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翌日はふたりで一緒にお互いの新生活に必要なものを買いに行く。調理器具や食器はお揃いのものを買った。これで別々のアパートに住んでいても料理をしているだけで連帯感を感じることができる。どちらかのアパートにあれば何とかなりそうな物は、取り敢えず1個だけ買っておくことにした。ふたりのアパートの間は約9km,自転車で40分くらいである。自転車も取り敢えず1台買って命(めい)のアパートに置いておくことにした。
3月中は引越しの準備をしたり何やらで慌ただしく過ぎていき、ふたりは村で、また大阪でも会いはしていたのだが、セックスまではしなかった。
やがて4月3日に入学式があり、そのあと歓迎の行事などが続くが理彩は最初から積極的に合コンに出て、早速ボーイフレンドをゲットした。
「ねぇ、命(めい)、デートコース考えてるんだけど、男の子ってどういう所に行くの喜ぶのかなあ?」などと電話してくる。
「なんで僕が理彩と他の男の子がデートする時の場所まで考えないといけないのさ?」命(めい)はマジで少し怒りながら答えた。
「まあ、野球なんか見に行くのもいいんじゃない?」
「ああ、何だっけ? 大阪トラーズ?」
「理彩、そんな訳の分からない単語、僕以外の人に言ったら最悪殺されるよ。大阪では絶対阪神タイガース。これ以外あり得ないから、しっかり覚えて。応援歌の六甲颪も覚えてて」
「どんな歌?」
命(めい)が電話口で歌ってみせると
「ああ、聞いたことある」
などと言っていた。
更に金曜日になると理彩は
「ねぇ、お願いがあるの」
と電話してくる。
「何?」
「コンドーム買ってくれない? 私買うの恥ずかしくて」
「ああ、もちろん僕が買うよ。じゃ日曜日の夕方会う約束だったし、その時買ってって理彩の部屋に置いておこうかな」
「あ・・・そうじゃなくて、今夜彼氏とデートするから」
命(めい)はマジで怒った。
「ちょっと待て。どうして僕が理彩が他の男とセックスする時のための避妊具を買わないといけない? そんなのその男に買わせろよ。僕にもいくらなんでもプライドがあるよ」
「えーん。ごめーん。買わせるつもりではあるけど、万一買ってくれなかった時の保険に欲しいのよ」
「避妊具も買わないような男とセックスするなよ。最低だぞ、そんな男」
「うん。それは分かってるけどさー」
命(めい)は少々あきれ果てたが、理彩が他の男の子供を妊娠するなどという事態は絶対困る。それでお人好しすぎるとは思ったが、近くのドラッグストアでコンドームの400円のを1箱と1000円のを1箱買い、自転車で届けに行った。
「ありがとう。恩に着る。命(めい)、大好き」
「僕が大好きなら他の男とデートして欲しくないけどね。これ、安いのが、その彼氏との予備。こちらの高い方は日曜日に僕が来た時に使う」
「分かった」
「今度だけだからね。こんなことは」
「うん。ごめんねー」
と言って、理彩は命(めい)の唇にキスした。
理彩は彼氏とのデートの最中にも「食事なう」「お散歩なう」「居酒屋なう」
「ホテルなう」などとメールしてくる。命(めい)は嫉妬で今すぐ飛んで行ってデートの邪魔をしたい気分になったが、取り敢えず我慢した。
「浮気認めるなんて言わなきゃ良かったなあ・・・・」
と後悔する。でもあの時、何と言ったら浮気を止められたんだろう。。。。。
デートの生中継は高校時代にもやられたことがあるが、当時はホテルなどというのは入ってなかった。
溜息を付いていたら、目の前にまどかが出現した。
「村にずっといなくてもいいの?」
「村にもいるよ。私たちは遍在できるんだよ」
「ああ。何となく分かる」
「それに命(めい)は私の依代だから、どこにいてもつながってる」
「ああ」
「辛そうだね。向こう邪魔してきてあげようか?」
「ううん、いい。浮気認めた僕が悪い」
「そんなとはない。浮気はする方が悪いに決まってる」
「そうだよね!」
「何なら私とセックスする?ついでにテク教えてあげるよ」
「ううん。理彩以外の恋人作るつもりない」
