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■春根(18)

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8月14日は喜多方を出発してからまずは檜原湖(ひばらこ)まで走る。この付近が裏磐梯・観光コースの目玉である。明治21年に磐梯山の噴火でできた多数の湖があり、特に大きな檜原湖・小野川湖・秋元湖は裏磐梯三湖とも呼ばれる。この付近は高級リゾートホテルも多い。
 
(裏磐梯高原はこの時の噴火による磐梯山の山体崩壊で、吹き飛んだ山の土砂により、村が埋まってできたものである。数百人の村人と湯治客が犠牲になっている)
 
青葉たちは檜原湖の周りを一周したあと、小野川湖・秋元湖のそばを通る磐梯吾妻レークライン(lake line)を走る。なかなか“素敵な”道である。ここは福島県道70号・福島吾妻裏磐梯線の一部なのだが、レークラインと呼ばれている部分が終わって少し走った所に茶屋があり、休憩している人が多数あった。青葉たちもここでいったん休憩した。ふたりとも軽食を取りながら曲を1曲ずつ書いた。
 
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お腹が落ち着いた所でトイレに行ってから出発する。
 
県道70号を走り続ける。結構なワインディングロード、ヘアピンカーブの連続を経て、土湯峠に到達する。県道30号との交差点で、これを30号の方にいくと土湯温泉に到達する。この日はそちらには行かない。
 
いったん休憩して体操などもしてから、覚悟を決めて!県道70号を走り続ける。ここからは磐梯吾妻スカイライン(sky line)と呼ばれる部分である。
 
ここが今回のツーリングの目的地であった。最初は普通の山道かと思うのだが、その内、絶景ポイントがいくつも出てくる。
 
「これ凄い」
「ちょっと停まろうよ」
 
それで青葉たちはこの道の途中、何度も停まっては詩を書いたり、写真を撮ったりした。このあたりはバイクで来ているので気兼ねなく道の脇に停めることができる。
 
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浄土平の付近は、植生の無い岩山で、本当に日本とは思えない、アメリカ西部かシルクロードかと思うような物凄い光景であった。
 
むろん写真を撮るのは青葉だけである。千里2が写真を撮ろうとしても写る訳が無い!千里姉も「あとで見せてね」というので、青葉も「まとめて送るよ」と言っておいた。
 

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浄土平パーキングエリアで1時間休んだのを含めて、約30kmのスカイラインを4時間も掛けて走破し、最後は多数のヘアピンを慎重に降りて高湯温泉に到達する。この日はここで泊まる。無理はしない日程である。実際さすがの青葉にもこの日の行程はなかなかハードだった。
 
「でも、ここまた来たい」
と青葉が言うと
「ハマる人が居るんだよ」
と千里も言っていた。
 
「スカイラインを走った後ではレークラインは凄く走りやすい道という気がする」
「そうそう。レークレインは天国だよ」
「スカイラインは完璧に“あの世”だった」
「だから浄土平なんて名前が付いてる」
「あそこは本当に浄土だと思った」
 
以前はレークライン、スカイラインは結構な料金の有料道路だったのだが、現在は無料開放されており、来やすくなった。道路が通る前は修験者だけが近寄れる場所だった。物凄い場所にあるので冬季は通行止めである。千里姉が最初に来た時は冬だったのでここを通れず、国道115号のほうを通ったらしいが、そちらもなかなか“走りがい”のある道らしい。
 
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「帰りはそちらを走る?」
「それって、もう1回死ねって話?」
「そうそう。今通って来た道もだけど非力なバイクでは辛い。前やった時は250ccの子が上り坂で遅れて、けっこう待ってあげた」
「250ccでも辛いのか」
 
※福島県道70号スカイラインは2019年台風19号により被害が出て通行止めになりました。その後冬季の閉鎖期間に突入しています。春のオープンは遅れるかも?
 

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《きーちゃん》は千里1に言った。
 
「千里、坂東・西国・秩父の100観音霊場を達成したからさ、最後の仕上げに四国のお遍路さん、やってこない?今度は歩いて」
 
「それもいいかもねー。でも歩くなら今の時期は無理だよね?」
「うん。夏は消耗が激しいから少し涼しくなってからかな」
「何日かかるんだっけ?」
「歩くと40-50日だと思うよ。千里の足ならもっと短くて済むかも」
 
「だったら、9月中旬に歩き始めたら、10月中には終わるよね?11月になると寒そうだし」
「うん、そのくらいの日程がたぶん歩きやすいよ」
「じゃ9月14日に玲羅の結婚式があるから、その後で」
「二百十日、二百二十日も過ぎて、ちょうどいい季節かもね」
「そしたら取り敢えず写経88枚やるか」
 
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「その後、高野山でも納めるから89枚かな」
「ああ、高野山で結願なの?」
「88番札所の大窪寺で結願して結願証をもらって、1番札所の霊山寺に戻って四国一周が完了して“四国八十八ヶ所霊場満願之証”ももらう。でも納経帳や掛け軸には高野山の欄まであるから、その後高野山まで行く」
 
「歩いて?」
 
「ふつうの人は海の上を歩けないから、電車で行く人が多い」
「私も海の上は歩けないよ」
と千里が答えると、なぜか《きーちゃん》は笑っている。
 
「更に89個の御朱印が揃ったのを持って京都の東寺に行き、成満証を発行してもらえる」
「結局91ヶ所行く訳か!」
 
「他に衛門三郎終焉の地の杖杉庵に行きたい。あと30番札所が分裂して2つある(現在は片方が奥の院を称することで和解)から、結局行く場所は1番の再訪まで含めて93ヶ所かな。更に番外札所とか奥の院とか行っていると多分150ヶ所以上あると思う。私も数えたこと無い」
 
