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■神様のお陰・愛育て(7)

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翌木曜日、1時限目の講義に出ていくと教室に誰もいない。あれ?休講かなと思い、学生課に行って確認しようとしていたら
 
「あれ、あなた新入生よね?」と課の人から声を掛けられた。
「あ、はい。そうです」
「今日は新入生の健康診断なんだけど」
「えー!?」
「理学部は9時からよ。すぐ行って。場所は教育実践センターだけど分かる?」
「済みません。分かりません」
と言うのでキャンパスの地図をもらい赤いボールペンで印を付けてもらった。
「先に第一体育館に行って、そこで受付して」
「はい」
 
そちらへ歩いて行きながら、まどかに呼びかける。
『ねぇ、まどかさん。健康診断だから、いったん身体を元に戻してくれない?』
ところが無反応である。
『まどかさーん』と呼んでみるのだが、全く反応が返ってこない。
えーん、どうしよう?寝てるのかな?
 
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と思っている内に体育館に着いてしまう。困った!
もう9時10分になっている。みんな既に受付を終えているのだろう。誰もいなくて、受付の人も少し暇そうにしていた。
 
「済みません。理学部の新入生ですが、健康診断を受けに来ました」
「君、遅いよ」
「申し訳ありません。掲示を見落としていました」
 
命(めい)が提示した学生証を見て、受付の人が検診票を取る。もう検診票は3部しか残っていなかった。その中の1枚を取って命(めい)に渡そうとした時、係の人の手がピタリと止まった。
 
「君・・・女子だよね?」と係の人が言う。
命(めい)は焦っていたので、つい男声を使うのを忘れて女声で話していた。
 
命(めい)は基本的には女声で話す習慣ができている。しかし大学に出ている時は一応男装しているので、それにあわせて男声を使っていたのだが、この時は自分の身体が女性体になっていて、まどかとは連絡が取れないし、困ったなどと思ったりしていたので、つい男声を出し忘れていたのである。
 
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「あ・・・えっと・・・・戸籍上は男なんですけど」
と開き直って女声のまま答える。
「あぁ」
と係の人が納得したような声。検診票の性別は男になっている。
 
「ちなみに、君、胸はあるの?」
「えーっと、Dカップのブラジャー付けてます」
「ああ、ブラ付けてるのか。おちんちんはあるの?」
「えーっと今は無いです」
「なーんだ。それなら、君、女子の方で受けてよ」
と言って、係の人は検診票の性別の「男」という印字を二重線で消して女と書き直した。
 
「女子は3階だから間違えないように」
「はい」
 
あはは。いいのかしら? もう僕このまま性別は女として登録されてしまったりして・・・・
 
命(めい)はあまり先のことは考えずに教育実践センターへ移動した。1F 男子、3F 女子、という案内が出ている。もうここは開き直るしかない!という感じで3階へ上がる。どうか知ってる子に会いませんように、と祈っていたが、いきなり麻矢に遭遇した。
 
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「あれ? 遅かったね」と声を掛けてくる。
「うん。掲示見落としていて、さっき学生課の人に言われて、慌てて飛んできた」
と命(めい)は心の中で焦りながら答える。
 
「ああ、でも命(めい)をここで見て安心した。やっぱり命(めい)は女の子だよね。だって、今日もそんな感じだけど、まるで男の子みたいな服装してんだもん」
「あはは、ちょっとそんな気分なもんで」
 
「こないだは『僕男だよ』とか、男の子みたいな声で言ってたね」
「あ、男の子の声出すの得意」と男声で言ってみる。
「すごーい。男女のデュエット曲をひとりで歌えるね!」
「あ、それ面白いかも」と命(めい)は女声に戻して答えた。
 
検尿のカップをもらい、女子トイレに入って採取する。女子トイレに入ること自体は全然平気だ。
 
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それを提出してから採血を受け、その後、X線間接撮影に行く。幸いにも列には知った子が並んでいない。妊娠していますか?と聞かれたがいいえと答える。上半身の服を脱いで撮影装置の前に立った。撮影技師は女性だ。ああ、女性の検査は女性の技士がするんだろうなと思い至った。小さな音がして「はい、いいです」と言われる。
 
