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■娘たちの年末年始(14)

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着付けまでしてもらったのが8時半である。いったん貴司の家まで戻り、この振袖で、理歌・美姫・淑子と記念写真を撮った。
 
「でも最近、千里姉さんと貴司兄さんって、留萌で完璧にすれ違いになってません?」
「そうなのよね〜。礼文では一緒になったけど、留萌ではなかなか会えないのよ」
 
ここに2時間ほど滞在してから、ミラココアを運転して市役所まで行った。指定されていた生涯学習課まで行くと、
 
「わざわざ済みません」
と言って、まずは会議室に案内される。
 
「これ新成人の誓いの原稿書いてきたんですが」
と言ってみせると読んでいたが
 
「素晴らしいですね。それではこれでお願いします」
と言われ、無修正になった。実は玲羅が例文サイトでサンプルを調べてくれたので、それに少し独自のアレンジを加えたものである。
 
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市長室に案内される。
 
「おお、村山さんですか。あなたはうちの町の誇りですよ」
と言われて、笑顔で握手を求められた。
 
U20アジア選手権でもらった金メダル、優勝の賞状(メンバー全員に配られたカラーコピー)、ベスト5でもらった時計、スリーポイント女王でもらったスタールビーのペンダントを見せる。
 
「スタールビーとは豪華ですね!さすが国際大会だ」
とほんとに感動しているようであった。
 
市長からの表彰ということで表彰状をもらい、記念にといって「ルビーのペンダントに比べたら安いもので申し訳ないですが」などと言って、真鍮製の四角いメダルに留萌市の紋章が浮き彫りになったものを頂いた。
 
「高校時代も学校からこんな感じのメダルを頂きました。でもひとつひとつが良き想い出です」
と千里が笑顔で言うと
 
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「ではこれも良い想い出にしてください」
と言われた。
 
その後、市長さんと市長室で早めのお昼ごはんを食べながらお話しした。お昼は市内の料理店で作られた新鮮なお刺身の入った仕出しであった。お魚の鮮度がいいので、おそらく1時間以内に作られたものかなと千里は思った。
 
「この後はまた大会とかあるのですか?」
と市長さんから訊かれる。
 
「今年6月にU21世界選手権があります。この大会で日本は2003年は参加できず、2007年は12国中10位だったのですが、この大会は今回が最後で廃止されてしまうので、何とかその最後の大会はもう少し上の成績をあげたいです」
と千里が言うと
 
「ぜひ頑張ってください。期待してますから」
と市長さんは言っていた。
 
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市役所から文化センターまでは車で2-3分なのだが、会場の駐車場は車が多いですからということで、千里の車は市役所の方に駐めたまま、市職員の人の車で会場入りした。14時半から受付で15時開始ということで、それまで敷地内を散歩していた。
 
すると中学の時の音楽の先生・藤井先生とバッタリ会う。
 
「もしかして、村山さん?」
「はい。ご無沙汰しております」
と挨拶する。
 
「今日成人式?」
「そうなんですよ」
「なんか格好良い振袖着てるね!」
 
「これ自分でお絵描きしてプリントしてもらったんです」
「すごーい。プリンタなんだ!でもよくこういう可愛い絵を描くね!」
「絵はわりと得意でしたから。先生、もしかして成人式で演奏ですか?」
 
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「そうそう。私、今C中学に居るんだけど、今日はうちの中学の吹奏楽部を率いて、成人式のお祝いの演奏。なんなら、千里ちゃん振袖のままでいいからフルートでも吹かない?トランペットでもいいよ」
 
「すみませーん。私、新成人を代表して『新成人の誓い』を言わないといけないので遠慮しておきます」
 
「おお、凄い!頑張ってね」
と言ってから、藤井先生は小さい声で言う。
 
「でも千里ちゃん、女の子の格好で良かったんだっけ?」
「いや、そもそも私、女子バスケット選手として国際大会で活躍したというので、代表をすることになったんですよ」
 
と言って、千里はバッグから FIBA Asia Under 20 Championship for Women の刻印が入っている金メダルを出してみせた。
 
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「すごーい!金メダルだ。ちゃんとwomenって刻印されてるね」
「こんなのもあります」
 
