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■春根(20)
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その日、桃香は千里に相談した。
「青葉が勝手に使用している平田家の土地家屋だけどさ、あれは法的に公告をして他に相続人が居ないことを確認して、特別縁故者として正式に相続するという方法は採れないのかな?」
「それは実は私、弁護士(白金)さんとも相談してみたことあるけど、難しいというんだよ」
「難しいんだ!」
「手続きとしては、まず裁判所に相続財産管理人選任の申立てをして、選任されたらそのことを公告して2ヶ月待つ。それから相続財産管理人が、相続債権者と受遺者に対して請求を申し出るべき旨を公告する。その後、相続人捜索をする旨の公告をして6ヶ月待つ。その上で、誰も相続の権利があると申し出てこなかったら特別縁故者に対する相続財産分与の申立てを裁判所にする」
「面倒くさいね!」
「面倒くさいのは弁護士さんに任せておけばいいんだけどね。問題は比率なんだよ」
「比率?」
「特別縁故者と認められても、たとえば被相続者がずっと病気だったのを日々看護していたとか、事実上の妻として同居していたとか、そういう深い縁故があった場合しか100%は認められない」
「青葉では無理だな」
「青葉のお母さんだって、話を聞いてみると週末に滞在するくらいだったみたいだし、そもそもお母さんには別に夫が居た訳で」
「うーん・・・」
「だから、特別縁故者として認められても、認定され相続可能な財産の額はせいぜい5%程度だと思う」
「他は?」
「相続人が居ないということが判明すれば国に収用される」
「国が持って行くんかい!?」
(福岡市の川端商店街で“川端ぜんざい”のお店を経営していた老夫婦が亡くなった後、相続人が居なかったので国が収用する予定だった。しかし川端商店街がこのぜんざいは博多の大事な名物だとして、商店街自身が特別縁故者を主張してそのお店の土地・建物の相続を申し立てた。この主張が認められてここは商店街のものになり、その場所に“川端ぜんざい”が復活したが、地元の文化を守るという大義名分があったことによる、極めて例外的な審判である)
「だから20年間あそこを使い続けて、取得時効を待てばいい。どうせ誰も文句は言わないし」
「それでいい訳?」
「国だって、あんな使い道の無い土地は要らないよ」
「確かにそうかも!」
「福岡市で市電が廃止された時、市電の線路部分の土地は西鉄の所有だった。それを廃止後は公共の道路として使用したけど、市も県も国もその土地を買い取らなかった。なぜなら20年間使い続ければ、取得時効により市・県・国のものになるから」
「そんなのあり?」
「むしろ買い取ったら、無駄な公金を使ったとして西鉄との癒着では?と責任追及されたろうね」
「私は何か割り切れない」
「ところで桃香、男に性転換したという噂を聞いたんだけど?」
「時々夜中に起きてみるとちんちんが付いているんだけど、朝までには無くなって女のお股になっているんだよ。だから夢だと思う」
(桃香は、ちんちんが付いているのに気付いたらこれ幸いと必ずもう1度セックスする。それで朝までには確実に女に戻ってしまう!)
「それは男に変身する前兆かもね。桃香、男になった場合の名前を考えておきなよ」
と千里(実は千里2)は言った。
「うーん。。。そういう事態は考えたことなかったな。だけど射精って凄く気持ちいいよ。あんなのを日常的に体験できる男ってずるいと思う」
「やはり桃香には隠し子が7〜8人居そうだ」
「千里だって男の子だった頃は射精を経験してたでしょ?」
「私は射精の経験は無いよ」
「やはり千里って、生まれた時から女の子だったということは?」
2019年9月5-8日、東京辰巳水泳場で、今年のインカレ水泳(日本学生選手権水泳競技大会)が開かれた。青葉たちのK大学は、女子は昨年シード権を取得しており、男子も中部大会で2位になり、男女とも団体出場である。
遠征メンバーは下記である。
女子(13) 4年 青葉・杏梨・蒼生恵・春貴 3年 希美・百合花 2年 夏鈴・萌香・美虹 1年 波花・美音・夢世・玲夏
男子(10) 4年 吉田・中原 3年 皆橋 桜池 2年 高岩・蓮沼・小阪 1年 大坂・春山・金藤
マネージャー(4) 男子 原田(3年) 近石(2年) 女子 芽紅(3年) 舞弓(2年)
顧問 角光
合計28名
部長は女子は青葉、男子は吉田君である。今年は部長が男女とも選手なので選手しか入れないエリアに部長が入れないので部長代行を立てるなどという必要は無い。
