広告:ここはグリーン・ウッド (第3巻) (白泉社文庫)
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■春根(3)

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そしてその晩、千里から阿倍子の携帯に電話があったのである。
 
千里は言った。
 
「貴司からの養育費の送金が途絶えているということでしたよね。こんなこと言ったら阿倍子さん、不愉快かも知れないけど、そちらの家の光熱費だけでも私に代わりに払わせてもらえません?貴司の代理ということで」
 
阿倍子は確かに不愉快だった。しかし現状は宝くじ頼りなどという、極めて不安定な生活だ。京平にもちゃんと御飯を食べさせてあげなければならない。本とかも買ってあげたい。それで言った。
 
「筋が違うとは思うけど、凄く助かる。お願いします」
 
それで電気代・ガス代・水道代・携帯代の相当額として千里が毎月3万円を送金してくれることになったのである。光熱費ということにしても少しもらいすぎかなとは思ったが、生活が苦しいのでもらっておくことにした。
 
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(ちなみに昼間遭遇したのは千里1、夜に電話をしてきたのは千里2である。千里1の行動は、千里2も千里3も完全に把握している。送金は自動で行うように設定したが、この設定をしたのは千里3である。コンピュータ音痴の千里2には絶対無理である!)
 

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2019年7月6日(土)、青葉は日食を見に行った南米から帰国し、成田で彪志からエンゲージリングを受け取った。そのままデートしようかとも思ったのだが、青葉は空港内のカフェでお茶を飲みながら彪志と話している内に急に気分が悪くなった。結局空港近くのホテルに部屋を取って、しばらく休んだ。
 
「大丈夫?」
と彪志が心配そうにしている。青葉は何だかお腹の中があちこち動き回っているかのような苦しさで、私、何か悪いものでも食べたっけ?と考えてみたが、心当たりがありすぎて!分からなかった。
 
しかし1時間ほどベッドで寝ていたらかなり気分がよくなった。
 
「だいぶ落ち着いた。御飯でも食べに行こうか?」
と言ったのだが
「今日は絶食!」
と彪志から言われた。
 
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そのままふたりはホテルで朝まで過ごしたが、青葉がセックスしてもいいよと言っても「今日は休んでなさい」と彪志は言って、キスだけしてくれた。その優しさが青葉の心をほころばせた。
 
7日は§§ミュージック、大田ラボ、などに顔を出してから夕方には彪志と一緒に新幹線で熊谷まで行き、若葉がやっている旅館“昭和”のコテージ型客室“桜”に泊まった。ここを10日まで4日間予約しておいたのだが、彪志は仕事があるので1泊だけである。青葉は夕方2時間ほど50mプールで泳いでから桜の部屋の中で彪志とのんびりとした夕食を取った。
 
「お部屋まで食事を運んでくれるというのはいいね」
「若葉さんが旅館というのは本来そうあるべきと言って、こだわっているからね。ただし料金の安い“富士”は食堂に食べに行く方式」
「なるほど。サービスに差を付けているわけだ」
 
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昨夜が体調不良で何もせずに寝たので、この日は青葉もたっぷりサービスしてあげたのだが、婚約指輪をもらったせいか、自身の気持ちが物凄く昂揚するのを感じた。
 

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彪志は8日朝の新幹線で上野に出て、赤羽駅近くにある職場に出勤していった。そして青葉はこの日から10日までたっぷり郷愁村の50mプールで泳いだ。一緒に練習している幡山ジャネが
 
「青葉ものすごくパワフルになってる」
とマジな顔で言った。
 
「なんか南米から戻ってから自分でも凄く力が出る感じなんですよ。何でだろ」
「日食を見たのが何かパワーを与えてくれたのかねぇ」
「そうかも知れないと思ってました」
 

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ふたりは10日の夕方、一緒に新幹線で東京に移動し、東京北区のNTC/JISSに入り、水泳日本代表の合宿に参加した。そして7月17日韓国の光州(クァンジュ)に移動した。
 
FINA世界選手権に出場する。
 
この大会自体は12日に開会式が行われて7月12-28日の日程で行われているが、競泳は21-28日の日程で行われる。それで競泳陣は17日の移動になった。
 
競泳 21-28日
オープンウォーター 13-19日
アーティスティック 12-20日
飛び込み 12-20日
ハイダイビング 22-24日
水球 14-27日
ビーチ水球 13-19日
 
