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■春根(12)
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目次 #
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「待って。私、性転換手術していたのに」
「性転換手術してもベースは男の身体だったからね。だから完全な女の身体になったんだよ」
「え〜〜!?」
「男に戻りたいなら戻してあげるけど」
「要らない!男になんかなりたくない」
「だったら、女の身体のままでいい?」
「それでいい」
「世界水泳でメダル取れたのは、女になって卵巣が働き始めて、青葉のエネルギーが増えたのもあると思う。しかも生理が終わった後の卵胞期だったからね。女性の身体は、卵胞期(生理→排卵の時期)のほうが、黄体期(排卵→生理の時期)よりパワーが出やすい。但し生理直後はその影響で身体がきつい。1500mを泳いだ時はいちばんいい状態だったんだよ。そもそも、私自身の身体もそうだったけど、やはり性腺が無いとパワーがどうしても出にくいんだよね」
「自分もそうだった・・・って」
「うん。さりげなく千里1と握手してきて、自分を女の身体に変えちゃった。私も今は天然女になったよ。生理は面倒だけど」
「へー!それはおめでとうと言えばいいのかな」
「ありがとう。青葉も完全な女性になれて、おめでとう」
「ありがとう」
青葉は少し考えた。
「でも1番さん、その状態で放置するのはまずいのでは?」
「現時点で被害者は把握している範囲で既に10人」
「そんなに!?」
「1番は信次さんの菩提を弔うといって、霊場巡りしてたでしょ?」
「うん」
「それで封印は回復するのでは?と言っていた人もあったんだけど、停まらなかった。ともかくも2番とふたりでフォロー中。だけど、これまで男に戻りたいと言った人は2人しかいなかった。みんな女になれて嬉しいと言っている」
「1番さんと握手すると全員性転換しちゃうの?」
「自分の性別に不安を持っている人だけだよ」
「なるほどー」
「だから普通の人は何も変化が起きない」
「ああ」
「アクアなんかと、もし1番が握手すれば確実に女の子になっちゃうね」
「Nならでしょ?」
「そうそう。あの子はかなり女の子になりたいと思い始めている。MやFは握手しても平気」
「だけどNは女の子になっちゃっても問題無いのでは?」
「だと思うよー」
「あ、そうだ。桃香がさあ、性転換しちゃわないように気をつけてて」
「へ?」
「青葉は1番と接触しやすいだろうからと思って、1番と接触しても**の法が起動しないように密かにガードを掛けていたんだよ。それなのに発動しちゃったから。桃香にもガードは掛けているけどガードが効かないかも」
「桃姉は男になってもやっていける気がするけど」
「じゃ、放っとくか」
「桃姉の犠牲者は可哀相だけど」
「それは頑張って養育費を稼いでもらうということで」
と2人は無責任なことを言いあった。
千里2・千里3からの共同依頼にもとづき、その日《きーちゃん》は千里1に言った。
「千里さ、春に霊場巡りした時、川島のお母さんと分担して回ったでしょ?」
「あ、うん」
あの時、坂東三十三箇所は千里と康子で巡ったのだが、その後千里は由実をつれて西国三十三箇所を巡り、康子は太一と一緒に秩父三十四箇所を巡ったのである。
「あの時は一周忌の直前だったのもあって分担したけど、やはり霊場は基本的には全部巡った方がいいと思うんだよね。千里、あらためて秩父三十四箇所を巡らない?」
「それもいいかもね」
それで千里1は8月にミラを使って、由美を連れて秩父霊場を回ってくることにしたのである。
「お母さんにも西国三十三箇所を巡るの勧める?」
「西国三十三箇所はハードだから、病み上がりの康子さんには無理だと思うよ」
「そうだよね!じゃお母さんの方は、いいことにさせてもらおうかな」
あの時の巡礼が不完全だったために封印が掛からないのではないか?というのは実は、千里2・千里3・きーちゃん・くーちゃんの4人で話し合っていた時に出てきた、ひとつの仮説である。
その晩、桃香は夜中トイレに行きたくなったので、布団から抜け出すとトイレに入って座っておしっこをした。
おしっこが便器の外に飛び出すので慌てていったん停め、“ちんちん”を下に向け直してから再度、放出した。座ったまま汚れてしまった付近をトイレットペーパーで吹いて掃除する。
