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■春根(1)
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(C) Eriki Kawaguchi 2019-11-09/改2020-04-18
真珠(まこと)はその切株を見つめて考え込んだ。3mほど離れた所から見ているのだが、とてもこれ以上は近づけないと思った。
しかしこれは何とかしなければ。
そうは思うものの、妙案が無かった。
金沢ドイルの『霊界探訪』はこれまでこのような内容を放送してきた。
2017.08 タクシーただ乗り幽霊
2017.12 幽霊ホテル
2018.03 お墓に関する小ネタ
2018.06 食品工場の幽霊
2018.09 幽霊トンネル。みんなやられちゃいました!
2018.12 H高校七不思議
2019.03 (慈眼芳子追悼特集)
2019.04 能登半島不思議探訪
本来は6月放送予定だったものを結果的に4月に放送してしまったので、次は9月でもいいはずだが、あまり間があくのもよくないので、6月に30分版でもいいから何か放送したいということになった。しかし今年前半、青葉は世界選手権のために全く時間が取れない。そこで『霊界探訪・関東編』と称して、1月に関東某所でおこなった不思議な地震(人震?)とその原因と思われた池の中の何かの“封印”の様子を番組としてまとめた。
再度神谷内さん・幸花・カメラマンの森下、アシスタントの夏野明恵!の4人で新幹線に乗り埼玉県まで行き、現地の人のインタビュー、旅館の従業員を動員しての再現ドラマ撮影もする。また“人震”の様子は1月に撮影した映像があったので、物が揺れていないのに人が「地震だ!」と言って騒いでいる様子がしっかり映っていたし、封印作業の直後に瞬法・法験・青葉・千里・岩戸さんの5人で池を取り囲んでいる所の映像などもあったので、かなりしっかりした番組になった。またこの案件は直後に亡くなった慈眼芳子さんからの依頼であったことも説明した。
取材クルーは東京のББ寺を訪れ、瞬法さんにも取材し、色々お話を聞くこともできた。
「でしたら、この封印はまた10年後にしなければいけないんですか?」
と幸花が尋ねたが
「その予定だったのですが、不要になりました。その後、実はメンバーは伏しますが、ある人たちによって、心霊現象の“元栓”が閉められたので、ここを含めて日本全体のかなりの数の怪しい場所の封印がしっかり掛かったんですよ。だからメンテが必要だとしたら多分100年後ですね」
と瞬法さんは語った。
「そんな凄い封印ができたんですか!」
「この後はしばらく日本全国、霊現象が減るだろうね」
「だったら、うちの番組はあがったりですね」
「その時は、あんたとそちらの霊界アシスタントさんとの漫才でも放送するとか」
「マジでそうする?」
と幸花は取材用のライトを持って立っている明恵を振り返って見ると、明恵も笑って手を振っていた。
(ここで即、手を振るのはタレント性があると言われた)
そういうことで、今回の6月の放送は金沢ドイル不在のまま番組を編集したのだが、明恵は番組のアシスタントとして続投が確定した。またこの時瞬法さんから“霊界アシスタント”と命名されてしまったので、“霊界アシスタント・沢口明恵”という名前で活動することになった。
“沢口”は実は慈眼芳子の本名の苗字である。明恵にとっては曾祖母(慈眼芳子の姉)の旧姓でもある。この苗字を使うことにしたのは神谷内さんの勧めによる。神谷内さんとしては青葉が多忙になり、番組作成が困難になった場合の保険の意味合いもあるのだろうなと幸花は思っていた。
その日、龍虎は唐突に疑問を感じて、彩佳に訊いた。
「√2(ルート2:2の平方根)が無理数であることの証明ってどうやるんだったっけ?」
彩佳は一瞬考えたが、こういう証明をした。
「√2がもし有理数なら、√2 = n/m と表現できる。ここで必要なら約分することで n と m として互いに素な整数の組を選ぶことが出来る。すると√2 = n/m の両辺を2乗して 2 = n
