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3月20日(月)。旭川。(姫路で入学者説明会が行われた日)。
千里が大型スーパーで新生活のための買物をして、帰ろうとしていたら目の前に勾陳が現れる。
「ああ、いい所へ。この荷物少し持ってくれない?」
と千里が言う。(*33)
しかし勾陳は返事をしない。
「おい、千里、勝負しろ」
「なあに〜?また去勢されたいの?それとも今度は首を切られたい?」
「あんなに剣道を一所懸命してたのに、旭川では剣道ではなくて籠球をするというのは納得できない。俺と真剣勝負しろ」
と言って刀を1本投げて寄越す。
千里は手に持っている荷物を小春に渡すと投げられた剣をキャッチした。
しかし、きーちゃんの次に私の近くに付いていて、“剣道やってる私”は姫路に行くというのに気付かないというのはこいつ勘が悪いな、と思う。太陰でさえ、私が2人以上居るのを察してるふうなのに。
「今日は現代剣道ルールで。殴り合い無し(←前回は殴られて負けたもんね)。但し寸止めしないぞ。本当に切るぞ」
「別にいいけど」
それで千里は剣を抜いて勾陳と対峙した。
両者中段に構える。周囲に人がいるが、テレビの撮影?などと思って遠巻きにしているようである。50-60歳の体格のいい男と女子中学生が剣を持って対峙していたら、普通何かのドラマ撮影かと思われる。
勾陳が斬りかかってくる。こいつマジじゃんと思う。
きれいに彼の剣をかわす。彼は慌てて向き直る。そこへ千里は彼の額にピタリと剣を寸止めした。
「死にたかったらこのまま斬ってもいいけど。ちなみに私は頭蓋骨くらい平気でぶった切るから」
「馬鹿な。いつもの稽古の時の速度じゃなかった」
「修行が足りないね。まあ今日は命を奪うのは勘弁してやるよ」
千里は小春に持たせておいた鞘(さや)を受け取ると、剣を納め、勾陳に返した。そして後ろ向きにバイバイすると小春と一緒にタクシー乗り場に向かった。
周囲の群衆は
「何のドラマかねー」
「4月からの新ドラマかも」
「でもあの髪の長い女の子、結構剣さばきがうまかったね」
「まるで本当の対決みたいだった」
などと言い合っていた。
勾陳は刀を自分の車に放り込み撤収するが突然、怯えた。
「もしかして千里の奴、人前だから俺の処分をしなかったとか?。俺あとで去勢されるかも」
(去勢で済むといいね)
(*33) この千里はRである。勾陳が近づいてくるのに気付いたVの報せに、Rがサハリン・ミッキーを身代わりにして、旭川分室まで行き、最後はVが千里FとRを位置交換した。旭川分室が初めて使用された。それで実は講堂で先生たちの説明を聞いたのはサハリンである。身体測定の直前に復帰した。
旭川分室に飛ばされたFは「あ、お布団がある」と言ってスヤスヤと寝ちゃった!ので小春といっしょに美輪子のアパートに帰ったのは星子。
(詳細)
G:H高校のR←→姫路司令室のサハリン
G:姫路司令室のR←→旭川分室のミッキー
V:旭川分室のR←→買物中のF
(対決)
V:スーパーのR←→深川司令室の星子
V:深川司令室のR←→姫路司令室のミッキー
G:姫路司令室のR←→H高校のサハリン
こういう多段階の手順を踏んだのは、姫路から旭川まで一気にロングジャンプすると10kmジョギングした程度に消耗するからである。位置交換は遠距離でもあまりカロリーを消費しない。またサハリンはH高校の制服を着ていたので、H高校にはサハリンが行った。またFに深川司令室は見せられないので旭川分室を使った。
サハリン・ミッキーをRと位置交換したのはGである。
星子は美輪子の家まで戻ったところでVの操作で旭川分室で寝ているFと入れ替えられた。それで美輪子は玄関で気持ち良さそうに寝ている千里を発見することになる。星子はVが深川に戻した。
3月21日(火).
伊勢の皇學館大学で11時から卒業式が行われ、P神社の翻田常弥宮司の孫・翻田和弥が大学の課程を修了し、それとともに神職の資格“正階”を取得した。但し彼は常弥にもしものことがない限りあと2年大学院に通ってひとつ上の“明階”まで取る予定である。
常弥は前日空路(旭川空港→中部国際空港)伊勢に入り、新千歳から飛んできた和弥の父とともにこの卒業式に臨席。22日に留萌に戻ってきた。
花絵は卒業式には臨席しなかったものの、エクストレイルで姫路から伊勢まで行って卒業パーティーに参加。弟の卒業を祝福した。ついでに和弥を姫路に連行して引越荷物の整理を手伝わせることにする!!
