[携帯Top] [文字サイズ]
■春避(14)
[*
前p 0
目次 #
次p]
その日、春貴が3時間目の授業を始めようとした時、ガタガタっと結構な揺れがあった。
「揺れたね」
「震度3くらいですね」
などと言っていた時、校庭の方で何か物凄い音がする。
「何?」
と言って窓の外を見る。生徒たちも席を立って窓の所に来る。
「あ、茶道教室が潰れてる」
「今の地震で潰れたのかな」
「でも建物が潰れるような揺れだった?」
「だってあの教室、かなり老朽化してたもん」
「シロアリとかにでもやられていたかもよ」
ということで校庭の隅に建っていた茶道教室が潰れていた。この教室は多分昭和30年頃に建てたものではないかという話だった。つまり70年近く経っている。中は4畳半2間で、片方を茶室、片方を更衣室として使用していた。
茶道部の部長が
「お稽古場所が無くなった!」
と嘆いていた(当面被服室を使わせてもらえることになった:手芸部と同居)。
しかし、老朽化していたとはいえ一応在来工法で建てられた茶道教室があの程度の地震で崩壊するなら、旧美術室も、クレーン事故で壊れていなかったら今回の地震で壊れていたかも、と春貴は思った。
晃はその日の4時間目が体育だった。晃がいつものように男子更衣室に行き着替えようとしたら、何かざわめきがある。
何だろう?と思っていたら、体育委員の原崎君とクラス委員の須川君が顔を見合わせるようにしてから晃の所に来て言った。
「高田さんはこちらのホワイトボードの後ろで着替えて」
と言って、更衣室内に置かれているホワイトボードを隅の方に移動し、その後ろに連れて行かれた。
「ここで着替えるの?」
「そそ。取り敢えずの処置」
「高田さんの着替え場所については改めて先生と話し合う」
なんで話が必要なのだろう?と思ったが晃は素直にそこで着替えた。
横田先生は春貴に提案した。
「思ったんですけど、女子部員でフィジカルに強い子を、男子部にしばらく留学させません?」
「留学ですか!」
「あの子たちはもっと強い選手の中で揉まれると、もっと進化すると思うんですよ。金曜日の男女対抗戦など見てても、この子たちがもっと強くなれば強豪相手の試合でも、結構、中(なか)で勝負できると思いましたよ」
「それはいいですね。ぜひお願いします」
それで春貴は本人たちとも話した上で、河世と晃のふたりを取り敢えず1学期の終わりまで約1ヶ月、男子バスケット部に留学させることにした。梨央と秋奈は、まだ当面は基礎練習を続けさせたほうが良いと判断した。
晃と河世の代わりに?1年生男子2人(青木海里・湖中弓樹)を女子部でしばらく預かることになった!この子たちはバスケット初心者なので、基礎的な練習をひたすらやっている女子部の練習に参加させたほうが伸びるという判断だった。
「あのぉ、性転換手術受けて女子部に入れと言われたんですが、性転換手術とか受けないといけませんか?」
とふたりは、期待するような顔で?尋ねた。
「別に手術とかしなくてもいいよ。女子部はひたすら基礎練習やってるから、それに参加してもらうだけだよ」
と愛佳は言った。
「良かったぁ」
とふたりは、がっかりしたように!?答えた。
実は性転換手術受けたかった?
2人はまだ身体ができてない。結構華奢な体付きである。この身体で男子の練習に参加するのは辛いだろう。この2人、わりと顔も可愛い。女装が似合いそう!と愛佳は思った。
「でも女子部に留学している間は女子制服を着て女子トイレ使ってね」
「え〜〜〜!?」
と言って嬉しそうな顔?
「ま。希望すればだけど」
「希望しません!」
といいながらも、ドキドキした顔をしている。ああ、妄想してるなと思った。
女子部員たちはフラミンゴ2階の控室と付属トイレを使っていたが、彼らはピーコック2階で男子たちと一緒に着替え、その後フラミンゴに練習に来た。河世と晃は逆に、フラミンゴの2階控室で着替えてから、ピーコックに練習に行った。
なお男子から女子部に留学してきた2人には、男子の練習用ユニフォームに18,19の背番号をつけてあげた。男子の方では試合に出ることはないので、背番号はもらっていない。青木海里(かいり)には“マリン”、湖中弓樹(ゆうき)には“ユミ”というコートネームも付けて揚げた。
「なんか女の子の名前っぽいんですが」
と2人。むろんわざと女らしいコートネームを付けた。
「もし性転換したらそれを本名にするといいよ」
「どうしよう?」
「性別を変更して女子バスケ部に完全移籍するなら、その背番号あげるね」
「性別変更ですか・・・」
と2人は悩んでいるようだった!