まるでアーティスティック・スイミング(以前「シンクロナイズド・スイミング」と呼んでいたもの)が終わってから、同じプールで競泳をする感じに見えるが、会場が違う。競泳は南部大学校市立水泳場 (Nambu University Municipal Aquatics Center) だが、アーティスティック・スイミングは念珠体育館 (Yeomju Gymnasium) である。
 
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ここで、ハイダイビングとは“高飛び込み”(platform diving)のことではなく、本物の海に向かって、飛込台から飛び込む競技。危険なので必ず足から入水しなければならない。もっとも今回は光州市内の朝鮮大学校のサッカー場に仮設の池と飛び込み台を設置して実施した。
 

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今回の競泳で青葉が出場する競技のスケジュールはこのようになっている。
 
7.21 400m自由形(H/F)
7.22 800m自由形(H)
7.23 800m自由形(F)
7.25 400m個人メドレー(H/F)
7.27 1500m自由形(H)
7.28 1500m自由形(F)
 
(H:heat予選 F:final決勝)
 
それで18日からは光州市内の選手村に入り、毎日時間制で練習をするのだが、青葉は正直、もっと練習したい。こんなのなら前日まで日本国内に居たかったよという気分になった。
 
なお競技時間はAfternoon(10:00-)とEvening(20:00-)に別れており、原則としてAfternoonに予選、Eveningに決勝が行われる。
 
※リアルでは7.22-23日に1500m, 26-27日に800m 28日にメドレーですが、物語の都合上順序を入れ替えました。
 
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平野啓太は2019年3月中旬頃から、ペニスの根本付近に何か違和感を感じるようになり、病院で診てもらった所、腫瘍ができていて、放置すると大変なことになるから、すみやかにペニスごと腫瘍を除去しなければならないと言われショックを受ける(言われた時、気絶した)。
 
しかし幼馴染みの落合茜がセックスまでさせてくれて「おちんちんが無くなっても結婚してあげる。放置しておいて啓太が死んだりしたら嫌」と言ってくれたので手術を受ける覚悟ができた。ところが手術の30分前になって、古くからの友人・月乃岬が病室にやってきて、この病気にはペニスを切断しない治療法があるはずと言う。別の病院に掛かることを勧め、彼が身代わりになってくれたので、啓太は病院から逃亡。埼玉県に住む祖母の所に駆け込んだ。祖母が東京の、腫瘍専門の大病院に連れて行ったところ、この病気には最近開発された特効薬があること、そして最悪ペニス全体を切らなくても腫瘍のある部分だけ切って、前後を繋ぎあわせる手術法が存在することを聞いた。
 
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それで啓太はペニスを失うことを免れたのである。
 
なお身代わりになった岬は元々女の子になりたがっていたので、めでたくペニスを切ってもらい満足。しかし大騒動になる。
 
病院と保護者の話し合いで“表沙汰にはしたくない”という患者側と病院側の利害が一致したことから、その日の内に性転換手術を多く手がけている富山県の病院に転院し、再手術の結果、女性と同様の股間を獲得した。結局岬は半陰陽だったということにして、性別訂正を裁判所に申告することになる。裁判所の認可はすぐ下りて岬は戸籍上も女性となり、6月11日に女生徒として学校に復帰した。
 
一方啓太はそのまま東京の病院に入院して治療を受けていたのだが、特効薬が効いたのか腫瘍は劇的に小さくなって、6月10日いったん退院して翌11日から実家に戻り、元の学校に出て行った。奇しくも岬と同じ日の復帰だった。
 
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2019年6月22日(土).
 
啓太、岬、茜に友人の星野香美の4人は、茜のお母さんが運転するインサイトに乗り、金沢まで遊びに出た。時計台駐車場に車を駐め、フォーラスのイオンシネマで『アラジン』を見た。見終わって少し早めのお昼を食べる。その後、お母さんは疲れたから少し休んでいるということだったので、中学生4人だけでお店でも見てようかと言っていたら、香美が
 
「あ、今日の午後、ロックギャルコンテストの石川県予選が音楽堂であるよ。早めに行けば見学できるかも」
と言い出す。
「何だっけ?それ」
 
「§§ミュージックのオーディションなんだよ。毎年6月から7月にかけて県大会・ブロック大会・全国大会とやって優勝者はおおむね1年以内にデビュー。アクアとか西宮ネオン君とかが選出された大会だよ」
 
