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■娘たちの年末年始(9)

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(C)Eriko Kawaguchi 2017-07-16
 
桃香が実家に帰省した際に同行した洋彦伯父が、氷見漁港で10kgのブリを1匹まるごと買ったのだが、桃香が千葉に戻る時、母が「こんなにあっても1人では食べきれないから、あんた持って行って」と言って5kgくらい持たせてくれた。(洋彦も2kgくらい持ち帰る)
 
それをアパートの冷蔵庫の冷凍室に入れようとしたのだが、中に入っていた冷凍食品や氷などを全部出しても入りきれない。さて、どうするかと思った所で、たまたま来ていた千里に提案した。
 
「そうだ。妹よ。ここのブリを保存する方法だが」
「なあに?お姉様」
 
「千里のアパートにある冷蔵庫をここに持ち込んで、そこに入れるというのはどうよ?」
「うちの冷蔵庫をこちらに持って来てしまったら、私はどうすればいいのよ?」
「うん。だから、千里はここで暮らすということで」
 
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千里もどっちみち、近い内にどこかに引越ししなければならないと思っていたので、取り敢えず一時的に冷蔵庫を桃香のアパートに置いてもいいかと考え、夜中にふたりでインプレッサで往復し、千里のアパートの冷蔵庫を中身も丸ごと桃香のアパートに運んだ。おかげで、何とかブリは全部冷凍室に入れることができた。それで千里は桃香に言った。
 
「このブリの入っていた発泡スチロールの箱、私にちょうだい」
「いいけど、何するの?」
 
「彼氏が来た時に、これでビール冷やしておく」
「すまーん」
 
「冷やす用の氷はこちらのアパートから持っていこう」
「それはブリを少し消化しないと製氷できんな」
「じゃ明日の朝御飯はブリの照り焼きで」
「千里が作ってくれるのなら歓迎だ」
 
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桃香は割とあまり深く考えずに言ったのだが、千里はドキッとした顔をした。
 
「それって、朝まで私はここに居るということ?」
 
「どっちみち冷蔵庫がここにあるから、朝御飯作るのに困るだろ?」
「そうだね〜。じゃ泊まっていくか」
 

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そういう訳で、千里は泊まっていくことにし、先日と同様、6畳に桃香が自分の布団を敷き、4畳半には客用布団を敷いて寝ることにする。例によって、夜中に桃香は夜這いを掛けて来たが、千里はしっかり撃退する。
 
「千里、撃退の仕方が容赦無さ過ぎる。これマジで痛い」
「正当防衛だからね。夜は寝なさい」
 
それで桃香も懲りたようで、その夜は朝まで安眠することができた。
 

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朝(1月4日)、千里が起きた時、まだ桃香は寝ていたが、朝御飯を作ることにする。
 
最初お米を4合研いで、ざるにあけておく。
 
冷凍室から適当なサイズのブリのブロックを取り出し、食べる分だけ解凍できるように、アルミ箔で解凍したくない部分を覆ってレンジに入れ、解凍ボタンを押す。少し融けたところで、よく研いだ包丁で切断し、融けてない部分は冷凍室に戻す。
 
切り身のサイズにカットして(6切れ作った)、いったん冷蔵庫に入れておく。御飯のスイッチを入れる。携帯のタイマーを掛けて・・・仮眠する!
 
タイマーが鳴った所で起きて、ブリの照り焼きを作り始める。
 
先にタレを作りよく混ぜる。フライパンを熱して、そこにブリを、まず皮の方を下にして入れてよく焼く。ひっくり返してまた焼いた上で、ふたをして蒸焼きにする。充分火が通った所でふたを開ける。タレを掛けながら弱火で焼いて充分魚にタレが絡まるようにする。
 
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だいたいできあがるかなあ、という所でアパートのドアが開く。
 