(やはり性別変更したい?)
なお、柔軟体操は、海里君と弓樹君の2人でしていた。男子部に留学している河世と晃はその2人で組んで柔軟体操していた(*21).
(*21) 河世は、晃は半分女の子のようなものと思っていたので、彼と組んで柔軟体操をすることにはほぼ抵抗を感じなかった。むしろ実際に組んでみて、彼の身体がかなり女の子に近い感触なので、やはり女性ホルモンとか飲んでるのかなあなどと思った。おっぱいもあるし。どさくさまぎれに触ってみたらBカップくらいありそうだった。
晃はほとんどの女子部員に“女の子になりたい子”だと思われている。
晃は先月までは姉の舞花と組んで柔軟体操をしていた。日和が加入した後は彼と組んだが、日和は普通の女の子の感触なので、かえって緊張した。河世は女子の中ではわりと男っぽい雰囲気があるので、あまり緊張しなかった。彼女が普通に晃の背中を押してくれてブラのバックベルトの所にも触られるのでこちらも彼女のブラのバックベルトに手が掛かることは気にせず彼女の背中を押していた。
なお、晃がこちらに留学した後、日和は舞花と組んで柔軟体操をしているが、舞花は日和の身体に触ったら、彼が既にほぼ女の子の身体になっていることを感じた。彼が女の子下着を着けてるなあというのは以前から思っていたが、身体の感触は華奢な女の子そのものである。女の子のように柔らかい感触だし、胸も微かに膨らんでいる気がするし。
『この子、きっと既にちんちんも無いのでは』
と舞花は思った。
「ほんとにちんちんが無くなったみたい」
と晃はその日お風呂に入って身体を洗いながら思った。
“豊かなバスト”を洗うのも、くすぐったいし、何も無いお股を洗うと本当に女の子になっちゃったみたいに感じる。普通の女の子との違いはこの“閉じ目”が“割れ目”とは違って開けないことである。
でも“内部”には向こう側から指を入れることができて確かにペニスが存在していることを確認できる。晃はそこにシャワーを当ててよく洗った。
翌日(6/21)の朝、ワイシャツはもう乾いていた。それで今日はブラウスを着ていく理由が無いし、仕方ないからワイシャツを着て登校しようと思った。ところが、ワイシャツはボタンが留められなかった。
Bカップの胸がワイシャツに収まる訳が無い!
それで
「入らなきゃ仕方ないよね。今日もブラウス着ていくか」
と思ってブラウスを着て、W66の女子用スラックスを穿いた。
ヒゲも伸びていなかったので特に剃らなかった。
これ以降、晃は毎日ブラウスで登校した、この学校では女子のスラックスも制服として認められているので、これ以降、晃は実は女子制服で登校するようになったことになる。
また晃はこれ以降、一度もヒゲを剃る必要は無かったし、足のむだ毛も処理する必要は無かった。
「最近ヒゲを剃らなくて済む。何でか知らないけど楽だなあ」
と思った。
また、晃はこれまで音楽の時間にアルトで歌っていたのだが
「高田さん、結構高い声が出てるね」
と言われ、音楽の時間にピアノ担当をしている由香ちゃんが晃の声域を確認してくれた。すると、下はF3から上はC6まで、2オクターブ半出ていることが判明した。
「声域広〜い」
「完全にソプラノだね。合唱部の子でもHigh-Cが出る子は少ないよ」
「バスケ部に入ってなかったら合唱部に勧誘したい」
と言われ、アルトからソプラノに移動になった。晃は音感がいいし(*23) 声量があるから後ろのほうの席で歌ってと言われ、ソプラノ最後列の右から2番目の位置で歌うことになった。
「周囲女の子ばかりで恥ずかしい」
などと言う。実はこれまではアルトの席の端の、テノールとの境界の席に座っていたのである。
「高田さんも女の子だから問題無い」
「ぼく男の子だけど」
「だって女子制服着てるじゃん」
「え?これワイシャツの胸の付近のボタンが留まらないからお姉ちゃんのブラウス借りてきてるだけだよ」
そりゃその胸がワイシャツに収まるわけ無い。
「ズボンも女子のスラックスだし」
「なんか今まで穿いてたW76のズボンがヒップがつかえて入らなくて、お姉ちゃんからもらったW66のズボンは入ったからそれを穿いてるだけなんだけどね」
つまり女子制服じゃんと、クラスの女子たちは思ったが、この日は敢えて突っ込まなかった。しかも晃がズボンを穿いたシルエットではお股の所がスッキリしていて何の膨らみも見られないのである。つまり女子の形である!