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「へー。男の子アイドルのオーディション?」
「いや本来女の子アイドルのオーディションなんだけど、アクアも西宮ネオンも間違って参加して優勝しちゃったらしい」
「なぜ男の子が女の子アイドルのオーディションで優勝する?」
 
「このオーディションは他のアイドル・オーディションと違って、歌唱力絶対重視なんだよ。だからアクアにしても西宮ネオンにしても、物凄く歌がうまいから、それで優勝しちゃって。その後デビューに向けて打ち合わせしている時に『え?あなた男の子なんですか?』となったらしい」
 

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「まあアクアなら女の子と間違えられても不思議ではない」
「というより、アクアを女の子アイドルと思い込んでいる人は結構いる」
「いや、実は本当に女の子なのでは?という説もずっとくすぶっている」
 
「そこで最初から女の子だったという説と、密かに性転換手術を受けて女の子になったという説と、半陰陽で戸籍上は男の子だけど実質ほぼ女の子だという説がある」
 
「男の子ではあるけど、ちんちんは無いという説もあるね」
などという会話をしていると、岬がドキドキしたような顔、啓太は嫌そうな顔をしている。
 
「あそこのプロダクションの白鳥リズムちゃんとかも微妙な発言してるよね」
「小学生の頃は男子だったけど、中学に進学する時に女子に変更して女子中生になったと聞いた」
「立っておしっこするほうが好きだったんだけどとか言っているの聞いたことある」
 
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「それって中学に進学する時に性転換したってこと?」
 
「男子のサッカー大会に出場してベストイレブンになって表彰されている所の写真が拡散していたから、小学生の時に男の子だったのは間違いないみたい」
 
「きっと半陰陽で、中学に進学する段階で女子になることにしたんじゃないの?」
 
「そうかもね。手術してちんちん取って女の子になったんでしょ」
などという会話に、岬はやはりドキドキした顔、啓太は嫌そうな顔である。
 
啓太は治療薬のおかげで腫瘍は小さくなりつつあるものの、代わりに胸が膨らみ、ペニスは現在全く立たなくなっている。この治療薬には強烈な女性化の副作用があるのである。
 

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そんな会話をしながら、何となく音楽堂の方に行っていたら、入口の所でその白鳥リズムとばったり遭遇する。
 
「ファンなんですー」
と言ったら、握手して4人にサインを書いてくれた。
 
ついさっきまで
「リズムちゃん元男の子だったからか、結構男っぽさがまだ残っているよね」
「少年アイドルでも通るよね」
「ちんちん取らなくても良かったのにね」
 
などと言っていたのは、おくびにも出さず
 
「リズムちゃん、いつも元気で可愛いですね」
「私もリズムちゃんみたいな女の子になりたーい」
とか茜と香美が言っているので啓太は少々呆れていた。
 

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リズムがサインを書いて岬に色紙を渡そうとした時、彼女はハッとしたような顔をして言った。
 
「あなたタレントになれるオーラがある。オーディションに参加してみない?」
 
岬は思わぬことを言われて驚いたものの、茜や香美が
 
「岬は歌がうまいですよー」
「合唱部でソプラノソロとか取ったこともありますし」
などと言うので、岬はうまく乗せられてオーディションに参加することになる。便乗して茜も一緒に参加させてもらうことになった。
 

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そして岬はこのオーディションで優勝してしまうのである。茜も3位に入り、2人とも明日同じ場所で行われる北陸大会に参加してほしいと審査委員長としてきていた、§§ミュージックの川崎ゆりこ副社長から乞われる。
 
茜が母に連絡すると、百番街でお茶を飲んでいた母は飛んできて
「あんたがアイドルオーディションなんて信じられん!折角だし行ける所まで行こう」
と大いに乗り気である。さすがSMAPの追っかけをしていたというアイドル好きの母である。
 
結局川崎ゆりこ副社長と原田友恵マネージャーが茜の家まで付いてきて、そこに岬の両親も呼び、ゆりこが熱心に2人を勧誘。更に茜の母が援護射撃する形になったので、茜の父だけでなく、岬の両親も「もし全国オーディション上位に入ったら芸能活動をしてもいい」と言ってくれた。
 
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ここで岬の父と茜の父は目くばせして、茜と岬をいったん家の外に出した。茜の姉・翠に2人を連れて、岬の家!に行かせる。
 
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