青葉たちは9月3日夜の高速バスで東京に出てきて、江東区内の安ホテルに投宿した。そして9月4日は深川アリーナのサブプール(25m×4Lane)でたっぷり練習した。今年もこのサブプールを期間中貸し切っている(空いている場合はメインプール25m×8Laneも使用してよい)。事実上のオーナーである千里と青葉の関係からそれができているのだが、来年以降もインカレが東京で行われる年はこのサブプールを貸してよいと、千里と角光先生の間の“口約束”がされている。
9月5日は公式練習日であったが、全員軽く水に入っただけで、すぐ深川アリーナに引き上げ、そちらで練習した。
春貴は昨年までは男子として参加したが、今回は女子としての参加である。
運営側から非公式に短距離は遠慮してもらえないかという打診があり、春貴は女子400mと800mの自由形に参加する。昨年は男子として400m自由形で銅メダル、200mで7位入賞している。念のため全国公直前の7月中旬に性別検査を受け、筋力検査まで受けていたが「ほんとうに女性の筋肉ですね!」と感心されていた。それで大会参加OKということになったようである。しかし彼女はインカレよりレベルがどうしても落ちる全国公でメダルを取れなかった。
「物凄く筋肉が落ちている」
と本人も言っていた。
「でもおっぱい曝さなくて済むようになってよかったね」
「うん。去年はほんとに恥ずかしかったし、胸が邪魔になって泳ぎにくかったよ」
彼女は昨年までは男子として参加したため、胸を覆う水着をレース中つけることができなかった。それで水着メーカーと共同で開発した、FINAマークのついた下半身だけの水着をつけ、マジックテープで留められる共布の上半身を覆う水着をスタート直前まで着ていて、それを脱いでレースに参加し、退水したらすぐその上半身水着を身につけるという方法で、ほとんど胸を曝さなくてもいいようにした。しかし、それでもスタート台に立ってから退水までの間にCカップの生バストを曝すのは恥ずかしかったという。
ところで、今回男子として参加している桜池裕夢のバストが膨らんでいる問題については
「ああ、胸を曝すのは平気。ボクは別に女の子になりたい訳ではないから」
と本人が言っているので、特に何も対応しないことにした。
但し彼は普段の練習では女子水着を着ているし、公式練習の日も女子更衣室で女子水着に着替えて参加した。本番の6-8日は男子更衣室で男子水着に着換えると言っていたのだが、運営側から、他の選手が目のやり場に困ると言われ、結局、着換え用の個室を用意された!
だいたい女子下着をつけているし!そもそもスカート穿いているし!!
「裕夢ちゃん、既に男性を廃業しているのでは?」
と(次期女子部長に内定している)希美が尋ねていたが
「しぶといんだよね〜。かなり女性ホルモン飲ませたけど、まだ立つんだよ」
と“犯人”の百合花は言っていた。
「ふたりは遠征中はセックスしないように」
と青葉は釘を刺しておいた。
なお、裕夢と百合花は実は大学に入ってすぐから同棲しており、既に事実上の夫婦である。卒業してから籍を入れることで双方の両親は同意しているが、ウェディングドレス同士の結婚式になるかも知れない!?
ちなみに男子の次期部長は、裕夢が本当に1年後まで男子選手であるか不安だという声があるため、皆橋君か、今回はマネージャーとして参加している原田君にお願いしようという話になっている。ふたりで話し合ってインカレが終わるまでに決めてくれ、と本人たちにボールを投げている。
インカレでは各種目1大学3人まで、(リレーを除いて)1人2種目までという制限がある。青葉は800m自由形と、400m個人メドレーに出ることにした。リレーのメンバーは直前まで安定しなかったのだが、結局下記のメンツで出場することにした。
400R(1) 杏梨→青葉→希美→夏鈴
400M(2) 杏梨(背)→美虹(平)→希美(バ)→夏鈴(F)
800R(1) 波花→青葉→夏鈴→希美
短距離では希美と夏梨が、絶対的に速いのでこの2人が第3・第4泳者なのだが、その前の2つを誰が泳ぐか最後まで悩んだのである。青葉は全国公ではリレーのメンツに入らなかったのだが、結局インカレでは400m, 800mリレーの第2泳者を務めることになった。
メドレーリレーの背泳については、背泳100mを改めて女子全員計測した結果、いちばん速かったのが春貴、続いて杏梨、僅差で青葉だった。春貴は“短距離に出さない”という主催者との約束でスキップして、杏梨が出ることにした。杏梨は青葉に出てと言ったのだが、青葉が“部長権限”で杏梨に決めた!杏梨は「計測の時、絶対手抜きしたでしょ?」と言っていたが。