2/ m
2となる。分母を移動させて 2 m
2= n
2となる」
「すると n
2は偶数ということになる。それなら n も偶数。なぜなら奇数は2乗しても奇数だからね。そこで n = 2k とおく。すると 2 m
2= 4 k
2。両辺を2で割ると m
2= 2 k
2. ということは m も偶数である。これは n と m が互いに素なものを選んだという仮定に反する。よって、√2は有理数ではない」
「凄い!鮮やかすぎて、欺されたような感じ」
「一種の対角線論法だよね」
龍虎の知らない言葉が出てきたが、取り敢えずいいことにする。
「この証明のミソは互いに素な整数を取ることなんだよ。互いに素な分母分子というのは要するにそういう組み合わせの代表のようなものだから、トップを叩けば全体が叩けるという論法なんだな」
「それは一般的に有効な気がする」
「あの人でもダメだったら仕方ないってのはスポーツとかでも交渉事でも社会的な現象とかでもあるよね」
「含蓄するものが大きいね、それ」
「アクアより年齢が高くて声変わりの来ていない男の子アイドルは居ない。そのアクアは自分では去勢はしていなくて単純に思春期の到来が遅れているだけだと称している。そのアクアが実は本当は去勢していたことがバレると、他のまだ声変わりしてないと自称している男の子アイドルも全員怪しいという話になる(*1)」
と横から村上香代が言った。
(*1)アクアが去勢していたのなら、アクアより年齢が高くて声変わりしていない男の子アイドルも怪しい、とするならよいが、それより年齢の低い子も怪しいとするのは、論理的に間違っている。
「何それ〜〜〜?」
と龍虎は叫ぶが
「まあ世間的な認識だね」
と彩佳まで言っている。
「今年の春も性別検査を受けさせられて確かに男の子だというのがテレビで公開されたのに」
「いや、あれは絶対何かで誤魔化している」
「弘田ルキアも女性ホルモン飲んでいたことを告白したし、アクアちゃんもそろそろちゃんと告白すべきだよなあ、実は性転換しちゃってることを」
「ボク、ホルモンなんて飲んでないし、性転換とかしてないし」
「いや女性ホルモン飲んでいるか、去勢しているか、本当は元々女の子なのか、そのどれかだと思うけどね〜」
などと香代は言っている。ちなみに香代にうかつなことを言うと2時間以内にそれが同学年の全生徒に伝わることになる。彼女は“C学園情報部・副部長”の異名を持つ。
弘田ルキアは中学3年でまだ声変わりがしていないと称していたが、昨年実は女性ホルモンで声変わりを抑えていたこと、ホルモンの効きすぎで胸が膨らみはじめたので使用を中止したことを発表。中止するとすぐに声変わりが起きて人気急落している。現在既に胸は普通の男の子のように平らに戻ったが、乳首が大きくなったのは小さくならないなどと言っていた。なお女性ホルモンを飲みはじめる前に精液は冷凍保存していたので、女性ホルモンを飲んでいた影響で勃起不全や無精子症になっても、子供は作れるらしい。
「そういえば逮捕されたレポーターのNはアクアちゃんは実は去勢しているんでしょ?とか言って、しつこく付きまとっていたんでしょ?」
「いや、あの人には参った。ホテルの部屋の押し入れに隠れていたんだよ」
「犯罪じゃん!」
「だからうちの事務所で告訴したら、あちこちの事務所からも告訴されてるね。あまりにも余罪が多すぎて、なかなか裁判に進まないみたいで」
「でもいちばんびっくりしたのが男だったってこと」
「うん。あれは本当にびっくりした!ほんとに人の性別は分からないね」
「龍ちゃんも今日みたいにスカート穿いてると性別が分からないというか、ふつうに女の子と思われるよね」
「ボク、別にスカート穿いても女装している訳ではないよ」
「まあ龍ちゃんの感覚ではそうだよね」
「まあ龍のふつうの服装だよね」
西湖はその日生物の授業を受けていた。
