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■春避(19)

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真珠は整理するように言った。
 
「いくつか解決すべき問題があります」
と言って、自分のバッグの中からCanDoで買った電子メモパッドを取り出して書きながら言った。
 
「1.火傷をした女の子の治療と補償」
「2.ローンの返済。残額はいくらですか?」
「2000万円を10年ローンで借りて、3,4,5月の3回だけ返済しているから、残り1950万円くらいだと思う」
 
「3.テイクアウト専門店を建てる。建築費はいくらくらいだと思います?」
「テイクアウト専門なら客席を作らなくてもいいから、プレハブならもしかしたら100万で行けるかも。調理器具をどうするかという問題あるけど」
 
「それ、潰れた店舗から取り出せない?」
「もしかしたら多少は取り出せるかも」
「ガス器具とかは取り出せても危険だけど、鍋とかは使えるよ」
「確かに鍋とかは使えるかも!」
 
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「4.料理人の確保。井原さん以外に調理ができる人は?」
「パートの主婦を2人雇ってましたが、あくまで補助程度です。料理の責任者にするほどの腕はありません」
 

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「問題はこんなものですかね」
と真珠はみんなに尋ねる。
 
「細かい問題はあるけど、大きな問題はそのくらいだと思う」
と桜坂さんは言った。
 
「私はこれが全て解決できると思います」
と真珠は断言した。
 
「え〜〜〜!?」
と桜坂と神谷内が声をあげる。2人はどれをとっても解決困難な問題だと思った。
 
まこちゃん、古典的推理小説の名探偵みたい、と明恵は思った。
 
(“探偵はみんな並べて「さて」と言い”)(*35)
 
幸花は腕を組んで考えている。
 

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(*35) ギリシャ以来の古典演劇では、最後に登場人物が全員登場して問題が解決されていくというのが、基本パターンのひとつとなっていた。シェイクスピアの演劇も多くがこの形式を踏まえている。古典的な推理小説はそのパターンを踏襲しているものと思われる。
 

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「金沢ドイルさん、その火傷をした女の子を“診て”あげられません?」
と真珠は言った。
 
「それは向こうがこちらを受け入れてくれるか次第」
と青葉は答えた。
 
「御見舞いとうことで押し通しましょうよ」
「やってみようか」
 
それで、桜坂・青葉・千里の3人だけで、その火傷した女子小学生の自宅を訪問したのである。これが16時半頃であった。ちょうどその小学生が帰宅した所だった(それを青葉と千里が見越して行っている)。
 
桜坂は言った。
「先日は本当に申し訳ないことをしまして。本日は御見舞いに参りました」
 
すると千里が(勝手に)言った。
「お嬢さんの治療費は全部こちらで負担いたしますし、慰謝料も改めてお支払いしますが、取り敢えずこれは御見舞い金ということで」
 
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それで千里が封筒を出すので桜坂は内心びっくりしている。封筒はかなり“厚い”。弁護士の先生からはきちんと話が付くまでは1万円とかでも渡してはいけないと言われていたんだけど!?
 
「分かりました。あくまで御見舞いですね」
と言って、向こうのお母さんは受け取った。
 
「治療は病院の先生にお任せするしかないですが、少しだけご祈祷させて頂けないでしょうか?」
と千里は言った。
 
「祈祷?何かの宗教でしょうか?」
「いえ、私は神社の巫女をしているので」
と言って、千里は《越谷F神社・名誉副巫女長》の名刺を出した。
 
こういう時は便利な名刺だよな、と青葉は内心思った。
 

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「ああ、神社さんなら構いませんよ」
とお母さんは言った。
 
昨今、変な宗教が多いから、そういうのには警戒するが、神社さんならいいだろうというところか。
 
「そちらはお姉様ですか?」
と青葉は言われる。千里姉が心の声で笑ってる。何もこちらに“聞こえる”ように笑わなくてもいいじゃん!
 
いいや、もう気にしない!
 
「はい、そうです。私は仏教のほうで。一応所属は奈良のほうのお寺なのですが」
と青葉は答えた。
 
「へー。でも姉妹でお寺さんと神社さんって最強ですね!」
「うちの曾祖母(ひいばあ)さんは、木魚打ちながら祝詞を奏上してました」
 
「ああ。元々どちらも一緒なんでしょうね」
「そうですよ。同じ物を別の角度から見ただけです。この、だいこく様みたいなものです」
 
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と言って、千里が小さな、だいこく様の像をお母さんに手渡すと
 
「何これ!?おもしろーい」
と言って、お母さんは大笑いしていた。
 
でもこれでお母さんは警戒感をほとんど解いたようである。娘さんもその像を見て「いやらしーい」と言って笑っていた。とてもお父さんには見せられない?
 
