたのよね』
『幽霊というか妖怪のスクツになってるな』
『・・・・・』
『どうした?』
『スクツ(巣窟の故意誤読)なんて死語じゃないかなぁ』
『そうか?』
『で、それ処理できる?』
『OKOK』
 
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それで、《とうちゃん》《せいちゃん》《りくちゃん》《こうちゃん》《げんちゃん》《びゃくちゃん》《すーちゃん》の7人で飛んで行って“処理”を始めてくれた。千里はこういうものが全く見えない体質なのだが、7人掛かりということは相当凄い状況かなと思った。
 
『まあ中に入ってみるか』
 
宿舎の鍵は、体育館の管理室の机の引き出しに入っているということだったので、千里がまず自分がいつも持っている体育館の合鍵で体育館を開け、管理室から宿舎の鍵を持って来て、宿舎を開ける。
 
「かびくさーい」
と思わず声に出して言う。
 
「換気すればだいぶ変わると思う。お掃除に1日掛かるかも知れないけど」
と《たいちゃん》。
 
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「うん。1日置いた方がいい気がする」
と千里も同意して言った。
 

入口入った所に部屋の配置図がある。入ってすぐの所にキッチンがある。ここに電気の大元のスイッチがあるのでそれを入れる。通電自体おそらく1〜2年ぶりではないかと千里は思った。電気のメーターはどうも体育館と一緒になっていたようだ。それなら電力会社に何か言う必要も無さそうだ。
 
キッチンには机、棚、冷蔵庫などがある。全体的にかび臭い。ポットなどが置いてあるが、このあたりの備品は新しいのを買った方がいいかもと判断。買出し用品のメモを書いた。《いんちゃん》と《たいちゃん》にも意見を出してもらって書き加える。
 
そして《すーちゃん》と《りくちゃん》を呼び戻し、買物を頼む。
 
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「これとこれはドラッグストアにしかないと思う。これはホームセンターで買える」
「閉店時刻まで間が無いから2人だけでは手に負えん。あと2人くらい要る」
「じゃ、いんちゃんと、びゃくちゃんも連れて行って」
「じゃ、朱雀と大陰はホームセンターに行ってくれ。俺と白虎でドラッグストアに行く」
「了解」
それで4人は飛んで行った。
 
結局、妖怪の処分は《とうちゃん》《こうちゃん》《せいちゃん》《げんちゃん》の4人で、買物を《すーちゃん》《りくちゃん》《いんちゃん》《びゃくちゃん》の4人でしてもらい、千里のそばには《たいちゃん》と《きーちゃん》だけが残ることになる。《くうちゃん》はこのような細かい事には関わらない。
 
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なお《てんちゃん》は千里の代理でファミレスに行っているが、《きーちゃん》は28-29日が神社のバイトはお休みなので、今日はここに来ている。
 
この後、ファミレスは31日から3日までお休みになる。
 
神社の方は、30日から5日まで連続勤務になるものの、30,3,5 は早番、31,2,4 は遅番(13:00-19:00)の予定である。但し1日は0:00-3:00 9:00-12:00 18:00-21:00 というハードな勤務になる予定だ。(31日午後から2日朝までは龍笛担当は、引退していた巫女さんにもお願いして4人体制で回す)
 

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「水道がかなりサビが出てる。しばらく出しっ放しにしよう」
と《たいちゃん》が言う。
 
「うん、そうしよう」
 
キッチンの隣にお風呂、トイレ、2階に上がる階段と並び、その向こうには1階の居室が並んでいる。最初の部屋に入ってみる。何も無い。下は板張りである。これはかえって畳などが敷いてあるのより掃除は楽だぞと千里は思った。押し入れがあるので開いてみる。かび臭いのはもうやむを得ないのだが、中にも物が無い。この宿舎の使用をやめた時に、中にある物品を全部撤去してくれているのなら、ほんとに掃除するだけで何とかなるはずである。物が色々残っていたら、その処理が大変な所だった。
 
「千里、廊下と全部の部屋の窓を開けてしまおう」
「それがいいかもね」
 
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それで《たいちゃん》と《きーちゃん》で手分けして窓を全部開け放ってくれた。
 
一応全部の部屋に入ってみたが、どの部屋にも物は無かった。管理室のそばにトイレ、お風呂・階段がある。トイレは洋式が設置された個室が4つあるが、朝とかは混みそうだなと思う。個室しかないのは、女子選手たちの泊まり込み用として建てられたからだろう。体育館には男子トイレもあったので、男性スタッフはそちらを使っていたのかも。
 
「個室しかなかったら男の人はおしっこできないよね?」
と千里が言うと
「そんなことはない。洋式便器の前に立ってできる。便座は上げる」
と《きーちゃん》が言う。
「え?そんなことできるの?」
と千里が驚いたように言う。
「千里ってほんと男の子の生態を理解してない」
「でもこちらのトイレは女子専用にした方が良いと思う」
 
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部屋が12個と聞いていたので、1階・2階に6個ずつかと思ったのだが、結局1階に4室、2階に8室であった。1階の管理室・トイレ・お風呂で4室分のスペースを取っている。お風呂は洗い場の蛇口(混合栓.シャワーヘッド付)が6つである。広さを見ても実際6人くらいずつしか入れないと見た。60人ほどの合宿メンバーの入浴には厳しそうである。
 
「ここからいちばん近い銭湯はどこだろう?」
「8kmくらい先にスーパー銭湯があるよ」
と《たいちゃん》が教えてくれる。
 
「遠いなあ」
 
「8kmジョギングしてお風呂に入るとか」
と《きーちゃん》が結構無茶なことを言う。ここしばらく神社での勤務が結構ハードなようなので、それできついジョークが出てきたか。
 
