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■春根(9)

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(C) Eriki Kawaguchi 2019-11-17/改2020-04-18
 
ジャネは検査から戻ってきたが、もう2人は話をしない。お互い集中している。彼女も青葉を見ないし、青葉も向こうを見ない。
 
30分前に水着に着替える。本番用の水着は物凄くきついので、長時間着けているのは辛い。
 
やがて時間になり、1人ずつ名前を紹介されて入場する。青葉は2コース、ジャネは6コースである。ハードスケジュールで日本まで往復して来たので身体には疲れが残る。しかし何よりも精神的に充足したのが大きかった。
 
スタート台に立つ。ジャネが義足を外すので観客のどよめきがある。心を真空にする。スタートのブザーが鳴る。一瞬置いてから飛び込む。こうしないと勘が良すぎる青葉は“うっかり”反応時間ゼロで飛び込んでしまうからである。
 
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そして無心に泳いだ。
 
ペース配分とかは何も考えていない。他の選手がどの付近を泳いでいるかなんて全く考えていない。
 
1500mという距離は子供の頃日常的にやっていた大船渡湾往復よりはずっと短い。
 
最初から全力で泳いだって体力が足りなくなる訳が無い。スタミナ自体、あの頃よりずっと付いているはずである。
 
青葉はそう思って全力で泳いだ。
 
何も考えずに泳いでいる内に水中のカウンターがどんどん減っていく。
 
やがて数字が7になる。もう半分以上まで来たので、あとはどんどんスタミナを消費していいなと考える。6、5、4、と減っていくにつれ、どんどんスピードアップしていく。残り1となって、もうスタミナのことは考えずに短距離を泳ぐような気持ちで泳ぐ。
 
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タッチ。
 

ゴールまでに全力出し切るように泳いだので一瞬気が遠くなったがすぐに回復させる。
 
時計を見る。
 
やっと物凄い歓声が聞こえる。
 
1.Kawakami 15:39.13 NR
2.Amelia__ 15:40.89 NR
3.Helmer__ 15:48.83 NR
4.Hatayama 15:50.89
 
あはは、金メダル取っちゃったよ。
 
2〜3日前の自分なら、どうしよう?とか思ったかも知れないけど、今の自分は素直にそれを喜ぶことができる。まあもらえるものはもらえばいいよね?どうせオリンピックの代表選考は来年の春だし。それまで頑張って3月で引退しちゃえばいいかな?
 
青葉からかなり離されてゴールしたジャネが首を振って寄ってきて、青葉に握手を求めた。青葉は笑顔で握手し、そのままジャネとハグした。
 
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しかし上位3人が全員各自の国の新記録というのは、ほんとにハイレベルな戦いであった。ジャネも昨日自身が出した日本新記録を大きく上回っている。
 

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そういう訳で今回の世界選手権で長距離陣は、
 
ジャネ:800mで金
青葉:1500mで金
金堂:400m個人メドレーで銀
 
と3人ともメダルを獲得したのであった。また日本記録はこの時点で400m, 800mはジャネ、1500mは青葉が所持する。400m個人メドレーの日本記録は実は金堂さんが所持している。
 

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(*5) 元々水渓マソ(1969-1988)には2つの魂(仮に水泳好きのSと音楽好きのMと呼ぶ)が宿っていた。1988年にマソ(の身体)が死亡した後、Sは1993年に幡山ジャネとして生まれ変わった。一方、Mは1988年にマソを殺害して自殺した木倒サトギの身体に入り込んでしまい“生き返った”。そして魂は女だが身体が男なのに困り、木倒マラと改名してオカマバーに勤め、“スートラバンド”を結成した。しかし2010年に死亡してめでたく?女の幽霊になった。そして女に戻れたのをいいことに多数の男の子を“つまみ食い”していた(そこを悪霊につけこまれた)。
 
現在は青葉の介入の後、Mは結局元々の相棒であるSが使用している幡山ジャネの身体に同居しており、青葉や千里はSのことをマソ、Mのことをマラと呼んでいる。Mは確かにマラとして生きていた時期があるが、マソというのは元々2人が共用していた身体なので、Sのことをマソと呼ぶのは不満だと本人は主張している(でもマラも相棒のことを「マソ」と言ってる)。
 
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なお、マラとマソはどちらも“マラソン”に由来する。マソとホップ(ステラジオのホシの母)姉妹の両親が陸上選手だったことからつけられた名前である。また、ジャネとマソは“三従姉違い”という遠い親戚である。
 
ちなみに水泳はマソもマラも好きだが、歌はマラは上手いもののマソは音痴である。しかし絵はマソは上手いがマラの絵は悲惨である。マラはセックスも大好きだが、マソは恋愛には興味がないらしい。マソはわりと常識人だが、マラはわりと変人だ!
 
