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■春避(7)
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そこで目が覚めた。
「夢かあ!」
しかし荒唐無稽な夢だったなあと晃は思った。去勢して女子の試合に出るとか無茶苦茶だよ、と思う。それで辻褄合わせで女子生徒になるとか。
やはり昨日の女子制服体験が結構刺激的だったんだろうなと晃は思った。
取り敢えずトイレに行くことにするが、自分がスカートを穿いたまま寝ていたことに気付く。着替えなきゃ・・・と思ったが、面倒なのでいいことにした!
時刻はまだ5時半である。日曜だから、多分まだ誰も起きてない。
それで1階に降りて、トイレに行く。思った通り、居間には誰もいない。おかげでスカート姿を誰にも見られなくて済む。
赤いドアの個室トイレに入り、便器のふたを開け、後ろ向きになってスカートをめくり、ショーツを下げて便座に座る。おしっこを出す。
え!?
おしっこが思わぬ所から出て来たのである。
お股を見て、ちんちんが無くなっていることに気付く。ぼく女の子になっちゃった?と思ったが、これは夢の中(←本当に夢か?)で姉が言っていた“タップ”?であることに気付く。その証拠に割れ目ちゃんは開けなくて接着されている。その状態だから、おしっこはこんなに後ろの方から出るんだ!
でもなんでタップ(?)されてるの〜?あれは夢の中だったはずなのに。
トイレのドアがノックされる。
「晃?まだぁ?」
という姉の声である。嘘!?もう起きてきた?えーん。スカート姿見られちゃう、と思ったけど、姉ならいいかと思う(*7).
「ごめーん」
と言って、晃はおしっこの出て来た所を手を伸ばして拭き、立ち上がりながらショーツを穿き、スカートの乱れを直した。ふたを閉めてトイレを流す。手を洗ってから外に出た。
「お待たせ」
「うん」
晃がトイレを出ると、姉がいきなり晃のおっぱい?を揉んだ。
揉まれて少し痛かったので「きゃっ」と小さな声を挙げてしまった。
「おっぱい、よく育ってるね。ちゃんとブラ着けときなよ」
と言って、姉はトイレの中に消えた。
スカート穿いてることは何も言われなかったけど・・・
おっぱい??
それで胸に触ってみると、“豊かなバスト”がある。
なんで?と思ったがすぐにこれは母に接着されたブレストフォームであることに思い至る。でもなぜ貼られてるの〜?あれは夢だったはずなのに。
取り敢えず両親や弟たちにスカート姿を見られないうちに2階にあがる。自分の部屋に入り、服を全部脱いでみた。
鏡に映してみると、そこにはごく普通の女子高生のヌードがあった。
まるで女の子になっちゃったみたい。
でもこれ偽装なんだよなぁ。凄いな。手術とかもせずにこんなボディラインが得られるなんて。さすがに女湯には入れないけどね。
といっても、男湯にも入れないぞ。困るなあと晃は思った。
結構寝汗を掻いていたので、ボディシートで全身を拭くそれからショーツを穿き、シャツを着ようとして
「ブラ着けたほうがいいかな」
と思い、衣裳ケースからブラジャーも出す。
「あれ?ブラが増えてる」
よく見ると新しいブラジャーが5枚あり、サイズを確認するとB70である。
「確かにこの胸はA65には収まらない」
それで母が買ってくれた?B70のブラジャーを着けた。肩紐を通して後ろ手でホックを留める。さんざん姉に練習させられたからスムースにできる。それから気分でアンダーシャツではなくキャミソールを着てスカートを穿こうとして、やはり恥ずかしい、と思い直す。
それでスリムジーンズを穿いた。ウェストゴムのストレッチジーンズ(前開き無し)なので、ビタリと身体にフィットするが、お股の所にはまるで何も無いかのようなシルエットである。
「タップって凄いなあ。でもなんでぼくタップされてるんだろう」
そんなことを考えながら、晃は下着の線が出にくい黒い半袖Tシャツを着た。
(下着の線は出なくても、バストラインが目立つと思いますが!?)
