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■春避(15)
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春貴は19日深夜(20日0:30頃)にGoogle Keepに宝くじのことをメモしておいたものの、その日はきれいに忘れていた。
春貴が宝くじのことを思い出したのは、6月24日(金)の練習の後で、松夜が
「あ、先生そういえば宝くじは当たりました?」
と訊いた時であった。
1等前後賞を当てて体育館を建てようなどと1ヶ月ほど前に言っていた。
「そういえば当選番号確認してなかった」
「何か毎回1等が当たってるのに引き換えに来ない人あるらしいですね」
「もったいないよね」
「1年くらいたったら無効になっちゃうんでしたっけ」
「そうそう1年以内に受け取らないといけない」
「1年と1日過ぎてから気付いたら悲惨ですね」
「全く気付かないならいいけど、それはあまりにも悲しいね」
それで春貴はその日の部活が終わった後、買物のついでに引き換えてこようと思い、パッソでマックスバリュに行った。お肉とか野菜とか買ってから、宝くじ売場で「これ引き換えお願いします」と言った。買った時のままの10枚パックをおばちゃんに渡した。
おばちゃんは、その宝くじを機械に掛けて・・・・
ギョッとしている。
「奧さん、これ高額当選してる」
「え〜〜!?」
「ここでは払い戻しできないから、みずほ銀行の富山支店か金沢支店に行ってください」
「分かりました!」
「これ絶対無くさないようにしてね。人が触れる場所には置かないように」
「はい。ちなみにいくら当たったんですか」
と春貴が尋ねると、売場のおばちゃんは紙に「1×」と書いて春貴に見せた。紙はすぐ丸めて捨ててしまう。
“×(ばつ)”何だろう?で実は外れ?
まさか。
あ?ローマ数字の“X”(10)で十万円?
だったら結構なボーナスだなあと思った。大会の度に、勝ったらお祝い、負けたらやけ食いというので、毎回数千円掛かって結構資金的には辛いし。10万円くらいもらったら、この後、地域リーグとウィンターカップ予選くらいまで生徒たちにおごってあげられる程度の資金になるかもなどと春貴は思った。
でも金沢か富山って、どうしよう?銀行は平日しか開いてないし。
でも春貴はすぐに気がついた。
夏休みになってから有休もらって取りに行けばいい!
ということで、春貴は学校が夏休みになってから取りに行くことにしたのである。
6月25-26日(土日).
3年生の希望者を対象に実力テスト(業者テスト)が行われた。金沢の私立狙いで、あわよくば国公立と思っている舞花はもちろん受けた。また自分が入れる大学があるとは思えないものの、親から言われた愛佳も一応受けた。結果は半月程度で通知されるはずである。
6月25日(土).
春貴がアパートで朝御飯を食べていたら千里さんから電話が掛かってくる。
「春貴ちゃん、ごめーん。人形の移動の時にキャラバンを借りたまま返してなくて」
「いえ、そもそも千里さんのですし」
「でも貸してたものだから。実はあの晩、荷物移動に使った後、どこに行ったか分からなくなってて」(*24)
は?
「やっと見付けたから今日中にそちらに持って行くね」
(*24) あの日最後にキャラバンを使ったのは広沢である。4人の男の娘を七尾・氷見に送っていった。
つまり広沢が怪しい。
でもさすがの千里もあの時誰がどの車を運転したかは覚えていなかった。
ちなみに見付けてくれたのは、物探しのうまい大裳(たいちゃん)である。
春貴は考えた。
「その件も含めて少しご相談したいことがあるんですが」
「うん。いいよ。じゃ車どこに持って行こうか」
「今どこにおられます?」
「実は各務原(かかみがはら)市内なんだよ。東海北陸道・能越道を走って(*25) 多分そちらに3時間くらいで行けると思う」
随分遠くまで行ってたな。
(*25) 各務原市は岐阜市の南東にある市で東海北陸道が通っている。小矢部砺波JCT(北陸道との交点)を直進すると、東海北陸道から能越道にそのまま入れる。H南高校や春貴のアパートに行くには能越道の氷見南ICで降りる。
「じゃお昼くらいに高岡市内とかで会いません?」
「OKOK。じゃ青葉の家で会わない?」
「あ、はい。いいですけどお邪魔じゃないですかね」
「全然問題無い。あ、そうだ。青葉の新しい家知ってる?」
「あれ?引っ越したんですか」
「昨年10月にね。住所と緯度経度をそちらにメールするよ」
「ありがとうございます」
「○○小学校の隣だから、その案内板を頼りにするといいよ」
「へー」
それでこの日のお昼頃に高岡市伏木の青葉の新居で会うことにした。
春貴はお土産にミスドを20個買って持って行った。
春貴は「まだ早いかなぁ」と思いながら、11時半頃に青葉宅に到達する。物凄く大きな家なのでびっくりした。母屋が平屋建てだが、かなり広い面積を取っている。部屋が10個まくらいありそうだ。
それに隣接して背の高い倉庫のような建物があり、その先には離れのような建物もある。その離れはお隣さんの家の裏手に位置している。恐らく奥まった場所にあり、再建不可物件だったのを買い取り、ひとつの筆にまとめることで再建可能にしてそこにも建物を建てたのだろう。
(再掲?)青葉宅の見取図。以前と違う気がしたら気のせいかも?
