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山口桃恵教頭がマナを呼び止めた。
「佐藤さん」
「はい」
「R高校から、佐藤マナの内申書で性別が男になってるんだけど、という問合せがあったから、それは記入ミスだと思います。佐藤マナは女子ですと回答しておいたから」
「ありがとうございます!」
「色々大変だろうけど頑張ってね」
「はい!」
マナはいい先生たちだなあと思った。そして翌日からマナは朝からセーラー服で登校するようになった。
3月2日(木).
旭川N高校で一般入試生の合格発表があり、恵香などが合格していた。恵香は翌日・3月3日には旭川に出て入学手続きを済ませた。
3月2日(木).
深夜、留萌司令室に置いていた光辞のE写しを深川司令室に移動する作業を行った。エルフに留萌司令室の地下に置いている光辞(陰影)の桐箱を積み込み、ミッキーの運転で深川に移動する。実はこの作業のためにトラックとミッキーを留萌に戻したのである。サハリンでは光辞の移動には力不足だった。
この移動には千里Gが付き添った。そして2人で箱を地下室に運び込んだ。
これで各写しの場所はこうなった。
(A) 1次写し:姫路司令室
(B) 2次写し:鈿女神社地下倉庫
(C) (B)のカーボン写し:P神社物置
(D) (A)のPPCコピー:P神社の桐箪笥
(E) (C)を作った時のカーボン紙:深川司令室
光辞を置いたのでここには誰か居なければならない。千里は早川ラボの小鴨をここに呼び、当面の留守番を命じた。
「私ひとりなんですか〜?」
「中旬くらいになったら小町の一家が引っ越してくるよ。それまでは・・・小夏にでも一緒にいてもらう?」
「ああ、あの子なら安心。あの子に女の子のことを色々教えてあげます」
女子教育ね。
小鴨をこちらに呼んだので、早川ラボには、“避妊具製造プロジェクト”に所属する(天然)女子で、小玉という子を呼んで雑用(主としてお洗濯)をしてもらった。
3月3日(金).
P神社では、ひな祭り・兼・千里の誕生祝いが行われていた。
今回は受験のためパーティ欠席の子が多かった。でも推薦入学などで既に受験の終わっている玖美子・蓮菜などからお祝いしてもらっていた。恵香は昨日合格発表があり、今日は入学手続きのために旭川に出ていて欠席である。でも
「私の分のケーキとチキン取っておいてね」
と言っていたので、ショートケーキ1個とフライドチキン2本を冷蔵庫に入れている。
尚子が訊いた。
「千里の進学先について、旭川N高校に行くという説と兵庫県の高校に行くという説の2つがあるのだが、実際どっちなのさ」
「旭川N高校?何それ?」
と“この”千里は(わざと)言った。
「ああ、やはり兵庫県に行くんだ?」
「でも秋祭りには毎年戻って来いと言われてる」
「それはまた大変な」
「プライベートジェット買ってくださいと言ってる」
「プライベートジェットあれば神戸空港から旭川空港までひとっ飛びだね」
「ジェット機っていくらくらいするんだっけ?」
「最新型の中型機・ボーイング737 とかなら150億円くらいするけど、中古の小型ジェット機なら5-6億円で買えると思う」
と蓮菜が言う。
「150億円なら宝くじに当たっても買えない」
「宝くじに50回当たれば買えるな(*14)」
「それどのくらいの確率?」
「1等が当たる確率は1000万分の1、つまり10
7分の1。これが50回連続で当たる確率は10
350分の1だね。ちなみに宇宙の粒子の数はせいぜい10
79個程度と言われている」
「ほとんどゼロだね」
「そんなことはない。10
350分の1は、10
1000分の1より、はるかに大きい」
「私、算数が分からなくなった(*15)」
(*14) 2004年以降、ジャンボは1等と前後賞合わせて3億円となった。それ以前は1等前後賞合わせて9000万円だった。
(*15) こういうのが感覚的に理解できるかどうかは算数的感覚ではなく、むしろ数学的感覚だと思う。
10
1000などという巨大な数でも無限大(ω)よりは遙かに小さい。
玖美子が言う。
「旭川N高校は剣道部が無かったはず。千里が行く訳無い。千里が行くH高校は剣道では兵庫県内で1〜2位を争っている学校だよ」
「へー」
(そして姫路H高校にはこの当時女子バスケットボール部が無かった!)
