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片付けはその日の夕方までには終わった。
「みんなありがとう!」
「何かぼくより村山さんや木里さんのほうがずっと役に立った」
と和弥は言っていた。しかし和弥は一週間ほどここに滞在することにしたようだ
今日はもう遅くなったが、明日は平田さんの荷物の整理をみんなですることにした。平田さんのお爺さんの宮司さんは節分の後またずっと寝ているらしい。
「引越祝いに猪肉の焼肉をしましょう。今お肉持って来させますから」
と千里。
「それ猪を丸ごと1頭どーんと置いたりしないよね」
「丸焼きは火が通るのに時間掛かるんですよ」
と千里はマジに答える。
フィリピンでは“レチョン・バボイ”と言って豚の丸焼きをやるが、あれは20kg程度の子豚である。それでも火が通るのに4時間かかるらしい。大人の猪だと150kgくらいなので、猪の丸焼きを作るには多分丸1日かかる。
それで、花絵の家で、猪肉の焼肉をした。むろん解体してスライス肉にしたものである。使用した機械は、留萌で熊肉のスライスに使っている機械のメーカーに頼んで作ってもらったものらしい。九重の“家”に置いている。九重の家は太陽光パネルを置いているので電気が使える。巨大な冷蔵庫の中に猪を丸ごと保存しているようだ。
「猪肉とか初めて食べた!」
と花絵も和弥も平田まゆりさんも言っていた。千里たちは旧早川ラボで何度か食べている。九重たちが青森まで出張して捕獲してきた猪で焼肉パーティーをしていた。花絵は熊肉は結構食べていたが、猪肉は初めてと言った。
猪肉を運んできてくれた九重と清川も一緒に食べていた。引越荷物の整理の時に彼らを呼ばなかったのは彼らに頼めば確実に壊すからである!
「猪肉も美味しいね。熊カレー屋さんに猪肉も追加しない?」
などと花絵は言っている。
「千里さんどうします?」
「運搬手段さえあればOK」
と千里は答える。
「それはやはりビジネスジェットを買おう」
と清香。
「え〜〜〜!?」
「運搬船を買う手もあるね」
「それいくらするのよ?」
「19t以下の小型船の中古なら多分2000万円くらいで買えるのがあると思う」
「19って何か意味あるの?」
「19t以下は小型船舶操縦士免許で操縦できる」
「なるほどー!」
「でも19tなんて小さな船で兵庫と北海道の間を走らせるって危なくない?」
「まあ最低199tはほしいね」
「また199ってのに意味があるんだ!?」
「5級海技士で船長になれる」
「なるほどねー」
「それコンテナに積んで輸送を依頼したほうがマシな気がする。輸送のためにわざわざ船を買って人を雇うのはあまりにもコスト高」
「ああ、なんかコンテナってあるね」
「コンテナ船とRORO船ってのがあるね」
「ローローって何?」
「トレーラー専門の運搬船。トレーラーがそのまま船に乗り込むけど、トラクターと切り離して、トレーラーを置いてトラクターは下船してしまう」
「おもしろーい!」
「それフェリーとコンテナ船の中間形態だね」
「うん。コンテナ積み下ろしの時間が掛からない。フェリーだと運転手も船と一緒に運ばれるけど、RORO船だと運転手は船に乗らなくていい」
「そっちの方が仕事はきつい気がする」
「するする。すぐ次の荷物運ばないといけないから結果的にたくさん仕事することになる。フェリーなら航送中は休めるけど」
「ただコンテナ輸送にしても、RORO船やフェリーにしても決まった航路しか移動できないから、トレーラーでの輸送と組み合わせる必要がある」
「それにしても船を一隻買うよりはマシな気がする」
「猪や熊の輸送には冷蔵設備が必要だから、フェリーの利用がいいかもね」
「だったら冷蔵設備のあるトラックを買うのが現実的かな」
「結局そのあたりが落とし所か」
「でも“まゆり”って変わった名前ですね。最初“まゆみ”って空耳した」