いったん服を着て心電図検査に行く。検査室のカーテン前で服を脱ぎ、やがて名前を呼ばれて中に入り、係の人に電極を付けられる。こちらも係の人は女性。X線の方はまだしも、確かにこの検査を男性技士にはされたくないなと思った。
 
手足に1本ずつ電極を付けられ、胸に6本付けられる。胸の谷間から左側のバスト下部にそって付けられていくと、なんだかくすぐったい感じだ。
 
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しばらく安静にしている間に検査は終わった。そのあと身長・体重・血圧を計られてから、お医者さんの診察を受ける。ここまでうまい具合に麻矢以外の知った子に遭遇せずに済んでいる。特に同じクラスの女子に会ったらややこしい。
 
診察を受けやすいように上のワークシャツは脱ぎ、ブラも外してアンダーシャツだけになる。順番になり、シャツをめくりあげて聴診される。
 
「君、問診票のいちばん下の欄が未記入だけど」
「あ、済みません」
「今、妊娠はしてますか?」
「いいえ」
「妊娠したことはありますか?」
「いいえ」
「月経は定期的に来ますか?」
「はい。ここ1年はだいたい28日周期で来てます」
「最後に月経があったのは?」
「先月の末です」
「はい。分かりました。OKです」
 
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といって解放された。ああ、この質問には女体状態でないと答えられなかったなと思う。男性体になっている時は、月経があること自体も月経の最中だけ意識していて、月経が終わると意識外になってしまうので、僕はなぜ自分はナプキンを持っているのか、というのが実は自分で謎なんだよなあ・・・などと考えたが、男性体になっていたら、こんな質問そもそもされなかったじゃん! というのにも思い至る。その時、例の方角から「クスクス」という笑い声が聞こえた。
 
ああ。。。。まどか、この事態を最初から見てて、僕がどうするか傍観してたな?もう。。。。
 
まどかに意地悪されるのは慣れているので、いちいち気にしないが、今回の事態は自分の人生を左右しかねない事態かも知れないという気もする。だいたい来年の健康診断はどうすればいいんだ!?
 
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と命(めい)は悩んだが、実際にはその後の健康診断(翌年は出産直後の休学中で実際に次受けたのは2年後)では、男性体側にもDカップのバストができていたので、結局女子と一緒に受けるのが定着してしまったのであった。むろん問診票の「妊娠したことがありますか?」の問いには「はい」と書いた。
 
しかしこの時は、そんな状況になっていくとは思いもよらなかった。
 

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でも、同じクラスの子に会わなくて済んで良かったなあ、と思いながらブラを付け、ワークシャツを着る。そしてやっと終わったというのでほっとして診察室を出たら・・・・同じクラスの子、妙香が目の前にいた。
 
「え? 斎藤君、なんでここにいるの?」と妙香。
「あ、えーっと、こちらに来なさいと言われたもんだから・・・」
と女声で答える。
「あれ? そんな女の子みたいな声が出せるんだ」
「あ、うん」
 
「でも、こっちのフロアに来たってことは、もしかしてこちらでレントゲンとか心電図とか受けたの?」
「うん、受けた」
「で・・・・内科検診も受けた訳?」
「うん。今受けて来た」
 
「へー! そういうのを女子の方で受けられる身体なんだ!?」
「うん。まあ・・・・」
 
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「いや、斎藤君って、少し女の子っぽいなと思ってたけど、そういう身体になっちゃってるんだったら、もっと女の子っぽい服を着ればいいのに。持ってるんでしょ?」
 
「うん。持ってることは持ってるけど」
「じゃ、今度からそれで出ておいでよ」
「いや、そのあたりが色々と・・・」
「恥ずかしがること、ないのに!」
 

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結局、その日のお昼は同じクラスの女子たちと一緒に食べることになり、あれこれ質問攻めに遭う。
「ねえ、胸触ってもいい?」などと言われて
「うん、いいけど」と答えると、触られて
「わあ、かなりでかい」などと言われた。
結局6人全員から胸を触られて「Dカップ? Eカップ?」などと訊かれる。
 