(*7)晃が小さい頃、家にはこの赤いドアの個室トイレしか無かった。弟が小学校に入った年に、弟たちの部屋が増築されて両親の部屋で寝ていた2人が各々部屋をもらったのと同時に、小便器付きのトイレも増設された。
(再掲)
元々のトイレはドアが赤くペイントされていたが“赤”に特に意味は無かった。隣の洗面台・兼・脱衣所を黄色くペイントしたので、何となくこちらは赤く塗っただけである。新しいトイレはドアを青くペイントしたが、こちらを使うのは主として男子という意味である。結果的に黄・赤・青という3つのドアが並んだ。
でも晃はそれまでの習慣から元からある赤いドアのトイレを使い続けた。それで家族の中に、赤と青の使い分けが生まれた。
赤:母・舞花・晃
青:父・茂之・涼太
結果的に3人ずつになり、トイレが混雑しにくいのである!
それで晃はあまり小便器を使う習慣が無い。座ってするほうが好きだったから、小便器トイレができてからも、晃はほとんどそちらは使っていない。立ったままするのは何だか野蛮な気がした。それで学校でもその延長で大抵個室を使用していた。だから友人たちも晃は個室を使うものと思っている。
それで晃が赤い個室のトイレに入るのは普通なのでそのことで興奮することはない。でもさすがにスカートを穿いて入るのはドキドキする。また個室トイレが塞がっていたら、遙佳から見ると、中に居るのは晃である可能性と母である可能性が半々である。それで「晃?まだ?」というセリフになった。
6月18-19日(土日).
千里3はバスケット女子日本代表のキャプテンとして、千葉ポートアリーナでトルコ遠征チームとの試合に臨んだ。
試合は18日が49-77, 19日が57-83で、いづれも日本が勝った。
・・・ということで、千里3は“18-19日には千葉”に居た。
6月19日(日)、S市。
その日は日曜なので、遙佳も歩夢も11時頃から、父のレストランのお手伝いに行った。お昼の混雑時間帯を何とか乗り切って14時を過ぎると少し落ち着く。人が少なくなってきたところで、遙佳のピアノと歩夢のフルートのセッションをした。
2人ともドレスを着たが、胸の上のほうが露出するタイプなので
「あゆ、お前まるでバストがあるみたいだな」
と言って、父が笑っていた。
「夏休みに性転換手術受けるか?」
などと父が(多分ジョークで)言うので歩夢は
「うん。手術して可愛い女の子に変身しちゃおうかな」
と明るーく答えていた。
遙佳は腕を組んでいた。
15:08.
最初に軽い揺れがある。
遙佳はピアノを中断した。歩夢もフルートをやめる。
続けて強い揺れがある。
「お客様!テーブルの下に隠れて下さい!」
と遙佳が大きな声で店内に叫ぶ。
お客さんは15-16人だったが、全員遙佳の声にすぐテーブルの下に入ってくれた。
歩夢はとても立っていられなくなる。遙佳が歩夢の身体を押し込むようにして2人でピアノの下に隠れた。
この日S市を襲った震度6の地震であった。
やがて揺れが収まる。
父が店内に向けて声を出した。
「お客様、お怪我はございませんか?」
客は全員テーブルの下から出て連れの人同士で身体に触ったりしている。遙佳・歩夢も店内を見て回った。
怪我している客は居ないようである。
「ご無事でしたら、お代は要りませんので、お気を付けてご帰宅下さい」
と父が言ったので、全員おそるおそる店を出る。お代は要らないと言っているのに、御札を数枚押しつけて退出した客も居た。
父は従業員たちにも、片付けは明日でいいから、帰宅するように言った。それで全員ユニフォームから通勤用の服に着替えて退出する。
従業員さんが着替えている間に、遙佳と歩夢は祖父と一緒に、テーブルの上の食器類を回収して洗い場に運んだ。ベテランスタッフの奥野さんも手伝ってくれた。
「奥野さんも早く帰ったほうがいいよ」
「うん、帰る」
と言って、彼女も更衣室に行く。
「しかしこの地震でもスープとかがこぼれてなかった」
グラスなどはさすがに倒れて水やジュースがテーブル上にこぼれているが、テーブルに縁があるので下には落ちていない。熱いスープ類はそもそもこぼれていなかった。ナイフやフォークも落ちていなかった。
「深い容器使ってるし、摩擦の大きなテーブルクロス使ってテーブルに縁も付けてたおかげだね」
「お客さんの少ない時間帯だったのも幸いした」
「お父さんもお祖父さんも大丈夫?」
「ガス器具は揺れを感知したら即ガスを遮断する仕様だしね。揚げ物は油を絶対鍋の3割以上は入れないようにしてるし。こちらは平気だけど、美術館が心配だ。お前たち向こうに行ってみてくれる?」
「うん」
それでレストランは父と祖父に任せ、遙佳と歩夢はドレスから普段着に着替えて、歩いて人形美術館の方に移動した。
美術館まで行くと、裏の崖が崩れて美術館が半分埋まっているので驚く。
「お祖母ちゃん、大丈夫?」
「遙佳かい?ドアが開かなくて出られない」
「お父ちゃん呼んで来るから待ってて」
と言って、遙佳は歩夢にここに居るように言い、走ってレストランまで戻る。遙佳が行くのは、遙佳の方が足が速いからである!