美奈子(女子バスケ部)が笑いを堪えて苦しそうにしていた!
「76が入らないのに66が入るって不思議なんだけど」
と本人は言っている。
「女子用と男子用では“ウェスト”の計測位置が違うから」(*22)
「あ、そうなんだ!」
女子と男子で体型も違うからねと思ったが、女子たちはこの日は突っ込まなかった。
(*22) 男性用のズボンのウェストの測り方は実は難しい。要するにそのズボンのベルトを締める位置のサイズを計る必要がある。そのため股上の長さによってもウェストサイズは異なる。一般に学生ズボンや紳士用スーツのズボンでは腰に引っ掛けるようにして穿くので、腰骨のすぐ上、だいたいおへその位置で測ることが多い。
これに対して女子用のパンツ・スラックス類は、ウェストのくびれの最も細い所で測る。これは概して男子のウォストより高い位置である。
女子のウェストがそもそも高い位置にあり、また女子用パンツのファスナーは男子用のものより短いことが多いため、女子用パンツを穿いていると、男性固有の排尿器官を前開きから出すのが困難である場合も多い。
ウェストのくびれの無い女子は、もしくびれが存在したらこの付近かもと思うあたりで測る(*_*)\バキッ☆ 晃のような男の娘の多くは女子同様のくびれを持つので、そこで女子用パンツのウェストを合わせることができる。
(*23) ピアノを習っているからだと思う。毎週水曜日の19時からレッスンに行っている(高校生以上のクラス)。19時からだから部活とも両立できる。水曜日は母がファイアーバードまで迎えに来てくれて、舞花と晃で一緒に教室に行く。
ピアノは元々舞花が習っていたのだが、自分も習いたいと言って一緒に習いに行くようになった。毎年1度の発表会では、いつも姉と連弾している。概ね姉のお下がりのドレスを着せられている!
ちなみに母は、晃がドレスを着ているのを見て、そういうのが好きなのだろうと思っている。母は晃のことを“よく”理解している!
ピアノは母も結構弾く。父も流行歌の伴奏程度はできる。この家の食卓にはよく1990-2000年代のポップスやロックが流れている。でも舞花のリクエストでClariS, BABYMETAL, Avril Lavigne なども流れている。2人の弟たちはピアノには関心が無いようである。上の弟・茂之(中3)はギターを覚えたいと言って、ヤマハのFGを買ってもらい練習している。
女子バスケ部では、来月の地区リーグに向けて、運営の練習も進めた。4月入部の4人にはテーブルオフィシャルの練習を本格的にさせる。残りのメンバーで紅白戦をして、そのタイムキープやスコア付けをさせた。スコアは3年生も付けていて、そちらと照合し、どこで間違ったかを検討する。
新規加入の内、即戦力ではない弘絵と一恵、それに男子部からの留学生2人には、モッパー(コートキーパー)の練習をさせる。実際にモッパーが仕事をしている所をビデオで見せて、モッパーがいつ何をしなければならないかを教える。4人のモッパーがきれいに並んで掃除をし、最後ピタリと真ん中で出会うシーンは「何て美しい」と感動していたが「自分たちにできるかなあ」と不安がっていた。
「たくさん練習すればできる」
と言って、毎日練習の最後にもやらせていた。
「でもこれきついです」
「うん。モッパーは実は重労働なのだよ」
「でも女子の試合のコートキーパーを僕たちもしていいんですか」
と青木君が尋ねたが
「それは主催高(高岡T高校)に確認して女子バスケ部の部員であれば性別は問わないということになってるから」
「ぼくたち女子バスケット部の部員になってるんですか」
「ちゃんと名簿に登録しているから間違いない」
「え〜〜!?」
「マリちゃんはマネージャー、ユミちゃんはトレーナーとして登録するからちゃんとベンチにも座れるし会場にも入場できる」
と愛佳は答える。
「選手じゃなければ良かった」
(↑晃と日和は選手登録する気満々)
ちなみにこの2人にテーブルオフィシャルの練習まではさせていないのは、彼らには女子制服を着せる訳にはいかないからである。本人たちはもしかしたら着たいかも知れないが?むろん男子制服でTO席に座っても何も問題無いが「美しくない」と舞花も愛佳も思っている。つまり地区リーグで晃には一貫して女子制服を着せるつもりである!
日和は本人が希望すれば女子制服を着せてあげてもいいと思っているが、彼女(彼??)の場合はまだルールを把握してないからテーブルオフィシャルの仕事は困難である。来年かなあと思っている。
でもこの子、きっと女子制服くらい自分で持ってるよね?
[*
前p 0
目次 #
次p]
春避(14)