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■春避(20)

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「え?そうなの?」
「だから、商売敵なのに、申し訳無いのだけど、実は渡辺さんは早急に1000坪程度の土地が必要だったんだよ」
「このレストランを移転するの?」
「そうではなくて、人形美術館を移転する」
「それはまたどうして?」
 
「室は先日の地震で美術館の建物が土崖崩れで土砂に埋まってしまって」
と薫は言った。
「それは大変でしたね!」
 
「中の人形たちは幸いにも、完全に建物が崩壊する前に全員救出することができました。元の建物は復旧はほぼ不可能です。元々崖崩れの危険地帯に指定されていた場所なので、本気で復旧するには数億円の費用が掛かるみたいで。それで移転するしかないということで土地を探していたんですよ。琥珀さんの土地が、大きな道路に面していて、遠くから来て頂くお客さんを受け入れるには便利なので、売って頂けたら嬉しいです」
 
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「うちの親父の時代はそれであそこはたくさん観光バスが来て、団体客の食事処になっていたんですよ。でも今のご時世、そういう商売はもう下火だし、コロナの情勢では飲食店そのものが大変で」
 

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「そうなんですよ。このレストランもテーブルを従来の半分に間引いて営業していますし」
と高が言う。
 
「間引き営業してる所は多いですね」
 
「それと今まではデリバリーとかはあまり受けてなかったのですが、積極的に受けるようにしました。夜間の道の駅とか夏はキャンプ場にデリバリーしたりもしてるんですよ」
 
「需要あるかも!」
 
「こちらは洋食で、そちらさんは和食系みたいだし、競合しないと思うから、そちらさんも営業再開なさったら、出前もなさるといいですよ」
 
「考えます!」
 

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それで結局、桜坂と薫館長は土地の売却で合意した。
 
詳細の手続きについては、双方の弁護士さんに進めてもらうことにした。
 
薫と高が退席する。
 
真珠は
「これで『2.ローンの返済』も解決しました」
と言って、それを横線で消す。
 
「次に新しいテイクアウト店の建築です」
と真珠は言う。
 
「テイクアウト店なら、市街地にあるのがいいですよね」
「はい。今までの場所は、観光客向けだったので、地元の人にはアクセスしにくかったんです」
 
この問題は先日、幸花や真珠たちが話していたことだが、桜坂さん本人もその問題を認識していたようである。
 

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「それですけど、今不況だから、結構市街地の店舗が売りに出てますよ」
と言って、真珠はパソコンでブックマークしていたページを開き、桜坂に見せる。
 
「何か物凄く安いですね!」
と桜坂は驚いている。
 
「ほら、ここなんて50万円ですよ。1個買いません?」
「信じられない。ここはスナックかな?」
「そうみたいですよ。居抜きで使えば、かなり安い費用で開業できますよ」
「うーん。でも今その50万が」
 
恐らく17-18万円ほどと思われるローンの返済ができなかったのである。確かに50万も厳しいだろう。
 
「ここは金沢ドイルさんがポンと買い取ってあげて、桜坂さんに貸すとか」
と幸花が言う。
 
「なんで私が買うの〜〜?」
「50万はドイルさんなら、朝御飯程度」
「50万もするような朝御飯は食べないよ」
と青葉は言ったが
 
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「でもこの際、いいですよ。私が買って桜坂さんに貸しますよ」
「ほんとですか?」
「どの物件がいいですか?」
 

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それで桜坂はいくつかの物件を検討した上で、80万円で売りに出ている物件がいいと言った。
 
「少し高いですけど・・・」
「いいですよ。買いましょう」
「すみません」
 
でも80万円ってパレハプ建てるより安い!
 
それでこの物件の売買については、明日の朝一番にこの物件を管理している不動産屋さんに行くことにした。
 
真珠は
「これで『3.テイクアウト専門店を建てる』も解決しました」
と言って、それを横線で消した。
 

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「最後に料理人の確保です」
と真珠は言ったが、続けて
 
「実は、S市の出身者で、今金沢の飲食店で調理をしているものの、S市に帰ってきて、お店をやりたいと言っている人を知っているんですよ」
 
「え〜!?」
 
「自分で店を持ちたいけどお金が無いから板長として雇ってくれる人があると理想と本人は言っています」
 
「それはこちらも都合がいい」
「明日にも呼びますから会ってもらえませんか」
 
(実は青葉たちが火傷した少女の所に行っている間に電話で話していた)
 