「ああ、“まゆみ”さんって呼ばれるのはもう慣れっこ」
「平田さんの姉妹は凄いんだよ」
と和弥が言う。
「これ友人はみんな知ってるんですけどね。こういう名前なんですよ」
と言って、まゆりさんは自分たち姉妹の名前を書き出す。
歩輝美(ほてみ)
美奈子(みなこ)
真弓理(まゆり)
公世が最初に気付いた。
「アルテミス、ビーナス、マーキュリーだ」
「そうなんですよ。太陽系三姉妹」
「完璧に趣味に走ってるな」
「美奈子さんがいちばんマトモ」
「私も最後の“理”の文字がなければマトモだった」
「ああ」
「ホテミ姉の場合、だいたい最初の文字を抜かされがちなんですよねー」
「輝美(てるみ)さんなら普通の名前だ」
「そうそう。ついでに旅館を予約してたら“歩さん”“輝美さん”の2人分予約されていたことがある」
「ああ、ありがちー」
「まあそんなDQN(ドキュン)名前を付けた父はもう20年も前に亡くなりましたけどね」
「あらあ」
「だから私は父の顔の記憶が無いんですよ」
「4歳じゃ覚えてませんよね」
ここの家は現宮司の平田茂行に男の子が生まれなかったので三女・光子と又従兄の平田照星が結婚し、照星が跡を継ぐことになった。それで彼は大阪の大学を出た後、あらためて京都國學院に入り2年間学んで神職の資格を取り、光子と結婚した。それでK神社の禰宜になったが、わずか32歳で亡くなり、バトンはその娘たちに渡されることになった。
なお素麺造りのほうは、郷史の長女(越智さんの奧さんの姉)晴子(53)の夫・西岡広義さん(59)が後継者になることになっている。しかしこの2人には子供が居ないのが悩みである。越智さんの長女・春佳は祖父・郷史(83) の家に下宿して神戸市内の国立大学に通っていた。
春佳は祖母からの
「いい婿さん紹介してやろうか」
攻勢に若干参っていた!ので、父が姫路に実質引っ越してく来たら
「母は春まで旭川だし父1人では不便だろうからそちらに同居します」
と言って父のところに移動してしまった!
なお郷史の次女・明子は夫・2人の娘とともに関東で暮らしている。
どうもこの家系は男の子が少ない女系家族っぽい。素麺屋さんも郷史の妻(春佳の祖母)峰子の父が始めたものだが、子供が女の子ばかりで(唯一の男の子は太平洋戦争で戦死(*36))、結局末の娘の夫となった郷史が継いでいる。
(*36) 筆者の父の家系は、本家では兄弟中唯1人の男の子が戦争に行き戦死して、父に繋がる分家では8人兄弟中4人の男子の内3人が戦争に行き全員生還しました。
また筆者の母の家系は美事な女系家族で男の親戚が皆無。私はその家系に祖父の後54年ぶりに生まれた男の子だったらしいのですが、中身は女の子だったし!だから実は祖父の後、私の弟が生まれるまで66年間本当の男の子は生まれなかった。
3月21日(火)。留萌。
留萌の私立U高校では、土曜日に入学手続きが締め切られ、郵便物の到着を待って(温情。本当は土曜日必着)、月曜には一次合格者の内実際に入学する人(全体の約2割程度)が確定。それでこの日、二次合格者が発表された。
これでU高校を受験した人のほぼ全員が合格した。今年は面接の態度が悪くて落とされたような人はおらず、親の急な転勤で辞退した人があったのみであった。
むろん、セナや白石真由奈の名前もこの二次合格者一覧の中にあった。
これで千里たちの学年の子のほとんどの行き先が確定した。
姫路H高校 村山千里(R)・工藤公世・(木里清香)
札幌南高校 沢田玖美子・(前田柔良)
札幌北高校 横田尚子
札幌SY高校 福川司・前河杏子・祐川雅海
札幌B高校 田代雅文
札幌T4高 竹田治昭・(所沢兼秋)
旭川西高校 木村美那・矢野穂花
旭川W高校 辻村佳美
旭川N高校 村山千里(F)・琴尾蓮菜・花和留実子・大沢恵香
旭川L女子高 原田沙苗・新田優美絵
旭川R高校 菅原藤太・佐藤マナ
旭川B高校(男子校) 鞠古知佐
