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■女子中学生・セーラー服と移転中(20)

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長万部(おしゃまんべ)に着くと弾児は「おお、弾児さん、待ってたぞ」という男性親族の声でそちらに行ってしまった。
 
「飲んべえは放置で」
と光江さんが言い、千里が天子の手を握って啓次さんとのお別れをしに行った。今夜が通夜で、明日葬儀になったようである。天子は棺の前で数珠を持ち
「なんまいだぶ、なんまいだぶ」
と唱えていた。
 
克子さんが光江に訊いた。
「顕士郎君達は?」
「済みません。今回はお留守番で」
「ああ、献花するのを頼もうと思ってたのに」
「すみません!」
「本当は高校生以下がいいんだけど、1人は、うちの冬代にさせて、もう一人は千里ちゃんか玲羅ちゃんやってくれない?」
 

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「玲羅で」
「お姉ちゃんで」
 
「だったらじゃんけん」
「それだめです。お姉ちゃんは日本一ジャンケンが強いです」
「そんなに強いんだ!」
 
「じゃ千里ちゃんの代わりに私が玲羅ちゃんとジャンケンするよ」
と光江さんが言うので、光江さんと玲羅でじゃんけんをした。
 
光江さんが勝って、もうひとりは玲羅がすることになった。
 
「うちにも男の子が1人いたんですけどねー」
と克子さんはまだ言っている。
「ああ、女の子になっちゃいましたからねー」
「まあなっちゃったものは仕方無いよ。でも結婚したからいいじゃん」
と竜子さん。
「そう。あれはビックリしちゃった!」
と克子は言っていた。
 

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今回集まった親族
(2) 長男望郎の娘・満洲子と夫の康夫(函館)
(4) その息子の広康と妻・絵里、その子供の来里朱(高1)と真里愛(中2)(八戸)
(2) 長女サクラの第4子・礼蔵と妻・竜子(江別市)
(3) 故人の妻・栄子(喪主)、その息子の鐵朗と妻・克子(事実上の葬儀取り仕切り)
(6) その子供の春貴と夫(東京)、夏美と夫(室蘭)、秋恵(札幌)、冬代(札幌)
(3) 三男庄造の妻・倫子、その息子の国男と妻・智子(根室)
(3) 四男十四春の妻・天子(旭川)、孫の千里(姫路)と玲羅(留萌)
(2) 天子の二男・弾児と妻の光江(札幌)
以上25名。
 
略系図

 

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「千里ちゃん、その制服、兵庫県の姫路H高校の制服じゃないよね」
と夏美さんが言う。
「はい、そうです。よくご存じですね」
「甲子園でその校章を見た記憶があった」
「よく覚えてますねー」
 
千里のセーラー服の、胸の所とスカートの裙に校章が縫い付けてある。(スカートの裙に付けるのは改造しにくいようにするためという噂!)
 
「千里ちゃん姫路に行くの?」
「引越済みです。今朝、神戸空港からプライベート・ジェットで旭川空港まで飛んできました」
「嘘!?」
「嘘です」
「どこまで本当なのか分からなくなった」
「はい、どうぞ」
と言って、千里は姫路銘菓“玉椿”を配る。
 
「あ、これお土産にもらったことある」
と言っていた人が何人かいた。
 
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「しかしまた遠くまで行くね〜」
「友人と同じ高校に行こうと約束してたら、彼女のお父さんが姫路に引っ越しちゃったので私まで姫路に行くことになりました」
「それはまた凄い」
 
「中学の大会で私と彼女が優勝を分け合ったんですよ。延長8回までやって決着が付かなかったので引き分けになりました」
「ソフトボールか何か?」
「剣道です」
「へー凄い」
「本当は決着が付くまでやるルールなのですが、もうそれ以上は審判の体力がもたないというので引き分けになりました」
 
