広告:ここはグリーン・ウッド (第2巻) (白泉社文庫)
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■春根(14)

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「実は姉は昨年結婚したものの、半年もしない内に旦那が事故死してしまいまして」
「え〜〜!?」
「それで茫然自失状態になって。最初の頃は日常生活もまともにできない状態だったんですよ」
「それはお気の毒です」
「今は何とか回復してきたのですが、ちょっと霊的な力が暴走中で」
「暴走?」
 
「妖怪が棲んでいるような場所にあの子が行くと、視線をやっただけで妖怪が粉砕されてしまいますし、ゴーストスポットは封印されてしまうし、呪いは除去されてしまうし」
と千里が言った所で青葉が
 
「性別に不安を抱えている人が、あの髪の短い方の姉と握手したりすると、本人が心の中でなりたいと思っているほうの性別に変わってしまうんですよ」
 
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「え〜〜!?」
 
「**の法という秘法なんですけどね。実は姉は霊媒で、6年前に亡くなったひじょうにパワーのある密教僧が、亡くなる直前、次世代に伝えるべき様々な秘法を姉の身体にまるでDVDレコーダーか何かのように単純に記録したんです。ふだんは本人は記録しているだけで使えないのですが、今姉はまだ昨年の夫の死によるショック状態から完全には復活していないので、管理が甘くなっていて、勝手に起動してしまうんですよ」
 
「それって、ものすごく危険な状態なのでは?」
 
「それで私がフォローに駆け回っている状態なんですけどね」
と千里は説明した。
 

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「それで私たち古株の中堅社員がフォローに走り回っている所なんですけどね」
と貴司は大阪実業団リーグ2部に所属するHH交通の部長に説明した。
 
「あんたたちも大変だね〜」
と部長は同情的に言ってくれた。
 
6月下旬の株主総会で新たに社長になった高縄氏の下でMM化学が大混乱に陥っている状況はテレビや週刊誌でも報道され、高縄社長やその一派に批判が集まっている。株価は現在数十円まで落ち込んでおり、証券取引所は注意銘柄に指定している。
 
それで結局、HH交通は現在のMM化学バスケ部の貴司以外の7人を引き取ってくれることになった。HH交通のバスケ部員は現在11名しか居ないので7人をまとめて引き受けるだけの余裕があったのである。HH交通も数年前までは1部にいたものの2部に落ちてから有力部員が辞めてしまい、再浮上したいのにできない状況が続いていた。それで昨年2部で準優勝したMM化学の部員加入は中心選手の貴司抜きだとしても歓迎だったのである。
 
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なお貴司はここに入らないことにしたのは、貴司まで入ると、事実上HH交通のバスケ部がMM化学のバスケ部に乗っ取られる形になり、現在の部員が反発することが予想されるからである。あくまで欲しいのは現在のスターターの交代要員になるレベルの選手であり、貴司はこのチームに入るには“強すぎる”のである。
 
貴司としては全員まとめては無理だろうから数社に分けてお願いしようと思っていたのだが、全員引き受けてもらったことで、本当に助かった。引き取りのタイミングは今シーズンのリーグ戦が終わった年末ということでお願いした。
 
MM化学が彼らに払う給料の原資となる、貴司からのスポンサー料は3月分まで払い込み済みであるものの、正直この会社は3月まで存続していないかも知れないと貴司も思っていた。
 
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実はこの7月31日の時点で、本来は25日に出るはずだった7月分の給与がまだ支給されていない。それで引越代なども払わなければならなかったので、千里からお給料が出るまでの“つなぎ”と言って50万円(8月分の生活費20万円+引越費用概算20万円+養育費10万)借りている。千里は貴司に「養育費は確実に送ってあげて」と念を押し、貴司もその件は謝った。阿倍子は7月は宝くじが全く当たらず焦っていた所に送金があり、助かった!と思った。
 
「細川さんはBリーグに行く?」
「いや、さすがにこの年齢では今更採ってくれる所は無いかも」
「充分行けると思うけどなあ」
 

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「そういう訳で城野さんが女性の身体になってしまったのは、姉の暴走のせいだと思います。私が元の男性の身体に戻すことができますが、もしよければ今すぐ戻しましょうか?」
と千里は言った。
 