と言って Best5 2010 FIBA Asia U20 Women という文字が文字盤に描かれている時計を出してみせる。
 
「ベスト5って、上位5人ってこと?」
「バスケットだからベスト5ですね。野球ならベスト9ですよ」
「なるほどー。これかなり凄くない?」
 
「まあたまたま私より強い人が4人しかいなかったということで」
「でもたくさん選手いたんでしょ?」
「そうですね。1部リーグ6ヶ国72名かな」
「2部もあるの?」
「2部が4ヶ国です」
「その10ヶ国の、でもそもそもそこに選ばれた選手が各国のトップクラスなんでしょ?」
「まあインターハイとかでいい成績あげたのが評価されたかな」
「インターハイなんて出て行くだけでも多くの選手からしたら憧れだもん。これは何十万人もの選手の頂点だよ。そりゃ、新成人代表くらいしてもらわないとね」
「あははは」
 
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「もしかして戸籍上の性別も変更した?」
「それは来年くらいに申請するつもりです」
「ああ、あれって色々手続き大変なんだろうね」
 
「けっこうハードルが高いですよね。条件が厳しすぎて変更を諦めている人たちもいますよ。昔はそもそも変更がほぼ不可能だったから1歩前進なんでしょうけどね」
 
「だよね〜。私の古い友人にも、戸籍上は男なんだけど、凄く女らしい人がいたんだよ。あれ?この話したっけ?」
「はい。中学時代に聞きました」
 
「主婦としてけっこう埋没してたんだけど、戸籍が変えられないから旦那ともずっと内縁のままだったのよね。でももしかしたら、もう戸籍変更したかもね」
「それで法的にも結婚できているといいですね」
 
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もしその2人が純粋に内縁関係を続けていたのなら、性別変更することによって結婚できているよな、と千里は思った。もし思いあまって養子縁組によって戸籍をひとつにしていた場合は、いざ性別変更しても法的に「親子」なので結婚することができない。いったん養子縁組で親子になったものは、たとえ離縁しても結婚はできない(民法736条)。
 
養子縁組をするというのは本来そのくらい重い、親としての責任が生じるものである。養女にした女の子に懸想して自分の妻にしようなどと考える養親がいたら、子供は安心して養親の許で過ごせないであろう。
 
しかし同様の問題は、普通の同性愛カップルの場合でも、将来同性婚が認められた場合に問題になることが予想される。
 
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結局受付時間になるまで藤井先生や演奏する吹奏楽部員と一緒に過ごした。
 
「でも千里ちゃん、楽器とか持って来てないの?」
と先生から訊かれる。
 
「うーん。念のため1本持って来たんですけどね」
と言って、千里はパソコンを入れている大型バッグから愛用のフルートを取り出した。このパソコンと通信設備にMIDIキーボード、フルートのセットは常時持ち歩いていないと雨宮先生から叱られる。重いが仕方ない。
 
「ちょっと見せて」
と言って藤井先生が千里のフルート借りて見ている。
 
「これ凄いいいフルートじゃん!」
「私、けっこうCDの制作とかに呼び出されたりするから、それ用なんですよ」
と千里は言う。
 
「スタジオミュージシャンみたいな?」
「それに近い状態ですね。名前は出せませんけど、ある大物作曲家の先生の助手に近い状態になっているもので」
「それも凄いね!」
 
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そういう訳で今日千里が持って来ているのは、サンキョウの総銀フルート、Handmade ST inline Ring-key New-E Ag925 である。税別73万円のところを雨宮先生の“顔”で、とてもここに書けないほどの割引価格で購入している。
 

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ST=Soldered Toneholes. 姉妹品で少し安価なDT=Drawn Toneholes製品もある。Ag925は92.5%の銀純度で、銀のアクセサリーなどもだいたいこの純度が使用される。純銀(Ag1000)に比べて変形しにくいのが利点。スターリングシルバー(sterling silver)ともいう。
 
Ag900 = Coin Silver Ag925 = Sterling Silver Ag958 = Britannia Silver Ag1000 = Pure Silver
 

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取り敢えず千里がそのフルートで通称『バッハのメヌエット』(本当の作者はクリスティアン・ペツォールト)を吹いてみせると「格好いい〜!」という声があがっていた。
 
「ね、ね、ロンド・ルッソ吹ける?」
と藤井先生が言うので、メルカダンテ『フルート協奏曲第2番ホ短調Op.57』の第3楽章冒頭を吹いてみせる。この曲は高校3年の時に旭川の市民オーケストラと一緒に吹いている。
 