「それは会ってみたいです。今働いておられるお店は?」
「片町のランチ専門店で働いているんです」
「ランチやってるなら、心強い」
 
「ただひとつ問題があるのですが」
「何でしょう?外国籍とか?」
「国籍は日本なんですが、性別が元男性の女性なのですが」
「そんなの全く気にしません!」
と桜坂は言った。
 
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「凄いね。ほぼ全ての問題が解決したね。難題ばかりだったのに」
と神谷内は感心して言った。
 

神谷内はコンビニでビールとウィスキーを買い、桜坂と一緒に彼の家に行った。遅くまで飲み明かすつもりだろう。2人を置いて、幸花たち5人はホテルに移動した。
 
桜坂が帰宅した時、彼の顔が明るかったので、奧さんはホッとした。多分旧友との話し合いで何か大きな問題が解決したのだろうと思った。
 
「でも俺、店舗は貸してもらって、料理人も雇って、俺の仕事は何だろう」
と桜坂が悩んでいたが、神谷内は言った。
 
「飲食店を経営しようという意志だよ。物事、意志が最も大事」
「それはそうかも知れないなあ」
 

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新店舗に関しては、別の展開が起きた。
 
井原さんの奥さんからその夜電話があったのである。
 
井原さんの娘さん夫婦がS市内に家を建てている最中だったのだが、娘さんは「お母さんひとりでは心配だから、うちに同居しない?」と言った。それで、井原さんは娘の家に同居することにした。すると今住んでいる家は空き家になる。彼女は桜坂に言った。
 
「今私が住んでいる家、わりと市街地にあると思うんですけど、ここに新店舗を出しませんか?」
 
古くからの家なので、昔は必ずしも商業地域ではなかったものの、市街地が広がり、井原家を市街地が飲み込んでしまう形になっているのである。
 
「レストランにするには狭くてせいぜいテーブルが5〜6個しか置けませんけど、お弁当屋さんするなら足りると思うんですよ。台所を改造すればお店の調理場になると思うし」
 
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「ガスとか使えると助かります。あそこは角地だしビジネス街にも近くて、お弁当屋さんするには理想的ですよ」
「ただ家はオンボロですけど」
「気にしません!ぜひ使わせてください!」
 
ということで、井原さんの家の1階を新しい“琥珀”の店舗(弁当店)に転換することになり、青葉がスナック跡を買い取って桜坂さんに貸すという話はキャンセルになった。井原さんは、娘さんの家が完成するまでは現在の家の2階で暮らす。
 
なおこの家を井原さんが桜坂さんに貸すのか、あるいは売り渡すのかは、追って話し合うことにした。
 

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翌日、6月29日(水).
 
午前中、千里は朱雀林業・輪島支店から人を呼び、海鮮割烹・琥珀の店舗残骸を片付けさせ、瓦礫の中から、ほぼ無事だったテーブル5個、椅子10個、及び金属製の鍋類を発掘した。バッグが出て来たのは従業員さんので桜坂が後で届けることにした。
 
「残りの瓦礫はうちで片付けさせていい?」
「はい。でも料金は?」
「1万でいいよ」
「そんなに安くていいんですかぁ!?」
 
それで桜坂は1万円を払い、千里は領収証を渡した。テーブルと椅子、鍋類は取り敢えず桜坂の自宅に運んだ。朱雀林業の人たちが運んでくれた。
 
お昼過ぎに、真珠の呼び出しで、スートラの調理係“胡蝶蘭”(こちょう・らん)ちゃんが自分の車(モコ)を運転してやってきた。桜坂家の台所を借りて、肉ジャガを作ってもらった。材料持参である。桜坂は彼女に材料代を払った。
 
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「化学調味料は使わないのね」
「あれ使うと、全て台無しになります」
 
できたのを頂くと、ジャガイモは柔らかくてホクホクしているし、お肉も柔らかく、とても美味しかった。化学調味料を使ってないので、上品でソフトな味である。桜坂はこの味は好きだと思った。
 
「採用。よろしくね」
「はい、ありがとうございます。いつから勤務になりますか」
「今店舗を整備させてるから、ずれる可能性はあるけど8月2日・火曜日の大安を考えている」
「分かりました。それをメドに今のお店を辞めてこちらに引っ越して来ます」
「うん。よろしくね。じゃ開店が遅れても給料は8月1日月曜日から払うから」
「ありがとうございます」
 

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ここまで見届けて、青葉はやっと高岡の自宅に戻ることができることになった。昨年10月30日に東京に出て行って以来、8ヶ月ぶりの帰宅となる!
 