「ふーん。。。」と言った、まどかは意地悪そうな目をした。
「どうかしたの?」
「来月、命(めい)にも恋人ができるよ」
「え!?」
まどかは小さく手を振ると姿を消した。
その後眠れない夜を過ごしていたら、まどかが「こんな時はお酒でも飲みな」と言って日本酒を1本持ってきてくれたので、命(めい)はその日はそのお酒を飲んで寝ることにしたが、全然酔えなかった。
「酔えないけど、このお酒美味しい」
「○○集落の鷹峯酒造で作ってる梅鷹。私のお気に入り」
「今度村に帰った時、奉納するね」
「よろしく」
「ねえ、今夜は女の子に変えてあげようか?」
「そうだなあ・・・それもいいかな」
と命(めい)が言ったら、もう女の子の身体になっていた。女体になると同時に過去に女体であった時の記憶も復活する。
「前々から疑問に思ってたんだけど、僕の月経って男の子の身体でも強引に出てくるよね。あのあたり、どうなってんの?」
「命(めい)の身体は大半が女の子なんだよ。だから月経はどうしても起きる。起きた物は体外に排出しないとまずいから、通り道を作っている」
「ふーん」
「だから命(めい)は男の身体になっている時もヴァギナがあるんだよ」
「えー!?」
「そもそも命(めい)の身体の胴体部分って完全に女性体なんだよ。染色体調べてみてごらん。XXだから。命(めい)が小学1年生の時に死にかけた時、私が入れ替えた。でも命(めい)は男の子として生きないといけないだろうから、男性体側から男性器のセットだけ引き出して無理矢理こちらにくっつけている。代わりに女性器を向こう側に持っていっている。つまり、命(めい)の身体は、女性体に男性器が付いていて、男性体に女性器が付いてるんだな」
「ややこしい」
「そうしないと命(めい)は死んじゃってたから、苦肉の策だったんだよ。でもそんな配置では月経が外に出てこれないから、悩んだ末、ヴァギナだけ表に持って来た。つまり、命(めい)の卵巣と子宮は裏に隠れている男性体側にあるけど、ヴァギナは表に出ている女性体側にある。ただし開口部は隠している。表に出すと外見が半陰陽になっちゃうからね。だから月経を最後出す時はトンネル効果で出してる」
「僕の身体って素粒子なのか」
「でも卵巣・子宮の隣にヴァギナが無いと、支えが無くて安定しないんだよね。だから、ヴァギナのクローンを作って、男性体側に埋め込んでいる。だから、裏に隠れている男性体には卵巣・子宮・膣のセットがあるけど、その子宮と膣はつながってないんだよね」
「へー。じゃ、僕ってヴァギナを2個持ってるの?」
「そうそう。一方はダミーみたいなもんだけどね」
「月経が無い期間って女の子の身体が休眠してるのかな?」
「うん」
「でも去年の2月からはずっと月経が続いている」
「ある理由で活性化してるからさ」
「理彩とその時セックスしたことも関係してるの?」
「大いにありだね。そのあたりのことは夏までには嫌でも知ることになるよ」
「ふーん」
「普通の男の子なら胎児の時に大量に男性ホルモンが分泌されて月経周期も破壊されてるから、女体側が万一活性化しても排卵も起きないし月経も起きない。でも、命(めい)の場合、その分泌が弱かったんだよ。そもそもの受精卵そのものが弱かったせいもあるけど。だから、命(めい)は男の子なのに、月経周期を維持してる。月経が起きない時でもPMSはあるでしょ?」
「うん。理彩の黄体期の時期には僕もよく頭痛がする。僕と理彩の月経周期は連動してるよね」
「そうそう。女の子同士がいつも接近してると月経周期は連動する。命(めい)もちゃんと女性ホルモンの分泌に周期があるからね。もっとも男性ホルモンの方が圧倒的に多いから、男の子の機能も維持されてる」
「ホルモン的に半陰陽なのかな?」
「ある意味ね。命(めい)が撫肩でウェストもくびれてるのは普通の男の子より女性ホルモンが多いから。オナニーの回数が少ないのもそのせい。エストロゲンが性欲を抑制するから。もし命(めい)がその気になって去勢したら、完全な女性のホルモン周期が現れるよ」
「へー。まあ、タマを取る気は無いけどね」
