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■女子中学生・セーラー服と移転中(15)

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3月19日(日).
 
旭川に引っ越した千里Fは、美輪子のアパートに入ったものの、天子と貴子に挨拶しておこうと思った。ミッキーが車を出したので、まず貴子の所に行く。もちろんここで応対したのは2番(ルミナ)である。このあと永く“東の千里”と付き合うことになる。
 
「千里ちゃん旭川に出てくるなら、うちに住んでくれればよかったのに」
「すみません。時々寄らせてもらいますから」
 
ルミナは千里と会話しながら、4年ぶりくらいに見たけど、僅かに男の子っぽさが残ってるなあと思っていた。
 
「そうそう。いつでもピアノ弾きにきてね。指導してあげるから」
「来るかもー」
 
それで“この”千里も高校時代にピアノの腕を上げていくことになる。
 
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「ところであの倉庫みたいな建物何するんだっけ?」
「何でしたっけ?」
というので見に行くと旧天野道場の建物がここに来ていてバスケットゴールもある。
 
「あ、ここに来たのか。使わせてください」
「うん。使うのならいいよ」
 
ということで、この設備は主として千里Fが使うことになる。N高校は部活の時間に制限があるので足りない練習時間をここで補うのである。
 
貴子のところで千里Fがお茶を飲みながら3時間ほど滞在したあと、ミッキーの車に再度乗り、天子のアパートに行く。千里Fが車を降り、階段を登り天子の部屋のドアの前に立ったところでVはFをミッキーの車の中に転送した!
 
「あれ〜?私今、お祖母ちゃんの家に入ろうとした気がするのに」
「千里さんは1時間半近く滞在なさってましたよ。私待っている間にORANGE RANGEの『ナチュラル(ИATURAL)』(77分)丸ごと聴きましたから(←もちろん嘘)」
「じゃ私、おばあちゃんちに寄ったのかな」
「ですよ。帰りましょう」
と言ってミッキーは千里を美輪子のアパートに連れ戻してしまった!
 
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“この”千里を天子と会わせるのは混乱を起こすだけである。それに元々千里Bは天子との関係が薄く、中学3年間に1度も天子の所に来ていない(武矢・津気子も来てないが)。“この”千里が天子と再会するのは東京方面に出た後になる。
 

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3月19日(日)。姫路。
 
朝御飯のあとでコリンが言った。
 
「あ、そうそう。皆さん制服を着てみて下さいね。今持って来ます」
と言ってコリンは自分の部屋から制服を3つ持って来た。
 
H高校の制服はセーラー服である。コリンは制服が掛けられているハンガーについたタグを見ながら「はい千里さん、はい清香さん、はい公世さん」と言って渡した。
 
「あらためて見ても可愛いね」
「やはり都会の学校はデザインが洗練されてるよね」
 
などと言いながら、千里と清香は冬服スカートを穿き、セーラー服を着た。公世が困ったような顔をしている。
 
「きみちゃん、恥ずかしかったら自分の部屋で着換えて来ていいよ」
「いや、そうじゃなくてこれセーラー服なんだけど」
「そうだよ。H高校の女子制服はセーラー服だからね」
「ぼく男子制服着たいんだけど」
 
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「え?なぜ男子制服なんか着るんです」
とコリンが訊く。
 
「あ、忘れてた。きみちゃんは男子制服で通学する許可を得たんだよ」
「そうだったんですか!?でも何のために?」
「ね?普通に女子制服着ればいいよね」
「いやだぁ!」
とまた泣いてる!
 

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「だけど今日は午後から学校に行かないといけないのに。制服着てなかったら中に入れてもらえないよ」
「うーん。。。」
 
この日は午後から入学者の学力テストがあるのである。
 
「きみちゃん、取り敢えず今日は女子制服を着れば?そのあと対策を考えようよ」
と千里は言う。
「そんなあ」
「別にセーラー服着ること自体には抵抗無いんでしょ?修学旅行の朝にも着てたし」
「それはあの時はうまく乗せられて着たけど・・・」
「じゃ着ちゃおうよ。今から再度注文しても男子制服、きっと入学式には間に合うよ」
「えーん・・・」
 

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千里はこの辺でいいだろうと思った。
 
「まあ、きみちゃんが万が一直前になってどうしても男子制服着たいとか、おかしなことを言い出した時のために男子制服も頼んどいたよ」
と千里は言った。
 
「ほんと?」
と公世はパッと笑顔になる。
 
「待って。持ってくるから」
と言って千里は自分の部屋に行き、箱を持ってきた。
 
「これは?」
「2月に姫路に来た時に気付いて、公世ちゃんの採寸表から男子用のサイズを計算して、ネットで全国の中学高校の制服を頼めるサイトに注文しといた」
 
「ありがとう!」
「着てみて」
「うん」
 

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それで公世は今着ている服を脱いで男子制服を着てみた。(公世は女子の着替えやヌードを見ても何も感じないし、女子の前で自分が着替えるのも全く平気:完全な不感症になっている:彼は(睾丸を戻してもらって)女性と結婚してもきっと立たない)
 