「なんかいい匂い」
と入って来た玲奈が言う。
 
「今照り焼きが焼き上がる所。御飯を3人分、盛ってくれる?」
「あ、うん」
 
それで玲奈が食器棚から茶碗を3つ出して御飯を盛り、箸も3膳持って来て並べた。
 
そして、千里は焼き上がったブリの照り焼きを2つずつ、3つの皿に盛って並べた。
 
「桃香〜、朝御飯できたよぉ」
と言って起こす。
 
「あ、いい匂いだ」
などと言って桃香は起きてくる。寝間着代わりのジャージの上下を着ている。
 
「あれ、玲奈来てたんだ」
「おはよう」
と言ってから、玲奈は尋ねる。
 
「あれ?千里と桃香だけ?」
「うん。誰か来そうだったから3人分焼いたんだよ」
と千里は言った。
 
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「へー!」
 
「私、電話掛かってくるのとかも分かるんだよね〜。あと5分くらいしたら桃香に電話が掛かってくる」
 
「マジ?」
 

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「千里、昨夜ここに泊まったの?」
「そうそう」
「した?」
「何を?」
「何をって、その、秘め事というか何か」
 
「まさか。私も桃香も各々恋人がいるし、桃香は女の子が好きだから私は恋愛対象外、私も男の子が好きだから、桃香は恋愛対象外。遅くなって自分のアパートまで戻るのが大変だったから、純粋に睡眠を取らせてもらっただけだよ」
 
「うーん。。。そのあたりに微妙な疑問があるのだが」
と玲奈は言葉を濁す。
 
「まあ夜中に桃香に襲われたけど、撃退した」
と千里。
「千里酷い。痛くてしばらく起き上がれなかった」
と桃香。
 
「まあレイプ魔は手痛い目に遭わせなきゃダメだよね」
と言って玲奈は笑っている。
 
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しかし・・・桃香が千里に夜這いを掛けたということは、少なくとも桃香は千里を恋愛対象と思っているのでは?だって千里って、こんなに女の子っぽいんだもん、と玲奈はブリの照り焼きを食べながら思った。
 

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そんな感じでおしゃべりしながら、朝御飯を食べていたら、桃香の携帯が鳴る。
 
「ほんとに電話掛かってきた!」
と玲奈が驚く。
 
それで桃香が出ると、バイト先から、急に来られなくなった人が複数あり、人数が足りないので、可能だったら出社してくれないかということである。
 
「分かりました。行きます!」
と桃香は答え、急いでブリの照り焼きの残りを食べると、着換え始める。
 
玲奈は何気なくその着換えの様子を見ていたがふと思って言った。
 
「千里がいても別に平気で着換えるのね」
 
「ん?」
と桃香は言って一瞬考えたものの、
 
「まあ千里は女の子の一種だから、別に気にしなくてもいい気がする」
と桃香は言った。
 
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「まあ確かに」
 
実際、体育の授業の時も千里は女子更衣室で着換えていたもんなあ、と玲奈は思った。
 
それで桃香は
「食器はシンクに適当に放り込んどいて」
と言って出かけて行った。
 

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それでしばらく千里は玲奈とおしゃべりしながら朝御飯を食べていたのだが、ふと千里は思い出して言った。
 
「あ、そうそう。華原先生には既に言っているけど、私、13日から28日まで合宿に入るから学校には出て行けないから」
 
「また日本代表の活動?」
「そうそう。フランスに行って来ないといけない」
「大変だね。今度はどこの大会に出るの?」
 
「6月にアメリカでU21世界選手権。U18から始めて4年目でこれが最後になる。U18,U20のアジア選手権で初優勝できたけど、実際このチームは物凄く強いと思っている。メンバーもU18の時から3人しか交替してないし。今年で解散するのが惜しいくらい。この後は、フル代表にマージされていくけど、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックから、2020年のオリンピックあたりが私たちの世代のピークになると思う」
 
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(2020年のオリンピック開催地が決まったのは日本時間で2013年9月8日5:20AM)
 