でもこの、だいこく様は、娘さんに進呈した!性教育用??
 
この像は前から見ると、2つの俵に乗った、だいこく様なのだが、後ろから見ると、俵は陰嚢に見え、だいこく様は陰茎に見える。だいこく様の頭巾がちょうど亀頭に見えるようになっている。昔からよくある民芸品。更に下から見ると、2つの俵の間に陰裂があって女陰に見える“両性具有”型もあるが、これはそこまでは作り込まれていなかった。
 
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千里は龍笛を出して一曲、美しい神楽の調べを吹いた。
 
娘さんもお母さんも聴き惚れていた。
 
「お嬢さん、その火傷した所を見せて頂いてもいいですか」
と青葉はにこやかな笑顔で言う。
 
「はい、どうぞ」
と言って、女の子が小さな手を差し出すので、青葉はその手を自分の左手(利き手)で優しく撫でるようにした。但し実際には接触させていない。至近距離で手を動かすのである。火傷で皮膚が弱っている所をさすったりはしない。なお右手はポケットの中で常用のローズクォーツの数珠を握っている。
 
千里が祝詞を奏上する。青葉はこの祝詞は聞いたことが無いと思った。何か不思議なパワーを感じる祝詞である。どうも蚶貝姫(きさがいひめ)と蛤貝姫(うむぎひめ)が主役の物語になっているようだ。だいこく様(大国主神)が若い頃、兄たちに大火傷を負わされた時に治療した姉妹神である。ちゃんとさっきの、だいこく様の像につながってる!きっと、あれはふざけたおもちゃに見えて、治療のための呪具なんだ!
 
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この祝詞は30分も続いた。物語性のある祝詞なので、お母さんも娘さんも静かに聴いていたようである。その間、青葉は女の子の手をずっと撫でるようにしていた。
 
「あれ?」
と女の子が言う。
 
「どうしたの?」
とお母さんが訊く。
 
祝詞は中断する。青葉も手の動きを止める。
 
「痛くない気がする」
「え?見せて」
と言って母親が女の子の手を見る。
 
「赤味が消えてる!」
「触っても痛くないよ」
 

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「子供の再生能力は高いですからね。きっと“そろそろ回復する時期”だったんですよ」
と青葉は言った。
 
「まるでご祈祷が効いたみたい」
 
「まあ、ご祈祷は気休めですから。お嬢さんの自然治癒能力のなせるわざでしょうね」
と千里は言った。
 
「いや、ほんとにご祈祷が効いた気がします。ありがとうございます」
「次にお医者さんに行くのは?」
「木曜日に行く予定なのですが」
「でしたら、これは皮膚の自然治癒能力を高める普通の馬油(バーユ)です。これも気休めですけど、お渡ししておきますね」
 
「あのぉ、このお代は?」
「ただの御見舞いですから」
 
それで桜坂を含めた3人は退出した。
 

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外に出てから千里は訊いた。
 
「治した?」
「治した。1週間経ってるから時間が掛かったけど」
と青葉は自信を持って答えた。
 
「火傷を治せるんですか!?」
と桜坂は訊いた。
 
「火傷を治せる人なら、日本国内に10人は居ますよ」
と青葉は答えた。
「でも人には言わないで下さいね。次から次へと依頼されたらこちらの身が持たないから」
「はい!」
 
「でも良かった。本当に良かった。女の子の身体に傷を付けたらどうやっても償いきれないから」
 
「これで治療問題は解決すると思いますが、慰謝料はちゃんと払ってあげてくださいね」
と千里は釘を刺す。
 
「はい。それは何としても。でもさっきの御見舞金は?」
「あれはほんとに純粋な御見舞いですから気にしないでください。地震の被災者への援助ですよ」
「分かりました!」
 