留萌K高校 那倉絵梨・高木紀美・風月美都・上原裕・中山広紀
留萌S高校 広川佐奈恵・中谷数子・花崎映子
留萌U高校 高山世那・白石真由奈
姫路では千里・清香・公世の3人がひたすら剣道の練習をしていたが、その内こんな意見が出る。
「3人だとどうしても1人が手空きになる」
「学校始まったら島根さんあたりを招待してもいいね」
「その場合姉妹セットで来そうな気がする」
「うむむ」
「沙苗かせめてマナちゃんでもこっちに連れてくれば良かったなあ」
「そうだ。あの変態さん(勾陳のこと)はこちらには呼べないんだっけ?」
「ああ、あんな奴でも良ければ連れてこようか」
(千里としては勾陳は“12-13人”は居たはずだから、1人くらい“拉致”してきても問題あるまいと考えた)
それで千里は旭川近くの町外れで下着も付けずにセーラー服を着て(←寒くないのか?旭川の4月はまだ真冬だぞ)、公衆電話ボックスの陰に潜むようにしていた、勾陳を見付ける。
「あ、いたいた。ね、こうちゃん」
と千里は彼に声を掛ける。
勾陳は仰天する。千里にこんな場面を見られるなんて。こりゃ何か処分くらうかもとビクビクする。
「すみません。ほんの出来心だったんです。まだ誰も脅かしてません」
と必死に弁明する。
“勾陳”が自分に“敬語”で話したので千里は気がついた。
「なんだ、あんた“疾風”か。まああんたでもいいや」
「はいっ?」
彼はいきなり“内輪”のコードネームを呼ばれて焦っている。
「あんた、女の子になりたいよね?今も女の子の服着てるくらいだし」
「え、えっと」
「女の子にしてあげるね」
と言って、千里は彼のセーラー服のスカートの中に手を入れると、男性器を取っちゃった♪(下着もつけてないのが悪い)
「え〜〜!?」
「これ捨てとく?」
「捨てないで下さい。男を辞めたくないです」
「じゃ保存しておくね。20年くらい経ったら返してあげるね」
「20年なんですか〜〜!?」
「保存方法は、フリーズドライでもいい?」
「フリーズドライ!?」
「お金掛からないし」
「それ元に戻るんですか?」
「やってみなければ分からない」
「できたらもう少しまともな方法で」
彼(5番エイリアス)は思った。1番の奴何かよほど悪いことしたな。千里がおれを去勢して20年も返してくれないなんてよほどのことだぞ。だからあいつ俺に留守番させてトンズラ(*37) したな?
彼は昨日突然旭川に住む1番(瞬光)から呼ばれて「しばらく留守番しててくれ」と言われたのである。それで留守番してHなビデオなど見ていたが、暇なので、ちょっと女子学生を驚かせようかと思って町に出て来たところを千里に捕まった。本当にまだ誰も驚かしてない“未遂”状態だった。
(*37) トンズラは。“遁”(遁走の遁)と“ずらかる”のカバン語
「ま、それでちょっと来て」
と言って千里は、物凄く不安そうな顔をしている彼の手を取ると一緒に姫路まで瞬間移動した。
「わっここは?」
と勾陳(疾風)は驚いている。
「連れてきたよー」
と千里は清香と公世に言う。勾陳の気配に驚いた貴子が住宅の方から駆け付けてくる。が、彼の服装を見て腕を組む。
「なんでセーラー服なの?」
と公世。
「やはり変態だったのか」
と清香。
「男性器は除去したから比較的安全だよ」
「ああ、最低でもそれは除去しないと、こいつは危険だから」
「取っちゃったの?」
「追って完全な性転換掛けるけど、取り敢えず男性器は除去した」
「じゃ勾陳、少し手合わせしてよ」
「あ、ああ」
それで千里は勾陳に“黄色い道着”を着せ、女子高生仕様の竹刀を持たせた。
(彼が龍の中でも黄龍という種族であることに掛けている)
「仕方無い。相手してやるから掛かってこい」
と勾陳も開き直って清香たちに言った。
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女子中学生・セーラー服と移転中(18)