「確かに審判は選手以上に辛い」
「そこまで戦った仲だったら同じ学校に行きたいかもね」
とみんな理解を示した。
 

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東京から来た春貴さん夫婦が19時頃到着する。
 
それで19時半から通夜が始まる。千里も玲羅も制服で参加する。光江さんは洋服の喪服、天子は和服の喪服である。千里が着付けしてあげた。坊さんのかなり長い読経があり、そのあと焼香をする。喪主、倫子さんに続いて焼香したので、これに千里は付き添い一緒に焼香した。玲羅は光江さんと一緒に焼香した。
 
お通夜が終わった後、女性陣でお弁当を食べていた時に、その話が出た。
 
「あの人が今際の際(いまわのきわ)に言ったんですよ」
と故人の妻・栄子さんが言った。
 
「『あ、モモ姉さんが迎えに来てくれた』って」
「モモ?」
「私が『モモさんって誰です?』と訊いたら自分の姉だと言うんです。『サクラさんじゃなくて?』と訊いたら『サクラ姉さんの上にもうひとり女の子がいたんだよ。生まれつき目が見えなかったから母さん(ウメ)の知り合いのイタコさんに引き取られてイタコになったんだ』と言って」
「へー」
「『あ、サクラ姉さんも来た。俺は行く。じゃな、栄子。これまでありがとう』と言って、そのまま息を引き取ったんですよ」
 
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「まあ10年くらい呆(ほう)けていた人の最後の戯言(たわごと)、気にしても仕方無いかも知れないけどね」
 

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すると誰からともなく意見が出る。
「いや、サクラさんは長女ということになってるけど、その上に本当はもうひとり女の子がいたという話はあった」
「うん。小さいうちに亡くなったんじゃないかとか」
「イタコになったという説もあった」
 
その時千里は言った。
「私、小さい頃、夢を見たことがあります。4人のお婆さんに囲まれていて、その4人がウメ、キク、サクラ、モモだったんです」
「ウメさんは啓次さんや十四春のお母さん、キクは私のお母さん」
と天子が言う。
 
そのウメとキクが姉妹である。
 
「サクラが啓次さんのお姉さん」
「千里ちゃんの夢にも出て来たということは、やはりそれがモモさんか」
「啓次さんが“モモさんはイタコになった”と言い残したということは、たぶん幼い内にイタコになって、出生届けも出さなかったんだろうね」
「昔は子供が5歳くらいまで育ってからやっと出生届けを出してたからね」
「うん。子供は3〜4歳までに死ぬ子が多かったから」
「数えで7歳くらいまで育ったら人間としてカウントするという考え方だった」
「モモさんは多分3〜4歳くらいでイタコになったんだろうね」
「でもその先の行方は分からんなあ」
「すぐ死んじゃったかもしれないし」
 
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千里はしばらく目を瞑っていたが言った。
「モモさんの子孫が今でもどこかに居る気がします」
「へー!」
「千里ちゃんが言うなら居るかもしれない」
「イタコの集団から抜けて結婚する人もいるから」
「実際ウメさんやキクさんのお祖母さんがそうだったらしい。結婚することになった時、人別帳を作ったんだって」
 
「モモさんもそれでイタコ集団を抜けてどこかで結婚したのかもね」
 
男達は他の部屋で飲んでいたので、この話は女性陣だけが聞いている。
 

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旅館は天子・光江・千里・玲羅で1部屋になっていた。男性陣は夜通し飲む体制だったので宿の部屋も割り当ててない!
 
「どんだけ飲むつもりなのか」
と光江は少し怒っていたが
 
「まあ今回のメンツが集まるのはこれで最後だろうからいいんじゃないの?」
などと天子は言っていた。
 

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男性陣の飲み部屋のほうでは親族の集まりデビューとなった春貴の夫・山畑真瑚(まさご)(*42) が好奇心の質問攻めに遭っていた。
 
「春貴さんとの夫婦生活ってどんなの?」
「えー?普通の夫婦生活だと思いますが」
「セックスするの?」
「夫婦なんだから当然しますよー」
「セックス可能なんだ!」
「普通にできますよ。ぼくが彼女のヴァギナに入れます」
「春貴さん、ヴァギナがあるんだ!」
「ありますよ。春貴さんは普通の女性です」
「へー!すごいね」
 