千里は真珠たちが料理を試食している間に青葉を外に連れ出して言った。
「青葉さあ、今の状態はあまりにも忙しすぎる」
 
その忙しくしているひとつの原因は、ちー姉だぞと青葉は思う。
 
「1年くらい身体を休めないと、ダウンするよ」
「でもみんな私を休ませてくれない」
と青葉は言う。正直自分でもかなり疲労が溜まっている気がする。
 
「いちばん得意なはずの1500mで金メダル取れなかったのは性転換者の締め出し発表で動揺したのもあるだろうけど、忙しすぎて疲労が溜まっているのもあると思う。ひたすら練習するのもいいけど、青葉のレベルならかえって休んだほうがいい成績出せるよ」
 
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だからその休ませてくれないのはひとつは、ちー姉のせいだと思うのだけど。
 

「青葉さあ、休みたかったら妊娠しちゃえば?」
「え〜〜!?」
「今私の2番が妊娠中で浦和の家で骨休めしている。お陰で他の2人が忙しくてたまらないけど」
 
青葉は念のため確認してみたくなった。
 
「関係無いけど、星田さんの買ったスカートW90で、妊婦用みたいと言われてたね」
 
すると千里は言った。
 
「青葉やはり疲れてる。スカーフと間違ってスカート買ったのは山先さんだったじゃん」
「そうだったっけ?」
 
それで青葉は、やはりここに居るのは千里1で、スペインで自分たちをサポートしてくれたのだろうと判断した、千里3が日本代表の合宿、千里2が妊娠している間に(*36)。京平君が推測していたみたいに1番はかなり霊力・体力を回復させている。もう2番・3番と差が無いのではと青葉は思った。
 
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(*36) 毎度青葉は甘い!でも、すーちゃんでさえ、ヨーロッパに居たのは1番と思ったのだから青葉が勘違いするのも無理は無い。
 

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「でも私が妊娠なんて許してもらえないよ。水連会長とパリまで頑張りますと約束したのに。トップアススリートが妊娠したら非難轟轟だろうし」
 
「非難されるくらい平気でしょ?」
「うん、それを気にするほどヤワじゃない」
「だから、うっかり妊娠したことにすればいいんだよ。芸能人がよくやるじゃん」
「確かに!あれ絶対わざとだよね」
 
「アクアもそろそろうっかり妊娠して休養させること考えた方がいいな」
「それFちゃんとMちゃんのどちらが妊娠する訳?」
「ふたりとも妊娠したりして」
「ありそー」
 
アクアMも絶対妊娠能力がありそうだと青葉は思った。
 

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帰り道、神谷内・幸花・明恵・真珠・千里の5人は、ファイアーバードの“きつねうどん”で休憩したが
 
「このうどん奇抜だけど美味しい」
「このお稲荷さん凄く美味しい」
と好評だった。
 
「ここあらためてレポートに来よう」
と幸花が言っていた。
 

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5人は店の外に置かれたテーブル“テラス席”で食べていた。難燃性のポリカーボネイト樹脂の“置き屋根”も置かれているので、小雨程度は平気そうである。
 
「井原さんが亡くなったことを聞いた時に、驚いたのは私と神谷内さんだけだった」
と幸花が言う。
 
「だって明らかに死相が出てたじゃん」
と千里は言った。
「あきちゃんも、まこちゃんも分かってたでしょ?」
 
「私は影が薄い人だなと思いました。3月末(白い虎事件)に会った時も感じたけど、4月末(開店祝い)に会った時は、更に影が薄くなってたから、この人、重い病気ではと思いました」
と真珠は正直に言った。
 
「3月末に会った時点で、もう手の施しようが無い状態で、もって3ヶ月だろうと思った。青葉が世界水泳終わって真っ先にこちらに来たのも、自分が来なければ解決できない問題が起きている思ってたからだよ。だから私も6月の世界水泳後の数日は予定を空けていた。地震は私も青葉も想定外だったけどね」
と千里は言っている。
 
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明恵も
「私も井原さんの胸の辺りに暗い影を感じました。この人、多分心臓か肺の病気で、それもかなり深刻なのではと思ったけど、そんなこと言えないし」
と言っている。
 
「もしかして、あんたたち全員霊能者?」
と幸花は言っていた。
 

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その後、真珠たちは伏木の青葉宅に青葉をポストしてから金沢に帰った。青葉は昨年10月30日以来242日ぶりの我が家だ。(12月の数時間帰宅を除く)
 

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火傷をした小学生は、木曜日(6/30)に病院に行くと
 
「きれいに完治したね!やはり小学生の再生能力は凄いね」
と先生は感心していたらしい。
 
 
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