「千里と、R中の木里さんの2人が入るから、今年から3年間、インターハイの代表は決まりだね」
「木里さんと同じ高校か。誰も勝てないよね」
「まあ問題はインターハイ本戦でどこまで勝てるかの問題だと思っている」
と千里も言う。
「なんかレベルが違う」
「旭川で剣道部の強い学校に行くというと沙苗だね」
「うん。私、L女子高に行くことになった。入れてくれるか少し心配だったんだけど、何も問題ありませんよと教頭先生に言ってもらった」
「良かったね」
「沙苗のおまたの写真とかも見せたらしい」
「そればらさないでよ」
「ここに恵香がいないから大丈夫」
「あの子に話すと翌日には全員知ってるからなあ」
ひな祭りで女の子たちが騒いでいた時、千里の携帯が鳴る。千里は話の輪から外れて“真っ黄色”の携帯を取り出すと
「はい、村山です」
と応じた。
(実は携帯が“鳴る前に”Vが気付いて自分とRを位置交換した(*18))
「あ。千里ちゃん?私、花絵。宮司は今空いてるかなあ」
「大丈夫だと重いますよ。今宮司室に行きますね」
「ごめんねー」
それで千里は宮司室に走っていき
「宮司、花絵さんからです」
と言って、自分の(黄色い)携帯を宮司に渡した(*17)
(*17) この神社にビジネスホンとか代表番号などという上等なものは無い!また“うちわ”の人間は神社の電話をふさがないため携帯に掛けることが多い。千里は神社に居る確率が高い。また花絵としては菊子さんや善美より千里の方が掛けやすい。
(*18) 千里は電話が鳴る2-3秒前からそこに電話が掛かってくることが分かる。こういう人は割りと多い。掛けて来る人まで分かる人もいるが、千里は“普段は”そこまでは分からない。これは千里がいつもボーっとしているため!(その気になれば分かるが千里はたいてい“スタンバイ”状態)
なおここでVが代わったのはRは黄色い携帯を持ってないからである。
「はい。常弥だけど何?」
千里は携帯を渡した後、宮司室から出ようとした。が、宮司の次の声を聞いて驚いてその場に留まった。
「え?姫路に行くって!?」
花絵の話はこうだった。
花絵の夫・守聖視(もり・さとし)が4月から姫路の本店勤務になるのだという。本店で新しいプロジェクトが発足し、そのため幾つか特殊な技能や学識を持つ25-26歳以下のメンバを全国から集め、彼もそこに招集されたらしい。
「それ多分無茶苦茶忙しい仕事なのでは」
「多分。過労死したらごめんねとか言ってる。もっともサボるのうまい人だから大丈夫とは思うんだけどね」
「あぁ」
「それで辞令は4月3日付けなんだけど、引越シーズンだからさあ。私だけでも荷物持ってできるだけ早めに移動するつもり」
「引越屋さん空いてる?」
「今10件電話したけど全部ダメ。特に遠距離は枠が厳しいみたいなんだよ」
「ああ、そうだろうね」
「最悪、身の回りのものだけ持って移動して、本格的な引越は5月の連休明けになるかも」
「それは大変だなあ」
などといった話をしたらしいのだが、千里は携帯を返してもらった時に言った。
「私の親戚が2tトラック持ってるんですが、2t程度では間に合いませんよね」
「いや、それは大いに助かると思う」
それで千里が直接花絵と話したところ、2トンに入る範囲の荷物にまとめ、入らない分は、自分の実家または夫の実家に押しつけるという話である。
それで詳しい打合せをするため、花絵自身が夫の母・貞子さんと一緒に、その日のうちに留萌まで来た。そして宮司、花絵、千里が紹介した夏川(サハリン)と打ち合わせし、このようにすることにした。
・洗濯機・冷蔵庫・テレビなどの“大物”は持って行かない。向こうで買う。
・引越の実行は3月8日。それまでに頑張って荷造りする。荷造りする時、箱に優先度のマークを付けておく。
(この日付は千里自身の引越予定日から逆算で割出した)
・8日の昼間に優先度順に2tトラックに積む。入りきれない分を更に花絵のエクストレイル(*19) に積む。それでも乗り切れない分はもう持って行かない。トラックとエクストレイルを夏川と花絵が運転して小樽港へ。
・9日夜舞鶴に着いたらその日のうちに姫路まで。その日は千里の家で休ませてもらう。
・10日は新居に行き、とにかく荷物を新居に入れる。空になったトラックは夏川が運転して舞鶴へ。11日夜に小樽に着いたらそのまま札幌へ。
・12日(日)に2tトラックを借りて残った荷物を、民弥と守さんのお父さんの手で花絵の実家・守さんの実家に運ぶ。夏川には休んでいてもらう。
・13日に夏川と2tトラックは留萌に帰還。
2トントラックは普通免許で運転できるというのが効いている。実は(この当時の)普通免許では4tまで運転できるが、花絵の父も向こうのお父さんも「4トンは自信無い」と言っていた。2tなら「少しでかい車」程度の感覚である。
「とにかく頑張って荷造りするわ」
「私も手伝う」
と言って、菊子さんも荷造りを手伝うことになり、翌朝花絵たちと一緒に札幌に行った。
(*19) 花絵の夫の車は赤いモコである。彼は可愛いものが好きである。それは別にいいのだが、あまりにパワーが無さ過ぎるので花絵は結婚後に20万円のエクストレイルを買った。
モコとエクストレイルが並んでいると、多くの人がエクストレイルが夫の車でモコが妻の車だろうと思う。しかし花絵と聖視が並んでいると、多くの人が花絵が夫で聖視が妻と思うから、実用上問題無い!?