「Dカップのブラ付けてるけど」
「ブラって、いつも付けてるの?」
「うーんと、ノーブラの日もあるけど、ここ数日はちゃんと付けてる」
「この胸のサイズがあってノーブラだと歩くだけで痛いでしょ?」
「走ると痛い」
「ノーブラで走るのは無茶だよ!」
 
「ね、ね、28日にこの6人でプール行こうなんて言ってたんだけど、命(めい)も来ない?」
「あ、プールか。。。行こうかな」
 
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プールで着る水着なら、男性体に戻っていても着れるなと思って命(めい)は返事をした。命(めい)の名前の呼ばれ方は、お昼を食べ始めた時は「斎藤君」
と苗字・君付けだったものの、すぐに「命(めい)」と名前・呼び捨てになってしまっていた。命(めい)は6人全員と携帯の番号・アドレスを交換した。
 

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その週が終わって15日の日曜日、命(めい)はやっと理彩に会うことができた。まどかは、命(めい)が理彩と無事落ち合ったところで、男性体に戻してくれた。そして男性体に戻るのと同時に、女性体であったことを忘れている。健康診断も女子の方で受けたことは覚えているが、どうやって乗り切ったのかが分からなくなっている。命(めい)は、自分の記憶にしばしば矛盾があるのには子供の頃から慣れていたので、そういうことはあまり気にしない。
 
理彩が「メンチカツを食べたい」と言ったので梅田で落ち合い、洋食屋さんに入って一緒にメンチカツ定食を食べる。
 
「ああ、なるほど。こういう味か」と命(めい)が言うので理彩は
「作れそう?」と訊く。
「うん。多分。今度試してみるよ」と答えた。
「うまくできたら食べさせて」
「いいよ」
「私、結局全然料理してないや。コンビニが無いと生きられない」
 
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「理彩、▽▽君とはどう?」
「先週金土日と3回やって、今週金土と2回やったけど、どうも微妙」
「ふーん」
「私が逝く前に彼が先に逝っちゃって、逝ったらこちらは放置される。私まだ1度も逝ってない」
「まあ、男の子って、そんなものじゃないの?」
 
「だって命(めい)とは一緒に逝けるし、先に命(めい)が逝っても私をちゃんと逝かせてくれるじゃん」
「多分僕みたいな男の子は少ないよ」
「そうなのかなあ・・・・それから彼1回しかできないのよ。2回戦やろうよって言ったら、そんなに連続して立つもんじゃない。一晩には一回って言われた」
「けっこうそんなものかもねー」
と言って命(めい)は笑った。
 
「だって命(めい)は絶対ふつうの男の子より、男の子の機能弱いと思うのに、連続でできるじゃん」
「僕も一度出したら30分は立たないよ。その間、ずっと後撫したり前戯したりしてるでしょ」
「あ・・・・」
 
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「それに完全に立たなくてもある程度の硬さになれば入れられるし、射精はできる。快感は完全に立った時ほどじゃないけどね。5回目くらいになるともう快感は全く無い」
「じゃ命(めい)って自分が気持ち良くなくてもいいから、私の快感を優先してくれているの?」
「おちんちんの快感はね。でも僕は理彩が気持ち良さそうにしていれば、それで精神的に満足するから」
「なんて奇特なの・・・・」
 
「それも僕が女性ホルモン多いからだよ。感じ方が女の子に似てるの。おちんちんで気持ち良くならなくても、脳で逝けたら気持ちいいの」
「あぁ」
「僕はおちんちんの快感がほとんどなくても、毎回脳で逝ってるよ」
「なるほど。普通の男の子じゃできないワザだ。ってことは、私たちって、おちんちんとヴァギナでセックスしてるけど、もしかして実質レスビアンだったりして」
「うん。レスビアンカップルのセックスと似てるかも」
と言いながら、命(めい)はそれってなかなか面白い見解だと思った。
「レスビアンって一晩中やってられるというけど、ボク達それに近いよね」
 
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