「ふふふ。まあ取りたくなったら手術なんか受けなくても、私に言ってくれたら、即消去してあげるよ」
「消去?潰すんじゃ無くて?」
「まあ似たようなものかな」
「悩むな。あ、でも女の子の身体になってると、少し気分が落ち着いてきた」
「じゃ、1年くらいこのままにしておこうか?」
「それは困る。理彩とセックスできない」
「レスビアンテク、教えてあげようか?」
「えっと・・・・」
結局その日は女の子下着をつけて寝た。翌土曜日は女の子の格好で町に出て郊外の古本屋さんなどを巡った。そして日曜日の夕方理彩に会いに行くつもりでいたら・・・・・「ごめん。彼氏とまだ一緒に居るから来週に回して」
などとメールしてきた。
まどかが笑ってる。
「ねえ、来週の日曜日まで、女体のままにしておいてくれる?」
「いいよ。永久に女体でもいいけど」
「まだ男を辞めるつもりはないから」
「命(めい)、あんたとっくの昔に男は辞めてる」
「うーん。。。。」
その日は気分転換にエステに行き、女性専用の全身マッサージコースを受けた。性別 F と刻印された会員証を見たら少し気分が晴れた。
月曜日。命(めい)は身体は女体のままだが、胸が目立たないようにダボダボのシャツを着て大学に出かけた。ブラは当然しているが黒いアンダーシャツを着てブラ線が見えないようにしている。
1時限目の講義が終わった後、初日に意気投合して仲良くしている白石君から声を掛けられる。
「斎藤、今日はちょっといつもと雰囲気違うな」
「そう?」
と言って命(めい)が少し小首をかしげるようにしたら、白石君がドキっとしたような顔をした。
昼休み、学食で小定食を食べたあと、トイレに行く。命(めい)はこの時期は男子トイレを使っていたが、今日はおちんちんが無いので個室を使うことになる。個室で用を達し、外に出たところで、平原君とぶつかってしまった。平原君の腕が命(めい)の胸に当たった。「あ、ごめん」と言ったものの、平原君がこちらを見て「え?」という顔をしている。「どうしたの?」と命(めい)はつい出てしまった女声で言ってから、手を洗いに行った。やばいやばい。僕こんな調子で一週間、この身体でやっていけるかなあ、と少し不安になる。
水曜日には体育の時間があった。命(めい)は前期はバスケットを選択していた。ジャージに着替える時は細心の注意を払った。バストが目立たないように壁側を向いて手早く着替える。
「あれ、斎藤、足の毛は剃ってるんだっけ?」
「うん。何となくねー」
「斎藤ってヒゲも伸びてるの見たことないよね」
「あ、ヒゲはレーザー脱毛しちゃったから」
「へー」
「ひげ剃りしなくて済んで楽だよ」
もっとも命(めい)はヒゲを「剃った」ことは無い。中学の頃からずっと抜いていた。しかし毎日その処理に30分掛かっていたので、3月中に大阪の大学病院の美容外科でレーザー脱毛してもらったのである。3月に命(めい)があまり理彩と会えなかったのは脱毛後の「引き籠もり期間」に理彩に顔を見せたくなかったのもあった。
準備運動をした後、試合形式でやることになる。受講生が50人ほどいたので男子4チーム、女子2チームに分け、3コート使って試合をしたが、各チームが8〜9人と多いのでかなりの乱戦になる。命(めい)はあまり運動神経は良くないが、スリーポイントは得意なので、遠くから撃ってどんどん点数を稼いだ。
しかし試合後半になると、相手チームは命(めい)のスリーポイントを警戒して早い時期からタックル狙いに突進してくる。それを交わして中に切り込んでいくフェイントを見せて相手がブロックしようと身体を横に伸ばした瞬間に撃ったり、無理だと思ったらシュートする振りして他の子にパスを出していたが、けっこう相手も勢い余って、こちらの身体に接触する。
そして接触すると相手が一様に「え?」という顔をした。あはは、今日は僕、胸を触られまくり! これきっと数日以内には僕がオカマだって噂が蔓延してそうだな・・・と命(めい)は思った。そして試合終盤になると、相手チームの子は明らかに命(めい)との身体の接触を避けようとするプレイをしていた。