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「何てハードな入浴!」
「でもそれ帰りはどうするのさ?」
と《たいちゃん》が突っ込む。
 
「帰りだけバスに乗るとか」
と《きーちゃん》
 
「それしかないかも知れないなあ」
「ここの浴室は遅くまで練習した子が汗を流す程度で考えていた方がいいかも知れないね」
と《たいちゃん》も言った。
 
「もしかしたら、合宿の期間中だけでも、マイクロバスくらい借りておいた方がいいかも。どっちみち駅と体育館の間の交通も必要だし」
と《きーちゃん》は言う。
 
「誰か運転できるんだっけ?」
「29人乗りのマイクロバスなら中型免許で運転できるけど」
「きーちゃんかこうちゃん、運転できるかな?」
「私が運転してもいいのなら、するよ。私が神社に居る間は勾陳にさせて」
 
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「ちょっと荒っぽいけど仕方ないか。でもコーチ陣で中型か大型の免許持っている人いたかも知れないけど、コーチ陣は指導でくたくたになっているから、事故とか起こすと怖いもんね」
「そうそう」
 

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「でもこれ50人もの合宿者の食事をどこで取らせようか」
と千里は自問自答するように言う。
 
「50人が食事すると言ったら、できたら50畳欲しい。平米で言えば80平米」
「ここの廊下は何平米」
「千里凄いこと考えるね。ここは長さ20m弱だから、20平米くらい」
「全然足りないなあ。体育館のロビーはどのくらいあった?」
「あれは。。。」
と言って
「見てくる」
と《たいちゃん》が言うので
 
「いや、一緒に行こう」
と言い、3人で行って確認すると、玄関や控室などとして取られている部分を除くと2.6m x 28m = 72.8m2 ほどあった。場所によってはもう少し幅のある所もある。
 
「少し狭いけど何とかなるよね?」
と千里。
 
「うん。何とかしてもらおう」
と《きーちゃん》。
「机と椅子が必要だよ」
と《たいちゃん》。
 
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「椅子無しで座って食べる仕様で」
「その方が空間を有効利用できるかも」
「旅館の宴会に使うような折り畳み式の長テーブルがあればいいよね?」
 
「それ持って来ても叱られない所知ってる。倒産した旅館が近くにあるのよ。長テーブルはあったはず」
と《たいちゃん》が言う。
 
「勝手に持ってくるのはまずくない?」
「後で戻しておけば平気」
 
「たいちゃんが言うなら大丈夫かな。じゃ借りて来よう」
「じゃ、妖怪の処分が終わったら、勾陳とふたりで取りに行ってくるよ」
 

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それでその日はいったん引き上げることにした。いったん全ての窓を閉めた上でバルサン(ドラッグストアで買ってきてもらった)を焚く。
 
念のため、《りくちゃん》に朝までの見張りを頼んだ。体育館の管理室に居てくれる。そのほか、《こうちゃん》と《たいちゃん》がテーブルを取りに出かけて行った。
 
「冷蔵庫にあるビール飲んでもいい?」
と《りくちゃん》が言う。
 
「じゃ1本だけね。こうちゃんにも戻って来たらあげて」
「OKOK。そうだ。バルサンが終わった所で窓を全部再度開けようか?」
「あ、それお願い」
 
千里がV高校に戻って来たのは0時過ぎであるが、体育館の灯りがまだ点いている。行ってみると、絵津子と由実がひたすら1on1をしていて、南野コーチが付いていた。
 
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「千里ちゃん、この子たちに言ってやってよ。そろそろ寝ろって」
「じゃ、2人とも私に勝てたら寝なさい」
「え〜〜〜!?」
 
それで千里は絵津子と由実を1回交代で相手にした。すると絵津子は15回目、由実は20回目にやっと千里の横を通過してゴールを決めることができた。
 
「お疲れ様。じゃ寝よう」
 
それで引き上げて行きつつ、千里は南野コーチに言う。
 
「向こうの宿舎を見てきたんですが、やはり最低限の掃除が必要なんですよ。明日一日掛けて掃除させますから、良かったら、利用は明日の夕方以降にしてもらえませんか?」
 
「そんなに早く使えるなら言うこと無いよ。今日はどっちみち、男子の決勝戦を見ようと言っていたし、午後はここの清掃とかをして、その後、移動かな」
 
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「それでいいですね。食材の残りは明日の日中に私や司紗たちで移動させますよ」
 
「分かった。よろしく」
 

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「ところで向こうの設備なんですが、トイレの個室が4つしか無いのは、体育館側のトイレも使えるから、何とかなると思うんですが。お風呂が狭いんですよね」
 
「まあ元々こういう多人数で泊まることを想定してないだろうからね」
 
本来は6畳の部屋1人1室だったのかも知れない。
 
「ですから、マイクロバスでも借りて8km先にあるスーパー銭湯まで運ぼうかと。それに、そもそも駅と体育館の間の交通手段も必要なんですよ」
 
「なるほど」
 
「それで私の友人が運転のボランティアをしていいと言っています。もう3年来の友人なのですが」
と千里。
 
「その人の年齢と運転経験は?」
「年齢はたぶん35-36歳くらい。大型免許持っていて、運転歴は15年ちょっと。年間走行距離は3万kmくらいあるはずです」
 
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「そういう人なら安心かな」
 
「銭湯に行く時はジョギングで行って、帰りだけバスという提案もあるのですが」
「まさに地獄の合宿ね!」
 
と言ってコーチは笑っていた。
 

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