もし幡山ジャネが筒石と結婚した場合、マソは永遠に処女のままになるかも?(水泳関係者はふたりの間の子供に期待を掛けるだろうけど)
 

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(*6)『牡丹灯籠』は中国の明代の小説『牡丹燈記』をベースに江戸時代に浅井了意が書いた小説で『伽婢子(おとぎぼうこ)』(1666)という短編集に収録された。三遊亭圓朝(初代)の人情話など、多数の派生作品を生み、映画やドラマでも何度も取り上げられている。
 
ここで“伽婢子(おとぎぼうこ)”というのは子供の人形のことで、実は牡丹灯籠の話ではこの人形が重要な役割を果たすのである。
 
登場人物の名前は、圓朝版では男は萩原新三郎、女の幽霊はお露、侍女はお米になっているが、元の伽婢子では、男は荻原新之丞、女は弥子、侍女は浅茅である。また元となった中国の『牡丹燈記』では男は喬生、女は麗卿、侍女は金蓮である。
 
下記は『伽婢子』版の筋立てである。
 
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盆の15日の晩、妻を亡くした荻原新之丞という男が、何気なく通りを眺めていたら、14-15歳の女童(めのわらわ)に牡丹の燈籠を持たせた20歳前後の美人が通り掛かり、新之丞はつい彼女をナンパしてしまう。そのまま付き合うようになった新之丞だが、女は万寿寺の傍の庵に住んでいると言ったものの、名前は名乗らなかった(弥子という名前であることを後に知る)。彼女はその後、毎晩女童に燈籠を持たせて新之丞の所に通ってくるようになり、2人は逢瀬を重ねた。
 
ところが隣人が壁の穴から新之丞の部屋を覗き見(出歯亀!)してみると、新之丞が骸骨と一緒に酒を飲み交わして楽しそうに話している。仰天した隣人は朝になってから新之丞にそのことを告げる。新之丞が気になって万寿寺の近くの庵というのを探すと、女の墓があり、牡丹の燈籠が掛かっているし、伽婢子(おとぎぼうこ)が置かれていた。女は生前の名前は弥子といい、人形には浅茅という名前が書かれていた。つまり、この庵に埋葬された女が毎晩、この伽婢子(おとぎぼうこ)に牡丹灯籠を持たせて、新之丞の所までやってきていたのだろう。
 
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隣人は東寺の坊さんに相談することを勧め、坊さんが護符を書いてくれたので、それを門に貼ると、それ以降、女は来なくなった。
 
50日ほどの後、怪異はおさまったようだと思った新之丞は東寺に御礼に行った。しかしその帰り、弥子のことを忘れられない気持ちになった彼は、万寿寺の傍まで行ってみた。すると弥子が現れて新之丞をなじった。
 
「あなたって最初だけ熱心で、すぐ女に飽きてしまうの?ずっと一緒に過ごそうと思っていたのに、坊さんの御札なんか貼って、私が近寄れないようにしてしまうって酷い。でもわざわざここまで来てくれたって、私のこと嫌いになったんじゃないのね? もうあなたも一緒にここで暮らしましょう」
 
そう言って弥子は新之丞を強引に自分の庵に引き込んでしまったのである。
 
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その後、夜中に女童が牡丹灯籠を持ち、弥子と新之丞が一緒にその後を歩く姿がしばしば見られるようになったという。
 
このラストをどう評価するかは意見が別れると思うが、私は個人的には一種のハッピーエンドではないかという気がする。
 

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圓朝版では、お露が侍女に燈籠を持たせ「カラン・コロン」と駒下駄の音を立てて夜道を歩いて逢瀬に来る演出になっている。これがあまりにも有名になり、「カランコロン」といえばお露のイメージで、ゲゲゲの鬼太郎主題歌もここから取ったものである。また幽霊と逢瀬を重ねることが牡丹灯籠にたとえられるようになった。
 
1983年TBSの2時間ドラマ『私の愛した女』では、白骨死体を法医学教室で顔の復元作業をすることになったものの、助手(小野寺昭)が復元した顔があまりにも本来の顔と違っていたのに嘆いた本人!(伊藤かずえ)が助手の前に現れ復元作業を手伝うとともに、助手と愛し合う。物語のラストで「彼女幽霊だったんですか?だって僕は彼女とセックスまでしましたよ」と言う助手に対して、上司が「君は牡丹灯籠の話を知らないのかい?」と答えるオチになっている。
 
