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■神様のお陰・愛育て(10)

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27日の金曜日は、命(めい)たち「大阪組」、春代たち「神戸組」に愛花たち「京都組」の合計8人が集まって「女子会」をした。女子会といっても香川君が入っているが、男の子1人くらいは構わない。命(めい)も「僕も男だけど」
と主張してみたが、スカート穿いてバストも大きくてお化粧までしていて男を主張されても困ると言われた。
 
和歌山の正美も誘ったのだが、どうしてもその日は都合が付かないということで8人での寄り合いになった。
 
「正美はもう女の子の服で大学に通ってるらしいよ」
「わあ。じゃ、そのうちおっぱいとか大きくしちゃうのかなあ」
「本人は身体までいじるつもり無いなんて言ってたけど、いつまで我慢出来るだろうね」
 
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「命(めい)はもう完全性転換済みなんでしょ?」
「何もいじってないよぉ」
「嘘嘘。男の身体でその雰囲気はあり得ない」
 
「命(めい)が男の子の身体なのか、女の子の身体なのか、私が占ってあげる」
と言って小枝がタロットカードを取り出した。シャッフルしてから命(めい)に1枚引かせる。
 
出たカードは『女司祭』だった。
 
「やはり女の子の身体になってるね。78枚もあるカードの中からよりによってこのカードを引いちゃうところが凄いけどね」
 
小枝は更に補助カードを展開していく。2枚目『恋人』3枚目『女帝』4枚目『吊し人』5枚目『星』6枚目『太陽』。小枝は無言だ。
 
「どうしたの?」と春代が訊く。
「いや、大アルカナばかり出てくるのも凄いんだけど、このカードの展開だとさぁ。命(めい)は結婚して、妊娠して男の子を産むって感じなんだけど。それも1年程度以内に」
「えー?」
 
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「女帝も吊し人も妊娠を現すのよ。女帝は妊婦、吊し人は胎児。ほら、胎児って頭を下にしてるでしょ。このカード胎内の子供を現してるんだ」
「へー」
「星は新しい命(いのち)、そして太陽は子供、特に男の子」
「いや、命(めい)なら、妊娠出産もあり得る気がした」
 
「その前提として、今は既に女の身体になっていると思うんだけどね」
「そもそも命(めい)の体臭って女の子だよね」
「あ。それは高校時代から思ってた」
「私は高校時代に既に性転換済みなんじゃないかと疑ってた」
 
「だって、いつも女子トイレにいたし、女子用スクール水着で泳いでたし。うまく誤魔化して女子用水着を着てるとは言ってたけど、あのボディラインって、男の子の身体ではあり得ないと私は思ってた」
「私、プールの中で命(めい)に接触したけど、どう考えてもあれは女の子の身体だった」
「私も廊下で命(めい)にぶつかった時、確かにバストの感触があって、あれ?と思った」
 
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「命(めい)ってナプキンいつも持ってたね」
「私命(めい)からナプキンもらったことある」
「あ、私は命(めい)にナプキンあげたことある」
 
「命(めい)の病院の診察券見たことある。性別 F になってた。病院の診察券が F って、お医者さんに身体を見られても女の子だってことでしょ?」
「命(めい)は大学の健康診断も女子として受けたみたいなのよね」
 
理彩はみんなが「命(めい)が女子であるという証言」をするのでニヤニヤして聞いている。理彩も知らなかったこともいくつかあったようだ。そして理彩はおもむろに自分のiPhoneを取り出すと、中に入っていた写真をみんなに見せる。
 
「じゃ、命(めい)の性別判定資料としてこの写真を」
「可愛い!」
 
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命(めい)が覗き込むと、自分の下着写真だ。
 
「ちょっとー、そんなの見せないでよ」と命(めい)は抗議するが理彩は「いいじゃん、可愛いものはみんなで共有」などと言っている。
 
「ボディラインが完璧に女の子」
「ね、おっぱいあるよね、これ」
「お股のところ、どう見ても付いてるようには見えない」
 
「これ高3の夏休みの写真だよ」
「じゃ、その頃はもう既に女の子の身体になってたのね」
 
「命(めい)、20歳過ぎたら戸籍の性別も変更できるんだよ」
 
「でも、理彩、命(めい)と結婚出来なくなっちゃったのね」
「あ、大丈夫。私レズだから」などと理彩は言う。
「だから、命(めい)は戸籍の性別は敢えて変更せずに私と結婚してくれるのよ」
 
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「ああ、なるほど!」
 
そういうことで、命(めい)がとっくの昔に性転換済みであるというのが、このメンバーの中の共通認識になってしまった!
 
「以上の経緯を以て当委員会としては命(めい)は女子の身体になっていると結論付ける」と百合が言う。
「この決定に異議がある場合は、今すぐこのメンバーの中の誰かと一緒にトイレに行き、服を全部脱いで、身体を見せて男であることを証明すること」
 
「いや、それはちょっと」
今日は週末なので命(めい)は実際に女体になっている。見られたらむしろ女であることを「確認」されてしまう。
 
「では、命(めい)は間違いなく完全な女性である、ということで」
と百合は楽しそうに言った。
 

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女子会の途中で命(めい)がトイレに立った時、個室から出てきたところでちょうどトイレに入ってきた春代と遭遇する。そのまま手洗場の前で少しだけ話す。
 
「ね。。。マジで命(めい)、女の子の身体になってない?」と春代。
「あ。ちょっとそれは秘密があってね。でも手術とかはしてないし、ホルモン飲んだりもしてないよ。僕は理彩と結婚出来なくなるようなことするつもりは無いから」
 
「そのうちじっくりと追求したいな。で、理彩とはどうなってる?」
「彼氏とは別れてくれた。僕がデートの最中に『この浮気女!』ってメールしたら、それがきっかけで彼と喧嘩別れしたみたい」
「うん、そのくらいやっていいよ」
 