「あっえっと・・・・」
と月は戸惑うような顔をしてから言った。
 
「私は女の身体になって、凄く嬉しいんですけど、このままにしておく訳にはいかないでしょうか?」
 
青葉と千里は顔を見合わせたが、千里は言った。
 
「もちろんそのままでも全然問題ないです」
「でも戸籍上の性別をどうすればいいか悩んでいて」
 
「それは病院で診察してもらえば、たぶん半陰陽だったのだろうという診断になると思いますので、その診断書をもとに性別の“変更”ではなく“訂正”をすればいいんですよ。そういうのに慣れている病院を紹介しましょうか?」
 
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「お願いします!」
 
それで千里は都内の大間産婦人科を紹介したのである。
 

「でも性転換しちゃった原因が分かってホッとしました」
と月は本当に安心したように言う。
 
「突発的に女の子になってしまったから、また突発的に男に戻ったりしないか不安だったんですよ」
 
「まあ結果的に月の場合は、女になれてよかったんだよな」
と村原宏紀は言っている。
 
「ヒロちゃんはどうする?」
と月が訊く。
 
「村原さんもどうかなさったんですか?」
と青葉は訊いた。
 
「いや、実はボクも女になってしまったんですが」
と頭を掻いて言っている。
 
さすがにこれは青葉も驚いた。
 
きっと本人も性別意識が揺らいでいたので、性別が曖昧な月さんを好きになったのだろう。むろん青葉も千里も、その驚きを顔に出したりはしない。
 
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「えっと・・・村原さんも女性のままでいいんですか?」
と千里が訊いた。
 
「実はどうしよう?と少し悩んでいるんですが」
と本人は言っている。
 
「私はレスビアンでもいいよ」
と月。
 
「あのぉ、男に戻すこともできるんですよね?」
「できますよ。ただし一度男に戻したら、もう女に変えることはできません。あとこのことは他言しないで欲しいのですが」
 
本当は1年後には再度性別変更できるらしいが、二度と変えられないことにしておいたほうがいいだろう。性別もコロコロ変えるべきものではない。
 
「まあ人に言っても誰も信じないでしょうけどね」
「確かに!」
 
「じゃ、やはりボクは男に戻してもらえませんか?正直、月を見ていて、自分は性別を移行するだけの根性が足りないという気がしていて」
 
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「まあ周囲との軋轢が凄まじいからね」
と月も言った。
 
「じゃ男に戻りますか?」
「はい、お願いします」
 

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それで千里は村原を男の身体に戻してあげた。変化はほんの10分ほどで起きた。
 
「あはは、ちんちんが復活しちゃった」
と村原。
「無いほうが良かったんじゃないの?」
 
「うん。でも女として生きて行くだけの勇気が無いから仕方ない」
「なんなら性転換手術受けるとか?」
「たぶんそれ一生悩んでいくかも」
「30歳になるまでに去勢手術しなよ」
「しちゃうかも」
 
「ところで、私、ひょっとして子供産めたりします?」
と月は訊いた。
 
「女性ですから当然産めますよ。たぶん1〜2ヶ月以内に生理も始まると思いますから、妊娠したくない場合はちゃんと避妊してくださいね」
 
「分かりました!」
 

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千里1は《きーちゃん》から言われたように、秩父三十四箇所をミラで由美を連れて巡礼しようとした。ところが調べてみると秩父霊場はひじょうに狭い範囲に集中しており、車を持っていくと、むしろ邪魔になりそうな感じだった。とはいっても公共交通機関だけで動き回るのは辛いものがある。
 
そういう訳で、千里1はここをバイクと徒歩で行ってくることにしたのである。この時点で由美を連れて行くのは諦めた。
 
由美をおんぶしてバイクに乗れないことはないだろうが、あまりにも危険すぎる(道交法の想定外??)。
 
使用するバイクはYZF-R25である。大型バイクも乗れないことはないが邪魔になりそうな気がした。もっとも千里1はこのバイクがなぜ自分の手元にあるのか知らない。実は2番が青葉から借りたまま、返すのを忘れているのである。
 
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バイク前提で日程を計算してみると2日で回れそうという計算になる。それでこのような計画を立てて8月1日(木)の早朝出発した。
 