駐車場も広い。7-8台泊められそうと思った。そこに既にキャラバンが駐まっているので「ありゃ〜、遅れたか」と思った。バックで駐車場に駐めようとしたら、千里さんが出て来て「ここは突っ込んで駐めて」と言うので、突っ込んで駐めさせてもらった。
「バックで駐められると、車に見詰められる感じになるから、突っ込み駐車推奨」
「なるほどー。でも遅くなって済みません」
「いや、約束は12時だったからね」
「あ、これお土産です」
「気にしなくていいのに」
でもドーナツを見て4〜5歳くらいの女の子が2人歓声を挙げていた。
素敵なサンルームに通される。春貴も顔を記憶していた青葉のお母さんがコーヒーとドーナツを持ってくる。
「おもたせで失礼します」
「いえ。コーヒーありがとうございます。それと青葉ちゃん、メダルおめでとうございます」
「電話で話したけど、やはりぐいぐい後ろから追われてる感じだって。それで1500mは落としたけど、800mで奮起して何とか勝てたとか。でも来年の福岡世界水泳くらいで引退するかもと言ってました」
「まだまだ若いのに」
「忙しすぎて疲れてるんじゃないかという気がする」
「忙しすぎますよね!」
ごゆっくり、と言って青葉のお母さんは下がる。
それで春貴は千里と話した。
「実は部員が増えて14人になって、キャラバンに乗り切れなくなったんですよ。体育館については、ファイアー・バードを貸して頂いたので、歩いて練習に行けるから普段の練習は何とかなるんですが、休日の大会とかは部員の保護者に協力を求めていくつかの車に分乗して移動しようかと思ってるんですけどね」
「ああ、だったら今度はマイクロバスを貸そうか?」
「借りられるんですか?」
「ほんとに色々な車があって、置き場所のやりくりには困ってるから、預かってもらえたら助かる」
「でもまだ大型免許を取ってないから、取りに行かなきゃと思ってるんですよね」
「元々夏休みくらいに大型取りに行くと言ってたよね」
「はい、そのつもりでしたがもっと早めることにします。部活が18時で終わるからその後自動車学校に通うつもりです」
「一発試験受ければいいのに」
「さすがに通りません!」
「まあ、自動車学校で、みっちり鍛えられたほうがいいかもね」
「そう思います」
「夏休み中の部活は?」
「本当は大会に出る場合を除いて週1回まで、夏休み40日間に最大4日なんですけど、インターハイ予選で3位になって北信越大会で1勝したから、特例で週2回まで、40日間に最大10日まで認められました。それで計画表を出しました。基本的には火金に練習する線で」
「部活の日は朝から晩まで?」
「いえ1日3時間maxです」
「それでも普段の部活より時間が長かったりして」
「そうなんですよ!普段は2時間弱ですからね」
「それでご相談したいことがあって」
「うん」
「先日ちょっと練習試合をしたら、相手チームがシューターの美奈子にダブルチーム掛けて来たんですよ」
「あの子は筋がいいからね。掛けたくなるだろうね」
「千里さん、優秀なシューターでしょう?中学高校の時とかにダブルチーム掛けられたりしませんでした?」
「掛けらけたけど、うちには強力なセンター(留美子)がいたからね。私にダブルチーム掛けると、そちらにどんどん点数を取られる」
「ああ」
「ある時期はもうひとりシューターがいた年もあって、この年は私をガードしてても、もうひとりにやられていた。私ほどの確率は無かったけどね」
「つまり、そのシューター以外にも得点源が居ると、この作戦は使えないんですね」
「そういうこと。これはシューターに限らず、たとえば外人さんのセンターがいるような場合にも、ダブルチーム掛けてくる対戦相手はいるけど、その人だけを押さえても、他で得点されると結局ダブルチームという作戦は機能しないんだよ」
「なるほど」
千里さんに最近の練習風景を撮影したビデオを見てもらった。
「かなり人数が増えたね」
「今14人なんです」
「あれ?晃ちゃんと河世ちゃんは?」
「今男子バスケ部に留学中なんですよ。ペネトレイト(*26)の技術を鍛えるために」
「へー」
「代わりに初心者の男子2人を引き受けてるんですけどね。女子バスケ部はひたすら基礎練習してるから、こちらで少し基礎を鍛えたほうがいいだろうというので」
「ああ、この子と・・・この子か」
「そうなんですよ」
(*26) ペネトレイトとは、相手の守備を突破してゴール近くのエリア(インサイド)に進入すること。特にドリブルしながら中に進入してシュートを狙うのはドライブインという。それ以外にも、中に進入してパスを受けて近くからシュートしたりする。
H南高校女子バスケット部の現在のゲームスタイルは、中に入って行く技術や運動能力が無いので、開き直ってそういう攻撃方法は捨てて、ひたすら外側からミドルシュートでゴールを狙う遠隔攻撃法である。シュートの精度が鍵となる。下位では結構勝てるが、強いチームにはほぼ歯が立たない。
「この男子2人は体格も華奢だし、この身体で男子の練習に参加させるのは危険でもあると思う」
「体格や運動能力はあまり無いけど、バスケが好きなんでしょうね。彼らはボールを10m投げられないです」
「男子として通用するようになるには3〜4年掛かるなあ」
「かも知れません」
「この子たち、いっそ女の子に変えてあげようか?女子なら1年でものになる。今の基準だと1年間女性ホルモン優位なら女子の試合に出られるよ」
「女の子になっちゃったら泣きそうな気がします」
「ちょっとちんちん取ってあげるたけなのに」
「あまり余計な親切はしないようにしましょう。女の子ってお金かかるし」
「確かに掛かるよね」
そんなことを言いながら千里さんは少し考えていたが
「今度一度、こないだボランティアに来てくれた中で、愛佳ちゃん、舞花ちゃん、晃ちゃんの3人に会わせてくれない?8月くらいまでに。別に晃ちゃんを女の子に変えちゃったりはしないから。ちょっと気になることがあって」
と言った。
「はい。勝手に性別を変えたり去勢したりしないのなら(←警戒している)、いつでも千里さんのご都合のいい時に」
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