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■春根(16)

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「ちなみにこの依頼料は誰が払うの?」
と瞬法さんは腕を組んで根本的な疑問を出した。
 
「自治会で緊急会議を開いて、自治会のアドバイザーになっている町会議員さんが個人的に300万円くらいまでは払ってもいいとおっしゃっているそうです」
と青葉が言う。
 
「それ公職選挙法は大丈夫?」
「議員さんが私たちに直接払うなら問題ないと思います」
「ああ、自治会に寄付して自治会がこちらに払うのだとアウトだよな」
「微妙ですよね」
 
「でもそれをその倉橋とかいう奴とシェアするわけ?俺は最低200万は請求するぞ、こんな危ない話」
と瞬法さんは言っている。青葉も同感だが、瞬法さんに協力してもらえないとこの件は怖い。
 
「どういう比率で分けるかは話し合いになると思いますが、不足したら私が個人的に瞬法さんに払います」
と青葉は言った。
 
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「瞬葉ちゃんは、そういう自腹が多すぎる」
「菊枝さんからも注意されました」
 

甘楽PAに23時頃到着し、ここで少し休憩した。千里が
「みなさんどうぞ」
と言って“暖かい”ほっともっと弁当とお茶を配る。ちなみに甘楽PAのお店はとっくに営業時間が終わっている。自販機だけが動いている状態である。
 
しかしこの程度では青葉も瞬法も今更驚かない。おいしく頂いて出発する。今度こそ青葉が運転するよと言ったが
 
「私は大丈夫だからふたりとも“熟睡”してて」
と千里が言うので、寝ていることにした。それで青葉は再び助手席に座り、瞬法さんも後部座席に乗って、千里姉の運転で車は出発する。青葉は自分を深い眠りに導いた。
 
やがて車が停まった感覚で目を覚ます。
「ここは?」
「X町役場」
と千里1は答える。
 
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時刻を見ると夜中の1時である。甘楽PAからは400km近いが時間は2時間も経っていない。あり得ない時間での到着だが、細かいことは気にしない!
 
町役場に緊急対策室が設置されていて、そこに神谷内さんも伊勢さんも居た。
 
「こんばんは。伊勢まこと、と申します」
と笑顔で挨拶するのは18-19歳の女性である。青葉は電話で話した時はもう少し年齢の高い人かと思ったので驚いた。
 
対策室には、幸花と明恵も来ている。更に、青葉が以前関わった事件の担当だった、金沢西警察署の橋本警部補まで来ていた。当時は巡査部長だったが、今年の春に警部補に昇進したらしい。
 

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早速、青葉たちが現場に向かう。すると他の局のスタッフも一緒に付いてきた。
 
現場には灯りが灯っており、ロープが張られていて警官が1人立っている。夜中なのに全くお疲れ様である。
 
青葉も瞬法も闇夜の星明かりの中、その切株を見て一瞬声をあげそうになった。
 
“神様たち”?が、怒りくるってるよぉ!
 
こんなのどうしろというのさ?
 
これは2〜3年前からの話ではない。たぶん10年以上この状態にある。しかし祠と御神木があった間はその作用でギリギリ抑えられていたんだ。
 
しかし青葉と瞬法がそんなことを考えた次の瞬間。
 
唐突に巨大な存在が出現した。
 
龍なら見慣れているが、これは龍とかとは比較できないほどの凄い存在である。
 
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青葉も瞬法も度肝を抜かれて呆然として見ている。その巨大な存在が何かとても優しい雨のようなものを降らせる。怒り狂っていた“神様たち”?の雰囲気が変わる。怒りのエネルギーが消えて行き、慈愛に満ちた存在に変化して行く。そして・・・
 
“神様たち”?は天に昇って行った。
 
巨大な存在がこちらにニコッと微笑みかけた気がした。
 
そして去って行った。
 

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ハッとして振り返ると、千里(千里1)がじっとその切り株を見ていた。そして千里1は言った。
 
「その切り株に何かあるんですか?」
 
「まさか、今のは**菩薩の**大悲法か?瞬嶽師匠が40年くらい前に使ったのを1度だけ見たことがある。やはり荒れた祠の処理で」
と瞬法さんが小さな声で言った。
 
「私もこれを解決するにはあれを使うしかないと思いました。私は話に聞いていただけですが」
と青葉は言った。
 
「ああ、青葉と瞬法さんでその秘法を起動したのね?なんか切り株の所、きれいになってるよね?」
と千里1は言っている。
 
また無自覚に、師匠の秘法を勝手に起動している!
 
ひょっとして1番さんって今世界最強の霊能者だったりして!?
 
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「なんか解決しちゃったような気がするんですけど」
と明恵が言った。
 
「あきちゃんもそう思った?私もそんな気がした」
と伊勢さんが言っている。
 
「あのぉ、お友だちですか?」
と青葉は尋ねた。
 
「高校の時に同じクラブにいたのよね」
と伊勢さん。
 
「そうだったの!?」
 
「私はあきちゃんの性別を知っている」
と伊勢さん。
「私もまこちゃんの性別を知っている」
と明恵。
 
「でも言わぬが花だよね〜」
と言って2人はおっぱいに触り合っている!
 
それで青葉もやっと気が付いた。伊勢さんって、男の娘だ!
 
凄く自然だから全然気付かなかった!
 
でもそれで声に高音成分が少なく、年齢を勘違いしたんだ!
 
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(青葉は自分がよく年齢を勘違いされるのも、ひょっとして声のせいでは?と少し悩んでみた)
 

「じゃ解決したのね?良かった」
と言って千里1は瞬法さん、青葉、明恵、伊勢さん、神谷内さんと握手した。
 
青葉は1番が明恵や伊勢さんとも握手したので「あっ」と思ったものの、0.1秒ほど考えて「きっと問題無い」と思ったので、放置することにした。
 
でもハイテク・ブレストフォームの試用は近い内に終了かな?
 