「なんでぼくが姫路に行かないといけない?」
「荷物の整理とか家具の設置とか手伝ってよ。私ひとりでは無理」
「守さんはまだ来てないの?」
「4月1日に移動予定」
「じゃ仕方無い。姫路まで行くよ。バイト代1日100万円で」
「(明石の)玉子焼きで」
(父と祖父は笑っている)
などと言っていた時、ひとりの卒業生女子が近づいてきた。
「翻田君、姫路に行くの?」
「ええ。姉貴の引越し荷物の整理手伝いで」
「交通手段は?」
「姉貴の車なんですけどね」
「そちらお姉さんですか?平田と申します。姫路に引越してこられたんですか?」
「ええ、そうなんです」
「私も姫路なんですよ。もし車に余裕があったら私も乗せてもらえません?」
「いいですよ!」
「“少し”荷物があるんですけど、いいですか」
「ああ、構いませんよ」
(父と祖父は北海道に帰ることにする。平田さんは慌てて2人にも挨拶する。父も祖父も平田さんと和弥の言葉遣いからガールフレンドとかではなくただの同級生のようだと判断した)(*34)
それで、この平田まゆりさんが花絵の車に同乗することになったのである。
(*34) 父も祖父も一瞬「和弥に神道に詳しい嫁さんが来てくれたら跡継ぎは安泰」と思ったが、もし和弥と平田まゆりが結婚したら和弥は姫路に行ってしまい、P神社の跡継ぎがやばいことになるだろう:留萌P神社と姫路K神社の宮司を兼任したりして(*_*)\バキッ やはりビジネスジェットが必要?
彼女は大学院の卒業生で、つまり和弥より2つ上の学年だが、和弥と同じゼミに所属していたらしい。だから卒業により“明階”を取得した、和弥は“正階”を取得したがあと2年間通って彼女と同様“明階”を取るつもりである。
「女性で神職課程の大学院まで行くって凄いですね」
「うちが3人姉妹で、従兄弟とかにも神職を継ごうという人が誰もいなくて姉妹で押しつけ合って、結局いちばん下の私が神職の資格を取ることにしたんですよ。大学4年間で出るつもりが神道にハマっちゃって」
「平田さんは今年の卒業生の中でトップだったんですよ」
「凄い!」
「だから修士課程修了者の総代で学位記を受け取ったんだよ」
「それはほんとに凄いですね」
「4月から祖父が宮司をしている神社の禰宜(ねぎ)に任命される辞令が出る予定です」
「へー」
それで花絵のエクストレイルはまず和弥のアパートに行き、彼は数日分の着替えとかパソコンとかを持って来た。
続いて平田さんのマンションに行く。
「あのぉもし良かったら少し手伝ってもらえます?」
「いいですよ」
というので3人がかりで段ボール箱20個ほどを運んだ!
「これもしかして引越とか?」
「実はそうなんです。出遅れちゃって。シーズンだからどこも引越し屋さんに断られて困ってたんですよ。県内くらいなら何とかなるみたいだったんですが県外へはもうトラックが空いてないと言われて」
「それ私も!うちも旦那が突然札幌から姫路に異動の辞令が出て、引越シーズンだから運送屋さんどこも断られて。知り合いがトラック貸してくれたから、それに乗せて運んできたんですよ」
「わあ。札幌からって大変ですね。青函トンネル通るんですか」
「あそこ車は通れないんですよ。小樽から舞鶴までフェリーで来ました」
「そんなフェリーがあるんだ!それかなり時間掛かりますよね」
「22時間くらい掛かりますね」
「すごーい!」
平田さんは不動産屋さんに寄り、鍵の返却をしていた。
「冷蔵庫とか洗濯機とかは無かったんですか?」
「家具付きのマンションだったので」
「ああ、そういうのいいですね!」
それで結局、エクストレイルは前半を花絵、後半を道に詳しい平田さんが運転し、一行は姫路市内に入る。
「先に平田さんの家に行きましょう」
「そうですか。済みません」
と言って辿り着いたのは立花北町のK神社である。
「もしかして、ここが平田さんの神社?」
「そうですが・・・」
「うちの引越先はそこの3軒目なんだけど」
「うっそー!?」
「じゃ御近所なんだ?」
花絵が千里たちを呼ぶと、千里(R)・清香・公恵にコリン・サハリンの5人が来てくれて、まず平田さんの荷物を車から家に運び込む。