「ピッタリ」
「良かった」
 
「凄い違和感がある」
と貴子が言う。
 
「まあ応援部の女子くらいの感じかな」
「ああ、そうかも」
 
「男子はオーダーする人少なくて大抵は既製服を着ると思うんだけどね。きみちゃんは腕が太いから既製服は入らないんだよ」
 
「そういえば採寸の時3人とも言われてたね」
と清香も言った。
 
「これいくらだった?」
「セーラー服より少し安い5万0400円」
「ごめん。少し貸しといて。お母ちゃんに連絡して送金してもらう」
「いつでもいいよー。夏のボーナスが出てからでもいいよー」
「そうさせてもらうかも!」
 
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ともかくもそれで無事公世は男子制服を着ることができたのである。
 

3人で、コリンが運転するエスティマに乗り、学校に向かった。
 
校門のところでは先生が立ってひとりひとり服装や髪型をチェックしているようである。NGになった子は“校則違反”というでっかいシールを貼られてから中に通されていた。
 
「あれ恥ずかしー」
「校門を通してくれるだけマシと思う」
「入学者試験でなければ追い返されてるね」
「私立(しりつ)って概して校則の厳しい所が多いもんね」
 
などと言っていたら、ほんとに追い返されてる子がいた!!
 
髪を紫!に染めていて、どう考えても自然の髪の色とは思えなかった。その子は派手なネイルアートもしていた。
 
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「あれはそもそも高校に入るつもりがないとしか思えない」
 
またスカートをミニにしてる子も追い返されていた。多少短い子は“校則違反”シールを貼られながらも「入学式までに規定の長さに戻しなさい」と言われて通してもらえていたのだが、ミニはさすがに酷い。
 
千里たちが“ゲート”まで行くと、千里と清香は何も言われないが、公世は
「君、なんで男子制服とか着てるの?」
と言われる。
「ぼく男子ですー」
「嘘つくんじゃない」
 
「きみちゃん、中学の生徒手帳を見せなよ」
「あそうか」
と言って見せる。
 
「ほんとに男子なんだ?ごめんね。でも男子だとすると君は髪が長いのだが」
「髪は長くしていいと特に許可をいただきました」
「ああ、病気か何かの事情があるんだね。許可を得てるならいいよ」
「ありがとうございます」
 
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ということで公世も通過することができた!
 

受付で整理番号をもらい、3人とも1年9組の教室に入った。整理番号は千里が9-33, 公世は9-11, 清香は9-9 である。教室に入ると、こちらに手を振る子がいる。千里たちも寄っていく。
 
「おはよう。島根さんも当然来ると思ってた」
「3人が入ると聞いて楽しみにしてた。私と姉貴と北海道組3人で、全国制覇を目指そう・・・って、なんで工藤さん、男子制服着てるの?」
「工藤は男子剣道部に入るから」
「うそ、なんで〜?」
「詳しい話はあとで」
 

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「でもこの教室の机と椅子、新しいね。材質もスティールとプラスチックだし」
「2年前から少しずつ入れ換えてるんだよ。姉ちゃんが言ってた」
「へー。黒板もホワイトボードだし」
「それも入れ換え中。たぶん私たちが卒業する頃までには全部入れ替わる」
「なるほどー」
 
ともかくも3人は英語・国語・数学の試験を受けた。ただ最後の数学の試験では自信が無かったので
「グレース、代わってよ」
と言い、姫路司令室に居たGが代理で受けた。
「私が代わりに試験受けるからロビンが司令室見てて」
「了解」
「北海道側で問題起きてたら深川司令室のヴィクトリアに連絡して」
「ああ、留萌の司令室が深川に移転したのね」
「そうそう。そのうち一度訪問して。留萌より少し広くなったから」
「じゃそのうち」
 
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留萌分室 18坪
深川司令室 24.75坪
姫路司令室 22.75坪
旭川分室 16坪
(いづれも地下室を除く)
 
しかしロビン(千里R)に代わって試験を受けたグレース(千里G)は思った。
 
「何て易しい問題なんだ。これならロビンでも90点は取れると思うけど」
 

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試験が終わってから市役所に行き転入届を出した。書類は保護者代理のコリンが書いた。
 
「工藤きみよさんご本人は今日は来てないんですか」
「私ですが」
「きみよさんの・・・お姉さん?」
 
男子制服着てるのに〜!
 
