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不動産屋さんが終わった後、姉はマナに言った。
「水曜日卒業式なら髪を可愛く切ってもらおう」
それで先日の美容室に母に連れられて行く。姉は入学式前に行くと言っていた。
「水曜日に卒業式なので、その前に可愛くしてやって下さい」
「ああ、卒業式なのね。こないだより結構伸びてセミロングサイズになってるからもっと可愛くできるよ」
と美容師さんは言って、ほんとに凄く可愛くしてくれた。
(女性ホルモンが働き始めて、本人の顔自体可愛くなってきたのもあると思う。マナは8月から1月中旬までホルモン・ニュートラルだった)
美容院が終わったあと、マナは母と別れて平和通りのロッテリア前まで行く。ここで藤太と待ち合わせていた。
「かっわいい!」
と藤太は感激していた。
ロッテリアの店内に入り、軽く食事をする。なお今日は最終バス(駅前18:20)で帰るという約束を“双方の母と”している。もちろんバスは予約もしている。いわばバスの中はデート第2部である!
「そうか。今日はアパートの契約で出て来たんだ」
「お姉ちゃんの通学の便のいいところを契約したから、R高校には必ずしも便利ではないんだよね。旭川駅の近く(4条4丁目バス停)で乗り換えて30分くらいかかる」
「でも市内通学者は普通にそのくらいバスに乗るよね」
「まあそうなんだけどね」
(R高校に合格した妹と一緒に住むと言ったので不動産屋さんが、教育大の近くでできるだけR高校の通学にも楽な所を探してくれたので30分で済む)
「藤太は寮に入ると言ってたね」
「野球部の1年生、特に特待生は全員寮なんだよ」
「それって朝から晩まで鍛えるということね。土日も」
「そそ。なかなか怖い。そして2〜3年生でベンチ枠から外れた人は寮を出る」
「それ逆にいじめ防止のためでしょ?」
「そうみたいだよ。レギュラーになる見込みの無い上級生っていじめの温床。特待生で入ってベンチ枠から外れた子や怪我で野球を続けられなくなった子は翌月から授業料も払わなければならないし、次回の学期末テストの成績が悪い場合、学校自体から追い出される」
「きびしー」
「スポーツ特待生の厳しさだよね、それ。R高校は病気入院とかの事情がない限り留年が許されないから、スポーツ特待生でなくても赤点で追試もダメなら自動退校」
「あ。そうか」
自分はスポーツ特待生で受けなくて良かったぁとマナは思った。
「学校自体から追い出されたらどうするの?」
「フリースクールとかに行く子が多いみたい」
「なるほどー。でも3年間寮から追い出されないよう頑張ろう」
実際は、藤太は1年生の春の大会から7番セカンドで出場。T高校の近藤君から2本もホームランを撃つなど大活躍。夏の甲子園予選では6番に昇格。秋の大会以降はショートに回り5番に昇格。その後、3年の夏まで大活躍して、夏の大会後に寮を出ることになる(兄のアパートに同居)。3年生の時は主将を務めることになる。
彼は女子生徒たちから大人気でバレンタインの数も凄かったが「俺、彼女居るから」と言って、決して浮気はしなかった。
T高校の近藤君は菅原藤太だけを苦手とし、ランナーの溜まっている場面ではベンチの指示で敬遠するようになった。満塁なのに敬遠したこともある。藤太は3年間“近藤キラー”を続けた。(中3の時も含めると4年間)
「ずっと寮だとマナとのデートがなかなかできないかも知れないけど」
「まあいいんじゃない?週末同棲とかは高校卒業してからで」
「ぼくもそう思う」
双方の親は「セックスはしてもいいけど、必ず避妊することと節度を守ること、勉強をおろそかにしないこと」と言っている。
「月に2回はオフの日かあるみたいだから、そういう日にデートしよう」
「うん」
実際には藤太がマナのアパートに来てそこで1日過ごすというのが定着する。
「避妊具足りてる?買ってきてあげようか?」
「ちゃんと用意してます!」
実際は藤太が来た日は楓は外出してくれていた。楓は楓で“彼女”とデートしたりしていたようである。
ロッテリアを出たあとは平和通りを散歩して、“旭川!EXC”(*26) でペアのTシャツ(マナがLで藤太は3L)を買ったり、ひとつのジュースを2本のストロー入れて飲んだり(若い恋人同士はこれがとても楽しい)、プリクラを撮ったり、CDショップを覗いたりした。ホワイトデーのホワイトチョコも藤太が買ってマナに贈った(でもバスの中で2人で食べた)。他にもおやつを買った上で留萌行きの高速バスに乗る。
バスの中でもイチャイチャしながら!他の人の迷惑にならないよう小さな声でおしゃべりを続けた。彼を生殺しにして放置したら「ごめん。処理してくる」と言ってトイレでフィニッシュしてきたようであった。
「でも私元男の子だとお母さんに知れたら交際に反対されないかなあ」
とマナは自分の不安を正直に言った。
「ごめん。それもう言っちゃった」
「そうなの〜?」
とマナは驚いて言う。
「昔男だったとしても今女なら問題無いんじない?と母ちゃんは言ってたよ」
「嬉しー」
「母ちゃんも元男だしね」
「嘘!?」
「マナは特例法知ってるだろ?あれができてから、うちの母ちゃんは性別を変更して父ちゃんと正式に婚姻したんだよ」
「そうだったんた?」
と言いながら、この話がマジなのかジョークなのかマナは悩んだ。でも自分が元・男の子だったことは彼の両親も気にしないでくれるみたい、と思った。
でも藤太と結婚するには、私も性別変えないといけないよね?特例法って性別変えるのに、どんな条件があったんだっけ??