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3人が桜坂の家に戻ったのは、18時頃である。
 
「火傷は治してきました」
と青葉が言うので
「さすが青葉さん」
と幸花が言っている。
 
「河岸(かし)を変えましょう」
と神谷内は言い、7人(桜坂・神谷内・幸花・真珠・明恵・青葉・千里)はエスティマに乗って出掛ける。
 
「商売敵(しょうばいがたき)の店で悪いけど」
と言って、神谷内はレストラン・フレグランスにみんなを連れてきた。
 
「こんばんわー」
「ああ、お世話になります。お部屋ご案内しますね」
と言って、シェフの川口昇太が、7人を奥のパーティールームに案内した。神谷内は青葉たちが出ている間にここを予約していたのである。
 
「ここは井原さんの奧さんが働いているお店だ」
と桜坂が言う。
 
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「へー。今もおられました?」
「いえ、井原さんの奧さんは確かお昼過ぎくらいまでのはずです。でも親父が死んだ後、店がリニューアルオープンするまでは、井原さんの家は、奧さんの収入で生活していたんですよ。50歳過ぎると新しい仕事口なんて無いし」
「まあ、それぞれみんな生活は大変だよね」
「そうだね」
 

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すぐに食事が運び込まれてくる。運んできたのは遙佳である!手を振っている。
 
遙佳が手際よく配膳する。ここで桜坂はこの店のテーブルクロスに気付いた。
 
「このテーブルクロス摩擦が大きい」
「はい。S市は最近地震が多いので、地震で揺れても皿が落ちたりしないようにとこのテーブルクロスを導入しました」
「なるほどー」
「テーブル自体、下にダンバーを敷いて揺れにくくしています」
「あ、ほんとだ」
と桜坂はテーブルの下を覗き込んで言った。
 
「またテーブルの上でコップなどが倒れても液や汁が下にこぼれて、テーブルの下に避難した人に掛からないように、テーブルに縁(ふち)を取り付けています」
「凄い」
 
「おかげで19日の地震でも皿はひとつも落ちなかったんですよ」
「あの地震で落ちないって凄いね!」
「水を入れたガラスコップは倒れましたけどね。さすがにコップはどうにもなりません」
「でもガラスコップには冷たいものしか入れないね」
 
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「はい、熱いものがこぼれたら困りますが。料理は平皿ではなく深皿を使い、半分より上までは盛り付けないようにしています、スープ類は3分の1以下にしています」
 
桜坂は腕を組んで考え込んだ。
 
「でもこれ掃除するの大変じゃない?」
「普通のテーブルクロスみたいにテーブル拭きを横に滑らせて拭くことができないですよね。だから通常はアルコール入りのお掃除シートで押さえたり叩いたりして拭き取ります。汚れが酷い場合はいったん剥がして丸洗いです」
 
「なるほどー」
 
「掃除が大変でも、地震の時にお客様に怪我させてはいけないので」
「よく考えてるねー」
と桜坂は感心するように言った。
 

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遙佳が退出し、少し食事を食べてから、真珠は電子メモパッドを取り出す。
 
「1番目の問題はほぼ解決しました」
と言って、『1.火傷をした女の子の治療』という所を横線で消した。『補償』だけ残されている。
 
「2番、ローンの返済ですが、これは神谷内さんにお任せします」
と真珠は言う。
 
「桜坂、あの土地は売るしかないと思う」
と神谷内は言った。
 
これは神谷内にしか言えないことばであった。
 
「俺もそれは考えた。でも買ってくれる人いるかな」
と桜坂。
 
「あの土地は2000万の担保にしたけど、本当は1500万しか価値は無いと言ってたよな」
「うん。実際、あそこの固定資産税の支払いで計算されている評価額は1500万なんだよ」
「でも待っている間にあの付近の土地取引履歴を調べたら、800坪が1000万円で売れてる例があったぞ」
「ほんとに?」
 
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「800坪が1000万円で売れるなら、1500坪は1800-1900万で売れる可能性がある」
「そこまでの値段で売れたら残りは100万くらいか」
「そのくらい何とかしろよ」
「うん。どこかから借りられないか相談してみる」
 
「そして実は買い手のアテがあるんだよ」
「ほんとか?」
 
「まこちゃん、呼んできて」
「はい」
 
それで真珠がいったんパーティールームから出て、連れてきたのは薫・高の夫妻である。
 
「こんばんは。お初にお目に掛かります。市内で人形美術館という施設を運営しております、渡辺薫と申します」
と言って、薫は自分の名刺を出した(桜坂はずっと金沢に居たので薫たちを知らない)。
 
「実はこのレストランのオーナーご夫妻なんだよ」
と神谷内は言った。
 
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