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■春避(5)
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(C) Eriko Kawaguchi 2023-01-27
6月17日(金)の放課後、バスケット部員たちが練習のためにファイアーバードに行くと、敷地の入口の所に幅20mくらいの建物(ちょうどコンビニサイズ)が建っていて、半分はどうもお店になっているようだ。“氷見糸うどん”という旗も出ている。お店の看板には“きつねうどん”と書かれている(*6).
「うどん屋さんだ!」
と特に女子たちから歓声があがった。
店頭に座って居るのは、フラミンゴ管理人のひとり、雨晴日室さんだ。
「お店始めたんですか?」
と尋ねる。
「私たち、千里さんと、油揚げ載せた氷見うどんを好きなだけ食べていいという契約を結んでいるんです」
「面白い契約ですね!」
「それで、だったらいっそうどん屋さん作っちゃう?という話になって、飲食店の営業許可取りました」
「じゃ管理人さんたちが食べるためのお店?」
つまり社員食堂??
管理人さんは20-30代くらいの女性が7人で4時間交替で詰めているもようである。管理人室にシフト表が貼ってあった。
「もちろん、皆さんにも提供しますよ」
「いくらですか?」
「きつねうどん360円、稲荷寿司2個200円ですが、皆さんには社員価格で提供しますから、その半額の180円、100円で」
「安い!」
「トッピングはそこに値段書いてますが1個40円から120円ですが、特に皆さんにはその半額で」
「やった!」
見ると、掻き揚げ、とろろ、半熟?たまご、薩摩揚げ、キムチ、白身魚天麩羅、いわし天、あじ天、ふくらぎ天、いか天、えび天、鶏天、豚天、牛天、などが並んでいる。追加の油揚げというのまである!
「半熟卵は生だったり完熟になってたらごめんなさい」
「愛嬌、愛嬌」
「それでメニューには“?”(くえすちょん)が付いているのか」
「ねぎ・揚げ玉は好きなだけ入れて下さい」
「たくさん入れちゃおう」
ということで早速注文する。みんな天カスとネギを大量に入れていた。
「このきつねうどん、うどんより揚げが多い」
「うどん入りのキツネだな」
「だってたくさん油揚げ食べたいじゃないですか」
(↑キツネに任せるとこうなる)
「いいことだ、いいことだ」
「これに追加油揚げとか入れたら、ほぼ全て油揚げになるな」
この後、練習後きつねうどんとお稲荷さんを食べるのが定着することになる。
食器は“コロナが収まるまでの暫定処置”として全て使い捨て容器に割箸である。容器はコーティングされた紙製で、二重構造になっているので持っても熱くない。実は朱雀林業と大手食品メーカーが共同開発したものである。使用後は割箸ともども、ボイラーの燃料として使用するという話であった。ボイラーは石油も使って高温で燃焼させるので有毒ガスは出ないらしい。
この店には更に
「おにぎりもあるといいなあ」
「肉まんとかもあるといいなあ」
「ぜひコーラを」
などという声に応じて、様々なメニューが増え、更に
「ティッシュとかも置いてあるといいな」
「マスクも売ってるといいな」
「乾電池があると便利」
「ナプキン置いて下さい」
「タオルが欲しい」
「ちゃお置いて下さい」
「CanCanも欲しい」
などと様々な要望が出て来て、1年後くらいまでにはほぼコンビニ化していくことになる。野菜、お肉、パン、なども揃って、春貴など、ここで晩御飯の材料を買って帰ったりするようになった。
またこの店が出入口の所にあり、毎日15時から21時まで営業している(*5) ことから、保護者が迎えにきてくれる場合に、良い目印になるとして好評だった。実は何もない場所だから、冬になってから保護者が迎えに来てくれた場合、うっかり通り過ぎてしまうかもという声もあったのである。
なお夏休みの間は昼間練習するので、練習日は臨時に昼間も開けてくれるという話だった。
(*5) 15-21h営業というのは、実はキツネの活動時間帯に合わせている!!だから本当は午前3時から9時にも(看板は点灯しないが)内部的には営業していて、“社員寮”に住んでいるおキツネさんたちが食べに来ている!