「あれ〜?気のせいかな。私、ちんちんが付いている気がする。確かにちんちん付いてたら、おしっこは前に飛ぶかもね」
などと考えた。
「でも私にちんちんがあるはずないから、これはきっと夢かな」
と言うと、ちんちんの先をペーパーで拭いてから立ち上がる。手を洗ってトイレを出ると、布団に戻り、千里にキスをした。
「千里、もう1回戦行くぞ」
「私、もう疲れた。寝てるから勝手にやって」
「OKOK」
と言って桃香は既に臨戦態勢である。“ちんちん”が大きく硬くなるのを感じる。桃香がそのまま入れようとしたら千里が手で遮る。
「待って。ちゃんと避妊具はつけてよ」
「私には精子が無いし、千里には卵子が無いんだから妊娠する可能性はない」
「それ絶対信用できない。桃香はたぶん5〜6人隠し子がいる」
それで桃香は“ちんちん”に避妊具を装着した上で、この日4回戦目に突入した。射精する感覚が物凄く気持ちいい感じで、男っていいなあ、などと思った。
桃香は朝になってから自分の股間を確認したが、ちんちんは付いておらず、ふつうに女の股間だった。。
「やはり、ちんちん付いている気がしたのは夢なんだろうな」
と桃香は思った。
「確認するけど、**の法って、1度掛けると次は1年間は使えないんだよね?」
と青葉は千里(千里3)に尋ねた。
「同じ術者と被術者の組み合わせではそう。別の術者なら掛けられるから、1番が性転換しちゃった人を、私や2番は救済して再度性転換させられるんだよ」
と千里は答える。
「なるほどー」
「天津子ちゃんから聞いたんだけど、昔はそういう制限は無かったという説もあるらしい。でも濫用して毎日性別を変える人もあったので、300年くらい前に、徳の高い人がこの術の一部を改変してロックがかかるようにしたらしい」
「なるほどねー。確かに毎日性別を変えられたら困るよね」
「その改変の時に、うっかり若返りの効果も混入したらしい」
「ということは、オリジナルの法だと、若返り効果は無かったんだ?」
「そうみたいだよ。毎日性転換しつつ若返っていたら、その内赤ちゃんになって更には受精卵まで戻っちゃうかもね」
「受精卵まで戻るのは困るなあ」
久保早紀(女性歌手名:丸山アイ、男性歌手名:高倉竜、作曲者名:寺内雛子)はその日、パートナーの宮田雅希(女優名:城崎綾香、小説家名:久美浜映月、フェイの子供の遺伝子上の父親)から甘えるような視線でせがまれた。
『ヒカルの碁』の撮影が順調なので、この日は1日オフになっていた。それで2人は久しぶりのデートをしていたのである。
「ね、ね、今夜はボクが男役したいから、竜、今夜は女の子になってよ」
雅希は男声を使っている。この声を知っているのは、早紀の他はフェイとヒロシだけである。そして雅希にちんちんがあるのを知っているのもその3人くらいである。雅希のちんちんは中学生の時に唐突に生えてきたので、このことは親も知らない。
当時は誰にも言えず、思い悩んで自殺しようとした所を助けて「ちんちんなんか付いてたって自分が女の子だと思っているのなら雅希は女の子だよ」と言ってくれたのが実は早紀で、それ以来10年くらいの付き合いである。当時は早紀のことを女の子だと思い込んでいたので、普通の友人時代が長く、恋愛感情を持つようになったのはここ数年のことである。実際雅希の性別意識は女ということで揺れていない。自分が男だと思ったことはないが、今ではちんちんは便利なものと思って“愛用”している。普段は陰裂の中に隠しているし、雅希は女性体型でバストもあるので、性別を疑われたことはない。
「もう。仕方ないなあ。でも避妊具ちゃんとつけてよ」
「生じゃだめ?」
「だめ!ボク、妊娠したら困るもん」
と言って早紀は**の法(オリジナル版−これを知っているのは自分だけのはずと早紀は思っている)を発動させて、自分の性別を男から女に変更した。肉体的性別が変わると、心の中でも“早紀F”が表に出てきて“早紀M”は裏側に回る感覚になる。表情や雰囲気も変わる。身体の変更と連動して別の人格が出てくるのは不思議だと本人も思っている。なお人格が変わっても記憶は継続している。
なお、これは術を途中で停めると“どちらもある”状態にもできる。それで早紀とセックスした経験のある人の多くが彼を“ふたなり”だと思い込んでいる(心はMF共存状態になる)。
「変えたよ〜」
「うふふ。早紀ちゃん、可愛いね。好きだよ」
と言って、雅希は早紀を押し倒した。
2019年8月4日(日).