「でも、まだまだ浮気する気満々」
「命(めい)、良い子でありすぎるのよ。もっと怒っていいんだよ」
 
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「そうだよねー。次からはもう徹底的に邪魔するべきかなあ」
「次からって・・・・また浮気されることが前提なの?」
「えーっと」
「もっと頑張りなよ」
「うん。ありがとう」
 

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その翌日は今度は大学の同じクラスの女子たちと、鶴見緑地プールに出かけた。その日は女子更衣室も使うしということで、リボンタイの付いた水色のブラウスにマリンブルーのフレアースカートなどという出で立ちで最寄り駅の集合ポイントまで行くと「可愛い〜」「女らしい〜」「女の子にしか見えない」という声が上がる。
 
「連休明けからはこれで学校に出ておいでよ」
などとも言われるが「そのうちね〜」と、かわしておいた。
 
一緒に入場して続き番号の女子更衣室の鍵7個をもらう。一緒に更衣室に行くが、水着は家で付けて行ったので、更衣室では上の服を脱ぐだけである。
 
「凄い。完璧女の子ボディ」
「ウェスト細い」
「性転換手術済みだよね? それでもここまでの体型を作るには物凄い努力したんだと思うけど」
「私も見習いたーい」
 
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「いや、手術とかはしてないんだけどね」
「手術せずにこのボディラインは絶対あり得ない」
「手術してなくて女子として健康診断受けられる訳無いから、その主張は却下」
「万一あれが付いてて女子の健診の所にいたのなら痴漢として告訴する」
「まあその辺は企業秘密ということで」
 
普通のプールでしばらく遊んだ後、スライダーに行き、4回くらい滑り降りた。
 
「でも命(めい)って、私たちより女らしくない?」
「私なんて小さい頃から男勝りとか、雄々しいとか・・・」
「私はズバリ漢(おとこ)って言われてた」
 
理系女子は概して強い性格の子が多い。理彩もそうだもんなぁ、などと命(めい)は思う。
 
「うーん。。。確かに私、子供の頃から、女の子みたいとか女らしいとか、よく言われてたし、女の子だったら良かったのにとか、女の子になっちゃいなよとかもよく言われてたし」と命(めい)。
「それで女の子になっちゃったのね」
 
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「あはは。自分が男という証明が困難になりつつある気もする」
「もう戸籍の性別も女に変えちゃえばいいじゃん」
「それやると、彼女と結婚出来なくなるから」
「彼女がいるの〜!?」
 
「うん。一応普通にセックスしてるし」
「レスビアンでもセックスできるもんね」
「う。。。確かにあれはレスビアンに近いかも」
「いや、間違いなくレスビアンだと思う」
 
「いっそ彼女を妊娠させたら男の証明ができるだろうか」
「いや、きっと命(めい)が妊娠して女の証明をすることになりそうな」
「うーむ。。。。」
 

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ゴールデンウィーク明け。命(めい)は大学の近くの古本屋さんで偶然白石君と平原君に会った。少し話している内に白石君のアパートに一緒に行くことになり、コンビニで「金麦」(いわゆる「第四のビール」)とおつまみを買って持ち込む。
 
話題は「線形代数が分からん」という話から始まって行列→Matrix→仮想世界などと連想的に話が進展していく。命(めい)は「マトリックス」シリーズの映画は見たことがなかったが、概略のあらすじは高校時代の友人から聞いていたので何とか話について行けた。
 
「でもこの世界が『現実』なのか『仮想現実』なのかって見分ける方法が無いよな」
 
平原君が、仮想世界というと「リング・らせん・ループ」もそうだという。
 
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「『リング』や『らせん』の物語というのは全部シミュレーター上の出来事だったということが『ループ』の物語で明らかになる。シリーズを通しての最終的な主人公は、その仮想現実の世界と現実の世界を行き来するんだよね。仮想世界と現実世界双方の危機を一気に救うために」
「英雄なんだ」
「仮想世界に行くために身体を粒子分解されちゃうからね。まさに英雄」
「きゃー」
「英雄って、しばしば生け贄とか人柱とかの言い換え語だよなぁ」と白石君。
 
「でも『ループ』の物語では、自分たちが現実と思っているこの世界自体も、また誰かのシミュレーターなのかも知れない、と示唆される」
「何段階にもなってるんだ!」
 
「何だか読んでいて、実際にこの世界って、そういう構造なのかもと思っちゃった。そしてそのシミュレーターにバグがあると、通常の科学法則と反するようなことも、たまに起きちゃうこともある」
「バグはあるだろうね。それが奇跡なのかもね」
「かもね」
 
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「いや、奇跡にはバグに属するものとバックドアに属するものとがあると思う」
「ああ! 神様系の奇跡はたぶんバックドアだよ」
「確かにね」
 
「たとえば俺が突然明日女になってたとしたら、きっとバグだ。でも斎藤が明日女になってたら、きっとバックドアだ」
「なんで僕が女になるのはバックドアなのさ?」と僕は笑って言う。
 
「いや、斎藤ってチンコ付いてるかどうか確かめたくなる気がしない?」
「するする」
「でも確かめようとしてチンコ付いてなかったらやばいから脱がせる気にならん」
「えー?」
 
「何ならここで脱いでみる?」
「ごめん。パス」
 
と命(めい)は逃げた。実はまどかが「サービス」と称して連休突入直前からずっと命(めい)を女体にしたまま放置しているのである。まどかは呼びかけても反応しない。きっとニヤニヤしながら、命(めい)の困っている様を見ているのであろう。
 
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「俺は斎藤の性別疑惑を強めたぞ」
「あはは」
 

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