この店を作ることにしたので、管理人は5人(匹)体制から2名増員して7人(匹)体制になった。若いおキツネさんが多くなったのは採用条件が「感染性の病気や寄生虫を持っていない」ことだったためである。
千里は2019年に火牛スポーツセンターの開発を始めた時に、津幡姫神様と話し合い、能登半島の取り敢えず南部、津幡・かほく・高岡・氷見近辺で“一族”のおキツネさんたちの感染症や寄生虫の駆除を始めていた。それで今回、病気に罹っていないおキツネさんを何人も確保できた。だから今回採用した7人の内5人が2-3歳の若いおキツネさんである。
(*6) “きつねうどん”という、お店の名前はメインのメニューがきつねうどんであることから来ていると見せて実は“きつね”がやっている“うどん”屋さんというのが実態である!
(再掲)
このうどん屋さんは寄棟造りの屋根で、その隣には方形造の屋根の正方形の建物が2つ並び、その向こうにはマンションのような平屋根の建物が立っている。こちらにはソーラーパネルが並んでいて、どうもそこで起こした電力で、お店や方形造りの建物などの電気もまかなっているようである。
マンションは管理人さんたちの宿舎らしいが、部屋数に余裕があるので、合宿しようと思えば、宿泊所としても使えるらしい。方形造屋根の建物はどちらも板張りになっていて、中を見せてもらったが、10m×10mの正方形ラインが引かれており、仕切り線もあって、剣道の練習場らしかった。ここもファイアーバードの利用券で利用できる。翌週には近所のJ中学の剣道部が年間利用券を購入した。
(参考)屋根の形の呼び名
お店・道場・宿舎は壁がつながっており、形式的にはひとつの建物である。この建物は、ファイアーバードの隣の“筆”に建っていて、きちんと“ひとつの敷地にひとつの建物”という原則を守っている。
元々は体育館の隣に管理人さんたちの宿舎を作ろうという所から始まっている。千里4が「剣道の練習場が欲しいなあ」と言ってそれが増築され、「うどん屋さんを作っちゃおう」という話が出て、それも増築されて、道路のそばまで建物は延長された。
2022年6月18日(土).
晃たちH南高校女子バスケットボール部は、北信越大会に出場して1回戦は勝ったものの準々決勝で敗れた。晃はアシスタントコーチ名目でベンチに座ってスコアを付けるとともに、適宜各選手が何分間オンコートしているかを奥村先生に報告して、選手交代の参考にしてもらっていた。また準々決勝の後、次の試合のテーブルオフィシャル(T/O)を頼まれ、晃はスコアラーほ担当した。
スコアラーは学校の制服を着て務めるので、T/Oをした他の3人、愛佳・夏生・舞花は学校の(女子)制服を着た。晃は制服を持って来ていなかったが姉の舞花が
「制服持って来たよ」
と言って、女子制服を渡した。それで晃は仕方無いので女子制服を着てスコアラーを務めた。
そして大会会場を出た後、晃は女子制服を着たまま姉と愛佳に連れられて“一言主神社”を探し回ったものの見付けることはできなかった。帰り道、3人は注連縄の掛かった石碑のようなものを見た。そこで姉の舞花は
「晃が女の子になって女子選手になれますように」
などと勝手に祈っていた。
大会後の自由時間は18時半集合だったのだが、実際には18:15に全員揃ったので出発した。
晃は試合には出ていないものの、一言主神社探しで1時間半も歩き回ったので疲れから眠ってしまった。バスが停まる音で目を覚ます。
「トイレ休憩します」
と奥村先生が言う。見ると、どうも津幡アリーナのようである。ぞろぞろと降りてトイレに行く。晃は結局女子制服を着たままなので、やむを得ずみんなと一緒に女子トイレに入った。たくさんトイレがあるので、全員すぐに個室に入ることができた。
ここはどこにも触らずにトイレを使うことができる。ドアは開いているのでそのまま中に入る。手かざしでドアを閉めると自動的にロックされる。ふたが自動で開く。トイレットペーパーを少し取り、便座除菌クリーナーのボックスの下にかざすと自動的に噴出されるので、それで便座を拭き、便器の中に捨てる。
それでおしっこをしていたら、唐突に目の前に8歳くらいの和服の少女の姿が現れたので、晃は仰天する。
どこから入ってきたの!?
と晃が思う間もなく、少女は晃に言った。
「お前、ちんちんが付いてる癖に女子便所を使うのか?」
ぐさっと胸に突き刺さる。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「でも痴漢には見えない。もしかして女になりたいのか?」
「そういう訳じゃないんですが、姉が『女の子になる気ない?』とか『女の子になりなよ』とか言って、よく女の子の服を着せたがるんです。今日はどうしてもこの服を着る必要があったので着たのですが」
「でもいやいや着ているようには見えないぞ」
「女の子の服を着るの嫌ではないです」
「だったら、お前が望むなら女の子に変えてやってもいいぞ」
「望みません!」
「ふーん。だったら、取り敢えずお前のちんちんを預かる。ちんちんが無ければ女子便所使っても文句は言われまい」
「え〜〜!?」
少女は晃のちんちんを掴むと、ひょいと引き抜いた。
うっそー!?