(カノ子が持って来てくれた洋菓子を食べた直後に呼び出された)
千里たちは、ここの宮司の孫娘が和弥と同じゼミで神職の資格を取り、4月からここの禰宜(ねぎ)(*35) になるという話に驚いていた。
「この子、凄い優秀な巫女ですから忙しい時は徴用していいですから」
と花絵が言うが
「先日の節分の時はちょうど姫路に来てたので豆撒きのお手伝いしました」
と千里が言うと、花絵は驚いていた。
「でも私、留萌のP神社からも頻繁に呼ぶからと言われているんですが」
「姫路と留萌の往復で頑張ろう」
「やはり千里はプライベートジェット1台買うべきだな」
と清香が言っている。
「でも花絵さんも凄く優秀な巫女と見た」
と平田まゆりは言っていた。
(*35) 一般に神社の神職は、トップが宮司(ぐうじ)でNo.2が禰宜(ねぎ)。大きな神社では禰宜の下に権禰宜(ごんねぎ)がいたり、権禰宜か複数居たり、物凄く大きな神社には宮司と禰宜の間に権宮司(ごんぐうじ)がいる所もある。
また小さな神社では、神職は宮司のみで、しかも多数の神社の宮司を兼任していることもある。こういう神社には禰宜が居ない。また大きな神社の禰宜をしている人が近隣のいくつかの神社の宮司を兼務していることもある。
大戸と書いて“ねぎ”と読む苗字があるが、この苗字(で「ねぎ」と読むもの)は神職の家系と言われる。この系統は香取市や臼杵市にルーツがある。筆者が以前仕事で関わったことのある大戸さんは大分市の人だったが、多分臼杵がルーツ。御本人が「うちの苗字は神職の“ねぎ”と関係あるらしい」と言っておられた。実は私はそれで“ねぎ”という言葉を知った。
大戸屋が出て来た頃、筆者はうっかり「ねぎや」と読んでしまった(*_*)\バキッ
平田さんの荷物を降ろしたり、先行して宅配便で届いていた荷物を神社の表から私邸に移動したりした後、花絵の新居に行き、荷物の整理をする。ここでも千里・清香・公世・コリン・サハリンが作業したが、平田さんも手伝ってくれた。でも和弥より剣道女子3人が物凄い戦力となり、2時間ほどで、荷物はきれいに片付いてしまった。
荷物を開けている最中に和弥が気付く。
「お姉ちゃん、この電子レンジは使えない」
「え?なんで?」
「この電子レンジは50Hz専用だから60Hz地域で使うと壊れる」
「え〜〜!?」
日本の電力供給は、富士川と糸魚川(いといがわ)を結んだ線を境に、東は50Hz, 西は60Hz になっている。パソコンやテレビなどのように電気を直流に整流して使う機器はどちらの地域でも動くが、主としてモーターを使う機器や電気の周波数をダイレクトに使う機器はどちらかの地域専用になっているものも多い。
50Hz/60Hz 専用が多い機器
・電気時計・電気タイマー
・洗濯機・衣類乾燥機
・電子レンジ
この手の製品でも50/60Hzの切替スイッチが付いててどちらでも使えるものもある。
冷蔵庫などは使えても冷却能力が変わる場合がある。また古い蛍光灯なども使えないものが結構ある(インバータ型は整流しているのでOK)。
「折角運んだのに〜!」
と花絵が言っているが、コリンが言った。
「良かったらうちで引き取らせてもらえません?」
「そちらで使えるの?」
「うちの家は50Hzなんです」
「なんで〜?」
「旭川で使ってた太陽光パネルのシステムをそのまま持って来たので」
「わぉ」
「だからうちの家の中は北海道と同じ50Hzで動いているんですよ。電気時計も正確に動きますよ」
清香が電気時計を使用している。
「面白いね!そちらの家だけ北海道なのか!」
コリンは電子レンジを3万円、蛍光灯を1個5000円ではどうかと言ったが、
「ただでいいよ。どうせうちでは使えないし」
と花絵が言うので全部無料で引き取らせてもらった。
「でも洗濯機・冷蔵庫運んで来なくてよかったぁ!」
これらの“大物”は移動が大変だからこちらで新しいのを買うことにしたのである。でも実は持って来ても使えなかった!
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女子中学生・セーラー服と移転中(17)