「植物の構造は、大きく分けて主として地上にできる茎および葉と、地下にできる根(ね)に分けることができる。茎と葉はある意味一続きのものでこれを合わせてシュートと言う。枝というのはそれ自体が実はシュートで、これには二方向分化型と単軸側軸分岐型がある。節(ふし)から2つのシュートが別れていくのが前者で、メインのシュートはまっすぐ伸び、サブのシュートは横に伸びていくのが後者だ」
と生物担当の森山先生はよどみなく説明する。
森山先生は今年34歳の男性教師だが、甘いマスクでファッションセンスもよく、授業も分かりやすいので女生徒たちに人気が高い(たぶんこの学校に男生徒は居ない)。生物以外に化学・地学・地理を教えることもある。
既婚で奥さんは都内の別の学校の数学教師をしているらしい。大学時代に知り合って教師になって2年目に結婚。子供は小学生の女の子が2人・・・というプロフィールまで調べているのは女生徒の中の非公式組織“情報部”によるものである。
「花は葉が変化したものだ。種子植物の場合、そこから実(み)ができて、種(たね)が取れる。また、単軸が太くなったものが幹(みき)だな」
「根と茎の違いというのは、地上に出ているか地下にあるかですか?」
とひとりの生徒が“まじめな”質問をする。
「概ねそうだが、微妙なものもある。地下にある地下茎もあるし、地上に出ている気根もある」
「それはどう区別すればいいんでしょうか?」
「かなり曖昧なものもあるのだけど、葉がついている部分は確実に茎。根の場合はいわゆる根毛といってヒゲのようなものがたくさん出ていることが多い。たとえばジャガイモは地下茎なんで根毛が無く表面がツルツルしている。これに対してサツマイモとか大根(だいこん)は根なんでたくさん根毛が出ている」
この説明には「あぁ!」と納得する生徒が結構いる。首をひねっているのはたぶんあまりお料理をしない子だろう。
「他にこれも例外があるのだけど切ってみると分かるものも多い。茎の場合は中心に髄(ずい)と呼ばれる海綿状の部分があり、この外縁に道管と師管がセットになった維管束が円環状に並んでいる。これに対して根の場合、髄が無くて、道管が中心部まで詰まっているものが多い。ただこれには例外があって単子葉植物の根は髄を持っているから茎と似たような配列になる」
「どうかん?しかん?」
「植物のからだの中で水分を主として根から茎や葉・花へ上向きに運ぶのが道管、葉で光合成によって作られた栄養分を他の部分、多くは下向きに運ぶのが師管(篩管)。一般に師管は道管の外側にある」
学校のレベルがレベルなので、こういうのが全く分かっていない子が多い。生徒たちの顔を見て先生は言う。
「語呂合わせとして“シソドーナツ”というのがある。下向き師管は外側、道管は内部で吊り上がり」
「へー!」
という声があがり“シソドーナツ”とノートに書いている子が結構いる。
その後細かい質問が多数あり、それに森山先生はひとつひとつ丁寧に答えていく。ところがここで紀子がとんでもない発言をする。
「陰茎と男根の違いはなんでしょうか?」
教室内が騒然とする。普通の先生なら怒るところだが、森山先生はだてに女子校の教師を10年やっていない。平然として答える。
「陰茎の場合は、根元付近をのぞいてほとんどヒゲが出ていない。だからあれはやはり根ではなくて茎だな」
何だか生徒たちが納得している!でも陰茎の外見にほぼ無知な子も多いので隣の子に「そうなの?」とか訊いている子もいる。
「男子の陰茎本体はほぼ外に出ているから地上茎だけど、女子の場合はほとんどが体内に埋もれていて先端だけ外に出ているから、あれは地下茎だ」
と先生が言うと、結構な失笑が漏れている。でも“ほとんど体内に埋もれている”こと自体を知らないのか当惑している子もいる!
女性の陰核はだいたい3-5cmあり、結構長いのだが、先端の陰核亀頭は数mmしかない。しかしその陰核本体の存在を認識していない女子が結構多い。更に陰核体はそのまま小陰唇内の海綿体につながっており、海綿体自体の長さは軽く10cmを越える。女子は実は長いおちんちんを体内に隠し持っているのである。
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