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父と仁が出たあと、8時頃、母・楓・マナはコンビニで買ってきたおにぎりやサンドイッチで朝御飯にした。母は言った。
「“めぐみ”はかなり女性化が進んでるね」
「でも結婚して子供作るまでは性転換しないって言ってたよ」
と楓。
「いやきっと既にほぼ性転換している」
と母。
「夏休みは戻って来なかったけど、お正月に来た時、喉仏無いのに気付いた。手術して取っちゃったんだと思う。顔や足のむだ毛もたぶん永久脱毛済み」
と楓。
「“めぐみ”お姉ちゃん、おっぱい大きかった」
とマナ。マナは昨夜仁と一緒の布団で寝たので結構身体が接触した。
「ああ、私も思った。うまく隠してたけど」
「ズボンがレディスだったし、タイツ履いてたし」
「メンズは入らないらしい。あの子、高校の頃からレディス穿いてた」
「そのズボンに膨らみが無かった。ちんちん取ったんだと思う」
「あの子はもう“娘”と思ったほうがいいよね」
「私もめぐみお姉ちゃんが女の子になっちゃったみたいだから私まで女の子になるのは気が引けたんだけど」
「三姉妹というのもいいと思うよ」
「でも父親になることはできるから心配しないでと言ってたよ」
「それちんちん取る前に冷凍精液を作ったんじゃないの?」
「あ。そうかも知れない。でも女の人と結婚するって言ってけど」
「あの子と結婚してくれる女性が居る?」
「レスビアンの女の子なら」
「ああ」
そう言う楓姉ちゃんもビアンっぽいよな、とマナは思った。
母は昼頃セレナを運転して留萌に戻り、早川ラボで車を返した。お礼に旭川の洋菓子を買ってきた。カノ子は“鏡”を使って姫路に行って、千里たちに半分渡した。そしてもう半分は、翌日・水曜日に練習に来た子たちがあっという間に食べちゃった!(先週水曜日はホワイトデーのお裾分けを食べたし、この所早川ラボはおやつが豊富)
(*29) 富士フイルム(*30)のチェキは1998年12月に発売された。ちょうどポラロイドが衰退するのと入れ替わるように、特に10代に多く利用される形で伸びた。“チェキする”(*31)というのが流行語にもなった。2005年頃はデジカメに押される形で一時的に売上が落ちていたが、2010年代になると盛り返し同社の経営の柱のひとつとなっている。
(*30) どうでもいいがこの会社の名前は“富士フィルム”ではなく“富士フイルム”。カメラやプリンターの会社も“キャノン”ではなく“キヤノン”、マヨネーズの会社も“キューピー”ではなく“キユーピー”。スタンプ印鑑の会社は“シャチハタ”ではなく“シヤチハタ”。
昔は拗音を小さな字で書く習慣が無かったので大きな字で登記している。
(*31) しばしば誤解されているが集団アイドルの“チェキッ娘”とは偶然名前が似ただけで全く無関係。
3月20日(月)。姫路。
この日はH高校で入学者説明会が行われる。千里は朝出がけに言った。
「きみちゃん、今日はセーラー服も持って行きなよ」
「なんで?」
「必要になると思うから」
「うーん。千里ちゃんのこの手の注意は絶対当たるからなあ」
「ああ、千里が傘持って行けと行った日は朝晴れてても必ず雨が降る」
と清香も言っている。
それで公世は気は進まなかったが、セーラー服とブラウスをスポーツバッグに入れて持って出た。
貴子が清香の母代理、コリンが千里の母代理、サハリンが公世の母代理となって、学校に向かった。(エスティマ使用。コリンが運転)
校門の所に先生が立っている。昨日とは別の先生で、やはり服装・髪のチェックをしている。千里と清香は普通に通れる。公世は昨日鐘丘先生からもらった異装許可証を見せた。
「ああ、了解。頑張ってね」
と言われて通してもらえた、(多分FTMと思われた)
受付でチェックを受け席番号・数字と名前の書かれたボール紙をもらう。数字は昨日もらった整理番号?と同じだった(スーパー特進、特進、スポーツ特待生、の3クラスは昨日と同じ番号)。その番号の横に名前まで印刷されている。新入生は今日は広い講堂のような所に案内された。
やがて説明会が始まる。
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校長先生のお話の後、色々な先生が出て、高校生生活上の注意、学習の仕方、男女交際に関する注意、性被害に遭わないための注意、ネットの使いすぎに関する注意、クラス編成、学内の教育コースの説明、進路についての説明、などが行われる。クラスは9クラスでこのような構成らしい。
1組 スーパー特進 国公立大学や関関同立(*32)などを目指すコース