真珠はこの日(女性の)友人たち数人と一緒にイオン金沢店に来ていた。3階のイオンシネマで映画を見た後、一緒にマクドナルドで軽食をとっていた。先週金曜日で前期の試験も終わり、夏休みに突入した所である。バイト探さなきゃね−、でもいい所なかなか無いよね、などという話をしていた時、母から電話がある。気易い友人ばかりなので、席は立たずにそのまま取る。
母は緊張したような声で言った。
「真珠、今日はおばあちゃんちに帰って」
「どうかしたの?」
「うちの近くに熊が出たのよ」
「熊!?」
真珠の声で友人たちも驚いている。
「ツキノモノグマとかいうんだって」
「ツキノワグマ?」
「あ、それかも。家の中に入って、冷蔵庫開けて中の食料品を食べていたみたい」
「ほとんど、こそ泥だね」
「私、帰ってきたら中に何か居るから、最初ほんとに空き巣かと思って悲鳴あげたら、なんか黒い動物なのよ。びっくりして、お隣の家に逃げ込んで」
「よく逃げ込めたね!」
「お隣んちのドアもガンガン叩かれて、お隣んちの奥さんと2人で震えていたけど、諦めたみたいで、どこかに行ったみたいだったのよ。すぐ119番して」
119番は違う気がする。
「でもうちは消防署ですよと言われて、とりあえず警察に連絡した方がいいといわれて、警察って何番か分からなかったから訊いたら110だと言われて」
110番が分からないなんて、よほど気が動転していたのだろう。
「それで警察の人たちが来たら、熊が例のあの切り株の所で倒れていたらしいのよ」
「切株の所?」
と答えて、真珠は『まずい!』と思った。熊が封印を壊したら・・・。いや?もしかして熊は封印を壊したので死んだのでは?
「気絶しているのか死んでいるのか分からなかったから、獣医さん呼んで、結局動物園の人とか猟友会の人とかも呼んで、ところがそれを確かめようと近づいた獣医さんも倒れて」
「その獣医さんどうなった?」
「病院に運び込まれたけど、電気ショックか何かでも受けたような状態とかで2週間くらい入院しなければって」
「助かったのならよかった。それで今、あの切株の所はどうなってる?」
「熊は全く動かないから多分死んでいるのではないかということらしいけど、ガスか何かが噴出しているか、あるいは漏電か何かしているかもというので周囲を立入禁止にしている。ロープを張って、ここには近寄らないで下さいと言われて、それで近所の家の人もみんな親戚の家とかに避難してる。念のため警官が1人立ってる。この後どうするかは専門家で話し合うとか」
「すぐ行く」
「行ったら危ないよ!」
真珠はお店の駐車場に駐めている Suzuki GSX250F (Triton Blue Metallic) に乗ると、すぐ自宅に戻った。机の中から“剣”を取り出すと、近所の切株の所に行く。報道陣っぽい人たちが居て、カメラを回している人もある。警官が1人立っている。
真珠が報道陣を掻き分けてロープに近づくと、警官が
「危険なのでここから先に入らないで下さい」
と言う。
「私に任せてください」
と真珠が自信満々に言ったので、警官は何かの専門家かと思ったようである。それでこちらを見守る態勢になる。
真珠が切株の所まで行くと、封印に使われた剣が抜かれていて、その傍に熊が倒れていた。きっと熊は餌か何かと思って剣を抜き、それで切株の作用で即死したのだろう。
真珠は、女性祈祷師さんに言われたように、その剣が刺さっていた所から手前1mほどの所に、預かっていた青銅の剣を刺した。
明らかに騒いでいたものが鎮まった。
「雰囲気が変わったね!」
という声が報道陣の中からある。報道陣はみんなロープを越えてこちらに来ている。真珠はその声を掛けた人の顔に見覚えがあった。
「〒〒テレビの神谷内さん?」
「あ、僕のこと知ってる?」
「神谷内さん、可能だったら金沢ドイルさんをここに呼べませんか?私もここの封印をした祈祷師さんを呼びますけど、たぶんこれは数人がかりでないと抑えきれない」
「これ霊障か何か?」
「その切株がとんでもない代物ですよ。祈祷師さんが来るまで、この剣を刺した場所より向こうには絶対に行かないでください。熊と同じ目に遭います」
「撮影はできる?」
「カメラに写るわけがないと思いますが」
実際にどこのテレビ局のカメラにもこの付近の映像は全く写っておらず、それどころか、カメラ自体が異常動作をするものが多数あって、高価なものだけに悲鳴があがっていた。
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春根(12)