(マナは女性としての生殖能力があるので、特例法では性別を変えられない)
(*26) ここは1970年に長崎屋旭川店として建設されたビルで、1992年に長崎屋が別の場所に移転したあと1993年に“旭川マルサ”(丸井系列の百貨店)となったが、2000年に撤退。そのあと“旭川!EXC(エクス)”となった。
2014年に!EXCが閉鎖されたあと、1階のみをツルハが利用していた。実は耐震強度不足が指摘され、2階以上の使用が事実上禁止された。ツルハも2020年に撤退。その後はタワーマンションになる予定で2023年現在工事中である。低層階には商業施設も入る予定である。
マナが自宅に帰ってから、私もそのうち法的な性別変えることになるのかなぁ・・・などと思っていたら、夜中“魔女っ子千里ちゃん”が出て来た。
「マナちゃん最近ずっとセーラー服で登校してるみたいね」
「うん。みんなが受け入れてくれるから、私セーラー服で通学していいのかなあと思って朝からそちら着てる」
「じゃもう法的な性別も変えちゃう?」
ドキッとした。法的な性別を変えたらもう後戻りできない。でも自分はもう既に後戻りできない所に来てると思った。
「変えたい」
と言った。
「じゃこれに記入して」
と言って魔女っ子千里ちゃんはマナに1枚の用紙をくれた。これは以前セナに渡したのと同等のものである。
性別訂正届
旭川家庭裁判所御中
平成18年3月12日
氏名 佐藤学
生年月日 平成2年9月15日
本籍地 留萌市**町**番地
戸籍筆頭者:佐藤宏明
性別が誤っていたので正しい性別を届出ます。
訂正前性別:男(二男)
訂正後性別:女(二女)
名前を同時に変更する場合は下記に記入して下さい。
旧氏名:佐藤学
新氏名:佐藤マナ
保護者氏名
「こんなのでいいの?」
「あとお母さんかお父さんの署名・印鑑もらって、私に渡して」
「分かった」
翌朝これを母に見せたら、母は「OKOK」と言って、父の名前を書いてハンコも押してくれた。母がマジと取ったかジョークと取ったかは分からない。
でもこれが認められたら、私もう完全な女の子になっちゃうのかなあとマナは思った。多分、藤太とも結婚可能だよね?彼に捨てられなかったら。
3月11日(土・なる).
