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■春避(10)

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作業は夕方までに完了した。
 
「皆さん、本当にありがとうございます」
と言って、珠望が
「これ少ないですけど」
と言って、お金を配ろうとしたが、全員が辞退した。
 
「こんなのお互い様、助け合いですよ」
と月見里公子(やまなし・きみこ/月見里姉)が言う。
 
「不謹慎だけど、タイムリミットのある中での作業でドキドキした」
とマリア。
 
「めったにできない体験ができたから、それが報酬ということでいいよね」
と美由紀。
 
それで報酬とかは無しということにした。
 
「みなさん、本当にありがとうございます」
 
「まあ、御飯食べて解散しよう」
と千里が言って、朱雀林業のスタッフがみんなにトレイに載った食事を配るので、それを食べる。
 
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遙佳がS市で有名なロールケーキ屋さんのロールケーキを配ったのは全員受け取った。実は小杉が美術館の点検をした後、高と一緒にお店に行き、買ってきておいたものである。だから実はお金は高が出している。
 
小杉は昨日の夕方も、S市到着直後、千里の指示でお店に残っていたロールケーキを全部買ってきていた。お店はドアを閉めていたのだが、中に居る人に「ボランティアの人たちにお礼に渡すのに在庫を全部欲しい」と言うと、売ってくれた。そして明日もまた来ると言って予約していたので、作ってくれていたのである。
 
星子が持って行ったのは、昨日買っておいた分である。実は鈴子には渡し損ねていた。鈴子が出発した時刻には千里も小杉も居なかったためである。昨日買った分のお金は千里が出していたのだが、今朝話を聞いた高がその分も出してくれた。
 
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薫・珠望・遙佳はインサイトに乗り、星子が運転してS市に帰って行った。星子は特急バスで金沢に戻る(ということにしておいて実際は飛んで帰還した。飛んで帰ることはちゃんと千里の許可を取っているし、そのため飛翔能力の高い星子がS市に行った)。
 
エスティマは神谷内・幸花・初海・美由紀・世梨奈・月見里姉妹の7人が乗り、コリンが運転して金沢に向かった。
 
「君たちは私が送るね」
と千里は言って、XC-40に明恵・真珠を乗せて金沢に向かった。
 
「お前らは俺が送るな」
と広沢が言い、キャラバンに、マリア・ルチカ・エリザ・アリス、の4人を乗せて送っていった。男の娘4人組は春貴の車に同乗してきたので、七尾と氷見に自分たちのバイクを駐めていた。
 
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「なんか女の子たちとぼくたちって待遇が違う気がする」
「チンコ付いてる奴は適当でいいんじゃね?」
などと広沢は言っていた。
 
「子宮とかヴァギナの有無じゃなくて、ちんちんの有無なんですか?」
「俺はチンコ無ければ女に分類していい。チンコ無かったら穴まで無くても何とかスマタで逝ける。でもチンコ付いてたら冷めてしまう」
「マナさんの趣味も微妙ですね!」
 

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6月21日(火).
 
2日連続の大地震の後、川口昇太は、今日はもう地震無いよな?と思いながらレストランを開ける準備をしていたが、お菓子担当の井原さんが来ていないことに気付いた。
 
「井原さん、お休みかな?地震で大変だったのかな。誰か聞いてない?」
 
すると、同じお菓子担当の高野さんが答えた。
 
「井原さん、御主人が午前4時頃、救急車で運ばれたらしいんです。それで病院で付いてるから、今日は休みたいと店長に伝えてと言われました」
 
「ありゃ。病気か何かかね」
 
コロナじゃないよな?と、昇太は個人的にはそちらを心配した。
 

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この日は10:42に小さな地震がありり、ビクッとしたものの、大した揺れではなかったのでホッとした。
 
17時頃、井原さん本人から連絡があった。
 
「夫が亡くなりました。申し訳ありませんが、一週間お休み下さい」
「何と!ご病気?」
 
と言いつつ、コロナを心配する。コロナであったら、この店も数日休業の必要が出る。
 
「はい。心臓に穴が空いていたとかで、早朝トイレに行った時、大きな音がするので行ってみたら夫が倒れていて、苦しいと言って立てないようなので、救急車を呼んて、夜間担当の先生が見て下さったのですが『専門医でないと判断できない』と言って、早朝なのに循環器科の先生が来てくださったのですが、手の施しようがないと言われて、8時半頃死亡が確認されました」
 
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その後、丸一日あちこちと連絡を取っていたのだろう。
 
「それは何と言ったらいいか」
 
「今日お通夜をして明日葬儀の予定です」
「だったら、僕も行くよ。どこでお通夜するの?」
「“夢の国”会館で。19時からの予定です。コロナの折なので、お通夜自体は親族のみでおこないます。それで来てくださるかたは大変申し訳ないのですが、受付だけで」
 