2組 特進 私立大学上位を目指すコース
3-8組 総合 この高校の系列のH大学、一般の私立大学、専門学校進学や就職希望の人向け
9組 スポ特 スポーツ特待生
(*32) 関関同立(かんかんどうりつ)とは、関西の私立大学で比較的上位とされる、関西大学(かんさい)、関西学院(かん“せい”がくいん)、同志社、立命館の4大学を言う。関東のMARCH(明治・青山・立教・中央・法政)と比較的似た地位。
説明会の後、生徒手帳用の写真を撮りますということだった。写真は男女別に撮影するようである。千里と清香、島根さんなどは当然女子の列、公世は男子の列に並んだが、白衣を着た先生(保健室の室橋先生)が公世に声を掛けた。
「工藤公世さん?」
「はい」
「別室で撮影するからこちらに来て」
「はい」
それで公世が先生と一緒に別室に入ると、
「工藤さんは男子生徒扱いなんだけど、生徒手帳は女子として作成するから、ちょっとセーラー服着て撮影されてくれない?」
と言う。
「セーラー服着るんですか〜?」
やはりぼくセーラー服なのかなあと思ったが先生は
「スカート穿きたくなかったら上半身だけでいいよ」
といって、セーラー服の上衣を渡す。
公世は「そうか。それでセーラー服が必要だったのか!」と分かった。
「セーラー服自体は自分のを持って来ました」
「ああ、セーラー服も持ってるのね」
それでカーテンの影で着替えさせてもらい、自分のセーラー服の上だけ着た。
「あ、ちゃんとリボンも結べたね。さすがさすが」
と言って、それで白背景で撮影してもらった。
「そのまま身体測定もするから」
と言われる。公世は下着姿にならないといけないのかなと思ったが、着衣でいいというので、セーラー服の上衣を着たまま身長と体重を計られた。そのあと元の男子制服に戻ったが、指導室に行ってと言われる。
何だろうと思い、指導室に行くと結構な列ができている。列の少し先に千里と清香に島根双葉もいたが、3人は自分達の位置から離脱して、公世の所に来て一緒に並んでくれた。
「変な所から出て来たね。別室撮影だった?」
「セーラー服着て撮影された」
「ああ、だったらそもそもセーラー服で来た方が良かったね」
「着たのは上半身だけだよ」
「なんだ」
「身長・体重も計られた?」
「うん。着衣で」
「ブラジャーとパンティになって測られれば良かったのに」
「何のために!?それにブラとか着けてないし」
島根さんが笑っていた。
「なるほどー。村山さんと木里さんがそうやって工藤さんを毎日セクハラしてるのか」
「まあジョークだし。きみちゃんが男の子なのは分かってるから」
「ほんとかなあ」
結局、千里たち4人は
「あ、君たちちょうど良かった。まとめて入って」
と言われて一緒に中に入る。
学年主任の小林先生がいる。さっき講堂でクラス分けや時間割について説明した先生である。先生は説明した。
「君たちは物凄くテストの成績がいいのだよ」
「はい」
「しかしスポーツ特待生のクラスの授業はとてもレベルが低いので、君たちにはあまりにつまらないと思うのだよね」
「はあ」
「だから君たち授業は上のクラスで受けて」
「え!?」
そういう訳で4人は朝のホームルームだけ1年9組で受けて、それ以降の授業は各々次のクラスで受けることになった。
千里・公世→2組(特進)
双葉→4組(総合1B)
清香→6組(総合2B)
総合コースは成績順に1A,1B,2A,2B,3A,3B と分けられている。学年当初の成績でホームのクラスは振り分けられるが、学期ごとの成績で授業のクラスは更に移動されるらしい。1A,1Bは私大・短大、特にH高校の系列のH大学狙い。2A,2Bは専門学校狙い。3A,3Bは職業訓練や就職指導がメインになる。
ちなみに入学者テストの成績は、入学者313名“受験者”292名中、千里が18位、公世が43位、島根双葉が110位、清香が180位だったらしい。千里の成績ならいちばん上のスーパー特進に入れていいのだが(実際千里は最初にここに来た時『この成績なら成績特待生になれる』と言われている)、スーパー特進の授業をまともに受けるとクラブ活動ができなくなるので、その下の特進に入れたと説明された。
スポーツ特待生クラスは本来6時間目で授業終了だが、特進・総合の1-2は7時間目まであるので、この4人は7時間目まで受けてから部活に行くことになる。またスーパー特進・特進は朝の補習とか、夕方の補習もあるが、これには出なくていいと言われた、
しかし、ピタゴラスの定理もよく分かっていない清香が上位のクラスに回されるなんて、スポ特の9組の授業レベルって何なの?と千里や公世は疑問を感じた。
本当に“高校の”授業なのか?