「オリンピックかぁ。凄いな。頑張ってね」
「うん」
と千里は笑顔で答えた。
 

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4日のオールジャパンは舞台を代々木第1第2体育館に移し、いよいよWリーグの上位チームが出てくる。センターコート仕様なので、第1体育館で1試合、第2体育館で1試合である。12:00からの時間帯では、第1体育館で札幌P高校−サンドベージュ、第2体育館でジョイフルゴールド−ハイプレッシャーズの試合が行われる。N高校のメンバーたちは第1体育館のP高校の試合を見た。千里もその時間に合わせて出て行って試合だけ見た。
 
圧倒的な試合であった。
 
Wリーグのトップチームに対してP高校は全くなすすべがなかった。スピード、パワー、シュートの精度、リバウンド、全てにわたってサンドベージュはP高校を圧倒した。110対73の大差でインターハイとウィンターカップの覇者・P高校は敗れ去る。
 
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「マジでしたよね?」
と由実が訊く。
「うん。サンドベージュはマジ全開だった。この相手には油断したら食われると思ったから、全力で叩き潰しに行ったんだよ」
と千里は答える。
 
渡辺純子がほとんど放心状態でコートに立ち尽くしていた。
 
しかし彼女はこの経験で更に伸びるだろう。
 

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なお、第2体育館の方は、ジョイフルゴールドがフラミンゴーズに勝った。この日の結果はこのようである。
 
札幌P高校(高校)___×−○サンドベージュ(W1)
ジョイフルゴールド(社1)○−×フラミンゴーズ(W8)
茨城TS大学(大3)___×−○ビューティーマジック(W5)
ビッグショック(W9)__×−○エレクトロ・ウィッカ(W4)
 
今日、勝ち上がり組でWリーグ上位に勝ったのは、ジョイフルゴールドのみである。橘花や桂華たちのTS大も負けてしまった。ビューティーマジックは攻撃大好きのチームでTS大とはお互いに相性がいい感じだった。ハイスコアのゲームになったものの、最終的には地力の差でプロ側が勝った。
 
明日は3回戦の残り4試合が行われ、栃木K大学などが登場する。
 
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第1時間帯の試合だけ見て、N高校のメンバーが合宿所に引き上げようとしていたら、ロビーに札幌P高校の2年生・久保田希望が出ていた。こちらの紫とはU17日本代表で一緒になっているのもあり、お互いに手を振る。
 
「もう帰るの?」
と紫は何気なく声を掛けた。
 
「明日の試合まで見てからその先をキャンセルして帰る」
と希望。
「今日は残念だったね」
と紫は言う。
 
大差で負けているので「惜しかったね」とは言えない所である。紫はこの辺りの言葉の使い分けがしっかりしている。
 
「N高校はどこかで合宿してるの?」
「うん。千里先輩のチームの体育館が4月からの新しいコートのレイアウトになっているから、そこで練習してるんだよね」
 
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それを聞くと、希望は驚いたような顔をした。そして
 
「N高校のみなさん、ちょっと待っていてもらえません?」
「あっと、いいけど」
 
それで希望が走って奥の方に行く。
 
「私、まずいこと言っちゃったかな?」
と紫が由実の顔を見ながら言う。
 
「紫にしては安易な発言だと思った」
「ごめーん」
 
「まあ十勝さんが飛んでくる気がするね」
と宇田先生も笑っている。
 
「ごめんなさい!」
と紫。
 
案の定、P高校の十勝監督が希望と一緒に走ってやってくる。
 
「宇田さん、新しいレイアウトのコートで練習してるって?」
と十勝さんが宇田先生に声を掛ける。
 
「うん。やはりこれはできるだけ早く慣れた方がいいという結論になってね。うちの高校自体も今週末には新しいレイアウトにするんですけどね。その前に新しいレイアウトの体育館があるというので、練習させてもらっているんですよ」
と宇田先生は説明する。
 
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「うちは今月下旬に工事するつもりだった。ね、ね、そこで少しうちも練習させてもらえない?」
と十勝さん。
 
「いいですよ。合同合宿します?」
「しましょう。午後から行っていい?」
「いいですよ」
 

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