彼は相当飲まされたようである。同じく親族デビューとなった夏美の夫・洋和(ひろかず)がおかげであまり飲まされずに済んでいた。
 
(*42)“瑚”の字は現在は人名用漢字であるが、1990年に人名漢字表に追加された文字である。山畑真瑚(まさご)は1975年の生まれなので、この名前が本名であるなら彼は1990年以降に改名していることになる。
 
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翌日(3/27) は、朝10時から葬儀が行われた。男性陣はギリギリになってからまとめてバスで連れて来られて会場に入ったが、ほとんどがダウン寸前の状態だった。かなり泥酔したようである。
 
結局お坊さんの読経の間はロビーに居て、焼香になってから中に入って焼香した。葬儀では焼香時の天子のガイドは玲羅にさせたが、
 
「お祖母ちゃん、ちゃんと歩く所分かってるみたいで、私は支えてるだけだった」
と言っていた。
 
告別式に続いて初七日の法要が行われるが、焼香の時、今度は千里が天子のナビゲートをした。天子の足取りはしっかりしており、たぶんお坊さんたちは天子が目が見えないことに気付かなかったろう。しっかりお坊さんに向かってお辞儀をしていた。
 
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(長万部方式は出棺前に初七日までする:北海道は地区によりこのあたりの順序が実に様々である)
 

初七日まで終わったところで出棺になる。最後のお別れをした後、玲羅と故人の孫に当たる冬代(21 春貴の妹)が献花した。
 
そして故人の息子の鐵朗さん、春貴の夫・真瑚(まさご)、夏美の夫・洋和(ひろかず)、それに長男・望郎の孫にあたる広康さんの4人で棺を乗せた台車を押した。これは台車を使わず手で持つ方式ならきっと棺を落としている。それに若くて体力のある真瑚(まさご 30)・洋和(ひろかず 29)が頑張ったので、結構何とかなったようであった。真瑚さんは昨夜凄い量飲まされたのにかなり回復していた。凄くお酒に強い人のようである。筋肉も凄かったし、何かスポーツをするのだろう。
 
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(原理的に筋肉の多い人はお酒に強い。筋肉がアルコールを分解する)
 
12時過ぎには解放され、千里たちはこの連絡で帰った。
 
長万部14:46(北斗11号)16:58札幌18:00(スーパーホワイトアロー23)19:20旭川
 
玲羅は旭川まで付いてきた!駅前まで瑞江がRX-7で迎えに来てくれたので4人で天子のアパートに行き、一緒に夕食を食べて玲羅は天子の所に一泊した。千里は夕食まで一緒に食べてから天子のアパートを出る。
 
「お姉ちゃん、まだ飛行機あるの?」
「平気平気。ビジネスジェットを待たせてるから」
「その冗談、半分信じたくなる」
 
実際には千里Gは旭川分室に移動して姫路分室にいるサハリンと位置交換で姫路に戻った。
 
旭川に来る時はミッキーと位置交換したが、今日はサハリンと位置交換した。結果的に千里の直属ガードは、コリンとミッキーが姫路、サハリンが旭川、星子が深川、という状態になる。
 
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3月30日(木) 3:30.
 
義浜ハイジは初めての子供となる女の子を旭川市内の病院で出産した。小登愛の2人目の子供となる。
 
予定日より半月ほど早いが母子ともに元気だった。多分早めに出て来たことで母体の負担は少しは小さかったはずである。それでも陣痛が始まってから出産まで22時間ほどかかり
 
「辛かったぁ。身体のバランスが全く取れなくて、位置感覚も消失して、もう死ぬかと思った」
とハイジは言っていた。
 
もっとも助産婦さんに言わせれば「充分安産の内」という話である。
 
裕恵は、次は私がこれ経験するのかなあ、怖いなあと思っていた。
 

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3月31日(金).
 
NTT東日本およびNTT西日本のICカード公衆電話とICテレホンカードが廃止された。
 
携帯電話の普及により。この頃は公衆電話自体が存在意義を失いつつあった。
 
 
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