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映画やドラマになったものの中には、上田秋成『雨月物語』(1776)の『吉備津の釜』のクライマックスのように、男が御札を貼って女が中に入れないようにして何日も籠もっているという筋になっているものも多い。
 
(『吉備津のオカマ』というのを書いてみたい気もしないではないが、ちょっと怖い)
 
この場合のラストは、本家の『吉備津の釜』では男が気が緩んで愚かにも隣人の所に行こうとして磯良の亡霊に惨殺されるのだが、映画やドラマの『牡丹灯籠』や『吉備津の釜』では、最後の日に月が昇ったのを夜が明けたと思って戸を開けたり、あるいは鶏の鳴き声を聞かせて朝と勘違いさせたりして、女が男を取り殺すというエンドになっているものもある。ちなみに圓朝版の場合は、侍女が新三郎の下男を買収!して封印を破らせる。
 
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先日テレビで放送された、圓朝版を下敷きにした“令和版”のドラマでは、下男を買収して封印を破らせる所までは同じだが、新三郎がお露に本当は会いたかったと言い(この部分は伽婢子版に近い)、抱き合って仲良く昇天するという、新解釈になっていた。これも明確なハッピーエンド。
 

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貴司が勤めている会社MM化学は2015年に社長に就任した田中が2018年7月に逮捕され解任。鈴木が新社長になったが、バスケ部については貴司自身が部員の給料相当の資金を出すという条件で活動が継続されていた。しかしその鈴木社長が2019年6月の株主総会で解任され、新しい社長が就任した。
 
7月中旬、貴司は新社長から呼ばれた。
 
「バスケット部は解散させてもらうから」
といきなり言われる。
 
しかし貴司は前社長が2019-2020シーズンの部の継続を約束していたこと、その費用は貴司自身が負担すると言って既に1年分のスポンサー料1600万円を払っていることを説明する。すると新社長は経理に確認した上で
 
「だったら仕方ないね。今シーズンまでは認めるけど来年3月いっぱいで解散」
と通告した。さすがに1600万円を返還するつもりはないのだろう。
 
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貴司も、もうやむを得ないかなという気がした。実際のスポンサー料は千里に出してもらっているので、これ以上千里に負担を掛けるのも悪い。千里自身はもうこの会社を辞めるべきと言っている。それで解散を了承して、いったん部署に戻ったものの1時間後に再度呼び出される。
 
「君に毎月高額の住宅手当を払っているけど、なんでこれ払っているんだっけ?」
 
それで貴司は過去の経緯を説明したのだが
 
「さすがにこれは払えない。今まで払った分の返還までは求めないけど、今月の給料からはカットさせてもらうから」
と言われる。
 
「そんな突然言われても困ります。すぐには引越先を見付けられませんし、引越屋さんの手配も間に合いません。それに今解約を申し出ても8月分までは家賃を払う必要があります」
 
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「だったら7月までは払うけど8月からは廃止で。8月分はボーナスで何とかしてよ」
「あのぉ、ボーナスはいつ出るのでしょうか?」
 
実は7月上旬に出るはずだったボーナスがまだ支給されていないのである。ローンを抱えた社員が悲鳴をあげている。
 
「じゃ譲って8月分まで出す。9月から廃止」
「分かりました」
 
どうもボーナスには触れて欲しくない雰囲気だ。
 
先月の突然の社長交代の後、会社は急激に成績が落ちている。順調に会社を建て直しつつあった鈴木社長が解任されたことにメインバンクが反発して今後一切融資をしないし、期限が来た借入金の借り換えも認めないと言っているらしい。
 
社員も次々に退職し、社員が居なくなって事実上蒸発!してしまった営業所まである。蒸発しなくても、従業員が足りなくて操業できずにいる工場もある。納期が全く守れない状態になって、取引先から強い抗議を受けている。輸入した荷物が届いたのに受け取りに誰もいかず、運んで来た船の船長から連絡が入る例まで相次いでいて、貴司はそういったもののフォローに飛び回っている。小切手の決済資金が不足していて銀行からの連絡で慌てて現金を掻き集めて走って行って入金した例まであったらしい。
 
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わずか半月でここまで会社を傾けるというのは、ある種の天才かも知れない。(むしろ天災?)
 
正直、貴司としては、7月・8月の給料は出るのか?という不安もある。
 
しかしとにかくも貴司は急にマンションを出なければならなくなったのである。
 

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