「このちんちんは捨てておこうか」
「捨てないでください!」
「そうか?だったら、お前が高校卒業する時に返してやろう。それまではスカート穿いて女子高生を楽しむがよい。じゃな」
と言うと、少女の姿は消えていた。
晃があらためて自分のお股を見ると、ちんちんが無くなってる!
どうしよう?
と思ったら、晃はどうもお風呂に居て、裸の父も居た。お父ちゃんのちんちん凄く大っきーいと思った。よく家の中でぶらぶらさせてて姉に非難されてる弟たちのちんちんも大きいけど、お父ちゃんのはもっと大きい。ぼくに“付いてた”ちんちんは凄く小さかった。
「なんだ?お前チンコ無くしたのか」
「うん」
「チンコ無いと、小便できなくて不便だろう。俺がチンコ作ってやるよ」
ちんちんを作る!?
「材料はこれでいいかな」
などと言って、父が取りだしたのは、小学生が使うような粘土である。
父はその粘土を適当な量取り丸めて、ちんちんみたいな形にしてくれた。長さは3cmくらいだろうか。あ、ぼくのちんちんのサイズだと思った。そして父はそのちんちんにストローを差して縦に通る穴を開けた。
「こんなものかな」
と言って、父は粘土で作ったちんちんを晃のお股に木工用ボンドでくっつけた。
「これでちゃんと小便できるぞ」
「ありがとう」
そこで目が覚めた。
バスはもう津幡北ハイバスを抜けたようで小矢部バイパスを走っていた。
夢かぁ!
でもぼくこないだから何度も女子トイレに入っているけど、本当はぼく男の子なのに、女子トイレとか入っちゃだめだよね、などと思う。
バスは道の駅“メルヘンおやべ”に停まる。
“メルヘンおやじ”ではない!!
(この道の駅が出来た時、筆者は最初そう読み間違えた)
「ここでトイレ休憩します」
と奥村先生が言った。
それでみんなぞろそろトイレに行く。
晃はやはりぼく男の子なんだから男子トイレに入らないといけないんじゃないかなあと思い、そちらに行こうとした。でも中から出て来た男の人に
「君こっち違う」
と言われる。舞花が来て
「あんた何やつてんの?あんた性転換でもした?」
などと言って、晃を女子トイレに連行した。
それで「まいっか」と思い、晃も道の駅の女子トイレの列に並ぶ。やがて個室が空いたので中に入る。トイレットペーパーを少し取り、持参のアルコールジェルを掛けて便座を拭く。それでスカートをめくり、ショーツを下げて便座に座る。
ちんちんあるよなあと思う。やはりちんちん取られたのは夢か。それともこのちんちんって、お父ちゃんが作ってくれた粘土細工だったりして!?と思うと少し楽しくなった。
もし本当にちんちん無くなったら、無いままでもいいけどと思った。
ペーパーでおしっこの出た所を拭き、流して個室を出る。列に並んで手を洗い、バスに戻った。
しかし凄い夢だったなあと思った。(夢だったらいいね)
バスは途中、各々が帰宅しやすいポイントに部員を置いて行ったので、みんな割と早く帰ることができた。晃と舞花が帰宅したのは18:50頃だった。
「ぼくこの格好で家に入るの?」
「何を今更」
それで姉が鍵を開けて2人は「ただいまぁ」と言って中に入った。晃は恥ずかしいので俯いて居間に入るが、女子制服姿の晃を見て、両親や弟たちは何も言わなかった。少し拍子抜けする。
晩御飯の前にお風呂に入ったが、この時、晃は着替えにうっかり女の子ショーツを持って来ていた。
「ま、これでも、いっか」
と思ってそれを穿いて居間に行き、お茶を飲みながら今日の試合の話をした。30分ほどで姉がお風呂から上がってきたので、一緒に晩御飯を食べた。
結局晃が女子制服を着ていたことについては何も言われない。
しかしお風呂に入った後、女の子ショーツを穿いちゃったのは、女子制服で4時間半ほど過ごした余韻のせいかも、などと晃は思った。
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