聖視の母は結婚式の一週間“後”に花絵に「あんな変態息子と結婚してくれてありがとう」と言った!
「私全然そういうの気にしませんから」
でもその負い目があるのか、お義母さんは色々サービスが良くて花絵はとても快適である!
(きっと姫路では女性同士の夫婦で花絵が男役と思われる)
3月4日(土).
千里Fは母と一緒に旭川に出た。制服を注文するのとともに、バスケ部に一度顔を見せてと言われていたので先輩たちに挨拶するのが目的である。
ショッピングセンター内の洋服屋さんで採寸してもらう。
「あなた結構背が高いわね」
などと千里は言われた。この頃の千里は168cmくらいである。
「バスト75、ウェスト58、ヒップ88、肩幅42、袖丈56、身丈50、スカート丈70かな」
あれ〜?なんで男子の制服にスカート丈とかあるんだろう?と思ったが、深く考えないことにした!母はその問題には気付いていないように見えた。
(本当は気付いているが、千里はやはり女子制服を着るのだろうと思っている)
2週間くらいでできあがるということだったので3月19日に受け取りにくることにした。
千里Vはネットで全国の制服を頼めるサイトに接続して、旭川N高校の制服を注文した。
「あまり気が進まないけど、無いと困るだろうからなあ」
などと独り言を言っていた。
千里が制服の採寸したのと同じ日に留実子も鞠古君の母の車に同乗して旭川に出て、やはり制服の注文をした。2人とも“学ラン”を着ている。
蓮菜は田代君が札幌に行くからということで彼女は札幌行きを認めてもらえなかったが、鞠古君の両親・留実子の両親は
「あんたたちちゃんと避妊しなさいよ」
と言ってどっさり避妊具を渡しただけである。
双方の両親は
「万一赤ちゃんできたら結婚させればいいですよねー」
と言っていた。
「ところでどちらが花婿でどちらが花嫁なんですか?」
「当然花和君が花婿だろうから、知佐には花嫁衣装着せますよ」
「ああ、それでいいですね」
鞠古君は男子校のB高校に進学し、留実子は共学のN高校に進学する。
先に鞠古君の制服採寸をした。
「B高校ですね」
「はい、お願いします」
続いて留実子の採寸が行われる。
「胸囲100、胴囲85、腰回100、肩幅51、袖丈62、身丈75、股上28、股下90、裾幅32かな」
などと言われている。
「足が太いですね。スポーツか何かなさいます?」
「ええ。バスケットを」
「なるほどー」
それで足の太さも測定した。標準のサイズでは入らない。
「これ袖幅も大きくしたほうがいい」
と主任さん?に言われて腕の太さも計測されている。
「胸筋も発達しているようですね。胸囲が大きい」
「ああ、お前ブラジャー着けたほうがいいぞと言われます」
「なるほどー」
店員さんはジョークと思って笑っている。
「でもウェストは細いですね」
「鍛えてますから」
「ああ」
「こちらもB高校ですか?」
「いえ。僕はN高校です」
「分かりました」
鞠古君のは標準サイズの範囲なので2週間でできるが、留実子のは特注になるので3週間かかると言われた。
鞠古君は氏名欄に「鞠古知佐」と書いた。
「ちささん?」
「ともすけです」
「失礼しました!」
「この子、よく“ちさ”と誤読されて女の子と間違えられるんですよ。あんたいっそ手術して女の子になる?というんですけど、嫌だと言うし、スカート穿かせてみてもあまり似合わないし」
「あはは、大変ですね」
と言いながら、そんなにスカート似合わないかなあ、結構穿きこなしそうな気がするけどと思っていた。男子校では凄く「もてそう」な気がする。
留実子の注文票には“鞠古君が”「花和実弥」と書いた。
「はなわ・さねやさん?」
「はいそうです」
と留実子本人が答えた。
ということでこちらは性別を誤解されることはなかった!(よかったね)
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女子中学生・セーラー服と移転中(9)