インカレは基本的に午前(9:00-13:40)に予選が行われ、午後(14:30-18:45)から決勝が行われる二部制の日程になっている。
初日はこのような結果になった。
予選
400m自由形 杏梨(A) 百合花(-) 春貴(-) /皆橋(B) 吉田(A) 高岩(-) 200mバタフライ 玲夏(-) /大坂(B) 200m背泳ぎ 萌香(B) 夢世(-) 蒼生恵(-) /桜池(A) 金藤(-) 100m平泳ぎ 美虹(A) 美音(-) /中原(-) 蓮沼(B) 4x100mリレー 女子(A) /男子(-)
決勝
400m自由形 杏梨(6) /吉田(8) 皆橋(9) 200mバタフライ /大坂(13) 200m背泳ぎ 萌香(12) /桜池(6) 100m平泳ぎ 美虹(4) /蓮沼(11)
4x100mフリーリレー 女子(1)
リレーでは“部長のタッチを信じてますからね”と希美が言って、普通のタイミングで飛び込み、2位と0.01秒差、3位と0.23秒差で優勝した。青葉のタッチが昨年までのように下手なままだったら、引き継ぎ違反で失格するか、あるいは希美が遅めに飛び込むことになり、3位になっていたであろう。
「部長、かなりタッチうまくなりましたね!」
とみんなから褒められて、青葉も照れていた。
この他、美虹が平泳ぎ100mで4位に入る大健闘をした。彼女は昨年はB決勝に進んで10位であった。この1年間でかなり成長したようである。
初日の夕食は焼肉で、大いにみんな食べていた。
2日目はこのようになった。
予選
200m自由形 希美(A) 夏鈴(A) 波花(A) /小阪(-) 春山(-) 100mバタフライ 玲夏(-) /大坂(-) 女子800m自由形 青葉(A) 百合花(9) 春貴(A) 男子1500m自由形 吉田(A) 4x100mメドレーリレー 女子(A) /男子(B)
(男子1500m,女子800mのB決勝は行わず予選タイムで9-16位を決める)
決勝
200m自由形 希美(2) 夏鈴(3) 波花(8)
4x100mメドレーリレー 女子(2) /男子(12)
メドレーリレーは惜しくも2位であった。どうしても背泳・平泳ぎのところで他チームがもっと速い泳者を入れているので、希美と夏鈴の後半では挽回できなかった。
この日の夕食はメドレーリレーで優勝なら、しゃぶしゃぶの予定だったが、2位だったので、再度焼肉に変更になった。
「明日こそしゃぶしゃぶを食べるぞ!」
と女子たちは気合いが入っていた。
そして最終日はこのようになった。
予選
400m個人メドレー 青葉(A) 蒼生恵(B) 杏梨(A) /皆橋(A) 高岩(B) 100m自由形 希美(A) 夏鈴(A) 波花(B) /小阪(-) 春山(-) 100m背泳ぎ 萌香(A) 夢世(-) /桜池(A) 金藤(-) 200m平泳ぎ 美虹(-) 美音(B) /中原(B) 蓮沼(-) 4x200mリレー 女子(A) /男子(-)
決勝
女子800m自由形 青葉(1) 春貴(8) 男子1500m自由形 吉田(3) 400m個人メドレー 青葉(1) 杏梨(8) 蒼生恵(11) /皆橋(7) 高岩(16) 100m自由形 希美(3) 夏鈴(2) 波花(15) 100m背泳ぎ 萌香(5) /桜池(8) 200m平泳ぎ 美音(15) /中原(9)
4x200mフリーリレー 女子(1)
青葉は800m自由形と400m個人メドレーで優勝して、日本代表の貫禄を見せた。吉田君は1500mで銅メダルを取る大健闘で最後のインカレを締めくくった。春貴は女子800mで8位入賞である。今年女子としてはメダルを取ることができなかった。
800mリレーは2位と0.1秒差で優勝、金メダルを獲得した。やはり青葉のタッチが下手なままだったら、獲得できなかったメダルである。しかしこれで青葉は4つの金メダルを得たことになる。有終の美を飾ることができた。
希美と夏鈴はリレーの3つと合わせて5個のメダル獲得である。インカレは1人で最大5種目にしか出られないので、これが最高である。
なお総得点だが、男子は100点で11位(昨年は108点で12位)、女子は315点で5位(昨年は250点で6位)だった。女子は3年連続のシード権獲得である。男子はシード権は取れなかったものの、昨年より順位をあげた。
この日は閉会式が18:45に終わったので、しゃぶしゃぶ屋さんで打ち上げをした後、夜行バスで金沢に帰還した。
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