杉村真広と杉村桂助はこの日旭川市内のホテルで結婚式をあげた。実は“桂助が”妊娠してしまったので
「だったらすぐ結婚させよう」
ということになり、この日の結婚式となった。
双方ウェディングドレスという案もあったのだが、“真広の父”が「世間体が・・・」と抵抗したので、妥協して桂助がタキシード、真広がウェディングドレスを着た。桂助の父は「桂助がお嫁さんになるのは既定路線」と言って、双方ウェディングドレスでいいと言ったのだが。
兄(実質姉)の初広と婚約者の西村鈴花、弟(実質妹)の古広と妻の柚美、全員が色留袖を着た。ここは姉妹3組ともが女同士の夫婦である。もっともこの6人の中で唯一、古広だけが男性能力を持っている。
またこの姉妹は、三男(実質三女)→二男(実質二女:法的には長女)→長男(実質長女)と下から順に結婚することになった。
地場有力企業の社長の長女で、事実上の後継者候補一番手とされている真広の結婚式ということで、神式の挙式に続く祝賀会には1000人ほどの客が詰め掛けて祝福してくれた。でも来訪した客の多くが“実態”をだいたい把握していた。
「お父さんが世間体を気にしてパートナーにタキシード着せたみたいだけど、実際はレスビアン婚みたいね」
「タキシード着てる花婿、事実上の花嫁は妊娠してるらしいね」
「なんでも社長の庶子の男の子から精子をもらって人工授精したんだって」
祝賀会の後、新郎新婦の友人だけの、ほんとに内輪だけの二次会には“桂花”もウェディングトレスで参加。ウェディングドレス同士で並ぶ新婚カップルにたくさんフラッシュが焚かれていた。
「子供は実際には私が性転換する前に保存していた精液を桂花の子宮に注入して妊娠したんだよ」
「ああ、そういうことだったのか」
「私、まだ学生だから妊娠とかしてられないし」
「桂花ちゃんはどうするの?」
「5ヶ月をすぎたあたりで会社を退職する予定」
「退職するの?産休は取れないの?」
「日本の法律では男性の産休は認められていない」
「なるほどー」
「それ性別を女に変更できないの?」
「そしたら女同士だから私たちが婚姻できなくなる」
「面倒だね!」
「同性婚を認めてほしいよね」
なお桂花は“杉村真広”の保険証で(留萌市内の)産科を受診している。内診台に乗せられた時は「恥ずかしー」と思った。予定日は11月4日である。
母子手帳も杉村真広名義で受け取った。“男性が妊娠”したということになると世界的な騒動になりかねないし、出生届が拒否される可能性もあるので、そういった面倒を避けるための便法である。
3月11日(土).
この日Q神社に来た貴司は、巫女控室の前まで行くと千里を呼び出してもらい不二家のホワイトチョコ・セットを贈った。
「ありがとう」
「そこで抱擁して熱い口付けを」
という声があるが、貴司もさすがに人前ではできないので、握手だけして、また倉庫部屋に帰った。
3月13日(月).
花絵の引越(札幌→姫路)を手伝ったサハリンが2トン・トラックとともにこの日の昼前に留萌に帰着した。それでサハリンには休んでいてもらい、ミッキーがトラックを運転して、司令室のお引越をした。
千里Vはモニターから目を離せないので荷造りは先週あたりから、星子・ミッキー、源次(今は暫定的に源子)などに頼み、作業を進めていた。
それでトラックが戻って来たところで荷物を運び込む。最後に司令室の機器をA大神のエイリアス自身で解体して箱に詰め、これも千里Vと星子・ミッキーの手でトラックに運び込んだ。
(こちらのモニター室が使えない3時間ほどの間は姫路司令室でGが監視している)
トラックをミッキーが運転して、1時間弱で深川に到着する。最初に千里V・星子・ミッキーの手で司令室の機器を運び込み、A大神のエイリアス自身の手で組み立て千里たちの位置表示がちゃんと出ることを確認した。この機器は大神様だけにしか分からない部分があるようである(きっとオーバーテクノロジー)。
そのあと、ミッキーと星子、源次、小鴨、小夏の手で荷物が運び込まれ(小鴨と小夏は3/2から深川司令室のお留守番をしていた)、荷解きして彼女たちの分かる範囲で配置もした。実は千里Gにしか分からないところもあるが、これは後日Gにやってもらうことにする。
こうして留萌司令室から深川司令室への引越は1日で終わった。
留萌司令室のあった家は、このあと深川司令室留萌分室(という名前だけ!)として、しばらくの間、小夏ちゃんに住んでもらうことにした。ここで何かをする訳ではないが何かの時の拠点にするためである。カノ子にも時々寄って様子を見てもらうように頼んだ。
小夏は秋くらいに留萌山中に作る予定のコンドーム工場に移動してもらうが多分その頃には小町の子供が巣立ちするので、その中の1人をここに住まわせる。
小鴨は早川ラボに復帰し、一時的に早川ラボを担当してもらっていた小玉は留萌分室に移動して、小夏の“女子教育”を引き継ぐ!!ここは“避妊具”製造グループ女子のたまり場になりそうである。
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女子中学生・セーラー服と移転中(12)