「分かった。それでいいよ。とにかくお休みは一週間あげるから」
「ありがとうございます」
 

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それで昇太は、まず義父の高に連絡し、自分は通夜に行かなければならないので、レストランのシェフ代理を頼むというのと、一緒に不祝儀袋と喪服を持って来てほしいと頼んだ。
 
それで高が来たところで、喪服に着替えて夢の国会館に向かった。そして受付の所で、香典を渡し、会葬御礼をもらって、いったん帰宅した。
 

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遙佳に塩を振ってもらい、家の中に入る。喪服から普通の服に着替えた。そして昇太は、遙佳と歩夢を呼ぶと言った。
 
「悪いけど、一週間か10日くらい、お前たち2人で、井原さん系のスポンジケーキ作ってくれない?手間賃50個で2000円払うから」
 
ケーキ担当は、井原さんがスポンジケーキ、鷹野さんがムースケーキだった。
 
昇太は、遙佳の製菓技術が売り物にして良いレベルに達しているのを知っていたので、頼んでみた。歩夢も充分手伝いになるだろう。
 
「2000円かぁ。もう一声」
「じゃ完成した個数×50円」
「分かった。やる」
 
そして昇太と遙佳の2人でレストランに向い、20時頃、昇太は義父と交替する。
 
「助かった!やはりひとりでやるのは辛い。火の通り加減とかは、菅原さんに確認してもらいながら調理したよ」
と高は言っていた。
 
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遙佳はスポンジケーキ用の製菓材料と道具を持ち、祖父と一緒に帰宅した。そして歩夢と2人でそれから2時間ほど掛けてスポンジケーキを焼き、祖父に監修してもらって、60個ほどの各種ケーキを制作した。
 
「お姉ちゃん、これ毎日作るの?」
「ケーキ作りのうまい女の子は男の子にもてるよ」
「そうかなあ」
「男の娘にももてたりして」
「そっちがもてるかも!」
 
この日のケーキは、父の目で検査され54個が合格とされて、2700円もらった。遙佳は歩夢に半分渡した。
 
不合格になったケーキは家族で食べた。母は「よくできてるのに」と言っていたが、プロの目で見るとお客さんに出すには微妙だったのだろう。しかし9割合格したのは遙佳の技術が高いことを示している。翌日は60個の内57個が合格した。翌々日は59個合格した。
 
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「あゆ、これ5年間続けたら100万円くらいになって、18歳になった頃には、性転換手術受けられるよ」
と遙佳は言った。
 
遙佳の計算はおかしい。1350×365.25×5=2,465,437 なので240万貯まるはず。遙佳は多分“およその計算”が苦手なのかも。
 
およそで計算すると 0.13万×300≒40万 だから 40×2.5=100 で、2年半せずに100万貯まるな、という概算ができる。算数のできる人なら3-4秒でできる暗算である。
 
「性転換手術かぁ・・・」
と言って、歩夢があまり気のない様子なので、遙佳は
『手術受けなくてもいいの?』
と疑問を感じた。
 

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6月21日(火)(井原さんが倒れた日)の夕方、川口家では、薫が美術館再建の方法で悩んでいた。
 
「この後、人形美術館、どうしよう?」
 
遙佳が言う。
「提案その1。どこかに新しい土地を買って、そこに新しい美術館を建てて引っ越す」
 
「でも土地を買うお金と、美術館を建てるお金が」
 
これが多分最も“あるべき道”だけど、問題は資金だ。最低5000-6000万は掛かる。67歳の祖母に銀行はそんなに貸してくれないだろう。
 
「提案その2。どこかに寄贈する」
「それは嫌だ。それにこれだけ大量の人形を引き受けられる人は居ない」
 
現時点ではいちばん可能性の高い道だけど、実際はそんなことしたら、祖母は生き甲斐を失って死んじゃうだろうなと遙佳は思った。
 
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「提案その3。あそこを頑張って土砂を取り除き、後ろの崖の強化工事をした上であの場所に建て直す」
 
「それ物凄いお金が掛かるし、崖とかはよその人のものだから勝手に工事できない」
と珠望が言う。
 
確かにこの方法は軽く1〜2億円吹き飛びそうだ。まだ1番目の方が現実的だと遙佳は我ながら思った。
 

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「あの土地の固定資産税とかはどうなるのかな?」
と珠望はふと疑問を感じて言った。
 
高が答える。
「普通に税金は毎年掛かる」
 
「土砂に埋もれてても!?」
 
「これが海の傍の崖の上とかの土地で、地震や台風で崩れて、土地として消滅した場合は滅失登記することで土地の権利が無くなるのと同時に固定資産税も掛からなくなる。でも土砂で埋もれた場合は、埋もれていても、土地としては存在している。だから滅失はできないし、固定資産税は掛かる」
 