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「番外札所はいいことにしようかな」
 
(この他、62番札所の宝寿寺は、八十八ヶ所札所の住職で作る四国霊場会に入会していないが、現時点では他の札所とほぼ同様の対応をしている。但し納経時間が変更になっている可能性もある。霊場会では宝寿寺で納経できなかった場合に備えて、61番札所・香園寺で62番札所の納経もできるようにしている)
 
「じゃ100枚くらい書いておくていいよ」
「そうする。一週間は掛かるよね?」
「他のことを何もせずにそれだけするなら一週間でも行けるだろうけど」
「確かに秩父の時は写経していた間、バスケの練習にも行かなかったし作曲も止まっていたもんなあ。だったら1ヶ月掛かると思った方がいいかな?」
「千里、結構忙しいもんね」
 
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実際には四国に出発するまでには70枚しか揃わず、残りは矢立を持って行き、道中毎日1〜2枚ずつ書くことになった。
 

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2019年8月23日(金)は緩菜の1歳の誕生日だった。
 
千里2、千里3は美映が外出したり寝ている時間を利用して誕生祝いに来たが、“封印”はまだ解けていないようで、緩菜はまだ“普通の赤ちゃん”という感じだった。京平は1歳になるのと同時に思念による会話ができるようになったのだが、やはり“**”と普通?の人間では違うのかな、と2人の千里は思った。
 
千里1も《きーちゃん》に頼んで連れて行ってもらったが、千里1は緩菜が実は小春であることをまだ思い出していないので、自分が産んだ貴司の子とだけ思い込んでおり「なかなか来れなくてごめんね」と言って緩菜にキスした。
 

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映画『ヒカルの碁』の撮影は予定より少し早く2019年8月29日にクランクアップした。アクアと葉月は撮影が終わると、8月30日の朝から小浜に移動した。
 
8月31日にアクアのライブがあるのである。
 
会場はこのライブにあわせて建設されていたミューズアリーナ・ミューズシアターである。2つの施設は隣り合って建っていて、それをつなぐと7万人も入る巨大なライブ会場が出現する。最初話を聞いた時は、地方自治体が使い道や採算も考えずに作った“箱物”かなと思ったのだが、首都圏などでトレーラーレストランを運営しているムーランが建設したものと聞き、民間企業が建設したのならこんな場所に7万人の会場を作っても採算が取れるのだろうか?とアクアは不思議に思った。
 
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このスペースにトレーラーレストランを200-300個並べるとか!?
 

アクアたちは実際に現地に行って7万人収容の巨大会場を見てみたのだが、ここは要するに野外会場に屋根をつけたようなものだと思った。だからサマフェスとかで歌うような気持ちで歌えばいいと思った。実際コスモス社長もそんなことを言っていた。
 

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千里3は8月13日から日本代表の活動で中国に遠征していたのだが、帰国後、8月24-25日は、さいたまスーパーアリーナで台湾代表を迎えて親善試合を行った。次の代表活動は9月2日からの第9次合宿(NTC)なので、それまでの間は少し時間が取れる。
 
青葉は今年は9月6-8日がインカレなので、それまでは少し時間が取れる。
 
ということで、青葉と千里3は敦賀駅で8月29日に待ち合わせ、千里3の運転するアテンザて小浜に入った。ミューズ3のいちばん下のゲートを通り、地下への坂を下りて地下の駐車場に駐めさせてもらう。
 
丸山アイ自身が出迎えてくれた。
「ようこそ、ミューズ3データセンター(MDC3)へ」
と言って、2人を案内してくれる。
 
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地下4階にある中核施設“Muse-3”を見せてもらった。
 
「壮観ですね」
「これが夢紗蒼依の本体ですか」
 
「インテル Core-i7 8086K (Cofee Lake-S) を2500個ほど使用している。ラックは100台くらい。6コアだから全部で2500×6=15000コア程度。速度は600TFlopsくらい。消費電力は記憶媒体の消費電力、エアコンや照明の分まで入れて1500kwほどで月間10万kwhくらいかな。その内、太陽光パネルによる自家発電で3割程度をカバーしている。電力需要の大きな午前10時から夕方17時の間は電力会社からの供給をほぼ停めて太陽光と蓄電で動かしているから、関電への支払いは1日45万円くらい。実際太陽光発電のピークがうまい具合に電力会社で電気が不足しやすい時間帯と一致しているからちょうどいいんだよね。でもこれで1日に3〜4曲程度の作品を生み出してくれる」
 
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全部“ほど”とか“くらい”が付くのがアバウトな性格のアイらしい。しかし電気代だけで1日45万円掛かるなら人件費や研究開発費、システムのメンテ費用も考えれば、作曲料(最低料金)を最低30万くらいは取らないと採算が取れないわけか、と青葉は考えた。
 
結果的に人海戦術で多数の楽曲を提供している王絵美さんの“望坂拓美”よりコストが高い(コンピュータの方が人間より金が掛かる!)。その代わり品質の均質性が良いだろう。人間の書く作品はどうしても波がある。
 

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もっとも千里(千里3)は
 
「その規模のスーパーコンピュータにしては電力消費は少ない気がする」
と言っている。
 
「ああ、こちらの千里さんは計算ができるみたいだ。やはり既製品のCPUを使っているのが大きい思うよ」
とアイ。
 
「太陽光発電は天気によって随分発電量が変わると思うけど蓄電か何かしてる?」
「うん。揚石式発電施設がある」
「ようせき?」
 
「揚水式発電所の水の代わりにコンクリートのブロックを上げ下ろししてその位置エネルギーで電気を蓄える。コンクリートの比重は2.3だから水の43%の容量で済む」
 
「面白いことしてるね」
 

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