「うまーい。本当に合奏やろうよ」
「え〜〜!?」
 

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やがて14:30になり、受付が始まる。千里も記名したが
 
「村山様はこちらへ」
と言われて別室に案内された。ここでお茶とお菓子を頂きながら、誓いの言葉を述べる時の手順が説明され、実際にその場でシミュレーションしてみた。
 
やがて成人式が始まる。千里は会場の最前列・階段前にリザーブされていた席に就いた。
 
オープニングは地元の保存会の人たちによる留萌黒潮太鼓の演奏であった。威勢の良い太鼓の演奏に会場の雰囲気は盛り上がった。
 
その後、実行委員長の挨拶に続いて、市長の祝辞、県会議員の祝辞、市会議長の祝辞、と続いた後で祝電が披露される。それでやっと千里の出番である。
 
「新成人の誓いの言葉、新成人代表、留萌S中学出身で、アンダー・トウェンティ・アジアバスケットボール選手権、日本女子代表で優勝し、スリーポイント女王とベスト5に輝いた、村山千里さん」
と紹介されたので、千里は席を立ち、ステージにあがった。
 
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会場内に小さなざわめきがあるのは気にしないことにする。
 
原稿を広げて誓いの言葉を読み上げ、その原稿を市長さんに手渡した。大きな拍手が贈られた。一礼して下に降りようとしたら、司会の女性が近づいて来た。
 
「村山さん、その掛けておられるのが優勝の金メダルですか?」
「はい、そうです。アンダー18の時に続いて優勝できたので嬉しかったです」
「すごいですね〜。アジアの大会で金メダルって。次は世界大会ですね」
「はい頑張ります」
 
「でも村山さん、素敵な振袖を着ておられますね」
「これ自分で絵を描いてプリンタで印刷してもらったんですよ」
「ああ、プリンタ染めなんですか!」
「最近の振袖はほとんどプリンタ染めですよね。でもここのは自分で描いた絵で作ってもらえるのがいい所なんですよ」
 
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「絵の描ける人にはいいですね!大きな格好良い鳥がバスケットボールで遊んでいるんですね」
「はい。鳳凰の夫婦と子供の鳳凰です。子供は男の子と女の子。私もこんな家庭を作れたらなあと思って描きました」
と千里。
 
「幸せそうでいいですね。ところで村山さんがスリーポイントの達人とお聞きしたので、ゴールを用意しました」
と司会者の女性が言う。
 
バスケットのゴールを抱えた実行委員の男子が3人入ってくる。千里は微笑んで渡されたボール(ミニバス用の5号ボールだった)を持つとかるーい感じでシュートする。
 
きれいにゴールに飛び込む。
 
凄い歓声と拍手がある。
 
「素晴らしいですね。さすがアジアのNo.1シューター!それではもう一度拍手を」
 
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というので拍手をもらって下に降りた。
 

その後、新成人への記念品贈呈とアナウンスされ、これも千里が壇上に登り、代表で記念品の目録を受け取った。実際の記念品は会場を退場する時に全員に渡されることになっているが、気分が悪くなったり急用などで途中退場する人には玄関の所にいる実行委員の人が渡してあげることになっているらしい。
 
その後、一応閉式のことばがあった上で、VTRの上映がある。留萌の自然やお祭りに漁業、昔のニシン御殿などがあった時代の映像も織り込まれている。この世代の子たちの小学校や中学校での運動会などの映像まで入っていた。20分ほどにコンパクトにまとめたものであった。このVTRはCDに焼いて今日の出席者全員に記念品と一緒に配るとアナウンスされた。
 
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その後、C中学の吹奏楽部が入り、藤井先生の指揮で記念の演奏が行われる。
 
『クワイ川マーチ』(ボギー大佐)に始まり、『旧友』『ラデツキー行進曲』とマーチ系の曲を演奏していく。そして最後にザ・スクエアの『TRUTH』を演奏する。クラリネットの安東さんが冒頭のラドミ・ドミシソ・ラミソレ・ファレミラという細かい音符の演奏(前奏というよりAメロ)を入れた所で、千里がフルートを構えてステージに上がり、ミソレード・シドシラファーという主メロディー(Bメロ)を吹き始める。大きな拍手がある。その後、千里のフルートと安東さんのクラリネットが掛け合いのようにして進む。
 
実はこの曲は現在高校受験のために抜けてしまった3年生の人のフルートと安東さん(2年生)との掛け合いでアレンジしていたものの、今いるフルート担当の子にはまだ吹けないので、現在演奏できない状態になっていた曲らしい。千里が来ていなかったら、この曲ではなく『エルクンバンチェロ』で締める予定だったということだった。
 
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Cメロの所をトランペットとトロンボーンが吹いた後、アドリブっぽいDメロ部分は千里がフルートで演奏する。そしてクラリネットによるAメロに戻ってここまでの演奏を繰り返し、最後はフルート・クラリネット・トロンボーンが一緒になってAメロを演奏して最後はオーケストラヒットで終了する。
 
大きな拍手が送られて成人式は幕を閉じた。
 

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