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「君たち、どんなクラブに入っていたの?」
と、俄然(がぜん)余裕が出た感じの瞬法さんが尋ねた。
 
「ミステリーハンティング同好会と言うんですけどね」
「色々な不思議現象を探求するクラブ」
「あちこちの幽霊屋敷とかゴーストスポット探訪もしたね」
「メンバーは5人。去年はあきちゃんが部長で、私が副部長だったんですよ。私たちが卒業したから残っているのは3人だけかな。新1年生が何人か入っているといいけど」
と伊勢さんは言っている。
 
「へー。知り合いだったのか。そういう怪しい所に行っているなら、君たちにも一度取材してみたいね」
と神谷内さんは言っている。
 
「解決したんですか?あの付近が普通の空間になっちゃってる気がするんですが」
 
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と70歳くらいの体格の良い男性が言うが、この人は町会議員さんらしい。体格がいいのは漁船に長年乗っていたからというのを後で聞いた。隣に居る60歳くらいの男性が自治会の副会長さんということだった。こちらは長年トラックの運転手をしていたらしい。自治会長さんが自殺してしまったのでこの2人が事実上、自治会を動かしているという話だった。
 
「全く普通の空間です。もう工事を続行していいですよ」
と青葉は言った。
 
「あの切り株は?」
「邪魔になるようだったら、掘り起こしてから、お寺のお坊さんにお焚き上げしてもらってください。それで全て終わると思います」
 
「燃やすの?」
「木生火(*13)。木は燃えて火になることで、この世の循環は進むんです」
と青葉は言った。瞬法さんも頷いていた。
 
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「なんなら、その掘り返す工事と燃やす儀式に私とドイルさんも付いてましょうか?」
と瞬法さんが言う。
 
「それはお願いします!でないと怖いです」
 
(*13)五行の“相生”では、木生火、火生土、土生金、金生水、水生木となる。
 

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「ところで青葉、世界選手権の報告に文部科学省に行かないといけないのでは?なんなら今から車で送っていこうか?」
と千里(千里1)は言った。
 
「それはそうだけど、ここは放置できないよ」
「んじゃ、代役さんに向こうは行かせておくね」
 
ほんとに1番さんは大胆だ!
 
それで千里1はどこかに電話していた。
 

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結局その晩は、町内の民宿に入り、青葉と瞬法、それに取材陣の多くも休んだ。
 
そして朝になってあらためて現場に行ってみると、ほんとに普通の空間になっており、切り株に近づいても、その上に乗っても、大丈夫であることを、明恵が実践してみせた。記者たちもおそるおそる近づいては触ったりしていた。
 
「あ、萌芽(ほうが)が出てる」
と明恵が切り株から小さな芽が出ているのを見付けた。
 
「金沢ドイルさん、この切り株掘り起こして燃やしてしまうんじゃなくて、この萌芽の成長を期待したらいけません?」
と明恵は言う。
 
青葉は瞬法と顔を見合わせた。
 
「それでもいいと思うよ。何ならここにまた祠を作っちゃう?」
と瞬法。
 
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「祠を作るんなら、私が日々のお世話をしていい?」
と伊勢さん。
 
「いや、お前ひとりでは厳しいよ。休めないし。自治会で当番を決めてお世話しよう」
と自治会の副会長さんが言う。
 
青葉はその“言い方”が気になった。
 
「あれ?もしかして」
「お恥ずかしい。これはうちの馬鹿息子なんですが、自分は女になりたいとか言い出して。こんな女みたいな格好しているんですよ」
 
親子だったのか!
 
「私は男に戻ることはないから」
と“娘”の方は言っている。
 
でもお父さんは“娘”の主張を認めざるを得なくなるね、と青葉は思った。
 
多分数時間以内には本当の女の子になっちゃうし!性別が変わったと知ったら怒るかもしれないけど、赤ちゃんも産めると聞いたらきっと認めてくれるだろう。
 
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それで結局、再度ここに祠を建てることになった。
 
「下水道はどうする?」
「何とかここを迂回して本管は通すようにしてもらおう」
と町会議員さんが言う。
 

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伊勢さんは、杉の木を切り倒した時、密かにその若い枝を5本とっていて自宅のプランターに植えていたらしい。それを見ると3本は根付いていたので、それを切り株の近くに距離を置いて移植してみることになった。もしかしたら数十年後ここには数本の杉の木が並ぶかも知れない。
 
また祠は、切り倒してしまった杉の木から製材した材木で作ることになった。あの木は切り株の所で凄まじい祟り(たたり)が起きたことから、切り倒した木自体も、運び込まれた製材所では近づかないようにしていたのだが、いかにも高僧っぽい威厳のある瞬法がこれを製材しても絶対に祟りは起きないし、むしろ御神木だから運気が上がる、と保証したので、おそるおそる製材したようである。作業した人は肉食と性行為を控え水垢離してやったらしい!
 
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しかしこういう時、瞬法の威厳は便利である!
 
半年間人工乾燥してから祠の制作に使用したが、乾燥はこの木のみで行い、他の木は同じ乾燥室には入れなかった。
 
そして、この製材所はその後、大手メーカーとの契約が取れて売上げも上昇した。
 
祠の組み立て作業は、亡くなった神主の息子さんと亡くなった自治会長の息子さんが「これは自分たちの仕事だと思う」と言って2人で行ったが、むろん霊障などもなく、この2人も運気が上昇した。息子さんは1年後父が宮司を務めていた神社の新宮司に就任することになり、ここの祠にも毎日やってくるようになった。
 
 
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