●8月1日(木)
8:00 1 誦経山四萬部寺(妙音寺)
8:22 2 大棚山真福寺
8:41 - 光明寺(↑の納経所)
8:56 3 岩本山常泉寺
9:16 4 高谷山金昌寺(新木寺)
9:35 5 小川山語歌堂
9:50 - 長興寺(↑の本寺)
10:10 6 向陽山卜雲寺(荻野堂)
10:33 7 青苔山法長寺(牛伏堂)
11:02 8 清泰山西善寺
11:25 9 明星山明智寺
12:07 10 萬松山大慈寺
12:31 11 南石山常楽寺
12:57 12 仏道山野坂寺
13:18 13 旗下山慈眼寺(あめ薬師)
13:41 14 長岳山今宮坊
13:55 15 母巣山少林寺(福寿殿)
14:15 16 無量山西光寺
14:40 17 実正山定林寺(林寺)
15:05 18 白道山神門寺
15:24 19 飛渕山龍石寺
15:43 20 法王山岩之上堂
16:00 21 要光山観音寺(矢之堂)
16:17 22 華台山永福寺(童子堂)
 
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この日はほとんど秩父市内(一部横瀬町)でちょこちょこと動き回る感じであった。札所と札所の間もほとんどが1km程度である。《たいちゃん》がナビしてくれたので、道に迷うこともなくスムーズに進行した。
 
巡礼している最中は生臭は食べないという方針で、お昼ごはんには塩おにぎりを作って持って行っている。これを明智寺に参拝した後で食べて少し休憩している。秩父霊場は歩いて巡っても5日というのだが、春に康子と太一が巡った場合、車を使っているのに5日掛かっている。これは狭い道で苦労し、結局広い駐車場に駐めて歩いて行くはめになった所が多数あったからと聞いた。しかし今回はバイクだったので、全ての札所のそばまでバイクで行くことができた。なお、納経する般若心経は出発前に4日がかりで34枚書いておいた。
 
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16時半くらいにこの日の予定の最後の永福寺に到達する予定だったのだが、実際には15時半頃にここまで来てしまった。しかし予定は変えずにそのまま秩父市内の宿に泊まった。宿に泊まった後は“オフ”になるので夕飯は普通にお肉も食べている。
 
●8月2日(金)
8:00 23 松風山音楽寺
8:25 24 光智山法泉寺
8:45 25 岩谷山久昌寺(御手判寺)
9:10 26 萬松山圓融寺(岩井堂)
9:34 27 龍河山大渕寺(月影堂)
9:55 28 石龍山橋立堂
10:22 29 笹戸山長泉院(石札堂)
11:02 30 瑞龍山法雲寺
12:02 31 鷲窟山観音院
13:22 32 般若山法性寺(お船観音)
14:02 33 延命山菊水寺
14:52 34 日沢山水潜寺
 
朝御飯を精進料理にしてもらい、塩おにぎりも作ってもらって、それを持ち2日目の巡礼をした。
 
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この日は昨日とはうって変わって札所と札所の間がかなり離れている。しかも急坂が多い。この行程は歩くと体力のある人でも3日掛かるかもと思った。しかしバイクなので順調に進行し(但し下り坂がわりと怖い)、この日はほぼ予定通り15時頃に結願の寺・水潜寺に到着することができた。
 
この結願にいちばんホッとしたのは千里2と千里3だったのだが・・・
 

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「封印は掛からなかった」
と《くうちゃん》は言った。
 
「どうすれば掛かるんでしょう?」
「ちょっと僕も考えてみる」
 
《くうちゃん》がこんなに悩むのも珍しい。
 
「それとあの子が発動させているのは、ひょっとすると**の法ではないかも知れない」
 
「**の法以外にも、性別を変えてしまうものがあるんですか?」
「ひょっとすると、オリジナルの**の法かも」
「それは失われたのではなかったのですか?」
 
「瞬嶽さんなら密かに習得していたのかもね。瞬嶽さんが千里君の身体に記録したものの全容は君に教えてない。ただ学ぶ資格のある人には分かるはず」
 
「あ、それは感じていました。印の組み合わせに明らかに“空き”があるんですよ。でも何が発動するか分からないのでは怖くて使用できないし」
 
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しかしこの日にまだ千里1に封印が掛からなかったおかげで、すぐに助かることが起きたのであった!
 

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春根(14)

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