「いえ本人です。私男です」
と公世が言うが、窓口の人は悩んでいる。千里が
「中学の生徒手帳見せなよ」
と助言する。それを見せると、窓口の人は本人と写真を見比べて納得したようである。多分FTMさんか何かと思ったのだろう。
 
ところで公世はなぜ窓口の人が自分を“きみよ”と呼んだのかよく考えるべきであった。“きみよ”と呼ばれるのに慣れすぎていて、何も疑問を感じなかった。
 

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自宅に戻ってから千里は鐘丘先生に連絡した。
 
「なんか校門の所で服装とか髪のチェックしてますよね。今日工藤は髪の長さを注意されたんですが、何か許可証のようなものを発行して頂けませんでしょうか。いっそ女子制服を着て行く手はありますが、それは着たくないと本人が言うので」
 
(↑後半は無用な混乱を招くだけで要らなかったと思う。実際鐘丘先生は混乱した)
 
「ああ、それは出せると思うよ」
と言って先生はその日の内に、わざわざ千里たちの家まで届けてくれた。
 
「これを持ってて。新学期始まって生徒手帳をもらったら貼り付けておけばいいから」
「ありがとうございます」
 
先生を道場に案内する。
 
「凄い環境だね」
「ここの道場で3人で気が済むまで稽古します」
「凄いね!」
と鐘丘先生は感心していた。
 
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さて、鐘丘先生が届けてくれた許可証だが、こういうものだった、
 
《異装許可証》
工藤公世は男子制服で通学することを許可します。
姫路H高校校長 中道文武
 

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「えっと・・・これでいいんだっけ?」
 
「つまりきみちゃんは女子生徒に見える。実際女子生徒だけど男子制服を着ていいよ、ということだね」
「女子生徒だから髪の長さも女子の基準で処理される」
「だからマナちゃんみたいな丸刈りは禁止」
「いやさすがに丸刈りにはしたくない」
 
「ということできみちゃんが男子制服着てて髪をツインテールにしてても叱られない」
「ツインテールなんかにしたらますます女の子に間違われる!」
「間違うというより現に女の子だと思うけど」
 

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サハリンのトラックはその日(3/19)深夜に姫路に到着した。千里たちはサハリンの労をねぎらった。箱を開けるのは明日にした。
 

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3月20日(月)。旭川。
 
この日、佐藤家では引越大作戦が行われた。
 
留萌の佐藤家では、父のカムリ・グラシアと、早川ラボの管理人・三泊カノさんが貸してくれたセレナに、マナの引越荷物を積み、父がセレナ、母がカムリを運転して旭川に出る。札幌から高速バスで来た兄?の仁も手伝って、マナの荷物を新しいアパートに運び込んだ。
 
2台の車で今度は楓の住んでいる女子寮に行く。母及びマナ・仁は「寮生家族」という札を下げるだけで“普通に入れた”が、父はチェキ(*29)で撮った写真を貼り付けた名前入りの家族入館証札を掛けてもらって中に入った。
 
「なんで仁は咎められなかったんだろう?」
と父は首をひねっていた。
 
「ああ、ぼくは小さい頃からよく女の子に間違えられていたし」
と仁は言っておいた。
 
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楓も含めた5人で頑張って楓の荷物を運び出した。父は寮内は「女の匂いでむせかえりそうだ」と言っていた。他の4人は首をひねっていた。
 

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荷物を積み終えると、父は札を返して車で休んでいて(仮眠していた)、母・マナ・楓・仁の4人で寮の部屋を1時間掛けて掃除。それから寮母さんに挨拶して鍵を返し退出した。
 
それからみんなでアパートに行き。楓の荷物を全員で運び込む。とにかく運び込み終わったのはもう17時頃だった。
 
「終わったぁ」
「疲れたぁ」
「今日はもうここで寝て明日の朝帰ったほうがいい」
ということで仁がスーパーまで行って食料を買ってきて、それを食べてこの日は全員寝た。寝具が足りないがストーブをずっと点けていたのでそんなには寒くなかった。でも寝袋をひとつ買ってきて、父は台所でそれに寝ていた。あとは母と楓、仁とマナがひとつの布団で寝た。この組合せに父以外は全く納得していた!
 
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翌日(3/21) 朝6時、父はカムリを運転して1人で留萌に帰った。出勤に間に合うはずである。仁もその車に同乗して旭川駅で降ろしてもらい、高速バスで札幌に戻った(バスを使うのは乗り過ごしの危険が無いため)。
 

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女子中学生・セーラー服と移転中(15)

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