「ひっどーい。それ、土地を放棄するとか、国とかに寄付とかできないの?」
と薫。
 
「日本の法律には、土地の権利を放棄するという仕組みは存在しない。寄付は国や自治体が有用と認めた土地なら可能だけど、崖崩れで埋もれた土地に国や自治体が価値を見いだすとは思えない」
 
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「そんなぁ」
「だから北海道の昭和新山なんて、畑が突然山になっちゃったから、畑を所有していた人は、ひたすら昭和新山の固定資産税を払い続けた」
 
「国って血も涙も無いの?」
 
「でもどう考えても土地の評価額は低くなるから、固定資産税も安くなると思うよ、たぶん」
と高は希望的観測で付け加えた。
 
「あと、崩れた崖の所有者に、崖が崩れたのは土地の管理をきちんとしてなかったからだと言って損害賠償を求めて民事訴訟を起こす手はある」
 
「あそこ県会議員のNさんの土地だよ。県議さんと喧嘩できないよぉ」
 

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などと言っていたのだが、そのN県議が翌日(6/22 Wed)、川口家にやってきた。
 
大きな被害の出た自分の地盤S市であちこち御見舞いに顔を出し、市長とも緊急会談して、復旧や被害救済の話をしたようだが、その中で川口家も訪問したのである。
 
県議さんは崖崩れで美術館が埋もれてしまったことを陳謝した。
 
「すぐ来れなくて申し訳ありません」
「いえ。お忙しいし」
 
「中に貴重な美術品とかが入ってませんでした?」
「19日の地震の後で、知人が20人くらい手伝ってくれて、その日の内に中の物を全部運び出したんです。それで20日の地震でやられたのは、建物と、人形を飾ったり観賞したりするための、台とガラスケースとか、カーペットの類い、それに照明やエアコン設備とかですね」
 
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エアコン設備の取り外しは、それをすることで建物の崩壊を招くかもということで、敢えて触らなかったのである。
 
「美術品が無事だったのは幸いでした」
 

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それで県議さんは良かったら美術館の建物が建っていた土地を自分が買い取るとともに、建物の損害賠償もしたいと言った。この金額は、話し合いの結果、駐車場部分まで含めてN氏に譲渡し、その代金+損害賠償でN氏が3000万円を支払うことで合意した。
 
ちなみに“人”に対する損害賠償には税金は掛からないが、“物”に対する損害賠償は収入とみなされて税金がかかる。しかし不動産取引で3000万円までは無税である。だから全てを土地の売却代金として処理した方が有利である。
 
「助かります。このお金でどこかの土地を買って、美術館を再建します」
「けっこう観光名所にもなっていたようなので、よろしくお願いします」
 
ということで、使えない土地の固定資産税をひたすら払い続けなければならないという問題は、あっさり解決してしまった。事故に遭うなら相手は金持ちが良い、というのの好例であった。
 
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それで薫は、新しい美術館のための土地を探し始めた。
 
駐車場に置いていた仮設トイレは、千里さんに連絡したら、播磨工務店の若い人(沢田)が来て、(先日の去勢罰で懲りたので)クレーンで積んでトラックに載せ、輪島の営業所に持って行ってくれた。
 

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時間を戻して(最初の地震があった)6月19日(日)。氷見市。
 
晃と舞花はお昼を食べて少し休んだ後、ぬるま湯で溶いたスポーツドリンク、タオルと着替えを持ち、14時半頃に母・泰子にアコードで送ってもらってファイアーバードに向かった。北信越大会は昨日で終わってしまったものの、軽く汗を流しに行ったのである。これは部活ではなく、あくまで個人的な練習である。
 
実は男子のキャプテンの坂下君に言われたのである。
 
「うちの学校ってさ、早朝・夜遅くとか、土日の部活は原則として禁止で学校の施設も使えないけどさ、ファイアーバードは学校の施設じゃないじゃん。だから個人が自分で利用券を買って個人的にそこで汗を流すのは自由じゃん」
 
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実際問題としてファイアーバードは、平日9:00-15:00 Flamingoが体育の授業に、15:00-18:00 Peacock, Flamingo がバスケット部の練習に永遠にリザーブされているが、それ以外の日時は現在の所自由利用時間帯となっている。
 
それで坂下君が管理人の島尾さんに尋ね、彼と菅井君が年間利用券を購入。昨日もここで練習していたらしい。ただし土日は一般利用者との共用になる。
 
それで、女子でも、舞花・晃、愛佳、美奈子の4人が年間利用券を購入。今日から“自主トレ”を始めたのである。
 

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