「君たちこの伝票で教科書・副教材を購入して」
と言われて、千里と公世は特進の伝票、双葉と清香は総合コースの伝票をもらった。
4人が教科書販売の所に行くと、厚い教科書や問題集など物凄い量持たされている生徒もいたが、薄ーい教科書をほんのちょっと渡されている生徒もいる。金額もその凄い量持たされている子は 65,100円とか言われていたが、薄い子は18,900円と言われていた。千里と公世は割と多めで50,400円、双葉と清香は結構少なくて、39900円であった。コリンが千里・清香・公世の分を払った。
「後で精算、後で精算」
「夏のボーナス払いでもいい?」
「全然OKあるよ」
「あのどっさり渡されてた子はたぶんスーパー特進だよ」
「あの少なかった子は丸刈りだったし、スポーツ特待生クラスだろうな」
「多分授業は適当にやって、早めに解放し、ひたすらスポーツの練習をしなさいということなんだろうな」
「水曜日は午後2時間体育というし」
「筋トレとか基礎体力を付ける運動とかをするみたいね」
この他に4人は英和辞典・和英辞典・国語辞典・漢和辞典・古語辞典、のお勧めされている一番レベルの高いものをお揃いで買った。同じ物を持っているとお互い参照しやすいからである。軽くて済む電子辞書も検討したが、千里が「静電気で破壊する」と言い、清香が「これ投げたら壊れるよね?」と言って、紙の辞書を選択した。双葉が「なぜ投げる?」と呆れていた。
双葉は電子辞書を買ったが、公世から「島根さん、それ絶対千里に触らせないように。触らせたら静電気で壊れるから」と注意していた。
「そんなに静電気凄いの?」
「この3年間に電話機、電子レンジ、電子握力計、テスター、バスケットの30秒計と壊してる」
「テスターを壊すって凄い、30秒計とか高そう」
他に、体操服、内履き、体育館シューズ、を購入した。
(3/20) 入学者説明会の後、帰宅してからサハリンが運んでくれた荷物を開ける。
佐川急便の箱、ヤマト運輸の箱、アート引越センターの箱と分けてあるので仕分けは楽である。今回運んだのは衣類や書籍・CDなどの類いがメインだった。
「何か箱が多い気がする」
と公世は言った。
「お姉さんのが紛れ込んだとか」
「いや姉貴のは松本引越センターの箱に入れたから」
でも開けてみると公世の知らない衣類がたくさん入っている。中身は女物である。
公世は弓枝に電話した。
「お姉ちゃんの荷物が間違ってたくさんこちらに来ちゃったみたい。アート引越センターの箱に入ってたからうっかりこちらに運んでしまったみたいで。そちらへ宅配便で送るね」
「ああ。それはきみちゃんへのプレゼント。女子高生するなら女の子の服たくさん必要でしょ?私の服でもう着ないのあげるから」
要するに自分が飽きたのとか通販の失敗ものの類いか!
(不要品処分ただったりして)
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女子中学生・セーラー服と移転中(16)