携帯は基地局がやられたようで圏外になっている。
それで父は祖父にレストランの留守番を頼み、車でいったん遙佳と一緒に家に戻る。そして自宅で斧を持って美術館に向かった(車を使わず手に斧を持って歩いていたら、きっと警察に捕まる)。美術館のドアを父が斧で破壊して、やっと祖母は外に出られるようになった。
「お人形さんたちは?」
「バルコニーから落ちた子はいるけど、概ね大丈夫っぽい気がする。マリアン(ウォーキング・ドール)は座り込んじゃったけど、怪我はしてないみたい。スイスイ1号(巡回ロボット)はスイッチを切った」
「でもよくこの建物自体が潰れなかったね」
と歩夢が言う。
父が言った。
「2月のバルコニー工事の時に、工務店さんが『壁が弱すぎるから強化します』と言って、鉄板で壁を補強していた。そのお陰だと思う」
「あ、それは私も少し思った」
「だったら、あの工事のお陰で、お祖母ちゃんもお人形さんたちも無事で済んだのね」
遙佳・歩夢は、父・祖母と一緒にいったん帰宅する。祖父は(多分)まだレストランの片付けをしている。
「取り敢えずお人形さんたち無事だったけど、この後、どうしよう」
と薫が悩んでいる。
「まずは人形をいったん全部運び出すべきだろうね」
と昇太は言う。
「賛成。この状態で雨でも降ったら、お人形たちずぶ濡れになって、ビスクドールの場合、取り返しの付かないダメージを受ける」
と遙佳も言う。
「きゃー!次、雨はいつ降るの?」
と祖母は狼狽している
「天気予報では今月いっぱいは晴れか曇。でも例年7月上旬には大雨が降る」
「今月中にどこかに人形たちを避難させなくては」
「しかしどこに?」
2月の工事の時は遙佳の通う高校が引き受けてくれたが、あれは1週間限定だったからである。行き先の当ての無い状態ではとても引き受けてもらえない。
この日の地震では、死者は出なかったものの、数人の軽症者が報告されている。また住宅の一部が崩壊したところ、家の塀が崩れた所などもあった。また市内のK神社では鳥居が倒壊している。
ライフラインなどは多くがすぐに復旧した。
※この物語はフィクションです。この日この時刻に震度6の地震があり鳥居が倒壊したのは事実ですが、その他の記述している内容はあくまで架空のものであり、現実の事象とは無関係です。
16時頃、家の電話が鳴る。
『北陸霊界探訪』のディレクター皆山幸花であった。
携帯はまだ回復してないのだが、家電(いえでん)は復旧しているようである。
「凄い地震でしたね。そちらお怪我とかはありませんでした?」
「誰も怪我はしてないのですが、実は美術館の裏の崖が崩れて、美術館が半分土砂に埋まってしまったんですよ」
「人形たちは?」
「全部確認はしてませんが、概ね無事なようです」
「良かった」
「2月にバルコニーの工事をした時に、金沢コイルさんお勧めの工務店さんが壁が弱すぎるといって強化工事をしてくださったので、そのお陰で建物自体は崩壊を免れて、そのお陰っぽいです。でも雨が降ったら雨漏りしそうだから、雨が降る前に人形をどこかに退避させないといけないのですが」
「取り敢えずそちらに行きます。今ちょうど能登空港に来ていたんですよ」
「ほんとですか!」
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